training 2



柴崎は教官の腕から手を離すと、倒れていた教官はよっこらせと立ち上がる。服に付いた砂埃を払う。



「柴崎。今どうやって俺を投げた?」

「え?」

「俺とお前では体格差も力の差もある。この場の誰もが俺にお前が倒されると思っている中、柴崎、お前は俺を投げ飛ばした。どうやって出来た?」

「…教官が仰る通り、体格差も力の差も歴然です。なので、教官が向かってくる力を利用させて頂きました。勢いある力は引き寄せれば自分の力に出来ますので」

「ふふふふっ。冷静な判断、冷静な分析だ。その通り!!何も己の力だけで戦わずとも相手の力を利用すれば、例え大きな身長差や力の差があっても倒せる」


教官は訓練生へと向き直る。



「いいかお前ら!この先、自分より強く、デカイ人間は幾らでもいる!!だからと言って竦むな!!利用出来るものは全て利用しろ!!その一つが、今回柴崎がした相手の勢いある力の利用だ!相手の力量を分析出来た時、まず差があると確信したならば相手の余計な力を利用しろ!そうすれば、どれだけ身長差があり、どれだけ力の差があれども勝機は見える!!」



教官の言葉に訓練生は真剣に耳を傾ける。


「今回の柴崎との手合わせを見たお前達は大きく影響を受けただろう。それで良い。人の良いところを見て真似をする。盗む。それが学ぶ中の一つだ。この様に、射撃やナイフだけでなく体術も訓練には取り入れていく!!各自心すように!!」

「「「「はい!!」」」」




そしてその日の訓練が終わった。良いか悪いか、注目を浴びた柴崎は終始居心地が悪そうだった。とにかく、教官に謝りたい。投げ飛ばして申し訳ありませんと。切実に。


「凄いな」

「…いや、もうなんか…、」

「…確かに視線は気になるが、良い武器じゃないのか?」

「そうだけどな…。…どうにも居心地悪いよ」

「柴崎!!」


烏間と歩いていた時、後ろから声がかかる。振り向けば赤井と、誰だろうか。



「なぁ!お前本当に柴崎志貴だよな!?」

「…そうだけど」

「俺花岡勇人!中学の時、俺お前の空手の試合見たんだよ!すんげぇな!」


興奮気味に話し掛けてくる「花岡勇人」に柴崎は引き気味だ。隣に居た烏間も少しだけ離れた。


「…ありがとう」

「まさか生で会えるとは思わなかったーっ!赤井から「柴崎」って聞いた時、まさかなぁとは思ってたけど、さっきの訓練で確信したんだよ!あん時の奴だって!」

「赤井とは、知り合い?」

「おぉ。中学からの知り合いだぜ!」


赤井が笑ってそう答えた。だが、赤井はその空手の試合には見に行かなかったらしく、柴崎のことを知っていたのは花岡だけだったらしい。



「まぁ、なんだ!同じ防衛生としてよろしくな!あ、あとお前もすげぇよな!」

「?」


今度は烏間へと話しかける。急に来られた為、本人は軽く首を傾げている。



「小銃の分解作業んとき!俺隣だったから見ててさ。めっちゃ分解すんの早ェ!んで、組み立てんのも超早ェ!」

「…資料通りにしたら出来るぞ?」

「俺出来なかったんだよなぁ〜!」

「花岡バッカでー」

「んだよ、赤井は出来たのかよ」

「いや、柴崎がしてくれた」

「同じじゃねぇか!!」


ぎゃいぎゃいと話し出した赤井と花岡。それを見る烏間と柴崎。そこに通りかかる教官。



「おぉ、お前らじゃないか」

「平松教官!」

「お疲れ様です」

「あぁお疲れさん。どうだ!訓練はキツイか?」

「いえ!問題ありません!」

「はははっ!結構結構!鍛え甲斐がある!」


豪快に笑う平松を見た柴崎は、そっと話しかけた。


「あの、教官」

「ん?なんだ、柴崎」

「…先程は幾ら訓練中とはいえ、教官を投げ飛ばしてしまい申し訳ありません」

「なんだそんなこと気にしてたのか!気にするな、柴崎!!逆にお前のような生徒を持てたことを俺は誇りに思う!これからも精進しろ!」

「…はいっ」

「お前達もだ。赤井、花岡、烏間!強くなれ。そして自慢してやるんだ!お前達は俺の自慢の生徒だとな!あはははっ!」


そう言って笑いながら平松は歩いて行った。それに敬礼し、腕を下ろす。




「頑張ろうな、俺ら」

「あぁ」

「そうだね」

「おう!」

「あ、そうだそうだ。俺赤井忠広!よろしくな、烏間!」

「あぁ。烏間惟臣だ。よろしく」


握手をする二人の傍、花岡がお腹に手を当てる。



「駄目だ!腹減った!」

「んじゃ、食堂行くか!」

「競争する?」

「教官に怒られるぞ」

「歩いて行ったって間に合うよ」

「ノリ悪りぃなー、お前らは!」

「ノッてこうぜ!」

「放って行こうか」

「そうだな」

「えぇ!?」

「ちょっ、待てよー!」


歩き出した烏間、柴崎の後ろを赤井、花岡は追い掛けその肩に手を回すと四人は並んで食堂へと向かったのだった。

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