「なんもプレゼントとか用意出来なくてごめんな?」
「そんな、良いよ。俺自身忘れてたんだし、言葉だけで十分。ありがとう」
木下が申し訳なさそうに言うのを柴崎は笑って良いんだと言う。それを横で見ていた烏間は、柴崎らしい、と小さく笑う。
「あぁもう!!柴崎!!」
「ん?」
花岡が柴崎に声をかける。その隣には赤井もいる。溝淵は…なんだか目を回している。
「誕生日おめでとうっ!」
「おめでとさん、柴崎っ」
「……、…ありがとう」
けれどやはり言われれば嬉しいものだ。柴崎は赤井と花岡からの言葉に小さく笑った。
「もー…なんだよー…目が回るぅぅ…」
「俺らより先にフライングした溝淵がー悪い!」
「悪い!」
「さっさと言っとかないからだろー!」
「なにおー!こっちだってな、心の準備というものが!」
「告白じゃないんだから!!」
「告白みたいなもんだろうが!!」
「どこが!?」
「…ふふっ、」
言い合い(?)を始める赤井、花岡、溝淵を見て柴崎は可笑しそうに笑う。なんでそこまでになるのやら、と。
「柴崎」
「ん?」
「…おめでとう」
「…ありがとう、烏間」
ギャーギャー!という声の中、隣からの烏間の言葉に柴崎は笑って礼を言うのだった。
「来年は俺が1番な!」
その日の夜、4人は自室へと帰る道すがら話している。
「いや、もうここは共同戦線張らねぇで行こう。来年は俺な」
「赤井くん!?裏切り!?」
「てことで、烏間」
「?」
「負けねぇかんな!お前同室だから1番フライングなんだよ!」
「確かに!烏間!フライング禁止な!」
「……どうだろうな」
「おいコラー!」
「そこはそうだなって言えよ!!」
「赤井、花岡煩いよ」
「お前のこと話してんだよ!」
「当の本人無関心か!!」
赤井 花岡 柴崎 烏間
の順で歩いているため、頭上で会話が飛び交うのだ。
「無関心って訳じゃないけど…そろそろ耳痛いなって…」
「声が大きいからな、この2人は」
「後テンション高いし」
「お前ら2人が低いんだよ」
「氷河期かっ」
そんな話をしていれば赤井、花岡の部屋に先に着く。
「…赤井、花岡」
「ん?」
「なんだ?」
「ありがとう。嬉しかった」
「「……………デレた?」」
「…言わなきゃ良かった。帰る」
「待って待て待て!ごめんなさいっ」
「ごめんなすって!柴崎さん!」
「知らない。烏間、行こう」
「…っクク。あぁ、そうだな」
「烏間てめぇ蚊帳の外か!」
「まぁそうだな」
「畜生!!」
騒ぐ2人の声を無視して2人は歩き出す。チラリと烏間は柴崎を見て、そして一つ小さく笑いを零す。
「素直じゃないな、お前も」
「…別に、そんなんじゃない」
顔を少しそらしてそう言うも、その表情はどこか僅かな照れが見える。
「言われ慣れてないのか?」
「そんなことは…ないけど。…あんな風に言うの競われたの初めて…」
「あの2人は今日ずっとあぁだったな」
「…馬鹿だな、本当」
そう言うも、その表情は言葉とは裏腹だ。口元に緩く笑みを浮かべている。
「良い16の迎え方かもね」
「良かったな」
「あ、」
「?」
柴崎が足を止めると烏間も足を止める。そして一歩だけ前に立つ烏間の顔を見る。
「烏間の誕生日は言えなかったけど、今年はちゃんと言うから。でも烏間も8月15日誕生日おめでとう。遅くなってごめんね」
それだけ言うと柴崎は烏間の横を通り過ぎる。早く寝ないと明日に差し支えるな、何て言いながら。
「烏間?帰らないの?」
「……帰る」
「じゃあ帰ろう」
大凡半年振りの思わぬおめでとうに、烏間は心の中で頭を抱えた。何気ない、普通の言葉なのにどうしてこんなに響くのだろうかと。
「…柴崎」
「んー?」
「…誕生日、おめでとう」
「……」
「来年もまた言おう」
「……うん、ありがとう」
誕生日なら言われるであろう「おめでとう」の言葉。どれも嬉しいのは確か。だけど、なんでだろう。比べる訳じゃないけど、1番嬉しいなと思ったのは。
「…んー…」
「ん?」
「…ううん。なんでもない」
「?」
考えても、まだ分かりそうにない。
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