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爆発の期限まで、僅か2ヶ月程度。正確には、残り66日。そして爆発のタイムリミットであるその日というのが、奇しくも椚ヶ丘中学校の卒業式である。


年が明け、1月。そしてもう既に6日が経っていた。




「神崎さん、それってどういう…」

「あ、」

「「「?」」」


入院している茅野の見舞いに来ていた渚、杉野、奥田、神崎。4人は面会を終えたのか入院中の彼女の部屋の前で立っていた。意味深発言をした神崎に意味を聞こうと渚は口を開いたが、それよりも先に彼女の目線がその後ろを向いた。それに気付き、他の3人も振り向く。




「…柴崎先生…」


そこには看護師にお礼を言っているのか、軽く一礼をしている柴崎の姿があった。そしてそんな彼が、4人の方に向いた。微かに開かれる目。しかしそれも一瞬の出来事。柴崎は久し振りに見る4人の方へ足を向けた。



「久しぶりだね。彼女のお見舞いかな」

「…はい。あ、…先生もですか?」

「まぁね。年が明けてからは、少し忙しくて。今日やっと時間が出来たから足を運んだんだ」

「…忙しい…」


渚の表情が少しだけ暗くなった。柴崎が忙しいのは「仕事」があるから。そしてその仕事とは、国からの指令である「極秘任務」ことを指す。この冬休み中、彼はそのことも考えていた。国からの工作員であり監視役として来ている烏間と柴崎は、これから一体どうするのか。

表情を暗くし、少し目線を下げた渚を見て柴崎は僅かにその目を細めた。そしてその頭に優しく手を乗せる。



「…ごめんね」

「え…、」


渚は柴崎からのその言葉に顔を上げる。そこにはいつもの優しい、安心する笑みはない。どこか……そう。言うならば申し訳なさそうな、悲しげな顔。何故、どうして…。そんな考えが浮かんだ。




「…随分君達にも、苦しい思いをさせていると思って」

「先生…」

「でも駄目だね」

「え?」


見上げてくる渚。そんな彼の頭を一度優しく撫でて、そこから手を離した。



「…余計に君を困らせたみたいだ」

「ぁ…」


顔に出てしまっていた。謝られて、どうして謝るのかという心の言葉が。




「……先生は、」

「……」

「……柴崎先生は、これからどうするんですか…?」

「あ…っ」

「お、おい、渚…っ」

「渚くん…っ」


言ってから、後ろからの声が聞こえてから、後悔した。こんなこと聞くつもりなかったのに。聞けば優しいこの人がどんな思いをするかなんて、もう分かっているはずなのに。




「すっ、すみません…!あのっ、今のは…っ」

「いいよ」

「っ、」

「…君達が気になって当然だ。だから良いんだよ」


そう言ってから柴崎は少し周りを見て、茅野のいる病室を見て、そして腕時計を見る。



「君達はもう帰るだけ?」

「あ、はい…」

「なら、少しだけ話そうか」


おいで、と4人に声をかけ、コツリと鳴った足音が廊下に響いた。










個々の病室から離れた人気のない長椅子がある場所へ行く。携帯がもし鳴った場合を考え、利用可能のここ選んだ。そこに座れば、遠くからの院内放送が静かに聞こえた。



「……今後の事だけど、」

「「「「…っ、」」」」

「正直な話、未定だよ」

「え、」

「み、未定…?」

「そう。未定」


背凭れに凭れ、一つ息をつく。そんな彼に集まる4つの視線。



「いつ何をするか、どうするかっていうのもね。俺も烏間も、大分大雑把な報告をしただけだから。実際の8割、もしくは9割も話はあちら側に行っていないんじゃないかな」


「あ、え、それって大丈夫なんですか…?」


杉野が心配そうに身を乗り出し聞いてくる。



「最悪首が飛ぶかもね」

「「「「え"っ!?」」」」


思わずギョッとし身を乗り出す。



「く、くく、首が飛ぶって…!!」

「それって不味いじゃないですか…!」

「駄目です先生!それはいけませんっ」

「どうにか出来ないんですか!?」


口々に言われるその言葉に柴崎は小さく笑いを零す。




「ははっ、嘘嘘。今のは流石に冗談だよ」



笑ってそう返す柴崎に4人は一度ポカンとすれば、もー!と怒る。本当に首が飛んでしまうと思ったのだ。


「もう!柴崎先生!」

「本当かと思ったじゃないですか!」

「ごめんね。……でも、今ので少しだけいつもの表情が出てきたね」



目元を緩め言われるその言葉に4人はハッとした。先程までは心に緊張が走っていた。だが話をし始めて僅か数分後、その緊張はいつのまにか分散されつつあったのだ。




「…でもここからは真剣な話だよ。今回の件、全てを漏らせば必ず各国に広がる」

「「「「ッ、」」」」

「そうなったら、きっともう手遅れだ」

「…手遅れ…?」

「そう」

「それってどういう…」


奥田が恐る恐る尋ねる。それに柴崎はゆっくりと口を開いた。




「つまり、」





────恐らく国はもう手段を選ばない






静かに告げられたそれに、そこにいる全員が息を飲んだ。



「…手駒が使えなくなったら新しい手駒を用意する。でも勿体無いから古くなったそれらを都合よく利用して、そしてなんとしてでも目的を達成するだろう。…これが俺と烏間の国に対する見解だよ」



「使えなくなった手駒」

それはE組の生徒達。そんな彼らを国は良いように使おうとしている。そういう風に2人には見えるのだ。

重くなってしまった空気を変えるように柴崎は息を吐く。



「…まぁでも、今後のことに大きく関わりがあるのは多分君達だと俺は思うけどね」

「私達、ですか?」

「そう。…俺や烏間より、あいつと関わりの深い君達の方が、今後の大きな鍵になりそうな気がして」


何にもないただの天井に目をやってそう話す。しかしこれは柴崎の勘だ。1年間見てきた彼らがここで終わりそうにも思えないと彼は考え付いた。ならどうなって行くのかと問われるかもしれないが、それの返答としては「分からない」だ。何せ勘。当たるか外れるかなんて50、50の確率だ。



「だから結論的にはこれからどうするのかと聞かれても、正直なところ正しい答えを言ってあげる事が出来ないんだ」


まるで迷路。壁ばかりが周りにあって、先をこれっぽっちも見せてはくれない。

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