festival

さぁ、秋といえばなにか。そう、学園祭。生徒達が主となり学園を動かす大きなお祭りが始まる。




「「「「柴崎せんせーい!」」」」

「?」


振り向けば矢田、岡野、三村、木村が柴崎の方へと走ってきていた。


「どうかした?」

「ちょっと来てください!」

「え?」

「先生の博識さが必要なんです!」

「?」


腕を引っ張られ、背中を押されて辿り着いた場所は裏山。




「皆ー!柴崎先生連れて来たよー!」

「おっ!待ってました!」

「殺せんせーだけじゃ聞き手が足りなくって!」

「困ってたんだよね〜」

「…何してるの?」


連れられて来てみれば数名の生徒達が笑って手を振っている。そこから少し視線を下に向けると、何やら地面の上には釣竿やスコップ、鎌、何かが入った袋などが置かれていた。
一体何をするつもりなのだろう。こんな、特に鎌など何に使うと言うのか。芋を掘るにもそんなものは確か裏山に植えてはいなかったはずだが。



「もうすぐ学園祭でしょ?」

「…あぁ、そういえばそうだね」

「で、どうすれば美味しい料理を振る舞えるかってことで殺せんせーの考えで裏山に来てたんです」

「ここには豊富な食材が沢山あるからって!」

「…へぇ」


まぁ確かにこの裏山には意外なものがある。演習中逃げながらも柴崎は観察をしていた。その時に思い掛けない物が生えてあったり、これは食用にも使えそうだと思える物があったりと見た目以上に豊富な山であることを知った。恐らく地形や日当たりなどが良いのだろう。育つには絶好の場だ。



「それで、俺を呼んだのは?その食材の品定め?」

「はい!柴崎先生なら博識だからどれが良くて悪いか分かるかなって」

「殺せんせーも知ってるんですけど、もう1人くらい聞ける人欲しいよなぁってなって」

「なるほどね。…まぁ仕事もひと段落終えてるし、いっか。知ってる範囲でしか教えられないけどそれでもいい?」

「全然構いません!」

「よろしくお願いします!」



そうして始まるレッツ品定め。早速にまずは何処から行けば良い?と柴崎が問うと、だったら僕達私達のところへ!と開始直後から引っ張り凧。これでは埒があかない。そこで始まる大じゃんけん大会。
何度かチョキ、グー、パーの繰り返しが行われ、その間柴崎はというと近くの岩に腰掛けて傍観だ。どこが勝っても彼がすることは同じなので深くは看過していない。

二度、三度、四度。負けた者が去り勝った者だけが残る大じゃんけん大会の行方は如何に。




「ッやったー!勝ったー!先生私勝ったよー!」


接戦の末勝利を勝ち取ったのはプール組代表の倉橋・寺坂ペア。とても良い笑顔とチョキの手で柴崎の方を振り返った倉橋に、岩に腰掛けていた彼は「あ、やっと終わったんだ」とその重い腰をあげる。



「じゃあまずはプール組の倉橋さんと寺坂くんからだね」

「先生、俺たちのところも忘れず来てくださいね…!」

「二番手私たちだから!」

「はいはい。こっちが終わったら木村くんと矢田さんのところへ行くよ」


だからそれまでに何があるか見繕っていてねと。そう声を掛けるや否や早く早く!と腕を引っ張ってくる倉橋の後に彼は続いた。

連れて来られた先はプール側近く。寺坂の手には釣竿があり、倉橋の手には網袋が持たれている。どうやら彼等が聞きたいのはこの淡水といえるプールの中を泳ぐ魚達のようだ。



「先生これは何の魚?」

「んー?」


既に何匹か捕っていたのだろう。予め用意されていた網カゴの中には数匹の魚が収められていた。それらを柴崎は見せられ、どれがどの魚でどのような特徴があるのかを尋ねられる。



「これはヤマメだね。こっちはイワナで、こっちは…オイカワかな。で、これはテナガエビ」

「なんで分かるんですか?」

「ヤマメの特徴は木の葉や小判状の斑紋模様があること。イワナはこの鋭い歯と獰猛な顔つきが特徴の一つ。オイカワは背中の灰青色、体側から腹側の銀白色、体側の淡いピンク色が特徴だね。ハスと間違われやすいけど、口元を見れば区別はつく。テナガエビの成体は全身が緑褐色か灰褐色だけど、若い個体は半透明の体に黒いしま模様があるんだ。スジエビ類に似ててね。若いテナガエビとスジエビは目の後ろにある肝上棘の有無で区別出来るんだ」

「へぇ!凄い!流石先生!」

「どれも淡水魚だね」

「淡水魚?」


寺坂がなんだそれ、と首を傾げる。



「淡水魚っていうのは、文字の通り淡水で生活する魚類の総称。大体淡水魚っていうのは河川や湖沼とかにいるんだよ」


多分ここのプールは適温だったんだろうね。と柴崎は話す。淡水魚にとって冷た過ぎず、温過ぎず。伸び伸び泳ぎ生きるには適した場所。だからこんなにも釣れた。普通の場所では早々こんな肴に見えることは出来ない。

ある程度の、所謂お魚解説を行うと此処でのタイムリミットが来る。惜しむ倉橋にまた今度ねと言葉を残して柴崎は次に待つ二番手の元へと向かった。




「あっ、柴崎先生ー!待ってました!」

「お待たせ。どう?少しは集まった?」



向かった先にはこちらも網カゴに採取した食物を入れて待っていた木村と矢田がいた。 柴崎は二人の側に立つと、彼等の持つ網カゴに目を向ける。するとそこには思っていた以上の大量の木の実があり、彼はよくこれだけ集めたものだと感心したような面持ちを浮かべた。



「先生、俺ら適当にそこらの木の実獲ってきたんですけど…」

「栗や柿や胡桃は分かるんですけど、これとか食べれるかどうか分からなくて…」


これ、と矢田が持ち上げた物。それは…



「あぁ…。山葡萄だね」

「「山葡萄?」」

「そう。食べてみると甘酸っぱいんだ。そうだな…。山葡萄のジュースとか飲んだことない?紫色したの」

「……あ!ある!」

「それだよ」


あれだったのかと矢田は頷いている。彼女が持つ山葡萄を手に取り説明する。





「この山葡萄は食べれる山葡萄。食べれなくて有毒の物もあるんだ」

「え、そんなのあるんですか?」

「あぁ。ヤマゴボウって言って、芯の色が赤ピンクしてるんだ。後、葉の形も違う。ヤマゴボウは葉が大きい。それに加え山葡萄の葉は10〜30cm程の大きさで互生してて、柄元に窪みのある五角形様で裏面に茶褐色の毛が生えてるんだ。これみたいにね」



山葡萄の葉を2人に見せる。矢田と木村はその葉を見て「なるほど…」と呟く。



「秋になれば山葡萄の葉も、ヤマゴボウの葉も綺麗に紅葉するんだよ」

「そうなんですか?」

「うん。今度紅葉した時見てごらん」

「はい!あ、後これなんですけど…。これココナッツですか?」



見せられたのは丸く真ん中に縦に割れているもの。




「これは…、アケビかな」

「アケビ?」

「ココナッツじゃなくて?」

「ココナッツはもっと大きいし、これよりもっと厚い皮だよ。それに日本にはココナッツの実がなる「ココヤシ」が自生してないからね。ヤシ科の植物なら九州、四国南部や沖縄なんかにあるって言うのは聞いたことあるけど」

「そうなんだ…!あ、じゃあこれは食べれますか?」

「食べれるよ」

「何に出来ますかね…」

「アケビねぇ…」



アケビといえば何になるか。しかしこれは下手に手を加えないほうがいい。

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