family 4



「…父親からの温かさだったり愛情だったりはあげられない。それは父親だからこそ与えられるものだろうから。…でも、」


俯いた雄貴の頬に手を当てたその顔を上げさせて目を合わせる。



「兄としての温もりだったり、愛情だったりはあげられると思ってる」

「っ!」


その言葉に雄貴は目を開く。



「父さんに負けるかもしれない。けど、周りに負けないくらいは雄貴を想ってあげられる」

「っ、にーちゃ…っ」

「だからいっぱい甘えて、いっぱい我儘言って、いっぱい抱きついてきて良いんだよ。甘えてきたら雄貴がもう良いよって言うまで甘やかしてあげる。我儘言ってきたら、俺が出来そうなものは叶えてあげる。…抱きついて来たら、」



腕を軽く引いて、腕の中に収まるその体を包む。




「…こうやっていつでも抱き締めてあげる」

「っ、うっ、」

「周りになんて負けないくらい、雄貴の事は俺も母さんも、勿論亡くなった父さんも愛してるし、これからだって愛してあげる。父さんと母さんの息子で、俺のたった一人の弟。…大切で大事で、……なのに雄貴が居ないって聞いた時は、……心臓止まったよ…」


震える声で話される母の言葉に耳を傾けながらも心は焦った。それでも冷静にならないといけない。そう自分を律した。



話す2人とそれを見守る3人が居る中、足音が聞こえる。気付いた花岡はその足音の主に手を振る。



「こっちですっ」

「……っはぁ、っはぁ!…っ雄貴はっ?」

「あそこに。…今は柴崎と話しています」

「はぁ、はぁ…っ、」



息が乱れて苦しい。悴む頬や手。香織は烏間が目を向けた方を見た。そして雄貴の姿を目に入れ、止まっていた涙が零れた。



「っうう、…っ雄貴…っ、よかっ、良かったぁ…っ」


足が震えて、蹲ってしまう。早く駆け寄ってその体を抱き締めてやりたいのに。


香織の存在に気付いた柴崎は後ろを振り向く。そして蹲り、顔を隠して肩を震わす姿を見た。それを目に入れてから雄貴を見る。



「雄貴は愛されてるよ。…じゃないと、こんなに俺も母さんも必死になって探さないよ」

「っふ、ぅぅっ、うぅ…っ」


再び泣き出した雄貴の脇に手を入れて抱き上げれば、蹲って泣く香織の元へ行く。



「母さん」

「っ、雄貴…っ」

「っふ、うっ、お母さっ、ごめ、ごめんなさいっ」

「っもう、心配したのよ…!どこを探しても雄貴が居ないから…!…大切な貴方にもしもの事があったらって考えたら…っ、」


でも良かった。怪我も何もしていなくて、無事な姿で、本当良かった。そう涙ながらに言う香織に雄貴は抱きついた。そんな彼を香織は抱き締めた。



「ごめんなさいっ、お母さんっ、ごめんなさいっ」

「もう良いの…っ、雄貴が無事なら他に何もいらないわ…っ。でももう黙っていなくなるなんてしないで…っ。…母さん、貴方まで居なくなったら…息をするのも苦しいわ…っ」

「ぅん…っ、ぅん!」


涙を流す2人に、柴崎はやっと息をついた。安堵の息が漏れて、それに気付いた烏間は彼の背中を優しく叩いた。



「…良かったな」

「……本当にね」


息を吐きならそう答えた。



「でも本当怪我なくてさ、良かったよな」

「それな。こうやって無事見付かって俺らも安心した」

「2人もありがとう」

「良いって!いつも柴崎には世話なってるしっ」

「これで少し恩返しできたろっ」

「…、…っふふ、そんな事気にしなくて良いよ」


くすくす、と笑う姿を見て、烏間もまた安堵の息をついた。共に探していたとき、彼の表情から不安の色は消えなかった。しかし見付かって、こうして母親とも再会できた姿を見て、やっと安堵の表情を見せた柴崎。烏間は2つの意味で安堵の息をついたのだ。



「……にーちゃん、」

「ん?」

「………んと、」

「…ふふ、…なに?」


しゃがんで同じ目線になってやる。雄貴の片手は香織が。もう片手は柴崎が握ってやる。



「………だ、」

「?」

「……だ、……こ」

「……だこ?」

「っふふふ。志貴、この子きっと貴方に抱っこして貰いたいのよ」

「…あぁ、抱っこね」


意味をやっと理解し、なるほどと頷く。流石母親だ。


「…ほら、おいで」

「…重い」

「…っくく、…雄貴で重かったらどうしようもないよ。ほら、気にしなくて良いからおいで?」

「……っ〜、」

「………。…母さんに似て意地っ張りだなぁ」

「…ちょっと?どういう意味?」

「ん?そのまんまだけど」


母に向けた視線をまた雄貴に戻す。だがまだ渋っている。なにを遠慮しているのやら。

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