breath

「本当にごめんね。1人で大丈夫?」

「心配するな。いつもと変わらない会議だ」

「…、やっぱり断ろうか…」

「行ってやれ。楽しみにされてるんだろ?」

「まぁ、そんなに会わないからな…」

「なら、尚のことだ」

「…ありがとう、烏間」









「いやー、祭りって楽しいな!」

「だなぁ。こう屋台が多いとさ、夏祭りー!って感じ!」

「林檎飴おいしい〜!」

「殺せんせーもこの機を逃さず稼いでるしね〜」

「無駄に分身使ってな」

「それな。本領発揮ってか?」

「お菓子代にどれだけかけてるの、殺せんせー…」

「あれ?」

「ん?倉橋どうした?」

「あそこに女の子が…」


倉橋の指差す方には1人の女の子がいた。泣いているところを見ると、親と離れてしまったんだろう。



「迷子かな?」

「それなら一緒に探してあげましょ!」

「相手は女の子だから、女子が行ったほうが良いんじゃね?」

「んじゃ、こういうのに慣れてそうな片岡、倉橋、矢田!」

「なんの括りよ;;」

「まぁ良いけどさ;;」


片岡、倉橋、矢田はその女の子に近付く。他のみんなはそれを後ろから見ている。



「ねぇ、どうしたの?」

「うぇぇんっ!」

「お父さんとお母さんと離れちゃったのかな?」

「うぅっ、ママぁ〜…っ」

「やっぱり迷子だね」

「うん。ねぇ、お名前なんていうの?教えてくれる?」

「っふっ、み、みき…っ」

「みきちゃんか!私桃花っていうの!よろしくね」

「とーか、お姉ちゃん…」

「ねぇみきちゃん。お姉さん達が一緒にパパとママ探してあげる」

「ほ、ほんと…?」

「ほんと!きっとみきちゃんがパパとママに会いたいように、パパとママもみきちゃんに会いたがってるよ!」

「う、ふぇ…っ、あ、会いたいよぉ!」

「大丈夫大丈夫!見付けてあげるからね!」


矢田と倉橋がその女の子・みきの手を繋いでやりみんなの元へ歩いていく。




「というわけで、お父さんお母さん探しです!」

「やっぱ迷子だったかぁ。よっ!俺は前原陽斗。よろしくな」

「みきです…」

「みきちゃんかぁ。かわいいなー!」


前原はみきの頭を撫でる。


「じゃ、捜索しますか!」

「「「「ラジャー!」」」」






探し始めて30分。



「…見付かんねぇな」

「見付かんないね…」

「もしかして行き違いになってるのかなぁ…」

「かもしれないな…」


うーん、と頭を悩ます生徒達。みきは段々涙目だ。


「ふぇっ」

「大丈夫だよ。もうすぐ見つかるから。ね?」

「そうだよ。俺らがちゃんとみきちゃんをお父さんとお母さんのところに返してあげるから」


神崎と磯貝がみきの前にしゃがんで頭を撫でたり背中をポンポンと叩いている。

その時だった。



「みきー!みきー!」

「!ママ!」

「え!まじか!どこだ?」


生徒達はキョロキョロと辺りを見る。声はどこからする?




「みきー!」

「ママぁー!」

「あっ!みき!」


人混みをかき分けてやってきたのは1人の女性。


「ママぁ〜!!」

「もう!心配したのよ?いきなり手を離すから!…でも良かったわ、無事で。…貴方達がみきのそばに?」


その女性はみきを抱き抱えて生徒達に話しかける。



「あ、はい!」

「泣いていたので迷子かなって」

「そう。ありがとう」


そこにもう1人の声が。


「葉月!みきは?」

「見付かったわ!」

「はぁ、良かった…。全く、着いた途端手を離すんだから。もう離すなよ?」

「ふぇぇー…っ!ごめんなさいぃっ、会いたかったぁ」

「はいはい。俺もごめんね。ちゃんと手掴んであげられてなくて」


現れた1人の男性。その男性は女性・葉月の隣に立ち、彼女が抱くみきを受け取り抱く。泣くみきの頭を撫でている。とても普通の光景だ。微笑ましい。微笑ましいのだが……



「「「「柴崎先生!!?」」」」

「あれ、君達も来てたんだ」



その男性とは柴崎だったのだ。


「志貴、知り合いの子達?」

「まぁね」


普通に話す2人。しかも名前呼びだ。まさか…


「柴崎先生…」

「ん?」

「けっ、結婚してたんですか!?」

「え…」

「子供まで居たんですか!?」

「しかも女の子!!」

「しかもこんな美人な女の人と!!」

「「…………」」


葉月と柴崎は顔を見合わす。そして笑う。


「あははっ!私と志貴が結婚?夫婦?ないない!」

「ははっ、本当に。葉月と結婚とか地球が三角になってもあり得ない」

「ちょっとそれどういう意味よ!」

「深い意味はないけど」


柴崎の腕の中のみきは葉月と柴崎を交互に見る。生徒達も2人を交互に見る。




「…え、じゃ、じゃあ、2人は一体どういった…」

「仲、良さそうだし…」

「名前呼びだし…」

「私と志貴は従兄妹同士なのよ」

「同い歳のね」

「「「「い、従兄妹ぉぉぉ!?」」」」


響く声、笑う葉月・柴崎、驚くみき。



「ふっふぇぇ!」

「あー、はいはい。ごめんな、びっくりしたな」


生徒達の大きな声に驚き泣くみきをあやす柴崎。



「…従兄妹か…」

「通りで美人なんだ…」

「美形に美人…」

「眼の保養だ…」

「しかし慣れてるな、柴崎先生…」

「あやし方がプロってる」



立ち話もなんだしな、と屋台であれこれ買って、近場にみんなで座る。


「あー…」

「あ、また口の周り付けて。志貴、私の鞄からティッシュ取ってくれる?」

「はい」

「ありがとう」

「んむぅ」

「っと、危な…落ちそうだった」

「みきは1個に集中すると他に意識行かないからね」

「それが服をとんでもなく汚す原因だな…」







「…夫婦じゃね?」

「阿吽の呼吸…」

「甲斐甲斐しい…」



食べ物で口の周りを汚すみきの口元を柴崎が渡したティッシュで拭う葉月。吹かれることに意識がいって、持っていた林檎飴を落としかけるのを柴崎がキャッチし、持たせる。もう夫婦である。だがこんなところをあの2人が見たらどうだろうか。1人は無言、1人は大声を上げるだろう。


食べるだけ食べてお腹もいっぱいになり、生徒達とも馴染み始め遊んでもらってるのを見ている大人2人。柴崎は持っていたペットボトルの水を飲む。


「ねぇ、みきちゃん!みきちゃんは将来誰と結婚したい?」

飲みながらお馴染みな質問だな、と見ている。



「んーと、んーと、しーくん!」

「っ、ゴホッ」

「しーくん?」

「誰?」

「ちょっと、大丈夫?」

「ゴホッ…っ…」


噎せる柴崎、しーくんとは誰だと首を傾げる生徒、噎せた柴崎を心配する葉月。



「みきちゃん、しーくんって誰?」

「ん!」

「「「「ん?」」」」


みきの指差す方向には、水で噎せて咳き込んでる柴崎だ。


「しーくんって…」

「柴崎先生の下の名前の志貴で…」

「しーくん…?」

「しーくん!好き!結婚する!」

「「「「……マジか!!!」」」」


いや確かにかっこいいよ?優しいよ?強いよ?優良物件だよ?でもそこは普通は「パパと結婚する!」じゃないの!?



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