窓の外に目をやる。月が出ていて、星は光っている。1年前のこの空は、悲しく辛い空だった。今もまだ少し悲しい空だけど、心いっぱいにその思いが占めないのは、あの時の彼の言葉があったからだ。
「烏間には色々助けてもらった。本当に感謝してる。…ありがとう、烏間」
『…俺も柴崎には助けられた。だから、お互い様だ』
「…ふふっ、そっか。…本当なら、面と向かって言いたかったんだけどなぁ」
『十分電話でも伝わる。…ありがとう』
「いいえ。来年は突撃してあげる」
『くくっ、お前ならしそうだ。…その時は泊めてやる』
「よろしくね。…じゃあそろそろ切るよ。夜遅くにごめん」
『構わない。またな』
「うん、また」
携帯を離し、切る。そう通話時間が長かったわけではない。伝えたい事を伝えた。それだけだ。だが、それだけで十分だ。
「…さてと、寝よっかな」
明日は墓参りだ。暑い中行くから、体に気を付けないとね。
電話を切って離す。すると見ていたのかと言うほどのタイミングの良さ。メールが次々来る。嬉しいは嬉しいが、バイブの音が些か煩い。
「…何件だ?」
暫く置いて止むのを待つが、まだ時々鳴る。これではあいつの言った通りだ。返すのが大変だな。
「…20件」
これは、とんでもないなと思う。嬉しい反面、少し返信に面倒だなと。一斉送信で済ませば数回で終わるだろうが。
誕生日なんて忘れていた。柴崎に言われて気付いたくらいで。あぁ、そう言えばそうか。程度である。特別この日が大切かと言われれば、まぁそれなりにそうなんじゃないかと思うがそこまで思わない。忘れるほどなのだから。
「…返信は朝にするか」
だが、こういうのも悪くないと思う。「大切な事だ」と言ってくれるのは、柄ではないが嬉しいものだ。
部屋の電気を消す。時々光るそれが部屋の中で煌々と光り、まだ来るのか…?と少しばかり引いてしまう。こんなに来るほど自分に人脈はあったか?と。
「…あいつが隣にいるからか」
その流れで知り合う事もある。それかもしれない。
変わったなと思う。今までの自分と今の自分。…どうやら大分あの男に感化されているようだ。だが、別にそれを億劫だと、迷惑だと、鬱陶しいのだと思わない。寧ろ、逆かもしれない。
「…染められたな、俺も」
それもまた、悪くないと思う。
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