family 5



「っわ!」

「ったくもう…。実の兄に変な遠慮なんてしなくて良いの。分かった?」

「………、」

「……降ろしても…「分かった!」…最初からそう素直に言っておけば良いんだよ。ちゃんと甘えなさい」


そう言うと、うぅ〜っ、と顔を柴崎の肩に埋める。それに笑えば背中をぽんぽんと叩いてやる。



「ねぇ、雄貴」

「んぅ?」

「…明日…は、日曜か。…明日何したい?」

「え?」

「したい事でも良いし、行きたいところでも良いし…。…休みなんだから明日は一緒に過ごそうか」

「…良いの?」

「良いの。これからは、そうだなぁ…。…第2と、第4位はなるべく帰って来て雄貴との時間作ろうか。…明日の事は今日の夜までには考えといて。で、明日の朝で良いから電話しておいで。また来るから」

「…、…っうん!」

「良かったわね、雄貴」

「うんっ!うん!」

「あんまりはしゃぐと落ちるよ」








「…柴崎、良い兄貴じゃん」

「な。あんな兄貴そうそう居ないって」

「…そうだな」

「……でも、そっか、」


赤井は空を見上げて一度閉じたその口を開く。


「…柴崎、親父さん亡くしてたんだな」

「……あいつも辛かったんだろうな」

「…隠すの上手いじゃん?あいつ。だから見破んのも大変!」

「分かる分かる!…でも今笑えてるからまだ安心したな」

「だな」



明るい笑顔を浮かべる雄貴。そんな雄貴を見て笑う母・香織。嬉しさからか抱き上げられる腕の中で動く雄貴に危ないよと苦笑を浮かべながら言う柴崎。そんな3人の姿を見る。



「………1番だな」

「へ?烏間なんか言った?」

「…いや」


何も言ってない。そう言って前に立つ柴崎を見る。


柴崎、お前はそういう表情が1番良く似合う。不安な顔や、悲しい顔よりもずっと。
















「んじゃま、俺ら部屋戻るなー」

「また夕飯時に〜!」


部屋へと帰ろうとする2人を柴崎は呼び止める。


「本当にありがとう、赤井、花岡。助かった」

「へへっ、気にすんな!」

「それよかずっと雄貴くんの良い兄で居てやれよー!ありゃお前大好きっ子だ!」

「…、…っはは。頑張るよ」

「おうっ」

「んじゃなー」


手を振って戻って行く姿を見て、烏間と柴崎も自室へと戻る。

あの後、ちゃんと家まで送り届け、また明日来る事を約束し帰って来たのだ。



カチャ、



「…お前も冷えたろ。ずっと上着をあの子に貸してたからな。今暖…「こっち向かないで…っ」……?」


振り向こうとした烏間にそう言って彼の動作を止めた。



「…まだ、そっち向いてて……」

「……」


片手で自分の肩口辺りを握る。…今更にして、体が震えたのだ。居ないと聞いた時の不安感。見つからない恐怖感。父を失ったのに、まさか弟まで…。そんな最悪を考えては消し去って。…そして、やっと見付かった時の安堵感。色んなものが今やっと押し寄せた。



「……はぁ、」


吐いた息は震えていて、細い。俯いて、目を閉じて、自身の腕を握る力を強めた。強く、強く握って、震えを止める。その時、その手の手首を掴まれる。


「っ、」

「…無理に止めるな」


その言葉に細く、小さく、息を吐く。



「………怖かった…」

「……」

「……見付からなかったらどうしようって…、…怖かった…」


頭の中で何度も何度も嫌な想像が浮かんでは消して、浮かんでは消して。しまいにはまだ連れて行かないでくれと父に願い、ただただあの姿をもう一度見たいと願った。



「……でも、良かった…っ、…怪我一つ、してなくて……。…無事で、本当に良かった……っ」


俯いて、取られていない方の手で顔を覆う。取った手が少し震えていた。烏間はその手を少し引き、手を離すとその頭の後ろに手を回した。




「……貸す」

「……、」

「…必要ないならそれで……」


それで良い。そう言おうとした言葉は、掴まれた服に気付いたことで消えてしまった。



「………寒くないか」

「……ううん、…寒くない…」

「……そうか」


少しだけ、ほんの少しだけ震えた声。それを聞いて、でもそれに何も言わない。家族思いで弱さを見せない彼が、少しでも今出せたならそれでいい。



「…ありがとう、烏間…」

「…礼を言われるほどの事はしてない」

「…それでも、…ありがとう」

「……無事で良かった」

「……うん…、」


なんの怪我もなく、無事な姿で再会できて。あの子が笑った時に見せた彼の笑みは本当に安心した笑みだった。またあの笑みが見られるよう、今はこの肩を貸そう。涙を流しているかは分からないが、少しでも心が落ち着くなら、それで良い。



「(…お前の為なら、肩くらい幾らでも貸す)」


だから次に顔を上げた時、いつもの様に笑っていて欲しい。暗い表情より、柔らかく優しい表情が似合うから。

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