teacher

「もう7月だ。3月までに奴を殺す手立てはないのか!?日本政府は手をこまねくばかりだと言われているぞ」

「総理!!それについては彼等に計画がございます。我々情報部と監察本部の隠し玉です」

「ほう。期待していいのかね」



二人の男の前に置かれているパソコンには烏間と柴崎の2人が映し出されていた。













「視線を切らすな!次に標的がどう動くか予測しろ!全員が予測すればそれだけ奴の逃げ道を塞ぐ事になる!!」


生徒たちは烏間にナイフを翳し当てようとする。それを弾き、避けて回避する。




「前方だけでなく後方にも神経を集中させて背後からの奇襲に備える。素早い動きが出来れば何時なんどきでも対処可能になる」


柴崎は凡そ10人を一度に相手しそれぞれの弱点を指摘し防ぎ、時に攻撃する。身体能力に優れている岡野が柴崎へと奇襲をかける。足を振り上げ当てようとするがそれをバク転で躱す。何度も足蹴りで攻撃を仕掛けてくる。


「脚ばかりに集中してると、上が疎かになるよ」


素早く腕を掴み地面に倒す。呆気なく倒れてしまった岡野に手を差し伸べる。





「でもいい線をついている。あそこで足技をした後に腕で攻撃に移れば、俺も危なかった」

「もー、そんなこと言って柴崎先生簡単に避けるんでしょー!」

「避けることも大切な訓練の一つ。攻撃だけが全てじゃない。引き際を見付けて油断したところを刺す、とかね」

「後もう少しで当たりそうなのになぁ」



前原が頭の後ろに腕を組む。彼も身体能力は良い。観察力に優れ、状況判断が上手い。





「前原くんは意表を付くのが上手い。それを伸ばすと良い」

「本当っすか!?」

「あぁ」

「先生、この時ってどうしたら良いですか?」



速水が柴崎に近付き、横からの攻撃の場合を聞く。




「その時は手をこうクロスして顔の横に置くか、攻撃されたのが見えたのなら素早くしゃがむ。クロスで攻撃を受けたらどちらの足でもいいけど、左側にクロスをしたなら右足、右側にクロスをしたなら左足が良いかな。その足で横蹴り。打つところは相手の横腹、もしくは顔の側面。しゃがんだ場合はその体勢のまま水面蹴り。相手が倒れかかったところをすかさず飛びつき十字固めをしたら体は起こせないよ」

「なるほど…」

「なんなら実践してみる?相手になるけど」

「良いんですか?」

「良いよ。リーチは違うけど、まぁなんとかなる」



速水と柴崎は対面になった後、速水は横を向く。


「じゃあ行くよ」

「はい!」



速水の側面に右拳を打つ。それを速水はクロスして止め、腰を回し右足を上げて柴崎の横腹目掛けて蹴る。それを柴崎は左腕で止める。



「…どう?なんとなく掴めた?」

「はい。ありがとうございます」

「じゃあ2人一組になって、前回教えた関節蹴りの練習開始!」

「「「「はい!!」」」」




その時何気なく烏間の方を見る。あちらも生徒と攻防を繰り返しながら指示を時折送っている。それを少し見ていた時、柴崎は目を開いた。勿論、今は標的となっている烏間も微かだが動きを止めた。すぐに防いだがあれはなんだ。





「……隠れた素質か、それとも…」



潮田渚。小柄さを利用し攻撃するがそれ以外に特に秀でたものはない。どちらかといえば温和な性格の持ち主。しかし、そんな姿を見せないかのような鋭く無気配の動き。烏間も、それを感じ取ったようでこちらの視線に気づいたのか柴崎を見る。お互い思うこと言いたいことは同じなのか小さく頷くと互いにすべきことへと移った。





「それまで!今日の体育は終了!!」

「水分補給はしっかりしてね」

「「「「ありがとうございました!!」」」」





生徒達はぞろぞろと解散していく。柴崎の元に磯貝がそろそろっと寄ってくる。


「あの、柴崎先生」

「ん?」

「実はうちの母がこの間のことお礼を言いたいって言っていて…」



この間のこと。それはつい2日前、街でたまたま居合わせた磯貝家族と柴崎。磯貝は自分の体育と数学の先生だと紹介し、磯貝の母と柴崎は暫く話した。その時、磯貝家の兄妹の内の妹が親のそばを離れていた時見知らぬ男に誘拐されそうになったのだ。それを間一髪で助けたのが柴崎。無事犯人は逮捕され、彼女に怪我はなかった。





「あぁ、別に良いよ。当然ことをしただけだ」

「っていうと思ってました。お礼っていうのは本当なんですけど、母がもう一回柴崎先生に会いたいって言ってて…」

「俺に?」

「はい。あ!無理なら良いんです!先生も忙しいし…」

「ははっ、いや、なら時間を作って伺わせてもらおう。また日時は磯貝くんに言うよ」

「本当ですか!ありがとうございます!母も弟も妹も喜びます!」



話している二人の背中に倉橋が話しかける。





「柴崎せんせー!」

「んー?」

「放課後待ちでみんなでお茶していかない!」

「お茶?」

「うん!烏間先生にも誘ったんだけど、防衛省からの連絡待ちとかで断られちゃって…」

「防衛省からの連絡…、あぁ、そういえばあったっけ。俺にも連絡が来るとか…」

「先生にも?じゃあお茶は無理かぁ…」



沈む倉橋に小さく笑うとその頭に手を置く。





「今日は無理かもしれないけど前もって言ってくれたら空けておくよ」

「本当!?」

「あぁ」

「約束ね!磯貝くんも行こうね!」

「あぁ、楽しみにしてるよ」

「じゃあ俺はいくね」




二人のそばを離れて校舎へ向かう。その背中を見る生徒達。



「なんかさ、烏間先生と柴崎先生って同期なんだよな?」

「って聞いてるけど…」

「二人共私生活でも隙がねぇ感じしねぇ?」

「あー、うん、それはあるかも…」

「っていうより…私達との間に壁っていうか一定の距離を保っているような…」

「まだ柴崎先生は烏間先生よりはましだけど、それでも時々感じるよな…」

「厳しいけど優しくて、私達のこと大切にしてくれてるけど、でもそれってやっぱりただ任務だからに過ぎないのかな」



生徒達の不安心がここで出された。烏間と柴崎。二人が国の命令で自分達についてくれているのは知っている。こうして授業を通して色んなことを教えてくれているのも。けれど、もっと仲良くなりたい、もっと話したいと思うことはいけないことなのだろうか。私達、僕達に向けるその優しさや厳しさや笑顔は任務だからなのか。





「そんな事はありません」


そんな生徒達の不安心を消すように殺せんせーは口を開いた。







「確かにあの人達は…先生の暗殺のために送り込まれた工作員ですが、彼らにもちゃんと素晴らしい教師の血が流れていますよ」






校舎近くに来ると烏間が立っていた。




「…今日か」

「あぁ、例のアレね」



二人の頭には先日上からの呼び出しの件が過った。





「烏間、柴崎。君たちをこの任務に付けたのは…その能力を買っての事だ。空挺部隊では常に二人はトップの成績。烏間は鬼教官として、柴崎はスパルタ教官としても才能を発揮し、軍服を脱いだ後の諜報活動も目覚しかった。…だが現状はどうだ。秘密兵器の転校生暗殺者も活かしきる事ができなかった。暗殺者の手引きと生徒の訓練。いくら君達でも2人では熟せないようだな。今の所暗殺の糸口も掴めていない。今もこうして平然と窓の手入れをされている。舐められてとるんだよ我々は!!」


窓を見れば殺せんせーが鼻歌交じりに窓を磨いている。それに烏間と柴崎は青筋を立てたのだった。














「状況を打破するためにもう2名、増やすと言っていた」

「適任らしいけど…、誰だかは知らされていないな」

「あぁ…」



その時前の扉に人影が映る。それは1人ではなく2人だ。ガラガラと開き、出てきたのはよく知った顔だった。



「よ、烏間!柴崎!」

「お久しぶりです、柴崎教官!」

「鷹岡…!」

「林…」



鷹岡と呼ばれた男は沢山の荷物を引っさげて校庭へと歩いていく。林と呼ばれた男は柴崎に飛びつく様に近づく。





「またこうして柴崎教官に会える事に嬉しく思います!精一杯お力添えさせていただきます!では、失礼します!」



去っていく2人の後ろ姿を烏間と柴崎は見ていた。鷹岡のことは名前とその技量程度しか知らない。だが、林のことは烏間も柴崎もよく知っている。特に柴崎は。林は柴崎が初めて教官として持った時の生徒の1人。一見好印象を与える林だが、支配力・独占欲が強い。それは、異常に。





「柴崎…」


烏間は危懼した。林の柴崎に対する敬愛は只者じゃない。強さを求めるが故に間違った方向へとその思いが向いているのだ。その生き過ぎた行動が仇となり、彼は柴崎の訓練生から降ろされたのだ。上の命令で。




「…大丈夫」

「だが…」

「…馬鹿な行動を取ったときは、それ相応の対処をする」


そういうけれど、烏間から心配の念は消えなかった。そんな2人の後ろから園川が話しかける。



「…烏間さん、柴崎さん、本部長からの通達です。貴方方には外部からの暗殺者の手引きに専念をし、柴崎さんに関してはもう一つ受け持っている教科と手引きに専念して欲しいと。生徒の訓練は…今後全て鷹岡さんと林さんが行うそうです。同じ防衛省の者としては、生徒達が心配です。あの人達は…極めて危険な異常者ですから。特に、林さんはこの件を聞いたとき、詳しい話を聞くことなく了承したそうです」

「林が?」

「はい」

「なぜだ」

「…柴崎さん、貴方がいると、知ったからです」

「…」

「気を付けてください。生徒達への彼らの対応も、柴崎さん、貴方も…」

「あぁ…」



















「?誰だあの人達?」

「でけぇ〜…」

「もう1人は普通だな…」



鷹岡と林は校庭にいる生徒達の真ん中に行くと手荷物を降ろした。


「やっ!俺の名前は鷹岡明!」

「俺は林浩介!」

「今日から烏間と柴崎の補佐をしてここで働く!宜しくな、E組のみんな!」



置かれたその荷物から覗くのは多くの菓子類。ラ・ヘルメスのエクレアだったり、モンチチのロールケーキだったりと高級菓子ばかり。



「いいんですか、こんな高いの?」

「良いんだよ!たくさん食べて食べて!俺と鷹岡さんの財布を食うつもりで遠慮なく!」

「ったく、お前が言うなよ、林!まぁ、モノで釣ってるなんて思わないでくれよ。お前らとは早く仲良くなりたいんだ!それには…みんなで囲んでメシを食うのが一番だろ!」

「でも…えーと、鷹岡先生と林先生、よくこんな甘い物のブランド知ってますね」

「あぁ、これ殆ど鷹岡さんチョイス!」

「ま、ぶっちゃけラブなんだ、砂糖がよ」

「でかい図体して可愛いな;;」




殺せんせーも高級菓子を目の前にして涎が垂れる。それに気付いた鷹岡は食え食えと言う。



「2人は烏間先生と柴崎先生とどういう関係なんですか?」

「俺は烏間と柴崎とは同僚なんだ!」

「俺は柴崎教官の元生徒だったんだ」

「え!?柴崎先生の元生徒!?」

「あぁ!あの人が教官になって初めての生徒が俺なんだ。会うのは何年振だろうなぁ」

「へぇ…。でも同僚で元生徒なのに烏間先生と柴崎先生と随分違うんすね」

「なんか近所の父ちゃん達みたいですよ」

「はははっ!いいじゃねぇか、父ちゃんで!」



鷹岡は中村と三村の肩を組む。林は杉野と茅野の肩を組む。



「同じ教室にいるからには…俺たちは家族みたいなもんだろ?」






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