course 5

それから3日間、柴崎は1人殺せんせーの手綱を握り続け、毎日繰り替えされる変装と奇行を受け続けたのだった。



「(はぁ…、烏間…いつ帰って来るんだろう…。明日、明後日かな…。その前にいつ行ったっけな…。明日だとしたら、あと今日1日あの手綱を握らないといけない…。毎日繰り返される意味の分からん変装と奇行のせいで胃がキリキリして痛い、死にそう……)」



そんな事を考えながら、柴崎は車を降りて学校に着く。出てくるため息を止められない。校舎に近付くと生徒達の声がする。その中に、聞き慣れた、でも久々に聞く声が聞こえた。



「烏間…」


え、今日帰って来たの?と、ぼんやり頭に浮かぶ。










「あ!烏間先生おはようございます!帰って来たんですね」

「あぁ、おはよう。昨日の夜にな」

「おはようございまーす!」

「おはよう」

「いやー、これで柴崎先生も安泰だな」

「だな」

「やっと息つけるね、柴崎先生」

「柴崎がどうかしたのか?」


生徒達の言葉に彼に何かあったのだろうかと不審に思う。その時だった。


「烏間!!」

「っ!?」

「「「「ええええ!?」」」」



柴崎が振り向いた烏間の首に抱き着いた。普段なら絶対しないこの行動に烏間も驚く。そして生徒達も驚く。



「な、お、おい…柴崎、どうした…?」

「俺やっぱりお前がいないと駄目だ…!」

「……は?」

「「「「(なななな何だ…!?何が起きてる…!?しかも朝から!!)」」」」


あまりの事に烏間も動揺する。嬉しいが、公私混同しないこいつに一体何があったのかと。そんなことを思われている柴崎はガバッと顔を上げて烏間の二の腕を握った。



「俺一人じゃあいつの手綱は握りきれない!」

「…あいつ?」

「もう変な変装は毎日するし、行動は奇行な上暴れるし、放っておいたらすぐ何処か行くし!もう…、本当に…、胃が…キリキリして…っ、…痛くて…っ」



段々顔が下がり、喋りも辛そうになっていき、しまいには完全に下を向いた。


「…君達は、何か知ってるのか?」

「あー…ははっ、実はですね…」


前原が代表して話す。それを聞いた烏間は心底自分が出張でこの1週間居なかったことを悔やみ、心底柴崎を可哀想に思ったのだった。


「…ごめんな、烏間」

「いや…」

「烏間がいない間、俺があいつをなんとかしないといけないと思ってたのに…。…日々繰り返されるあれに、もう体が…拒否反応…起こしかけてて…」



顔色が悪くなる柴崎を見て、烏間はその体を慌てて支えた。


「顔色が悪い、ちゃんと食べてるのか?」

「それが、胃が痛くて…なかなか食欲が湧かなくて…」

「…確かに、少し痩せたか?お前はすぐに出るからな…」

「そろそろ命日かなと本気で思った…」

「止めろ」



そこに現れる1人の奇行種。



「はい!皆さんおはようございます!おや、烏間先生帰られていたんですね。おかえりなさい」

「あぁ…、って、なんだその格好は」

「あぁそうでした!柴崎先生見てください!ジャジャン!今度の変装はー、柴崎先生の元生徒!林さんです!」

「「…………」」

「「「「…………………」」」」



クラリ…と、柴崎の体が傾いた。とうとう限界がきた。というより、トドメを刺されたと言った方が正解である。今回のような生理的に合わない対話や行動というものは苦痛でしかない。しかも変装元は林。全く似てないのに自信満々な顔。それにもう耐えられなかった。



「「「「!?柴崎先生ーーッ!!」」」」

「柴崎!」

「……も、無理…」


心的ストレス、心的ダメージ。ついに柴崎ダウンである。


「お前は柴崎を心労で倒れさせたいのか!」

「あぁもう!!殺せんせー!柴崎先生をどうしてくれよう!?」

「いつも言ってるけど似てないよ!どれもこれも!!」

「再現度低クオリティ過ぎ!!」

「柴崎先生ごめんなさいーーーッ!!!」

「「「「だからその格好で近付くな!!」」」」

「脱いで謝ったげて!!」

「てか色々もうやめたげて!!」





「大丈夫か?」

「胃が痛い…」

「後で胃薬飲め。用意してやるから」

「ありがとう…」








「今日1日!殺せんせーは柴崎先生の半径1メートル以内立ち入り禁止!」

「にゅや!?そそそそんな!まだまだ見せたい変装グッツがほらこんなに!」

「「「「見せんでいいわ!」」」」

「あんたのせいでシバサキの顔色めちゃくちゃ悪いじゃない!この子達の言う通り!今日は半径1メートル以内入っちゃダメよ!」

「ええええ!柴崎先生のコーヒーが飲みたいです!」

「我儘言うな!」

「てか、柴崎先生が淹れたの飲めるとか羨ましいんだよ!」

「私達だって飲みたい!」

「殺せんせーだけズルい!」

「え、烏間先生も良く淹れてもらってますよ?」

「「「「烏間先生は別」」」」

「差別!!」

「区別よ」



「ほら、胃薬」

「あー、ありがと」

「はい、水」

「…なんか致せり尽くせりで悪いなぁ…」

「そんなこと気にしなくていい。ほら、早く飲め」

「うん」


烏間が帰ってきたことによって、やっとこさ、柴崎は心休まる日常に戻って来たのだった。




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