見守ると決めた。あの恋模様を。……見守ると…決めたのに……、その決意が今揺らぎそうで怖い。
『お前ら本当は両想いなんだぞ』
そう言ってやりたい、言わないが。焦れったい…。だがその焦れったい感じが……悪い、烏間、柴崎。…俺のツボだ…。
「あぁやってさ、互いに秀でてるもんあるとカバーしやすいよな」
「まぁなー。状況に合わせて立ち位置は変えられるよな」
「(…互いに手が触れて少しぎこちなくなって、でも顔を逸らしたまま話し始めるとか…。…あ、柴崎が烏間の方……ってお前らタイミング凄い良いな…っ。…あー、その目が合ってからの笑い合う姿…。そうだよ、それだよ。俺らの心の癒しはそれなんだよ……!)」
宮野の兄目線というか、とにかくそう言ったものに段々拍車がかかりつつある。
「あっ、俺柴崎に聞きたい事あったんだ」
「…………あ?」
「そういや俺も烏間に聞きたい事あった」
「………は?」
「行ってもいいかね?今」
「いけるだ…「駄目に決まってるだろ!」……なんだよ宮野。今まで会話入ってこなかったくせに」
聞きたい事がある。丁度その2人はあそこに居る。なら聞きに行こう。足を動かしかけた川島と冴島を宮野は止めた。
「今は駄目だっ。行くな」
「? なんで?」
「な、なんでって……とにかくだ!」
「でも今聞いとかないと忘れそうだしな…」
腕を組み始めた川島と、なんで?なんで?と聞いてくる冴島にだから何でもっ。と彼は止める。宮野は思っていた。
あの2人の恋路を邪魔するものは自分がなんとかしなければならない、と。
知っているのは自分だけ。つまり変な義務感というか擁護感が出てくるのだ。
「? 何してるんですか?」
「あ……」
「お、柴崎、烏間」
「…あまり休憩すると黒川さん黙っていませんよ」
「まぁまぁ烏間堅い事言うなー!」
話し合いか、説明か、聞き合いか。そんなものが終わったようで2人は3人に気付いた。
「お前らはもう話終わったのか?」
「はい。少し射撃について話していただけなので」
「この手は柴崎に聞くのが一番ですから」
「でも烏間も詳しいからそんなに言う事ないよ」
「それでもお前よりは劣る。独学だろ?」
「うん。本読んだりしてね」
「柴崎本凄い読むよな。好きなのか?」
「はい。だから休日は時間あれば読んでます」
「…読むのは良いが、昼時を忘れて読み続けるのは頂けないな」
「はは…、ついね…」
烏間からの指摘に柴崎は苦笑いだ。集中してしまい時間を忘れる。そんな事はよくあるのだ。
「烏間が声掛けてくれないとそのまま読んじゃって。気を付けてるつもりなんだけどなぁ」
「集中力は人の倍だからな…。…たまにはちゃんと目も休ませろ」
「うん。今度の休みは本から離れるよ。……あー、でも側にあると手が伸びそうだな…」
「伸びないように俺が持っておく。それならお前もちゃんと休めるだろ」
「ごめんね。ありがとう」
「良い。気にするな」
「「…………」」
「(…言いたい。っいや駄目だ。…あーでも言いたい…っ。待て待て駄目だ。信念を鈍らせるなっ。忍耐力なら他の団より付いている。…この純粋な恋愛模様を俺は見守るって決めたんだ。手がいりそうな時に貸してやる…そんな立ち位置に……、そう、正しく兄のような立ち位置になるって…!)」
グッと見えない所で拳を作り、己の欲を断ち切る。宮野は後輩の為に自らを叱咤した。なんたって普段からしっかりしていて落ち着きがあり、更には努力家で実力派であるこの2人。そんな2人の恋だ。
その上滅多に相談というものして来ない柴崎から相談され、そして彼に負けず劣らず冷静沈着な烏間から出たあの言葉だ。……こんなにも穏やかで初々しい恋を温かい目と心で見守らずに何を見守ると言うんだ。
「(はぁ…第一空挺団に来てくれてマジでありがとう)」
「お前らなんか変わった?」
「「え?/は?」」
「あり、川島も?…俺もそんな気するんだよなぁ。んー……」
じっと見てくる2人に烏間と柴崎は少し身を引く。そして川島と冴島は顔を見合わせると冴島が川島に耳打ちを。それに頷くと、川島は烏間に冴島は柴崎に飛び付いた。
「「っ!」」
「いだっ!」
「ぐえっ!」
「……お前らは何してんだ」
「あっ、すみません…!」
「…つい。大丈夫ですか?」
咄嗟に空手、合気道で互いに相手を伏してしまった。飛び付かれると、体が反応してこうしてしまう時がある。
「いや…なんか変わったから、コンビネーションかなぁ…と」
「それを冴島が言うから試してみたけど……タイミングばっちりでお前ら伏せさせたな…」
「(…咄嗟だったとはいえ、心が狭い。…狭過ぎる…。もっと寛大になろう…)」
「(…反射的な部分もあるが…、…駄目だな…。…もっと余裕を持てるようにしよう…)」
一瞬でも自分の隣に立つ者に向かって行った相手への腹癒せのようなものを、自分に向かって来た相手に当てるのはいけない。
「(…平常になんないとね)」
「(…冷静になろう)」
「(……こいつら、お互いに川島と冴島の行動が多少なりとも癇に障ったか…。……大丈夫だ、後で俺が殴っとく。制裁はするから心配するな)」
そう心で呟き、目の前の2人に頷く。目があった2人といえば、
「「…?」」
分かっていなかった。仕方ない。お互いがお互いを好きなことを知っているのは宮野だけ。当人達は知らないのだ。だから頷かれても、分からない。
「(……なんで頷かれたんだろ)」
「(……あの頷きはなんだ?)」
「(見守り隊だな)」
隊、なんて言っても隊員は1人もいない。虚しきかな。
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