sorrow 4

烏間、柴崎、イリーナが悩むように生徒達も悩む。特に茅野と接点が多かった渚はその頭をフルに動かす。

優れた殺し屋になるために何でも学んできた…。野球部に野球で勝つ方法。少ないお金で贅沢な料理を作る方法。限りなく気配を消して相手に悟られない方法。相手を欺くための方法。超実践的な外国語の会話術。


そこまで考え、一つだけこの場で最も最適且つ最大の殺し技を思い出す。渚はこれをしない手はないと思った。








闘いは、あれから30秒を切ろうとしている。心を触手に侵されながら戦術的且つ正確に心臓を狙ってくる。どれだけ自分を殺すために勉強したか、姉が大切だったか、よく伝わってくる。


殺せんせーは最大の急所、ネクタイの下にある心臓に隙を与えた。茅野は逃さなかった。ただ一直線に、そこに向かって触手を打つ。確かな感覚。


「殺ッ…タ……」


油断が生まれた。それを今度は殺せんせーが逃さない。触手を茅野の体に巻き付け、拘束した。


「!?」

「君のお姉さんに誓ったんです。君達からこの触手(手)を離さないと。そして、その想いを烏間先生と柴崎先生は更に固いものにしてくれたんです」


心臓を抉るように触手を扱う茅野。そんな彼女の前に1人の生徒・渚が立ちはだかった。


「渚……」

「渚くん…」



何をするのか。周りからのその視線を遮断し、ただ目の前の彼女を救う事だけを考えた。そして蛇が獲物を捕らえる様、茅野に口付けた。一同は驚きのあまり目を開く。中村とカルマに至っては素早くスマホを取り出すと写真に収めた。




「…まさかイリーナ、」

「…んふふっ、アレをするなんて思わなかったわ。教えた甲斐があるってものよ」

「……〜っ」


あの手の殺し技は彼女しかいないと柴崎は隣に立つイリーナを見やる。得意げに言うイリーナに烏間は良いのか悪いのか、非常に複雑だとこめかみに軽く手を当てた。


渚からのキス。15HIT目で茅野はダウンした。そんな彼女をゆっくりと地面に寝かせる。



「殺せんせー、これでどうかな」


触手との結合部分である首筋から侵蝕されていた神経が薄れていく。


「満点です渚くん!今なら抜ける!!」


殺せんせーはピンセットを手に取れば触手の根を最速・精密に全てを抜く。教師を全うするならば、大切な生徒の1人である彼女を守るためならばと。そして、首筋に埋まるその触手の神経を残す事なく根から抜き取った。奥田の膝の上で意識を失う茅野。



「……っ、柴崎先生、」

「?」

「…彼女を、見てあげてください。暫くは絶対安静ですが…」

「…分かった」


医療についても独学ではあるがある程度の知識がある柴崎に殺せんせーは茅野を頼んだ。


「柴崎先生…茅野さんは、」

「…あれも言ってたけど、暫く絶対安静は必須だろうね。これだけ体も神経も酷使すれば当然だ」


幼い体では支えきれない多くの痛みと苦しみから離された茅野。心理的なものはまだ分からないが、体を襲う辛さはきっともうないだろう。額に触れれば熱く、発汗している。だからこそ、この真冬の下でもこの薄着なのかもしれない。

その頃渚はというと、大変カルマと中村から弄られていた。




「王子様〜。キスで動きを止めるとはやるじゃないか」

「殺意を一瞬忘れさすには有効かと思って。茅野には後でちゃんと謝るよ」


そう話す渚に近付いたのは、その技を伝授した師・イリーナだ。



「キス10秒で15HIT。まだまだね。この私が強制無差別ディープキスで鍛えたのよ。40HITは狙えたはずね」


その言葉に前原は「ウム…俺なら25は固いぞ」と言い、片岡は恥ずかしさから涙を流しもういやだこの教室と言うも「私も20は行くけどさ」と呟き、2人の後ろでは大層岡島が首を縦に振っていた。



「てことで、どう?シバサキ。私のテク受けてみない?」

「受けない…っ」


まさかこちらに火の粉が飛ぶとは、と柴崎は茅野の様子を見ながら思い答えた。そんな中、苦しげな咳き込む声が聞こえる。そちらに視線をやれば殺せんせーが胸に手を当て吐血していた。




「「「「殺せんせー!?」」」」

「…平気です。ただ流石に心臓の修復には時間が掛かる。先生から聞きたい事があるでしょうが…もう少しだけ待って下さい」

「……先生…」



話すのも辛いのであろうその様子を皆が見る。その時、柴崎はよく知る気配の中に紛れ込む、2つの何かを感じた。そちらに意識を向ける。暗がりの中見えたのは黒く光る、自分が昔軍隊に属していた時良く扱っていたもの。



「避けろっ!」


柴崎の声が殺せんせーに届くのと、彼が寸前で避けたのとほぼコンマ数秒の差。肩辺りの衣服にその弾丸が擦れた。



「瀕死アピールも大概にしろ。まだかわす余裕があるじゃないか。しかし殆貴方の察知能力には舌を巻く。恐れ入るよ」


貴方とは柴崎の事だ。彼の気配察知能力はズバ抜けている。だからこんな些細なものにも意識が向いた。




「それに、全く…使えない娘だ。自分の命と引き換えの復讐劇なら…もう少しいいところまで観れるかと思ったがね」

「シロ……!!」



白装束を見に纏う、見覚えある人物。それはシロだった。その傍に立つ一人の男。ライフルを手に持ち全身は真っ黒だ。





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