opinion 2

「………柴崎先生」

「ん?」


天井から目を離し、声を掛けてきた渚を見る。




「…悩むことは、良いことですか?」


真っ直ぐと渚は柴崎を見つめる。




「…良いことだよ」

「……」

「でも悩んで、その結果大切な感情を殺してしまうような答えだけは選んじゃいけない」

「…、」

「…それじゃ、君達もあいつも、幸せにはなれないよ」

「…!」


腰を上げた柴崎を渚は顔を上げ、目で追った。



「君達やここには今居ない他のE組の子達もそうだけど、少し前の俺のようにはなって欲しくないんだ」

「!…柴崎先生…」

「感情を殺して生きていくのは、何よりも辛いことだよ」


そしていつか心が叫び始める。もう止めてくれと。そうなってしまったら、どの感情に従えば良いか分からなくなって、ただそこに立つことしか出来なくなる。前にも後ろにも右にも左にも足は出なくなって、しゃがみ込んで座ってしまう。




「全てを君達に押し付けるつもりはない。でもあいつが望むことをしてやれるのは君達だけなんだ」

「「「「………」」」」

「だから、」


視線を下げ、見つめてくる4人の目を一つずつ見る。



「今は悩んでも構わない。でも君達の中にある大切な感情だけは失わないで」


伝えられるその言葉が杉野の、奥田の、神崎の、そして渚の胸に深く染み込んだ。




「それからこれは補足だけど、俺の任務は現場監督だけじゃないからね」

「へ?」


きょとんとする杉野に小さく笑う。そして少しだけ腰を折る。



「君達のサポートだって任務の一つだよ」

「あ、」

「だからもし考えに詰まったら連絡しておいで。知ってるでしょ?俺の番号」


折った腰を元に戻しながら、柴崎はそう言う。




「知ってます」

「でも、良いんですか?先生も仕事で忙しいんじゃ…」

「これも仕事の一環だから大丈夫。会議中じゃなきゃ出られるから、気にせずいつでも掛けておいで」


いつものあの笑みを浮かべそう言う柴崎に、渚も杉野も奥田も神崎も表情を柔らかくした。




「ありがとうございます、柴崎先生」

「良いよ。大したこと言ってあげられなくてごめんね」

「いえっ、そんなことありません!」

「そうっすよ!」

「先生のおかげで、少し気持ちが落ち着きました」

「そう、なら良かった」


その時ブー…ブー…とバイブの音がする。それは柴崎が手に持つコートから聞こえ、彼はそのポケットに手を入れれば彼等に断りを入れて出る。



「はいはい、何?」

『少し様子を見に行くと言って一体どこまで行ってるんだ』

「あれ、そんな時間経ってたっけ…」


腕時計に目を落とせばなかなかに時間が経っていた。



「あー…結構経ってるね…」

『全く…。こっちはいつお前が帰ってくるのかと三度聞かれた』

「何まだあの人いるの?…そろそろ帰ってくれないかな。用事済んだんじゃなかったっけ?」

『済ませて柴崎の帰りを待ってるんだ。…あれじゃ一目見て一言話すまではてこでも動かないぞ』

「勘弁してくれないかなー…。……まぁ良いや。顔見せてからすぐそっち行くから後少しだけ頼んだよ」

『………お前本当にどこに居るんだ?病院じゃないのか?』

「いや、まぁ病院だけど久々な顔触れに会ってね。少し話をしてたんだよ」


こちらを見てくる生徒達に一つ笑ってそこから視線を外す。




「大切なことだからさ」

『……、…はぁ、なるほど。それなら仕方ない。だが後30分で戻れ。俺にあれを押さえ切れる自信がない』

「了解。じゃあ切るよ。その間の対応よろしく」

『あぁ』


電話を切ればとても申し訳なさそうな声で謝られる。大方自分達が引き止めたからだと責任を感じているのだ。



「俺が君達を引き止めたんだよ。だから謝らなくて良い」

「でも…」

「大丈夫大丈夫。茅野さんの様子見て、少し話したら車飛ばすから平気だよ」

「ええ…っ、じ、事故らないでくださいね」

「ははっ、ありがとう。気を付けるよ。君達も帰り道気を付けて」

「はい」

「じゃあ先生、また」

「またね」


手を振る彼等に軽く振り返し、柴崎はさてとと本来の目的である彼女、茅野の元へと足を向けたのだった。










そして、学校が始まった。



「……」

「……、」


校舎を背に凭れて立つ烏間。そんな彼の隣に立つ柴崎。何気なく隣を見て、気付かれない息を吐く。



「…皺、寄ってるよ」

「……分かってる」

「…今から来る子達にそんな顔を見せるなら校舎に戻ってもらうけど、どうする?」

「……、…ほら」

「ん。直ってる」


つい寄ってしまった眉間に手をやり直した烏間。彼も彼で、色々と思うことがあるのだろう。すると人ではない足音が聞こえ、2人はそちらに意識を向けた。



「おはようございます。烏間先生、柴崎先生」

「…あぁ」

「おはよう」


やって来たのは頃せんせーだ。彼は先に外に出ていた2人の側に歩み寄った。

prevnext




.
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -