きっと止めたいのだろうが止まらない。そんな中での君は悪くないという言葉に受け入れていいのやらどうなのやら、杉野は分からないまま頷く。
「いやー、柴崎先生は本当にギャップを持たれていますねぇ」
「かっこいい面と、優しい面と、しっかりした面と、頼もしい面と、可愛い面?」
「あ、あとツンデレ」
「ギャップ男性か…」
「なんかこう、心擽られるな…」
「柴崎先生だとなんかね…」
「そりゃビッチ先生もハッピーエンド望みたくなるわ」
生温かい目を向けやれる中、柴崎は小さな笑いの余韻を残しながら少し上体の折れていた状態から元に戻す。
「治まったか?」
「…まぁ、なんとか」
「…なら、なんで彼らに背を向けてる」
「だって見たらまた笑いそうで…っ」
「…もう笑ってるぞ」
「思い出して…っははッ」
内容も面白ければ配役も面白い。そしてそれに当てられる他の生徒の声のトーン。静かで暗くて、もう本当に狭間の文才と想像力は凄いと感じた。
「柴崎先生、治りましたか?」
「やっとな。…しかし凄いね、狭間さん。細いしよく出来てる」
やっと生徒達に体を向けられるところまでになり、手に待つ台本をパラパラ…と捲る。
「内容がリアルで凄いシビア」
証拠がちゃんと揃ってるあたりとか、と柴崎はその部分を開いて言う。
「人の頭に残すには爪痕が必要なので」
「あー、なるほどな」
「よく考えてるな…」
「ね。…これ本番するんだっけ」
「はい。生徒達が体育館でしますよ」
「……」
「何か問題あるのか?」
黙った柴崎に隣に立つ烏間が聞く。殺せんせーもにゅや?と首を傾げる。
「…その日は事務仕事に専念するかな」
ポツリと呟かれたそれを耳にした生徒達は大きく反応する。
「「「「ええっ!?」」」」
「先生見に来てくれないんですか!?」
「そんなー!柴崎先生見に来てよ!」
「杉野ですか?杉野が原因ですか?」
「それともアテレコの吉田が原因ですか?」
「なんでだよ!おい!!」
「やることやってるだけだろ!!」
なんでだ!と杉野と吉田は抗議する。確かに彼等が怒るのも分からなくはない。非常に理不尽である。
「…だって今そう本気でやってたわけじゃないだろ?」
「そりゃまだ練習ですから!」
「本番はフルパワーですよっ」
「…耐えれそうにないよね。途中退場しそう」
きっと内容的に本校舎の生徒は静まる。そんな中、一人笑いを堪えるというのも…辛いものがある。またその本校舎の生徒の反応も笑いのタネになりそうで、ある意味怖い。
「烏間先生、柴崎先生連れて来てくださいね」
「…仕方ないな」
「仕方なくないよね。何でそこだけ団結するんだよ。止めようよ」
隣に立つ烏間とその烏間の前に立つ殺せんせー。お前ら普段そんな仲じゃないだろ。何でこんな時に限ってこうなんだ。そんな思いがどうにも頭の中を過る。
「柴崎」
「……なに」
烏間は柴崎の方を向く。それに顔だけ烏間に向け、なんだと聞く。
「お前は生徒が大切か?」
「?…そりゃ、まぁ…」
「その生徒が作ったものだぞ」
「っ、」
「…お前が行かなければ、彼等も報われないな」
「…〜っ、その言い方ずっるいなぁ…」
分かった、行くよ。と言えば生徒達はわぁ!と先程の顔、声とは違い明るいものとなる。
「やったぁ!」
「ありがとうございますっ、烏間先生!」
「構わない」
「こうなったら本番はよりリアルに、表情の一つ一つやBGMにも拘らないとな」
「悲壮な顔とかね。こうなったら杉野、神崎さん、やるよ!」
「喜んで良いのか分かんねぇけど先生来てくれんならやってやるよ!」
「柴崎先生、私頑張りますね」
「…君ら本番に備えて俺を殺しにかかるね」
死因が笑い過ぎによる過呼吸なんて笑えない。これは本番何が何でも得意のポーカーフェイスで乗り切ろうと首筋に手を当て考えるのだった。
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