life

その日、烏間と柴崎の携帯に一通のメールが届いた。それはイリーナからのもので、「14日の夜空けておいて頂戴」との事だった。



「14日?…何かあったか?」

「さぁ…?」


今月の14日。それをきちんと表せば2月14日の事で、それなのにここまで来ても察せれない2人は殆イベントごとに対してまるで興味が希薄である。



「……イリーナか、」

「…? 何か思うことでもあるのか?」

「んー…」


デスクの椅子に背中を凭れさせ、柴崎は少し遠くを見る。




「……ずっと考えたことなんだけど…」

「……」

「…あー、でもこれって難しい問題だよなぁ…」

「なんだ、随分と煮え切らないな。何を悩んでいる」



話せることなら話してみろと諭してくる烏間。そんな彼に柴崎は一度視線をやり、それもそうだな…と頷いてはきちんと烏間の方を向いた。




「実は、…これからの彼女の生活についてのことなんだ」

「生活?」

「…ほら、烏間ももうよく分かってると思うけど、イリーナって拳銃持ってなきゃぱっと見は普通の20代と何ら変わらないんだよ」

「……」



生徒達と話し、笑い、恋をし、泣き、でもまた前を向いて…。その様は周りにいる20代の子達となんら変わらない。けれど彼女のあの手には拳銃があって、酷くそれは浮き彫りに見えるのだ。




「…この任務が無事終わりを迎えて、それぞれがそれぞれの道へと歩んだ時…。….…彼女はまた、あの世界へ戻ることになる」

「…、」

「でもそれって、似合わないなって…思うんだ…」


こんなこと本人に言えばきっと怒られる。…いや、絶対に…彼女は目くじらを立てて声を上げるだろう。




「…なんだかんだ、あいつの根は悪くないからな」

「ふふ、うん。……きっとね、」

「ん?」

「…きっと、過去が平穏だったなら、イリーナは拳銃なんて握っていなかった」

「………」

「普通に笑って、普通に街を歩いて、年相応な事をして…。…20歳(はたち)が持つ必要のない見栄も、張らなくて良かったんじゃないかなって」



20歳、21歳…。世間では成人をしたとして大人扱いをされる。…けれど本当のところはどうだ。人が見る目はまだまだ子供だな、というもので、決して全てを大人扱いされるわけじゃない。




「…昔の事を今更言ったところでどうにもならない。でもこれからの事は、幾らでも変えられる。…そう思わない?」

「……ふっ。あぁ、そうだな。…殺し屋の道を選ぶ他なかったあいつの過去は、今やもうどう足掻いても消せやしない」

「………」

「…だが消せないからこそ、」


閉ざしていた瞳。それを開け、柴崎の方に向けば、彼はその口角を軽く上げた。



「それに対する考えをお前は持ち合わせている。…違うか?」

「、…っふふ、うん、そう」


思わず零れた柔らかな笑み。それからそっと、目を伏せその目元を和らげる。



「…反対されて、拒否されるか。それとも賛成して、受け入れてくれるか…」

「……」

「…それこそ、イリーナにちゃんと話してみないと分からないけど…」



目線を上げ、するとこちらを見ていた烏間と交わった。彼女に話す前に、彼にもきちんと話しておきたい。自分のこの案を。最善か最善でないか、自分1人では決め兼ねてしまうから。



「聞いてくれる?俺の考え」

「…あぁ、勿論」



いつものように頷いてくれた烏間を見て、柴崎はありがとうと伝えては優しい笑みを浮かべた。



























「あぁ、そっか。今日バレンタインか」

「…そう言えばそうだったな。それでこの高級ディナーか」

「〜っあんた達ねぇッ!世間のイベントごとに対して関心が薄過ぎるわよ!」

「あはは…、ごめんごめん」

「悪いな、興味がないんだ」

「開き直るな!せめてシバサキみたく己の非を認めなさい!」



全く…!と一度上げた腰を再度下ろすのはイリーナだ。綺麗な服に身を纏う彼女は、今この場所にはとても似合っていた。

あれから数日が経ち、約束の14日を迎えた3人。場所は高級料理を扱う専門店であった。




「…でも良かったの?これ高いんじゃ…」

「んふふ。良いのよ、そんなの。気にしなくて良いわ。あ!そうそう、貴方のコースは魚メインにしたのよ!」

「え、そうなんだ。ありがとう、気を遣ってくれて」

「ふふっ。…まぁでも、そうねぇ…」

「「?」」


机に片肘を突き、その指先を唇へ。



「日本のホワイトデーは3倍返しですってね」

「へぇ…」

「(…こいつもこいつで中々に興味がないな)」


柴崎のとてもとても薄い反応を見た烏間は、その認識加減が自分と全く変わらないことに顔を少し逸らして軽く半笑いをした。しかしイリーナはそんなこと気にも留めていないようで、熱い熱い…熱の籠った色気ある視線を柴崎に向けた。





「?」

「ふふ、…ねぇ、シバサキ?」

「なに?」

「お返しが欲しいって言ったら、貴方はくれるのかしら?」

「お返し?…んー、まぁあげられるものならね」

「あら。…じゃあぁ…、お返しの貴方のモノはぁ…、太さも長さも3倍はないと駄目よっ、シバサキ!」



伝えられるその言葉。イリーナの心の中を代弁するのなら「やった!言ったわ私!!偉いわよっ、イリーナ・イェラビッチ!!」である。…しかしまぁ、悲しきことよ。



「??」



言われた本人はまるで意味を理解していなかった。故に何ひとつとして伝わっていない。イリーナ無念。

しかし彼の隣に座る烏間は本意を察したのかガタリと席を立つ。



「帰るぞ、柴崎」

「えっ?;;」

「はっ!?」


そう告げるが早いか、そのまま柴崎の腕を掴めば自分と同じように立たせる。が、どうやら向こう側も彼の腕を掴んでいるようで全く体は前へ進まない。




「待って待って!!食べてってよ!!お返しは標準サイズで良いから!!なんならポッキー並でも…って、シバサキならもう何でもいいわ!!とにかく待って!!」

「お前の頭はなんなんだ!ここに似合わず中身は低俗か!?」

「あの…;;」

「何よ良いじゃない!!てかそうよ!カラスマっ、あんたシバサキを置いて行きなさい!」

「お前が居る中こいつを1人放ってのうのうと帰られるかッ!」

「……その…とりあえず、一旦落ち着かない?」


ね?と間に立つ柴崎は2人を交互に見ては宥めに入る。現状、事の話題は彼なのだが、如何にも内容の半分も理解出来ていない。ので、とりあえず仲裁の役を担うことに。

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