「今が2時だから…5時くらいになっても戻って来なかったらまた見に来るよ。それまでゆっくりしてて」
そう声を掛けて柴崎はその場を去るために足を動かした。
「……烏間?」
咄嗟に手首を掴んだ。掴まれた柴崎は烏間を見る。だが視線は合わない。
「………」
言うべきか、言わざるべきか。心の中で悩む。しかし手は勝手に動いて、その上もう引き止めてしまった。大体どうして引き止めた。そこがよく分からない上に手が動いた事に関してもだ。本当に、最近はよく分からない事が多い。
それでも、分からないなりに、言葉には表わそう。
「……居てくれて構わない」
「ぇ、…でも、それじゃゆっくり休めないんじゃ…」
「…いや……、」
…きっと逆だ。側にいる方が、どこか落ち着く。これだけは分かる。ハッキリと。
「……柴崎」
「うん?」
「……、…居てくれないか」
「…!……ふふ、うん。分かった」
少し驚いて、でもその後柔らかく笑ってそう返す。その返答を聞いた烏間は、軽く目元を緩めた。
手首から手を離せば、2人ともそこに横になった。高い高い、青い空を見て、ゆっくりゆっくりと動く白い雲を見て。たまにそれを追いかけて、追い抜く鳥を見て。
「…これで2人共寝坊なんてしたら笑えるね」
「……笑える程度で済んだ方が笑える。寝坊なんてしたら確実にお咎め食らうぞ」
「あー、それ怖いなぁ。……ねぇ烏間」
「ん?」
顔を横に向ければ彼は体を横向きにしてこちらを見ていた。
「寝て良いよ」
「……」
「烏間の為にここに来たんだ。…だから寝ても良いよ」
その言葉に少し黙れば、烏間も体を横に向けた。
「…ならお前も寝ろ」
「俺は良いよ。烏間が寝なよ」
「俺も寝る。だから柴崎も寝ろ」
「俺はそんな疲れてないから大丈夫だよ。だから烏間が寝なって」
「「…………」」
押して、引かず。押されても引かない。そんな言葉の掛け合いに笑いが零れた。
「っふふ、」
「ふっ、」
木の葉や草が風でざわつく中、自然の音に似合わない、控えめな笑い声が聞こえる。
「はぁ、分かったよ。俺も寝るから烏間も寝て」
「…なら良い」
きっと先に目を閉じないと烏間は寝ないんだろうな。そう思った柴崎は先に目を閉じる。
それからどれ位か。10分、15分。良く寝ないで居られたものだと思いながら目を開ける。
「……良かった、寝てる」
目の前で眠る烏間にほっとする。
図書室から帰ってきた時、見掛けて立ち止まった。どこか疲れているように見えて。しかしもしかすると、という思いもあった。それでも遠目からでもどこかいつもと違っていて、本を置いたら声を掛けてみようと思った。
名前を呼んで、反応がどこか遅くて、ちゃんと顔を見たらすぐに分かった。そして確信に変わった。部屋だと人目を気にするかもしれない。そう思ったからこそここに連れて来た。ここだときっと休めると思ったから。
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