firm belief 2



やっと落ち着いて、少ししてからだ。そこから心の中に疑問が少しずつ生まれ始めた。なぜ嬉しいのか。なぜ何気ない言葉が心に残るのか。なぜ見られたくないと思うのか。なぜ引き止めたのか。なぜ…鼓動が速くなったのか。



「(…納得した)」



分け隔てない優しさや、優しい表情。どこか抜けているところがあって、とても自分には不器用。努力家で、気配りが上手い。強いのに、弱くて、でもそれはとても人間らしくその様は柴崎らしい。




「(…はっきりした。もう「多分」なんて言葉は必要ない)」



あの時の、ソファに凭れて寝てしまった柴崎に触れて、キスをしかけた事。その後、唇には触れないで自分だけが知る…、小さなキスを彼の頭にした事。今度ははっきりと確証を持って言える。あの時の本当の理由を。本当の気持ちを。

ん?どうかした?と見てくる柴崎にそちらに顔を向けず、小さく笑う。



性別がどうだとか、色々ある。勿論戸惑いだってある。だが仕方ないじゃないか。




「……好きだと気付いただけだ」



柴崎のことを。


初めて人を好きになって、その人がただ男であった。それだけだ。見てきた色んなものに自分が気付かない内に惹かれていって、それは友愛でも何でもなく、ただ「好き」だという想いだっただけだ。


いつからか分からない。だが色んな記憶が重なって、色んな思いが交ざり合って、そしてストンと落ちて来たのだ。やっと今、綺麗な1つの気持ちの塊となって。


「?星が?」

「ふっ、…今はそれで良い」

「??」



涙を流した姿。彼らしく笑う姿。困った顔をする姿。凭れて転寝をする姿。…沢山ある記憶の中の彼は、いつだって彼らしい。




「……難関だな」

「…何が?」

「ん?」


隣に座る彼が烏間を見る。想いに気付き、認めてしまえば色んなことを素直に受け止められる。靄も疑問もなくなって、全て取り払われて解けたから。

たとえ公に出来ず、叶うかどうかも分からない気持ちを抱いてしまっても、もう後戻りなんて出来ない。…柴崎を好きだという気持ちに、嘘は吐けない。




「烏間?眠い?」

「……」



そっと、手を伸ばす。この間とは違う。ちゃんと意思を持って、手を伸ばして、その頬に触れる。



「、」


烏間の手が頬に触れて少し肩が上がった。その手がとても優しくて、微かに…意思とは関係なく鼓動が速くなる。



「……多そうだな」

「え?」

「…いや、なんでもない」


その手がそっと離れていく。立ち上がる烏間を少し目で追った。




「…そろそろ入るか。頬、冷たくなっていた。それ以上冷える前に中に戻るぞ」


見上げる柴崎を見下げて烏間はそう言った。



「…?柴崎?」

「っえ?あ、うん」


烏間から目を離して立ち上がる。立ち上がったのを見て烏間は足を動かす。その後を、ほんの少し遅れて歩く。触れられた部分に指の裏で触れた。



「(…速く、なった……)」


トクリ、と自分の心臓が。真っ直ぐ見られて、その手が優しくて、温かくて…。




「(……熱い)」



頬が、熱い。



「(…えっ、なんで?なんで熱いっ?風邪?…今暗くて良かっ…っあ、でも今から中入るんだ…!)」


あぁどうしよう、熱が引いて欲しいのに引いてくれない。



「どうした?」

「っえッ?」

「…少し赤いな。風邪ひいたか?…もう少し早く中に入るべきだったな」


一歩踏み出た烏間の肩に両手を置いて止める。



「?」

「だ、大丈夫。平気。…多分、外が寒いから…、……体が自然に体温上げようとしてるみたいで……」

「…そんな事出来るのになんでお前冷え性なんだ?」

「……それは、」


えーっと…と顔を反らして考える柴崎。それを見ている烏間。そして少しして顔を彼に向けた。



「……出来る時と、出来ない時がある、から…」

「…………嘘だろ」

「………」


そうだよな、苦しいよな、この言い訳。そんな言葉が頭を過る。だって今思い付いたんだ。苦しいのも仕方ない。

軽く顔を反らした柴崎に小さく笑う。



「まぁ風邪だかなんだか知らないが、とりあえず中入るぞ」

「…うん」


止まった足を動かし歩く。今度は隣で。



「(…出来る時と出来ない時があるって……もっとマシな誤魔化し方出来なかったかな…。…絶対変に思われた…。…はぁ、あー本当にもう…)」

「(開き直るというか、受け入れて認めると見え方が変わるな…。…如何してだが知らないが、理由を取り繕う姿がな…。…惚れた者負けって奴か…)」

「「はぁ…」」

「「え?/ん?」」


互いに漏れたため息に互いが気付き顔を見合う。




「…疲れてるのかもね」

「……そうだな」


本当の心の内を話せないため、そう言って2人は笑って誤魔化した。



「部屋戻ったらゆっくり休もう」

「あぁ。…あいつらが入り浸る前に戻って鍵かけるか」

「あー…、…うん、した方が良いかな。寝られないもんね」

「すぐ騒ぐからな…」



そして巻き込まれる前に対処をしようと2人は部屋へと戻るのだった。

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