「……初心だな」

「……真剣に悩んでるんですからニヤけないで下さい」

「いや、すまん。つい」


目の前の初々しく、淡い恋模様に宮野はどこか癒されニヤついたしまった。



「んーそうだなぁ。まぁ確かに世間一般的というか、別に差別も区別もするつもりはないが公にはしにくい」

「……」

「でも人を好きになるのにぶっちゃけ性別とか関係ないよな」


その言葉に少し驚く。そんな彼に宮野は小さく笑った。


「…その点に関しては、お前ももう思ってることなんじゃないのか？」

「…はい」

「だろ？だって好きなもんは仕方ないし、たまたま好きになった人が男だった。それだけだ。何にも可笑しくねぇよ」


笑って、なんでもない、普通の事だと言う。



「でも初めてだと誰かに相談したいけど、し難い。すると真面目なお前は自分で解決しようと考えるが、初めてだから答えが出ない。出ないから変に烏間とぎこちなくなる。そのせいで……俺らはお前らから心の癒しを貰えない」

「待って下さい、最後可笑しいです」

「可笑しくない。全然可笑しくない」


至極当然の事であり、間違いなど何処にもない。どーんと後ろにそんな文字が見えた。



「好きになると途端にどう接したらいいか分からなくなるっていうのは男も女も同じだ」

「……」

「だから堅く考えんな？…普段通り、いつも通り烏間の隣に居ろよ」

「宮野さん…」

「そりゃ変に緊張するだろうし、落ち着かないなって感じる時もあるだろうけど、それが恋だ。だから大丈夫。…それに、お前が1番お前らしく居る時って、いつだって隣には烏間が居る」



烏間の隣にいる柴崎の笑う姿はとても自然で、見ていてこちらまでほっとするような笑み。そんな彼を見る烏間もまた、周りには見せないような穏やかな雰囲気を纏うのだ。



「あいつの隣に居るお前はいつだって穏やかで、実際優しい性格してるけど拍車が掛かったように優しく見える。…その戸惑いも、いつも通りに過ごしていればスッと知らない間に自分の中へ染み込んでいくさ。染み込んで行けば、またそれが柴崎の中の一つなる」

「……」

「好きだって気持ちを抱いて、少し違って相手が見えても相手の本質は変わらない。新しい見え方が出来て得してるって思え！…片想いでも、自分が好きだって思う相手の隣に居られる事に幸せだって思えれば、」



手を伸ばして二の腕をポンと叩いてやる。



「十分お前はお前らしく、烏間の隣で前と変わらず笑ってられる」


あー、いや。前よりお前らしく居られるの間違いか？と首を傾げる宮野。そんな彼の言葉を聞いて、そっか…と笑みが浮かぶ。



変わらず、隣に居れば良いんだ。好きだと気付いて戸惑う気持ちが生まれたり、落ち着かないなんてことがあるのは誰だってそう。特に、その人が自分の近い距離にいると。

でもらしく居たいから。だから変に繕って、変に変えなくて良い。変わらない自分で、変わらない風に烏間の側にいたら良い。もしも好きになってくれるなら、皮を被った自分より、自分らしい姿を好きになって欲しいから。



「…すっきりしたか？」

「…はい、凄く」

「みたいだな。そんな顔してる」



今の柴崎の表情はとても彼らしく、普段と変わらない優しい表情をしている。




「…んー…」

「ん？」

「……ここ最近ちゃんと話していなかったので、烏間に会いたくなりました」

「……っ！(なんて…っ、純粋無垢な感情に純白な心……っ)」



あまりの純な姿が宮野には眩しかった。目がチカチカした。頭もクラっとした。胸が痛くなった。



「柴崎？…と、宮野さん」

「あ、烏間」

「(おー、お相手さん来たな)」

「…………」

「…？…どうかした？」

「……いや」

「(…あれ、なんか俺見られ……、……あれ？)」



たまたま遭遇した烏間と宮野・柴崎。だが烏間の目は宮野に。それに彼は気付く。柴崎はそんな烏間にどうしたのかと聞く。



「…ねぇ、烏間」

「ん？」

「(…逸れた)」

「…あの…(…らしく、)」


少し言葉に詰まった柴崎に烏間は気付き、優しい声で聞いてやる。


「……、…どうした？ゆっくりで良い」

「…、…最近、ごめんね。俺変だっただろ…？」

「…だが、もう普通なんだろ？」

「え？…あ、うん。もう普通」

「なら良い。…やっと普段通りのお前を見れるな」

「…、…っふふ」

「？ なんだ？」

「ううん、なんでもない。…ありがとう、烏間」

「…気にするな」


いつも通りの2人。柴崎は穏やかで優しい表情に空気を。烏間もまた同様だ。やっと戻った。



「(……俺の見解というか推理(?)というか予想というか…とにかくそんなものから導かれる答えとして…)」

「宮野さん、ありがとうございました」

「あ？あぁ、気にするな」


宮野がそう返せば柴崎は彼に小さく笑い、烏間の方を向いた。


「烏間もう戻る？」

「あぁ」

「なら一緒に行こうか」

彼に背を向け歩き出す。だが宮野は烏間の首に腕を回して引き止めた。



「っ？」

「(お前さ、…柴崎のこと好きか？)」

「(は？)」

「(likeじゃないぞ。loveの方でだ)」

「(……)」


そう聞かれ、暫し宮野を見ると、彼は小さく鼻で息を吐きながら笑った。



「(…好きですよ。だから誰にも渡すつもりはありません)」

「(……)」

「烏間？」

「今行く。…では、失礼します」


首に回る腕が緩み、そこから抜け出せば烏間は柴崎の方へと向かった。取り残される宮野と言えば顔を覆っていた。




「…まさかの両片想い。マジか…。…しかも烏間は格好良いし、柴崎は純だし…。…なんだよお前らありがとう。出会えた事に俺感謝するわ…」


このほぼ9割方男という園。そんな中で、純粋でほのぼのとする、またほんのりとした恋愛模様に、荒んだ心が更に癒されたのだった。




「(やっぱり、隣は安心する)」

「(…やっといつも通りだな)」


2人は2人で、元に戻ったこの状態に人知れず、心の中で安心したように笑った。

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