2人ずつに別れて少し遠くまで探す赤井・花岡、烏間・柴崎と、周囲に個別で聞き回る香織とで別れた。
「見付かったら電話して」
「おう」
「見付かったら手放さねぇよ!」
赤井と花岡は互いにポケットの中に手を入れて携帯の有無を今一度確認する。
「…っありがとう、貴方達」
「気にしないでください!緊急時にはこうやって人手が多い方が良いんです」
「絶対見付けますんで、大丈夫です!」
いつもの明るいそれが、今ここではとても周囲に安心感を与えた。
「…烏間くんも。ありがとう」
「いえ。気にしないで下さい」
香織は烏間の方を向くとそう言う。
「…志貴、」
「…大丈夫。信じて」
「……っ、」
「必ず戻るよ。雄貴を連れて戻ってくる」
また泣いてしまいそうな、不安でいっぱいの顔を浮かべる母を抱き締める。
「嫌がったら無理矢理でも手掴んで抱き上げて戻って来るから。…だから大丈夫だよ」
「っえぇ、…っえぇ…っ」
ほろり、ほろりと流れるその涙。体を放して拭ってやる。
「赤井、花岡。そっち頼んだ」
「任せとけ!」
「どんと来いよ!」
それだけ言うと彼らは走って行く。
「俺たちも行くか」
「あぁ。…じゃあ行くね、母さん。何かあったら電話して」
「分かったわ!」
そう告げて烏間と柴崎は走った。2人の背中を見てから香織もまたその足を動かした。
もうどれくらい経っただろうか。
「……居ない」
どこを探しても見当たらない。歩く人に聞いても見ていないと言われ、途中かかってきた赤井と花岡の方でもらしき子供は見当たらなかったらしい。
「他に思い当たる場所はないか」
「……他、」
記憶を掘り起こす。半年前、1年前、2年前…。もう薄れつつある数年前の記憶に手掛かりはないかと縋る思いで。
「(……1年前に行った夏祭りの場所はもう見た。…2年前の冬に参った神社も見た。……夏。…2年前の夏…、)」
そこまで思い出して、一つの場所を見付ける。
「……隣町の公園、」
「隣町?」
「父さんがまだ居て、家族全員で行った場所なんだ。…あそこは、雄貴にとって父さんと行った最後の場所」
そこしかない。それはもう直感だった。それを感じた時には、もう足は動いていた。
空は少しだけ雲が掛かっていて、走る度に風は冷たい。3月なんてまだ寒くて、春は後少し遠い。それなのに、こんな寒い空の下…あの子は一人でいる。
見えてきた公園。珍しくも切れた息なんて気にならず、目に映った姿に足が止まりかけた。
「雄貴っ!」
「ッ!!」
振り向いたその顔。驚きに染まっていて、どうしてと…聞いてくるような顔。止まりかけた足を動かして雄貴の元へと走る。ベンチに一人寂しく座っていた雄貴は立ち上がる。向かってきた兄に、伸びてきた手に思わず目を閉じた。
「っ!………ぇ、」
叩かれると思った。でも痛みなんて来なくて…、来たのはとても温かいぬくもり。
「…はぁ、…はぁ…っ、…っ良かった…、…無事で…っ」
温かい腕に包まれて、耳元で聞こえる声と息は初めて聞くほど乱れていた。柴崎は自分の腕の中にいる雄貴を強く抱き締めた。
「…本当に良かった…」
「にいちゃ…」
体を放して頬に触れる。
「こんなに冷えて…。…これ着な」
自分が来ていた上着を雄貴に被せる。凍えてしまったその手を握ってやる。
「寒くない?」
「……寒く、ない」
「…そう。なら良い」
冷たく、芯まで冷えたその手を握り、寒さのせいで赤くなったその頬に走ったおかげで温かくなった手で温めてやる。
「……烏間!」
「…来たか」
「…、…あの子が?」
「…あぁ。…やっと見付かった」
烏間が電話で呼んだのだろう。赤井と花岡もやって来た。視線の先にはまだ自分達よりもだいぶ小さな身長の子供と、その前に膝を突いている柴崎の後ろ姿。
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