education

「教師ね…」

「教員免許を持っていて正解だな」

「本当。なんとなくで取ったのがこんなとこで役に立つとは思わなかった」


今後何があるか分からないし、一応取っておこうかと。気持ちとしてはそれくらい。特別深い意味はなかった。しかしそれが今こうして活かされており、人間の未来とは何があるか分からないと感じる。



「お前の科目はなんだ?」

「数学と体育の副担当。烏間は体育?」

「あぁ。それとE組の副担任。表向きは担任扱いだ。で、表向き柴崎は副担任だ」

「あれを担任です。なんて言えないからね」

「言ったところで信じてはくれないし、あれは国家機密だ」

「ふぅ、ハードな仕事」



そんな話をしながら本校舎にある理事長室に向かう。中に入ればこちらに背を向け椅子に座っている。




「柴崎さんに烏間さんですね」

「はい。単刀直入に申し上げさせていただきます。防衛省から通達済みと思いますが…、明日から私達も体育教師、数学教師兼体育副担当教師でE組の副担任をさせて頂きます。表向きは私が担任、柴崎は副担任となります。奴の監視は勿論ですが…生徒達の技術面精神面でサポートが必要です。互いに教員免許は持っていますのでご安心を」

「ご自由に。生徒達の学業と安全を第一にね」

「存じています。では、失礼します」


用件だけを伝え、部屋を出る。自分たちのことをE組の生徒にも伝えるべく、彼等は隔離校舎へ向かう為足先をそちらへと向けた。



「物分かりのいい理事長だね。まぁ、当たり前か」

「見返りとして国が大金を積んでるしな。だが、都合がいいのは確かだ」

「地球を壊せる怪物がいて、しかもそいつは軍隊でも殺せない上教師をしている」

「あぁ。こんな秘密を知っているのは我々国とここの理事長と、あの校舎のE組の生徒だけでいい」

「真実を知る者が多ければ多いほど混乱は増すからね」



そこに二人の本校舎の生徒達が通り掛かる。なにやら紙を持ち深刻そうな顔をしている。彼等の会話が聞こえ二人は足を止め、立ち止まる。




「やっばこれ以上成績落ちたらE組行きかも」

「マジか!?あそこ落ちたら殆ど絶望だぞ!学食も無い、便所も汚い、隔離校舎で俺からも生徒からもクズ扱い。超いい成績出さないと戻ってこれない。まさにエンドのE組!!あそこに落ちるくらいなら死ぬな、俺」

「だよな…。E組(あいつら)みたくならないよう頑張んなきゃ」



去っていくその二名の後ろ背中。それを視界に入れ、柴崎は感慨深い様子を見せた。


「…なるほどね。極少数の生徒を激しく差別することで大半の生徒が緊張感と優越感を持って頑張るわけか…」

「合理的な仕組みだ。そういう仕組みだからこそ、我々としてもあの隔離校舎は極秘暗殺任務にはうってつけだが…」

「切り離されたと彼らにとったら、たまったもんじゃないだろうけど…」

「…住みにくい世の中になったな」

「本当だね…」










E組達がいる校舎へ向かうと、何やら竹の棒を沢山抱えて走っている茅野。茅野は烏間と柴崎に気付き声を掛ける。


「烏間さん!柴崎さん!こんにちは!」

「こんにちは、茅野さん」

「こんにちは。明日から俺たちも教師として君等を手伝う。よろしく頼む」

「そーなんだ!じゃあこれからは烏間先生と柴崎先生だね!」

「…ところで奴はどこだ?」

「それがさ…」


茅野に案内させるがままついて行く。何やら生徒の声が聞こえる。


「殺せんせークラスの花壇荒らしちゃったんだけど、そのお詫びとしてハンディキャップ暗殺大会をしてるの」



目の前に広がるのは生徒達が皆竹の棒の先に対先生武器を付け襲っている。その先生は木の枝に紐を括り付け、その紐を体に巻きぶらんぶらんと揺れているではないか。



「そこだ!刺せ!!」

「くそっ!こんな状態でヌルヌルかわしやがって!!」

「ほらお詫びのサービスですよ?こんな身動きできない先生そう滅多にいませんよぉ〜?」




「…なにあれ」

「くっ、これは最早暗殺と呼べるのか…っ!」



そこで渚が先生弱点ノートをポケットから取り出す。 何やら彼自身が見つけた" 先生 "の弱点を書き留めているようだ。


「殺せんせーの弱点からすると…」


柴崎はそのノートを後ろからそっと覗き見る。一つ二つ、三つと。書き記されているそれに彼は今現在での渚の観察力がどの程度であるかを大体で推し量る。そうしながらその中の一つに彼は目を落とした。


「カッコ付けるとボロが出る…ね」



それから前を見ると重さに耐え切れず枝が折れ、落ちる殺せんせーの姿が。そこを逃さず殺りに行く生徒。だが、刺さらない。


「案外役立つかもね、そのノート」

「ほ、本当ですか!?」

「あぁ。これからも見付けていくと良い。あれも生きてるんだから、弱点くらい何個かあるだろうし」



しかし結局生徒達は殺さんせーを殺すことができず、彼は屋根に逃げて飛んで行った。ちゃっかり宿題を二倍にすることを忘れずに。




「…慌てるのが早いのと、器が小さいのも書き加えとけば?」

「そ、そうですね;;」



そうとなればと書き足す渚を尻目に、柴崎は彼の側を離れ、烏間の横に行く。その烏間は何やら生徒達を見ている。彼の考えている事が、柴崎にはなんとなく分かった。なぜならそれは彼も感じているからだ。




「…普通なら、あり得ない状況なんだけどね」

「…あぁ。中学生が嬉々として暗殺を語っている。どう見ても異常な空間だ」

「けど生徒達の顔が最も生き生きしているのは、あのターゲットが担任のこのクラスか…」

「不思議な光景だ」



























「さて、数学の時間だから俺が担当させてもらうよ」


ここは教室。生徒達は静かに座り、柴崎を見ている。みんな柴崎がどんな授業をするか楽しみにしているのだ。だが、1人沈み泣いている者がいる。



「俺は数学と烏間が担当する体育の副担任も任されてるから次の授業も参加する。どちらも怠らずに受けて欲しい。勉強で分からないところがあれば遠慮なく聞きに来てくれて構わない。もちろん、暗殺に関してもね。じゃあ、授業を始めるよ…と言いたいところなんだけど…」



みんなの視線は教室の前の扉の隅に蹲り、シクシクと涙を流している殺せんせーに移る。それは柴崎も同様であり、その目は酷く呆れた色をしていた。



「ううっ、数学の時間は私の担当だったのに…!」

「国からの命令だ。お前は他の科目を担当すればいい」

「酷いです酷いです!柴崎先生!」

「酷くない。これも仕事だ。ほら、お前は教員室に行って茶でも飲んで来たら?」

「冷たい!!柴崎先生私にとても冷たい!!生徒には優しいのに!!」

「お前に優しくして利があるわけ?」

「「「「(なさ過ぎる…!)」」」」


その後無駄話はそこそこにしてなんとか柴崎は殺せんせーを追い出し、授業を始めた。しかしなかなか教員室に行かず廊下がの窓に引っ付いてこっちを見ている。そのせいで生徒達は勉強に集中出来ない。ちらちら、と。数名、いや結構な人数が廊下の方を気にしている。

これでは授業にならない。そう察した柴崎は懐に隠し持っていた拳銃を出して数発発砲した。彼の射撃率は高い。だが相手はマッハ云々な殺せんせー。早々当たるわけもないのだが、それでも彼は必死で逃げる。



「…はぁ、やっと行った」


これで落ち着いて授業を開始出来る。そう思うと彼は手に持っていた拳銃をスーツの内側へと仕舞った。



「柴崎先生、凄いですね…」

「ん?」

「あの殺せんせーが必死で逃げてたもん」

「どうしたら先生みたいになれますか?」


口々に質問をしていく生徒達。それは今までに見たことのない者への尊敬。そして暗殺に対する欲の目だ。まだ数日というのにこのような眼差しをする彼等に、柴崎は染まりが早いなと心中で苦笑を零す。



「今すぐには無理だよ」

「…」

「でも、この先君達にも出来るようになる」

「え…」

「ナイフ術、射撃術は1日、2日で伸びるものじゃない。何日もかけてやって体に慣れてくるものなんだよ。今の君達まだやり始めて日が浅くて、ちゃんとしたことも習っていない。でもこれからはそれも俺と烏間で教えて行く。だから心配しなくても大丈夫だよ」



そこまで話すと柴崎はさ、授業を始めるよと手に教科書を持ち再開した。彼の教え方は一つ一つ丁寧に、且つ分かりやすく説明して行くもの。その為生徒達は着々と理解していき、初回にしては思う以上に授業はスムーズに終わった。




「…今日はここまで。復習はしておくこと。じゃあまた次の時間ね」


教科書を持ち教室を出る。残された生徒達は分かりやすかった!や、数学が楽しくなってきた!と、零し評判さが伺えた。





















「晴れた午後の運動場に響く掛け声。平和ですねぇ。生徒の武器が無ければですが」

「八方向にナイフを正しく振れるように!どんな体勢でもバランスを崩さない!」



体育の時間。運動場では生徒達がナイフを振っている。烏間は前で指導、柴崎は生徒一人一人にアドバイスをしている。



「この時間はどっか行ってろと言っただろう。お前が体操着着てどうする。体育の時間は今日から俺と柴崎の受け持ちだ。追い払っても無駄だろうがな。精々そこの砂場で遊んでろ」


烏間が指差す先は砂場。今は誰もいないので遊びたければ自由に遊べる。だがそのあまりにぞんざい扱いに、殺せんせーはまたもシクシクと涙を流して砂場で砂遊びをし始めた。



「酷いですよ、烏間さ…烏間先生、柴崎先生。さっきの数学の時間も柴崎先生に拳銃発砲されて追い出されました。それに私の体育は生徒に評判良かったのに」



しかし何やら生徒達には思うことがあるのか、彼等の内の一人、菅谷が言葉を漏らす。


「嘘つけよ、殺せんせー。身体能力が違い過ぎんだよ。この前もさぁ…」


そう言って前回の体育でした反復横跳びの事を話す。到底真似の出来ない早さで反復横跳びをし、さらには綾取りまでしだしたという。なんとも言えない、無謀という無謀をとことん表しているその事実に話を聞いていた烏間と柴崎も流石に呆れ顔である。



「異次元過ぎてねぇ」

「体育は人間の先生に教わりたいわ」


真っ直ぐな、偽りの見えない台詞。そんな生徒達の言葉に殺せんせーはショックを隠せない。再びシクシクと泣き、砂山を作り始めた。勿論、一人でだ。



「まぁそんな異次元な授業受けてもね…」


身にもならず時間だけが無常にも過ぎていくだけであろう。実に勿体無いことこの上ない。烏間もそれには同意見なのか重めに一つ首を縦に振った。



「…だが、これでやっと暗殺対象を追っ払えた。授業を続けるぞ」

「でも烏間先生、柴崎先生。こんな訓練意味あるんすか?しかも当の暗殺対象がいる前でさ」


前原が疑問に思ったことを口に出す。確かに、今までこんな授業はしたことないし、本当にこれでいいのか不安になるのも仕方ないだろう。



「勉強も暗殺も同じ事だ。基礎は身に付けるほど役に立つ」


けれど今一烏間の言葉にピンとこない生徒達。しかしそれも仕方がないだろう。何せこんな授業、そしてこんな訓練は彼等生徒達にとって初めての事なのだから。そこでそのことを考えてか、柴崎が実践してみるのが一番いいと提案をした。



「それもそうだな。…では例えば。磯貝君、前原君。そのナイフを俺に当ててみろ」

「え…いいんですか?」

「二人掛かりで?」

「対先生ナイフなら、俺達人間に怪我はない」


そう言われ、戸惑いながらも2人は烏間にナイフを向ける。本当に良いのだろうかと、浮かぶ彼等の表情から迷いが見える。



「え、…えーと…、そんじゃ」


ようやっと決心とやらがついたのだろう。先に磯貝が仕掛ける。それを烏間は軽く避けた。矛先さえも彼には掠らない。その事実にまさかこんな簡単に避けられるとは、と磯貝は驚きを隠せない。



「!!」

「さぁ」

「くっ!」


次に駆け出すのは前原。だがそれも烏間は手で弾き、次の攻撃も難なく避けていく。止まることなく次々と繰り出される磯貝、前原からのナイフ攻撃。しかし烏間はなんの苦しさも押され具合も見せないままにそれらを否していく。


「このように、多少の心得があれば素人2人のナイフ位は俺でも捌ける」


その内一人では無理だと感じたのだろう。彼等は二人一気に烏間へと襲い掛かった。だがそれでも実力の差、経験の差は歴然。烏間は二人の手首を掴み、そのまま地面に倒した。



「なかなか悪くはない。では杉野君、潮田君。前へ。次は柴崎を相手にしてもらう」

「え、俺もするの?」

「お前の格闘術は俺以上だ。一度生徒達に見せてやるのも勉強の内だ」


まぁ、それもそうかと思えば柴崎は肩を軽く竦める。異論はない。知っておくことも、また知らせておくことも教育者としては大切なことであるからだ。彼は邪魔になる袖を捲る。そして烏間より指示された二人の前に立った。しかしどうやら杉野と渚は烏間が柴崎は自分より格闘術が上だという言葉に怯えたのだろう。既に腰が引いていた。



「あー、君達二人共そんな体固くしないで。リラックス。腰も引けてるよ」

「うっ…」

「えっと…」


それでもやはり腰が引ける2人。それには溜息を吐かずにはいられない。怖がらせる気は毛頭なかったのだが、と。そう思いながら柴崎は元凶である烏間を振り返った。



「烏間…」

「…すまん」


すると彼もまた少し余計な事を零してしまったのかもしれないと察したのだろう。分が悪いような顔色を見せた。それに一つ息を吐き、柴崎は前を向き直しては腰に手を当てる。このままじゃ授業にならない。なんとかしなければ。



「俺は今君達がどの程度の力を持っているのか見たいだけ。それによって今後の授業内容を考える必要もあるからね。今は暗殺の模擬授業なんだし気分的にはそんな気負わず…」


そこで言葉を止めて、少し思案する。この言い方ではダメだ。なんなら闘志を出させる言い方をしなければ突っ込んでは来ないだろう。教育における厳しさというものは時に大きな鍵となる。優しさだけでは生徒というものは伸びないのだ。



「…俺相手にそんなんじゃ、あれは倒せないかな」


親指で後ろで砂遊びをしている殺せんせーを指す。その言葉に杉野と渚はピクリと反応を見せた。どうやら少しは彼等の心に火を付けられたようだ。



「俺に向かってこれないようじゃ、あれを暗殺するなんて夢のまた夢。なんなら今そのナイフを捨てたほうがいい」


柴崎のその言葉に二人の目の色が変わった。体勢が変わる。構えの格好だ。まだまだ合格点には達しないものだが、挑戦心を宿した事には花丸を与えてやらなければならない。杉野と渚の目は真っ直ぐ、柴崎を見ている。その様子に彼は小さく口元で笑った。




「…じゃあ、おいで」


その掛け声が引き金となったのか。二人は共に柴崎へと一気に間合いを詰める。作戦等も何も、考えられてはいないだろう。当たり前だ。そんな時間を烏間も柴崎も彼等に渡した覚えはないからだ。これは一種の教育であり、そして確認だ。何が大切で、これから何をすべきなのかという認識訓練である。

まずは杉野が柴崎の後ろに回り込む。その後すぐに渚は前から彼を攻め始めた。同時に振り下ろされるナイフ。普通ならば当たってしまいそうなそれを、柴崎はナイフを持つ彼等の手首を掴み引き寄せる。その反動で起きる勢いを見越して手を離せば、案の定。お互いが前方へ倒れかける。だが両者とも踏ん張りまた彼へとナイフを突き付けた。しかしそれらもまた、彼は手で払いのける。平、甲、そして躱す事によって決定的な傷を与えさせない。




「すげぇ…」

「躱すどころか全て受け止めて否してる…」

「なんて身体能力と洞察力だよ…」

「(流石だな…)」


烏間の口元には僅かな笑みが浮かぶ。柴崎が負けるなどとは彼自身も思っていない。だが現役時代から一向に劣る事のないその身の熟しに改めて感服したのだ。

そうこうしている内に、杉野と渚にも体力的の限界がやってくる。一か八か。そう思ったのか二人は真正面から柴崎へとナイフを振り翳した。だが彼はその向かってくるナイフを受け止め、素早く離すと2人の手首を掴む。そして彼等の後ろに回ると、捻って動きを封じ込めた。



「はい、終了」


事が始まり、終わるまで何分も経っていない。それなのにあっという間に二人は柴崎によって抑えられ、今掴まれていた手を離された。息も絶え絶えな二人から距離を取ると、先程の向かってくる姿勢や攻撃方法を脳内で纏め終えたのだろう。柴崎は彼なりの考察を述べ始めた。



「最初はなかなか突っ込んで来なかったけど、来たら来たらで真っ直ぐ来るね。でもまだ迷いが見える。矛先には若干のブレが生じていたし、少し力み過ぎていたせいか体全体の動きが固くなっていた感じがしたかな。……と、まぁ他にも言う点は色々あるけど、でも落ち込まないで」


肩で息をし、中腰になる杉野と渚。そんな彼等に近寄り頭に手を置くと、柴崎は小さく笑いかけた。


「指摘点があるってことは、=成長出来る証だよ。それにこれからちゃんと鍛錬していけば、さっき話していた迷いも消えていくしね」


だから大丈夫と。そう伝えると幾分か安心したのか、二人の表情から笑みが生まれた。それにもう一度笑みを浮かべると、彼は二人から離れ烏間を振り返る。



「これで良い?烏間」

「あぁ、十分だ。今ので分かったように、俺と柴崎に当たらないようでは、マッハ20の奴に当たる確率の低さが分かるだろう。見ろ!今の攻防の間に奴は砂場に大阪城を造った上に着替えて茶まで立てている」

「「「「(腹立つわぁ〜…;;)」」」」



生徒からすればなかなかに腹立つ絵図らである。呑気すぎる。しかもニヤニヤしている。




「クラス全員が俺達に当てられる位になれば、少なくとも暗殺の成功率は格段に上がる」

「ナイフや狙撃、暗殺に必要な基礎の数々は俺と烏間でこの体育の時間を使って教えさせてもらうからね。じゃあ、今日はここまで」

「「「「ありがとうございました!」」」」






「烏間先生ちょっと怖いけどカッコいいよねー」

「ねー!柴崎先生もカッコいい!強いし、優しいし!二人共ナイフ当てたらよしよししてくれんのかなぁ〜!」




生徒達は次の授業のために校舎へと足を進める。そんな中速水と倉橋の言葉を聞いた殺せんせーは悔しそうにハンカチを噛み烏間と柴崎を見る。そんな二人は上着を着ているところだ。



「烏間先生、柴崎先生!ひょっとして私から生徒の人気を奪う気でしょう!」

「ふざけるな」

「寝言は寝て言え」

「『学校が望む場合…、E組には指定の教科担任を追加できる』お前の教員契約にはそういう条件があったはずだ」



それを言い終わると同時に烏間は殺せんせーの眉間にナイフを投げる。だがそのナイフは避けられ、後ろの木に当たる。まぁ烏間も端から今の攻撃が当たるとは思っていなかったのだろう。気にも留めない風にしてスーツの襟元部分を軽く整えた。



「俺達の任務は殺し屋たちの現場監督だ。あくまで、お前を殺すためのな」

「全ては任務遂行のためだよ。こうして生徒達に必要な情報をやって、動いているのもね」

「「奴」や「お前」ではありません。生徒が名付けた「殺せんせー」と呼んで下さい」


それだけを烏間と柴崎に告げると、彼は二人に背を向け生徒たちの後を追った。残されな彼等はその後ろ姿を暫し眺める。



「……「殺せんせー」、だってさ。呼んであげたら?」

「誰がだ。それに俺は暗殺対象と馴れ合うつもりはない」

「…ま、それが正しいんだろうね」


任務の、況してや国の暗殺対象となる相手と仲良しこよし。そんなことは地球が三角になってもあり得ない。あり得てはならない。きちんと線引きを行い対処しなければならない立場にいるのだから。

二人はそこに留まる理由もない為、足を動かし始める。しかし、前方には見慣れない生徒の姿が。あれは今日から停学明けになった生徒・赤羽業だ。



「…今日からだっけ、彼」

「赤羽業か…」



暫く見ていれば、殺せんせーに握手を求めるところだった。しかし、握った途端殺せんせーの手が潰れる。そして素早く左手首に隠し持っていた対先生ナイフを出し斬りかかった。殺せんせーは彼と距離を開け飛び退く。今まで殺せんせーにダメージを与えた者はいない。赤羽業ただ一人だ。





「…見たか、柴崎」

「勿論。…また、とんでもない生徒が居るもんだね」



彼に刺激されて、腕を伸ばす生徒が出る可能性もある。そう感じた瞬間だった。


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