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テストも終わった。大きな山を越えたのだ。


「さて皆さん。晴れて全員E組を抜ける資格を得た訳ですが…。この山から出たい人はまだ居ますか?」


殺せんせーは湯呑みを持ち、そう生徒達に問いかけた。その問いかけに、生徒達は笑う。


「いないに決まってんだろ」

「2本目の刃はちゃんと持てたし、こっからが本番でしょ。この教室は」

「こんな殺しやすい環境は他にないしね」


手にライフル、銃、ナイフを持ちそう答えた。彼らはこのクラスで多くの問題にぶち当たってきた。しかしそれも仲間の力や先生達の力で越えてきた。だからこその今の言葉であった。

彼らの様子に、烏間も柴崎も小さく笑う。


「…成長したな、彼等も」

「本当。良い方向にね」


考えが前向きになれば行動も前向きになった。すると何に対する力も、下から上へとのし上がってきた。もう彼等にエンドのE組なんて肩書きはいらない。胸を張って、自分達はE組だと言える。

殺せんせーは彼等の言葉に湯呑みを持ち、笑いながら向かってくる弾を避ける。



「ヌルフフフ、茨の道を選びますねぇ。では今回の褒美に先生の弱点を教えてあげ…」


ドッ ガシャァァンッ


その大きな音と校舎を揺らすような揺れで生徒も先生も皆大きく体が傾いた。


「っ!」

「…っ、大丈夫か?」

「なんとかね…」


烏間も柴崎も咄嗟に近くの柱に手をやり、傾く体を支えた。


「イリーナ、大丈夫か?」

「怪我してない?」

「へ、平気よ…。…一体何なのよ…!」


生徒も慌てて窓の外から顔を出す。1番窓際に近い片岡が見れば驚きのあまり声を上げた。



「な…っ、何で!?校舎が半分…無いッ!!」


視界の先に見えたのは、校舎が半分ショベルカーによって崩されていた。それは見るも無惨な姿。



「退出の準備をして下さい」


その声の主は


「……理事長!!」


この椚ヶ丘中学校の長、浅野理事長であった。窓の外に立つ彼は、ただ静かにそう言い放った。



「今朝の理事会で決定しました。この旧校舎は今日を以て取り壊します。君達には来年開校する系列学校の新校舎に移ってもらい、卒業まで校舎の性能試験に協力してもらいます」

「し、新校舎ァ!?」


あまりの突然な発言に生徒達は驚きを隠せない。


「監視システムや脱出防止システムなど、刑務所を参考により洗練された新しいE組です。牢獄のような環境で勉強が出来る。私の教育理念の完成系です」

「い、今更移れって…」

「嫌だよ!!この校舎で卒業してぇ!!」





「…なんて男なの…っ。人間じゃないわ…っ」

「そんな環境では逆に子供は恐怖を覚えてしまう…」

「…教育理念というより、自己理念だね。価値観が何かに囚われてるように見える」


「浅野學峯」

柴崎の目には彼の中にある価値観がまるで何かの鎖に繋がれているように見えた。

その鎖が解けないから、今までも、そして今も、彼が口に出す「教育理念」がこの椚ヶ丘中学を、そしてE組を大きく縛っていた。



「どこまでも…自分の教育を貫くつもりですね」

「…ああ、勘違いなさらずに」


理事長は懐から一枚の紙を取り出す。



「私の教育にもう貴方は用済みだ。今ここで私が貴方を殺します」


その紙は、解雇通知だった。



「こ…殺せんせーの解雇通知!?」

「…とうとう…、禁断の伝家の宝刀抜きやがった…っ」


生徒達が騒つく中、殺せんせーは…



「はわわわわわわわわわわ!」


《不当解雇を許すな!》

《浅野學峯は腹を切って地獄の業火で死ぬべきである。だって横暴だもの》

《労働者よ立ち上がれ》


などという立て札とともに大いに震えていた。こういったものは殺せんせーにとても効く。それは勿論生徒達も周知の上のこと。


「そんでこれ面白いほど効くんだよこのタコには!!」

「超生物がデモに訴えるのはどうなの!?」


杉野と渚の言葉はクラス一同の心の声でもあった。



「早合点なさらぬよう。これは標的を操る道具に過ぎない。あくまで私は…殺せんせー。貴方を暗殺に来たのです。私の教育に…不当となったのでね」

「……本気ですか?」


磯貝がそう理事長に聞く。それに続きカルマも口を開く。



「確かに理事長は超人的だけど…、思い付きで殺れるほどうちのタコは甘くないよ」


その言葉に理事長は薄く笑う。そして後ろの工事にストップをかける。中で仕事を済ませてくると言い残して。そして彼は教室へと足を踏み入れた。廊下には生徒達と殺せんせー以外の教師が。




「……さて、殺せんせー。もしも解雇が嫌ならば、もしもこの教室を守りたければ、私とギャンブルをしてもらいます」

「…ギャンブル?」


木村はそうポツリと零す。



「5教科の問題集と5つの手榴弾を用意しました。うち4つは対先生手榴弾。残り一つは対人用…本物の手榴弾です。どれも見た目や匂いでは区別がつかず、ピンを抜いてレバーが起きた瞬間爆発するように作らせました」


理事長は手榴弾を手に持ち、ピンを抜く。そしてそれを5教科の一つ、数学の適当なページに入れた。


「ピンを抜き、問題集の適当なページに…レバーを起こさないよう慎重に挟む。これを開きページ右上の問題を1問解いてください」

「!!?そんなの引いた瞬間レバーが起きて…っ」

「そう。ほぼ確実に爆発を食らう」


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