「さて、烏間先生、柴崎先生」
「「?」」
「夏の醍醐味といえば、なんですか?」
「夏の醍醐味?」
「……また何か企んでるだろう」
「にゅ!?」
「「「「(わかりやすー…)」」」」
海辺に生徒達・殺せんせー・烏間・柴崎、そして先ほど走ってどこかへ行っていたイリーナも居る。
「ふ、ふふふ、聞きたいですか?聞きたいですよね?」
「いや、気にならないから別にいい」
「どうせどうでもいい事なんだろ。聞くだけ無駄だ」
「そんなに聞きたいなら教えて差し上げましょう!」
「「(聞いちゃいないな)」」
「皆さんの為に、ちゃんとスペシャルイベントを用意しています。真夏の夜にやる事は、一つですねぇ」
その手に持っている板には「夏休み旅行特別企画。納涼!ヌルヌル暗殺肝だめし」と書かれている。
「暗殺…」
「肝試し?」
「先生がお化け役を務めます。久々にたっぷり分身して動きますよぉ。勿論先生は殺してもOK!!暗殺旅行の締めくくりにはピッタリでしょう」
「面白そーじゃん。昨日の晩動けなかった分、憂さ晴らしだ!!」
「えーでも怖いのやだな〜」
「へーきへーき!!」
そう楽しそうに騒ぐ中、殺せんせーはニヤニヤしており、誰にも見えないその頭の後ろにはでっかく「カップル成立」と書かれていた。
「で、組み分けなんですが…」
「殺せんせー準備いいなぁ」
「いつの間にそんなの作ってたの?」
「こちらに来る前にサササッと!ちゃーんと先生方3人分も入ってますよ」
「用意周到過ぎてムカつくわ」
「誰が楽しいって…」
「お前が一番楽しいんだろ」
「バレちゃいました?」
「「「バレバレだ」」」
そんな話をしている間にも殺せんせーの手の中には何本もの割り箸。ご丁寧にも割り箸1本ずつに番号を振っているようだ。
「……で、」
「はい?」
「なんで俺が烏間とイリーナとペアな訳?」
引いた割り箸を手に言う。
「なんでって…自然じゃありません?」
「徹夜明けの不眠不休な烏間に女のイリーナ。手と腕に怪我した俺。散らばしたほうが無難だろ」
「柴崎先生」
「?」
殺せんせーが両手を柴崎の肩に置く。
「ノーリアクションであろう烏間先生を扱えるのは柴崎先生。その反対にチョービビるであろうイリーナ先生を落ち着かせる事ができるのは柴崎先生。ね?」
「俺は子守か!」
「扱いうまいじゃないですかぁ!」
「そもそもだ。…お前くじに細工したな」
「!!」
「こんな高確率で烏間・イリーナ・俺が一緒になるわけないだろ」
「……ささ!張り切ってまいりましょー!」
そして、なんだかんだと肝試しは始まり、何人かの組みはもう殆どの組みは森の中に。最後の組みがこの先生軍だ。
「ぜ、絶対離さないでよ!」
「離さない離さない」
「離さないんじゃなくて、離れないの間違いじゃないか」
右に烏間、左に柴崎。その間にイリーナ。イリーナはガシッと二人の腕を掴んでいる。烏間の言う通り、離さないというよりは、男性2人が離れたくても離れられないのだ。
「ほーら、行くよ」
「ほ、本当に行くの!?」
「嫌ならここで待ってろ」
「それこそ怖いわよ!」
怖がるイリーナを真ん中に男性2人は進んで行く。
「……別に何にもないな」
「大方、あれが逆に怖がらされて化け役どころじゃないんじゃない?」
ピンポン。その通り。
「だから、ただ暗いだけだろ」
「ただの散歩だな。くっつくだけ無駄だ」
「なんにも出てこないし、誰もいないから大丈夫だよ、イリーナ」
「いやぁ!!前見えない!!え!?シバサキ!?カラスマ!?いる!?」
「こいつだけは散歩じゃないみたいだけどな」
「本当に殺し屋なのか疑問を覚えるね」
「おまけに何も聞いてない」
「必死なんだよ。色々ね」
そしてやっと見えてきた出口。生徒たちと殺せんせーの声が聞こえるあたり、皆ちゃんと出口にたどり着けたのだろう。光が見えたことでイリーナはやっと状況に気づく。
「何よ、結局誰も居ないじゃない!怖がって歩いて損したわ!!」
「だからくっつくだけ無駄だと言ったろ。徹夜明けにはいいお荷物だ」
「何にも出てこないし居ないって言っただろ?子守は勘弁してよ」
「何なのよあんた達は!!美女がいたら優しくエスコートしなさいよ!!」
「「はぁ」」
2人して、顔を背けてため息を吐く。対して寝てない体では疲れるもんだ。イリーナは、チラリと隣に立つ柴崎の横顔を盗み見る。こちらを見ない。少しくらい見てくれたっていいのに。
しかし、生徒達の視線に気付いたのか、そーっと烏間・柴崎から腕を離すと、スッと側を離れる。それに気付いた2人は終わったなと言いホテルへと踵を返す。
それをじーっと見ていた生徒達と殺せんせー。
「…なぁ、今しかねぇよな?」
「…うん」
「……どうする」
「明日の昼まで帰る時間あるし…」
くっつけちゃいますか!?
E組生徒達と殺せんせーはゲスかった。こうして最後の作戦が開始された。
ちょんちょんとイリーナは肩を叩かれ振り向く。その向こうには生暖かい目をしている生徒達と、自分の後頭部に指差し背を向ける殺せんせー。変わらずそこには「カップル成立!!」の文字が。
場所は変わり、ホテルのロビー。
「意外だよなぁ。あんだけ男を自由自在に操れんのに」
「自分の恋愛にはてんで奥手なのね」
「〜っ、仕方ないじゃないのよ!!頭良いくせに超鈍感!!あの鈍感さは世界クラスよ!!私にだってプライドがあるわ。男をオトす技術だって千を超える。誰にでも優しいし、その優しさを私にも向けてくれるたびに自分を見て欲しいって思うようになって…ムキになって本気にさせようとしている間に…そのうちこっちが」
「「「う…」」」
恥じらいながら言われるその言葉に年頃男子は胸をきゅんとさせる。
「可愛いと思っちまった;;」
「なんか屈辱;;」
「なんでよ!!」
案外イリーナは不器用だ。積み上げた経験が逆に邪魔で、気持ちに素直になれないのだ。
「俺らに任せろって。2人の為にセッティングしてやんぜ!!」
「烏間先生と柴崎先生を別々にするのはこっちに任せて!」
「やーん。南の島の夕食で告るとかロマンチック〜!」
「あんた達…」
作戦決行は夕食の時間だ!!
どこか社会人のような格好をした殺せんせーがボートを生徒に持たせメガネを付けている。
「では、恋愛コンサルタント3年E組の会議を始めます」
「ノリノリね、タコ;;」
「同僚の恋を応援するのは当然です。女教師が男に溺れる愛欲の日々…甘酸っぱい純愛小説が描けそうです」
「明らかにエロ小説を想像してる!!」
「まずさぁ、ビッチ先生」
「服装の系統が悪いんだよ」
「そーそー。露出しときゃいーや的な」
「柴崎先生みたいな柔和な日本人の好みじゃないよ」
「先生なら、清楚系な感じの人が似合うよな」
「じゃあ清楚系で攻めないと!」
「む、むぅ清楚か」
確かにイリーナの服装は露出が多く、清楚とはかけ離れている。
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