「パ、パパじゃないの?」
「パパ、や!しーくんがいい!」
「みき、お願いだからそれ透さんの前で言わないでね…」
「?なんで?」
「俺が透さんに殺されるから」
「んー…でも、もう言っちゃったよ?」
その言葉に柴崎は頭に手を当てる。もう既に事は終わっていたのだ。
「…遅かったわね、志貴」
「あー…俺もう透さんに会えない…」
「ちなみにその光景は私も見てたわ。透、すごいショック受けてて、志貴に闘志ガンガン燃やしてた」
「止めろよ、そばに居たなら」
「面白そうだったから」
「悪魔だな、お前」
「しーくん!」
声がした方を向けば生徒達に囲まれたみきが両手を広げてこちらを向いている。
「どうした?」
「だっこ!」
「…葉月の子供だけあって空気読めない子だな」
「流石は私の子でしょ」
「褒めてない」
「だっこー!」
「はいはい、ちょっと待ってね」
水を石の上に置いてみきの方へ近づく。両手を広げるその両脇に手を入れて持ち上げる。よほど嬉しいのかきゃっきゃきゃっきゃと喜んでいる。
「しーくん!」
「んー?」
「おっきくなったら、みきをお嫁さんにしてね!」
「「「「ブッ!!」」」」
今言うか。今言うのか!E組生徒達はみきの発言で笑いのツボに入ってしまった。言った本人はそれはもう嬉しそうな。言われた本人はどう返答するが正しいのか思案中だ。
「あー、んー、そうだなぁ。みきがお父さんのことを俺より好きになったら考えてあげようかな」
みきの父・透を庇いながらの言葉。このままでは透が不憫であり、なんとかしなければならない。なので、今はこれしか思い付かない、最善の言葉は。なのに…
「えー…?」
この反応だ。
「…みきはお父さん嫌い?」
「…嫌いじゃない…」
「なら…」
「けどけっこんするならしーくんがいい」
「……………」
今時の幼い子供は脳が発達してるのかませているのか。この切り返しは予想してなかった。
「しーくんは…みきのこときらい?」
「嫌いじゃないよ」
「じゃあお嫁さんにして!」
振り出しに戻る。みきを降ろして、同じ目線になってやる。手を握り、なるべく優しく。
「あのな、みき」
「?」
「みきのことを世界一愛してるのは、みきのお父さんとお母さんだ」
「うん…」
「世界一大切に思っているのもみきのお父さんとお母さん。これは分かる?」
「うん…」
「みきが今俺のことをお父さんより好きでお嫁さんにして欲しいって言ってるけど、俺よりもっともっと好きな人がみきにはこれからできる」
「しーくんより好きな人…?」
「そう。まだみきは幼いから分からないかもしれないけど、いつかきっと出来る。でも、その時になっても俺が好きならお嫁さんにしてあげるよ」
「本当!?」
「でも絶対出来るよ。俺より好きな人。出来たら、その人のこと大切にしてあげるんだよ。で、みきが大きくなっても変わらず愛してくれるお父さんとお母さんを大切にすること。いい?」
「わかった!」
「いい子だ」
元気よく返したみきの頭を撫でてやる。
「柴崎先生…本当のお父さんみたい」
「な…。マジで本物の父親っぽかった」
「透さんには負けるって。あの人本当にみき溺愛だから」
「あ、志貴!」
「ん?」
「透もうすぐ着くって!」
「仕事終わったんだな。じゃあ俺迎えに…「みーきーー!!!」…行かなくて良さそうだな」
どこからか大きな声がして、どこからかやって来た男性。その男性は柴崎の前に立っているみきに一直線だ。柴崎はと言うと、葉月の隣に行けば後で絡まれそうなので生徒達の後ろへ避難する。
「柴崎先生、良いんですか?あの人と話さなくて」
「あー良い良い。話しかけたら絡まれるのがオチだから」
「いつもどんな風に絡まれるんですか?」
「まぁ…主に、みき関連で…」
「みきちゃん関連で?」
「みきー!!パパが居なくて寂しかっただろ!ごめんなー!」
「大丈夫だよ!」
「みき…っ!…っ、こんなにも立派に成長して…っ!パパは嬉しいよ!」
「あんな感じだから」
「「「「あぁ…」」」」
目の前で広げられる家族愛に生徒も柴崎も引き気味で見ている。
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