「…………」
「「「………………」」」
見覚えがある。パターンが違えど、ある。
「………下駄箱に、手紙っすか」
「……純情さが見え隠れしますな」
「………………」
「……まだ、そうと決まったわけでも、ないだろ…」
下駄箱を開けた状態で固まる柴崎に烏間はそう声を掛けた。赤井は「失礼します」というと、手紙を拝借し片手で拝むと封を開ける。無断で。
「……えー、〜ッゴホン。「拝啓、夏の日差しが照りつける9月下旬、如何お過ごしでしょうか。この度は突然のお手紙で驚かれたと思います。すみません。しかしどうしてもこの逸る気持ちを抑え切れず、こうして手紙に書かせて頂きました」」
「…硬くね?」
「まぁ待て。まだある。えー…「実は夏休み前になると思います。廊下でたまたま柴崎さんを見かけました。その時、とても優しげに笑われるそのお姿が目に焼き付き、離れません。それから廊下や訓練場などで少し探している自分や、ふとした時柴崎さんの事を考えていることに気付き、自分には秘めた想いがあるのだと自覚しました」」
「…………」
「…………」
烏間はちらりと柴崎を見る。目を閉じてはいるが、眉間には皺が寄っている。
「「しかし見かけることは叶わず、数ヶ月間、この想いを抱きながら生活をしていましたが、次第に伝えたい気持ちが強まり、結果こうして手紙に綴った所存です。柴崎さん。宜しければ僕とお付き合いしてくれませんか。お返事待ってます。
敬具
今野 奏太」
おめでとうございます。男性からです」
「………ッ」
下駄箱に手を置いてしゃがんだ柴崎。花岡は「かったいなぁ〜…」と言っている。烏間はしゃがんでしまった柴崎を心配して「……大丈夫か?」と声を掛けている。
「……嫌だ」
「「「…………(真面目に/本当に嫌がってる声だ…)」」」
声のトーンだけで分かる。これは本当に嫌がっていると。
「……何が原因だ?なんだ?どこがどうで何が何でこうなるんだよ」
「落ち着け、柴崎」
「未だ嘗てないくらいに柴崎が動揺してるぞ」
「冷静さが消えてる柴崎、珍しい」
顔を上げて立ち上がれば赤井の持つ手紙を取って中身を確認する。
「おっ、読むのか?」
「本当は違うかもしれないと思って」
「俺を疑ってんのかよ!そのまんま読んだわ!!」
長い文を読んでいく。読む彼を見る3人。次第に眉間に皺が行く柴崎にあー…と、3人はそれぞれらしい反応をする。
「…………」
「……お読みになられましたか」
「……っなんでだよ…っ」
「あああ!!手紙!手紙!!」
「(皺…)」
グシャ、と手紙を持つ手に力を入れれば皺が見事に完成した。
「……はぁ、落ち着こう」
「(お、)」
「(…冷静になったな)」
「(流石柴崎ー)」
「じゃないと目の前の赤井を殴りそうで…」
「なんっで俺!?」
無関係だし!と主張する。しかしそれを軽くスルーして下駄箱に凭れて手紙にもう一度目を落とす。
「……はぁ。俺の何がいいんだろ。分かんないなぁ…」
「……」
「……」
「……」
「…………この人の目可笑しいんじゃない?」
「「待て待て待て」」
「っく、」
心底そう思う。そういった風に言う柴崎に赤井と花岡は思わず待てと合いの手を入れてしまう。烏間は顔を背けて少し笑った。
「こいつの目のフィルターにはそうなってんだよ」
「ならそのフィルターとやらが可笑しいんだよ」
「でも本気っぽいぜ?」
「…そうは言われても、」
困ったな…、と悩む。夏休み前はその場でごめんなさいを言えたが(その後言い寄られて伸ばしたが)、今回は最後に「お返事待ってます」だ。これは書かなきゃいけないのか?そこが問題だ。他にも問題はあるが。
「…………俺女に見える?」
「「いえ男に見えます」」
「男だな」
「P.S 文武両道な男かな」
「P.S 容姿が綺麗な部類かな」
「面白がってんなら抓るよ」
「「ごめんなさい」」
「……;;」
少し面白がった2人にコラ、と言えば静かになった。そして一つため息を吐けば、手紙を封筒に直して下駄箱から背中を離すと上履きと下履きを取り変えた。
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