longing side Maehara-Extra edition-


俺は椚ヶ丘中学3年E組、前原陽斗。普通に受験生…と言いたいところだけども、少し違う。なんと、俺らの担任は月を破壊した超生物。そんな超生物を俺たちに殺して欲しいと言ってきたのは、一生関わりなんてないだろうと思っていた防衛省所属の烏間先生、柴崎先生。2人はとても強くて、なんつうか、人類最強?っていう感じ。強いて言うなら、この2人は変に天然であるというところだ。で、烏間先生と柴崎先生は仲が良くてお昼もよく一緒に食べてるし眠たそうにしている柴崎先生に気付けばよく寝るように促してるのを見る。そして、今日の昼休みも…



「前原なに見てるんだ?」

「お、磯貝。あれあれ」

「あれ?…あ、烏間先生と柴崎先生。何してるんだろう…」

「多分柴崎先生に寝させようとしてるんだと思う」

「寝させようとしてる?」

「さっき小さく欠伸してたからさ」

「なるほどなぁ」


隣に来た磯貝も一緒に窓に肘をついて見る。苦笑いを浮かべながら手を振ってるから、きっと「いいよ」とか言ってんだろうなぁ。でも烏間先生押してんな…。あ、根負けして寝転んだ。やっぱ眠いんじゃん。



「寝たな、柴崎先生」

「最後の最後まで拒否ってたけどな」

「…あ、烏間先生笑ってる…」

「え?…うお、マジだ…」

「柴崎先生にくらいだよな、笑いかけるの」

「あー、だよなぁ。仲良いもんな、あの2人」

「なぁ」



烏間先生が自分の上着を脱いで柴崎先生にかけてる。体を横にして寝ている柴崎先生はこっちに背を向けてて顔は見えないけど、烏間先生の穏やかな顔を見る限り、ちゃんと寝てるんだろうな。そのあと、チャイムが鳴る5分前に柴崎先生を起こした烏間先生。自分に掛かってる上着を見て、烏間先生を見て柴崎先生は笑って返していた。口は、「ありがとう」って動いてたと思う。









「シバサキ!」

「ん?」

「これ…」

「?」



廊下で見かけたのはビッチ先生と柴崎先生。俺が立ち止まるから磯貝、菅谷、千葉も立ち止まる。



「どうした?」

「あれビッチ先生と柴崎先生じゃね?」

「お、本当だ」

「なにしてるんだ?」


柴崎先生に何かを手渡してる。あれは、箱?



「箱だな」

「箱だ」

「なんで箱?」

「さぁ?」





「なにこれ」

「…この間、使ってたペン…インク漏れして壊れたって、言ってたでしょ?」

「あぁ、うん、あれね」

「…だから、はい」

「?」

「〜〜っ、もう!受け取んなさい!!」

「え、」


ビッチ先生は柴崎先生に箱を押し付けると背を向ける。押し付けられた本人は箱を手にビッチ先生を見る。


「…中開けていい?」

「…いいわよ」


カポッと開けるとどうやらそれはペン。うわ、高そう。



「ペン…」

「いい!?私は渡したわよ!!返品は受け取らないから!!」

「え、イリーナ?」

「クーリングオフ制度だってなし!!」



それだけ言うとビッチ先生は走っていった。照れてんの丸わかり。早口になってるし。乙女だねぇ、ビッチ先生も。


「…クーリングオフ制度って…なにそれ」



柴崎先生はペンと箱片手に笑ってた。



「てか、クーリングオフ制度知ってるんだ」


そこは俺も思った。










「攻撃する際は相手を必ず見る事。僅かな腕の動き足の動きを見て対処をする」


体育の時間は普通の体育なんてしない。受け身の取り方とか、ナイフ術とか、射撃術とか、格闘術とか、そんなの。けど、それが嫌だと苦だとかは思わないのはやっぱりこの2人が教えてくれているからなのかもしれない。



「そこはもっと肘を伸ばして…そう」

「射撃率が上がったな。その調子だ」

「腰を回して、遠心力で振り上げてみて」

「その時のナイフの次の手はこうした方がいい」



教え方も上手いし、出来たら褒めてくれる。だから、みんな伸びる。殺せんせーは2人に俺らからの好感度を奪われている!って嘆いてっけど、それはみんな無視。


「はい、じゃあ今日はここまで」

「水分補給はしっかりすること」

「「「「ありがとうございました!」」」」


授業終了と共に鳴る柴崎先生の携帯。画面を見てあからさまに苦そうな顔をする。


「………出ないのか?」

「このまま切れてくれることを望んでるんだけど…」



それでも鳴り続ける携帯。俺含めたクラスみんなが動かない。どうなるんだろう、誰なんだろうとみんな気になる。思うことは一緒ってこと。



「…誰からだ?」

「…楠木」

「くすの…あぁ、楠木な。…あー、まぁ、出てやったらどうだ」


烏間先生は知ってるみたいだけど俺らは初めて聞く名前だ。防衛省の人か?柴崎先生は嫌々といったように携帯を耳に当ててるように見せかけて少し離している。


「…はい、柴崎で…『柴崎さーん!!!楠木です!!』……分かってるし」



電話の向こうから大きな声。俺らにまで聞こえるくらい。烏間先生も少し体を離している。



『柴崎さん!!なんで防衛省に顔出すのに俺には顔出してくんないんすか!!』

「楠木煩いから」

『俺はこんなに柴崎さんに会いたいってのに!!』

「楠木、煩い」

『だから俺来ちゃったんすよー』

「来たって……え?来た?」

「柴崎さーーん!!!来ちゃいましたーー!!!」



声のする方を見ればワイシャツにジーンズ腕に灰色の上着を掛けて走ってくる男の人。チラリと柴崎先生と烏間先生を見ると、前者は唖然、後者は呆然。珍しい顔に烏間先生じゃないけど呆然。



「あ!烏間さん!お久しぶりです!」

「…あ、あぁ、久しぶりだな…」

「烏間さんとは時々会いますよね、防衛省で!でも柴崎さんとは全然会わないんすよ!だから会いに…ってあれ?柴崎さんは?」

「柴崎なら俺の隣に……どこ行った?」


さっきまで烏間先生の隣に居柴崎先生が居ない。あれ、確かにさっきまで居たよな。どこ行ったんだ?キョロキョロする楠木さん。俺もそれに習って周りを見る。



「んー……あ!居た!」


俺らの後ろを見たらそこに居たらしく顔を綻ばせている。てか、いつの間に俺らの後ろに?いつ移動したわけ?え?



「柴崎さーーーん!!」

「…」

「あれ?柴崎さーーん?」

「……」

「柴崎さーーーーーん!!」

「………」

「んー…柴崎さ「煩い!」聞こえてるんじゃないっすか!」

「なんでいるわけ。なんで来てるわけ。なんで私服なわけ」

「今日休暇なんすよ!」

「休んで。休暇なら休んで!」

「いやでも、体がウズウズして…」

「関係ないから」





犬?のように柴崎先生のもとに駆けて行く。それをまぁ鬱陶しそうに見る柴崎先生は珍しい。あんなに露骨なのってなかなか見ないし。


「烏間先生」

「ん?」

「あの二人ってどんな関係なんですか?」



磯貝ナイス。俺もそれ知りたい。




「あー、楠木は柴崎の元部下だ」

「へぇ…、元部下…」

「でも元部下でなんであんなに柴崎先生に懐いてるんですか?」



三村ナイス。それも俺知りたい。




「…あいつは無類の格闘好きで柴崎に会うまで負けなしだったんだが、柴崎と組手をした時に投げ飛ばされてからずっとあぁだ」

「「「「あぁ……」」」」


苦労人だ苦労人だと思ってたけど本当に苦労人だ。見ろよ、みんな哀れんだ目で見てる。



「柴崎さんに投げ飛ばされてから俺もうこの人になら毎日でも投げ飛ばされたいって思って!!あんなに綺麗に投げ飛ばされて、なのに受け身を取り易いよう投げてくれたの初めてで!でも柴崎さんがアメリカ行って、帰ってきてなかなか会えなくて、会ったら柴崎さん逃げるし、この仕事に当たってから何回か防衛省に帰ってきてるのに俺のところには顔出してくれないくせに他のところにさ顔出してて。この間なんて先回りして本部長室前で待機してたのにいつの間にか立ったまま寝てたから気付いたら柴崎さん居ないし!家まで押しかけようかなって思ったら本部長から仕事任されて行けなくて。だから俺を投げ飛ばしてください!!」

「何がだからだ。全然繋がってないわ」

「お願いしますよー!投げてください!!」





「…ドM?」

「ちょっ、中村それ言っちゃダメだって!!」

「思ってても口に出しちゃマズイって!!」

「え、だってあれMじゃん?あんたら思わないわけ?」

「いや、思うけどさ…」

「けど言っちゃダメだって!」




いや、中村正論だ。ありゃドドドMだ。投げてくれって…ドMだ。じりじり柴崎先生に近付いては柴崎先生は後ろに下がってる。なんだろう。笑っちゃいけないのに笑いそう。あ、おいコラ、磯貝、笑うな。気持ちは分かるけど笑うなよ。



「柴崎さん!!」

「マゾヒストか!」

「柴崎さんの格闘技限定で!!」

「もうなんなんだよお前は!」

「楠木です」

「真面目に答えるな。知ってるわ」

「投げてください!!」

「……投げれば帰る?」

「!!投げてくれるんすか!?」

「いやだから、投げたら…「じゃあ行きますよー!」話最後まで聞けよ!」


突進していく楠木さんに柴崎先生は手首を掴んだかと思うとあっという間に投げ飛ばした。飛んだ。結構。わざとかな。パンパンと手を払って疲れた顔して戻ってくる。その様子に烏間先生は苦笑いだ。



「結構投げたな」

「投げ飛ばして欲しいかったらしいから望み通り遠くに投げ飛ばしてやった」



あ、わざとだったんだ。




「〜〜〜〜〜っ!!さいっこうです!!柴崎さん!!!」


体を起こしたかと思ったら満面の笑みで走ってきて烏間先生と話してた柴崎先生の背中にダイブ。え?ダイブ?二度見したら烏間先生も巻き込まれてる。楠木さんの腕が烏間先生まで及んでる。柴崎先生はサンドイッチの具状態だ。



「こんな投げ飛ばし他じゃ味わえないっす!!部下と訓練しててもやっぱりなんか違ってて、やっぱり柴崎さんの小手返しとか背負い投げとかが一番なんですよ!!俺の中では背負い投げが断トツなんですけど、今日の小手返しも最高です!!毎日でもいいから投げ飛ばされてェっす!出来れば背負い投げで!!それから…っいだぁ!!」

「「「「(あ、足踏まれた)」」」」

「楠木くん」

「はいっす!」

「帰ろうか」

「え?いやー、俺まだ背負い投げされて…」

「か え ろ う か ?」

「……はいっす」



絶対零度の笑みってあぁいうこと言うんだろうなぁとか考えたり。



「ごめん、烏間。巻き込んで」

「いや、もう慣れた」

「「「「(え?慣れた?日常茶飯事だったの?)」」」」

「楠木も悪気があったわけじゃないだろうし」

「はぁ、甘いよ烏間。楠木に飴なんて要らないって」

「俺本部長からの鞭は嫌です。けど柴崎さんからの鞭なら幾らで…」

「黙ろうか」

「はい!!」

「「「「(飼いならされた犬…)」」」」


まだ居座ろうとした楠木さんの背中に思いっきり足蹴りした柴崎先生。された楠木さんはそれさえ嬉しそうにしながら帰って行った。





「なんかなぁ…。部下に、恵まれてない…」

「春風はいい奴だって言ってなかったか?」

「春風はね、いい子過ぎて…眩しいんだよね」

「…あぁ、比較するんだな、無意識に」

「投げてくださいなんて言わないから」

「楠木だから仕方ない」

「家まで来られたらどうしよう…」

「その時は俺のところに泊まりに来ればいい。それか電話して来い」

「あー、そうする」



肩にポンと手を置いて沈む柴崎先生を慰める烏間先生。部下関連ではこれで2回目だけど、どの人も柴崎先生を尊敬してて、慕ってる。やっぱりこの人の人柄だったり実力だったりに惹かれんだろうな。俺も、こんな人になりたいって思うし。強くて、カッコ良くて、優しい大人に。弟子入りしようかな…。



「後でコーヒー淹れてやる」

「ブラックでね」

「わかってるさ」




柴崎先生の相棒というか相方は烏間先生なら、俺の相方は…



「ん?」

「やっぱお前だなぁ」

「なにが?」



磯貝が無難。



「なぁ磯貝」

「なに?」

「これからも俺の相方で相棒で居てくれな」

「?? あぁ!」

「目指すは烏間先生と柴崎先生みたいな関係!!」

「ははっ!あの二人みたいになれるかな」

「なるんだよ」

「そっか」

「弟子入りしようか、マジで」

「どっちに?」

「んー…柴崎先生?」

「前原は烏間先生の方が似合ってるけどなぁ」

「じゃあお前が柴崎先生?」

「うん」

「…それもいいか」



憧れの人達は先生で防衛省。優しくて強くてかっこいい。あんな大人になりたい。








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