cry -Extra edition-

沖縄から帰ってきた一同。船から降り、人数確認。


「全員確認…と」

持っていた確認表に丸をつける。


「柴崎先生、生徒達はみんな居ますね?」

「あぁ、いるよ」


一応人前ということもあり、変装している殺せんせー。隣にいた烏間に丸を付けた紙を見せる。



「では皆さん!お疲れ様でした。沖縄離島リゾート二泊三日の旅。いかがでしたか?この旅で皆さんは一段と大きく成長し、その成長の姿を見ることができた。非常に喜ばしいことです。残りの夏休み、そして来る2学期も!元気に、そして安全に過ごしましょう!」

「「「「はい!」」」」

「では皆さん、帰ったらゆっくりと…「兄貴!!」…にゅや?」


明らかにその声はこちら側へのもの。みんなの視線はそちらへ向く。


「兄貴!!やっと帰ってきたな!」

「…え、…は?…ちょ、待て待て待て…!」


走ってきたのは柴崎の弟、雄貴だ。何故ここに居る。



「何でこんなとこにいるんだ!」

「そんなことどうでもいいから早く帰ってきてくれ!」

「どうでもよく……なんで?」

「もー母さんが泣き止まなくって俺どうしたらいいか分んねぇよ!!なんとかしてくれ!聞けば今日帰ってくるって言うからわざわざ来たんだよ!!」

「……………………」

「母さん泣き止ませんのは兄貴の十八番だろ?頼むよ!あんなにビービー泣かれたらたまんねぇよ!」

「…………はぁ」


肩を下ろして溜息をつく。疲れる。酷く疲れる。もっと言うなら世話が焼ける。



「……烏間」

「こっちは任せとけ」

「…ごめん」

「…まぁ、付き合ってやれ」

「もー、世話焼けるなぁ本当に…」



烏間に断りを入れ、また何かあれば連絡すると話し、生徒達とイリーナと殺せんせーにも一言二言言うと弟を連れて先にその場を後にした。




「大変だなぁ、柴崎先生…」

「早速借り出しだぜ」

「疲労感が目に見えて明らかだわ」












そして、電車を乗り継ぎ実家到着。



「母さん!兄貴連れて来たぞ!」

「…ただいま」


連れてかれるのはリビング。そこにはもう何箱目ですか?と言うほどのティッシュの箱の山。それからゴミはちゃんとゴミ箱に捨てましょう。床に捨てない。誰が片付ける。



「ほら、母さん。兄貴だぞ!いつまで泣いてんだよー。そろそろ泣き止んでくれよー」

「うぅ…っ、ぐすっ…!」

「…雄貴、後は俺がなんとかするから、夕飯の買い出し行ってきてくれる?」

「おー。何すんの?兄貴作んの?」

「母さんこんなんじゃ作れないだろ。んー…じゃあま、これ買ってきて」

「うーい。…え、和食?和食にすんの?」

「文句言うなら食わせないよ」

「…はーい。じゃあ後頼んだな!」

「はいはい」


雄貴が出て行ったのを確認して、リビングのソファーで泣く母親の隣に座る。


「母さん。帰ってきたよ」

「ふっ…、うぅ…っ…志貴…?」

「そう。…花はちゃんと生けた?」


それに一つ小さく頷く。




「折角の贈り物だから、枯れないようにしないとな」

「…う、ん…っ」

「…父さん、よっぽど母さんが好きなんだね。こんな洒落た贈り物するなんて」

「…っなんで」

「ん?」

「…なんで、っ、知ってたの?」

「何を?」

「あの人が…っ、その花、私にくれた、こと…っ」

「あぁ…。昔見舞いに行った時に聞いたんだよ。サルビアとスターチスを母さんに贈ったって。…母さんは花言葉知ってるの?」

「花言葉…?」

「知らない?サルビアは家族愛。スターチスは永久不変に変わらぬ心。父さんらしいでしょ」

「…うぅ〜っ…!」

「(あー、酷くなった)」


立ち上がり、新しいティッシュの箱を2箱ほど持ってきて机に置く。そしてまた隣に座り、背凭れにもたれる。



「あーんま泣いてたら、父さん心配するよ」

「っふぅ…っ」

「確かに帰ってきたら実家に戻って泣いてる間そばに居てあげるとは言ったけど、そろそろ枯れてこない?そんだけ泣くとさ」

「…っ志貴は…」

「ん?」

「…貴方は…っ、私より先に…っ、居なくならないわよね…?」


その言葉に背凭れから背中を離し、背を丸めて泣いている母親を見る。




「…そんな心配してたんだ」

「そんな心配って…!」

「居なくならないよ」

「…っ、」

「死の瀬戸際にいても、きっと父さんに蹴り返されて戻って来るから死ねない。母さん置いて何来てんだって。自分の方が先に逝ったくせにね」


自分より小柄で小さな母親の体を引っ張って抱き締め、背中を叩いてやる。



「大丈夫。心配しなくても母さんが生きてる間には死なないから。安心して」

「……約束よ…っ」

「破ったら針千本飲んであげるよ」

「用意しておくからね…」

「…はいはい」



それからポンポンと叩き続ける。すると、腕の中から小さな寝息が。


「…泣き疲れて寝ちゃったな。毛布あったっけ」


母親をソファーに寝かせ、二階に上がって毛布を探す。簡単に見つかったそれを一階に居る母親に被せてやる。目尻に残る涙の粒を拭ってやり、屈んでいた体を起こす。すると玄関ががちゃりと開いた。



「ただいまー」

「おかえり」

「おー、言われたの買ってきた」

「ご苦労様」

「母さんは?」

「寝た」

「流石兄貴」

「お前も母さん泣き止ませる術くらい身に付けておいた方がいいよ」

「頑張ります」


スーパーの袋を受け取り、キッチンへ。あまり料理はしたくないが、仕方ない。それにこの家の人間はなぜか美味しいと食べるのだから…まぁいいだろう。


「作っとくから母さんのそばに居てあげて」

「はーい」












「じゃあ、俺帰るけど大丈夫?」

「大丈夫。もう泣き止んだし寝たし。起きたら飯食わせる」

「頼んだよ。また何かあったら連絡してきて」

「おう!ありがとな、兄貴」

「家族だからな」


玄関のドアを開け、柴崎は実家を後にした。

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