好きだと、気付いたのは良いが。
「…? どうした、柴崎」
「……なんでもない」
「?」
「(…隣にいるのに、落ち着かない…)」
こんな風に、前とは違ってそわそわし出ししてもう何日も経つ。初めの頃は隠し通して来れたが、そろそろ烏間も気付き始めたのだ。
「はぁ…」
変に緊張して、変に落ち着かない。烏間から名前を呼ばれると逃げたくなる。…初めてだからよく分からない。どうしたら良いんだろうか。
「(…でもなぁ、)」
隣の席の烏間をちらりと見た。彼は柴崎が貸した洋書の本を読んでいた。
「(……隣に居たいしなぁ…)」
ジレンマ。居たいけど落ち着かない。初めて抱いたこの気持ちに戸惑うのだ。窓の外に目を移して、寒そうな空を見た。
「(……何かしたか?)」
どこか違う様子にそんなことを思った。いや、思い始めた、という方が正しいだろう。
「(…こういう時、そっとしておくべきなのか…どうなのか…)」
ちらりと、隣の席の柴崎を見る。彼は今窓の外を見ていた。
「……はぁ」
初めて抱いたこの気持ちが、また新しい問題を自分の中に生んでしまった。
「……柴崎」
「……はい」
「…お前、烏間となんかあったか」
「……いえ、」
「…ならなんで、」
今日お前ら話してねぇんだよ。
「……烏間は悪くありません」
「え、お前が悪いのか?喧嘩?」
「喧嘩じゃないんですけど……」
ならどうしたよ?と宮野は柴崎に聞く。彼は唯一柴崎が恋を(相手が誰だか知らないが)しているのを知っている。
「……まさか、」
「…?」
「……お前の好きな奴が烏間を好きなのか…!?」
「…………はい?」
何言ってるんだ、この人は。そんな目で見る柴崎。
「マジか…、その子凄いな…。柴崎と烏間に取り合いされるなんて…」
「違います。取り合いなんてしていません」
「あ?なんだ違うのか。ならなんでそんな風なんだ?」
そう聞かれて、うっ、と詰まる。烏間と喧嘩はしていない。でも普通…ではないと思う。実際こうやって指摘されるのだから目に見えて普段通りではないのだろう。
「(…どうしよう)」
このまま自分の中で悶々としたまま過ごすのだろうか。そうなると、どうすれば良いかという答えが見つかるまでこのままになってしまいそう。…それは嫌だ。
「…柴崎」
「はい…」
「なんかあったら言って良いって言ったろ?」
「……」
それを聞いて、少し黙る。そして宮野にここじゃ…と、場所を変えた。それに首を捻るも付いて行くことにした。
「……あの、…多分、驚くと思うんですけど……」
「大丈夫だ。今までも色んなことを俺は相談されてきた。耐性はついている」
「(この手の話に耐性が付いているかは怪しいな…)」
「だからドンと話してみろ」
ほら、ゆっくりで良いぞ。と言ってくれる。それに戸惑うも甘えることにした。自分では、この抱いてしまった想いに対して、どう対処すれば良いのか分かりそうにないから。
「……実は、」
「……」
「…その、好きな人って、」
「(お、やっぱそれだよな。…初めてっぽいからなぁ。その手で悩んでいるとは思っ…)」
「………烏間なんです」
「………………。…ッなんだって!?」
「(言ってしまった…)」
後悔の嵐か、もうどうにでもなれという諦めの干潮か、何だかもう良く分からなくなってきた。
「……いやぁ、驚きはしたがなんか納得」
「……え?」
「烏間かー…。良いと思うぞ、烏間。お前らお似合い」
「……は?」
「今でも十分お似合いだが、…そうかもしそういう関係になると……、イケメンと美形か。こりゃ目の保養だな」
「大丈夫ですか、宮野さん」
「俺は正常だ」
真顔でそう返されて、なのにまだ勘繰りそうになる。だってよくよく考えてみろ。自分は納得しても他の人が聞けば一歩引いてしまっても可笑しくないだろう。それでも自分はもう気にしないし、気にしていない。だが逆にこういう反応だと…予想していなかった分混乱した。
「烏間のことが好きで、でも人を好きになるのは初めて。自分の気持ちを認めたけど、いざとなると如何したらいいか分からない。そんなとこだろ?」
「…はい」
掻い摘んで言えばそういう事。抱いてしまったこの気持ちを認めてしまえば、途端に落ち着かなくて前のように居られなくなった。烏間にも、申し訳ない。
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