「どうでした!柴崎先生!私の烏間先生の演技…「どこが演技だ!下手過ぎてこっちは冷や冷やもんだ!」…ええええ!?いや、ちょっと強めに言ってしまいましたが烏間先生だったでしょう!?」
「あぁ、もう、本当に…胃が痛い…」
このままではいつか穴が開きそうだと本気で心配になってしまったのだった。
「あ、そうでした。今日残っていただいても?」
「…あぁ、10時までってやつ?いいけど…」
「良かったです。車で来てますよね?」
「うん」
「ならより良しです。よろしくお願いします」
そして、夜10時。人の気配が3つ。1つは良く知る、E組生徒のもの。もう1つは今日きたその生徒の母親のもの。そして3つ目は…
「…例の男か」
放っておいていいのか、どうか。そう考えていた時、その男の気配が消えた。暫くして、携帯が鳴る。
「はい」
『あぁ、柴崎先生。校庭に出てきていただいても宜しいですか?』
「分かった」
言われた通り柴崎は校庭に出ると、倒れて縛られている男、気絶している女性、そして渚と殺せんせーがいた。状況を見てこれは厄介ごとを回されたなと思うのだった。
「…あのな、俺は何でも屋じゃないんだけど?」
「いやぁ、すみませんすみません。適任者は柴崎先生かと思いまして」
「ったく。…その女性は潮田くんの母親で間違いないな?」
「はい」
「はい、そうです」
気絶する女性に近寄って容態を見る。完全なる緊張が解けての気絶だ。外傷は何もない。
「気絶だね。暫くしたら目は覚める。そっちの男はどうするんだ」
「この男は後で私がなんとかしましょう。その前に渚くんと渚くんのお母様を自宅へ送ることが優先です」
「…その為の車かどうかの確認だったわけだ。…はいはい、運転しますよ」
「すみません…柴崎先生…」
「いいよ、気にしなくて。さ、潮田くんも立って車に向かうよ」
「はい」
柴崎は渚の母親を抱き上げると自身の車へと歩いた。後部座席へ寝転ばせると、当然柴崎は運転席。渚は助手席となるのだが…
「…なんで乗りたがる?」
「まぁまぁ堅いこと言わず」
「第一、どこに乗るつもり。もう定員オーバーだ」
「あ、その点はご心配なく!渚くんを膝に乗せて乗りますので」
「え!?」
「…、ちゃんと支えてあげてよ?」
「勿論です!」
「柴崎先生まで!?」
「はい、早く乗った乗った」
そして四人を乗せた車は動き出した。住宅街を走り、国道へ。
「…さて渚くん。万が一先生を殺せたとして…、その後やっぱりその才能は殺し屋になるのに使いますか?」
殺せんせーの問いかけに、その膝の上に乗る渚はゆっくりと口を開く。
「……多分、違う。…才能って多分、こうと決まったものじゃなくて、授かり方も色々で…使い方も色々あって…。暗殺に適したような才能でも…今日母さんを守れたように、誰かを助ける為に使いたい」
そう言って、窓の外に目をそっとやる。
「それはやっぱり…殺し屋じゃないよ。ぶっちゃけ危険だしね。親を心配させない進路を探す」
そしてやっといつも通りの渚の表情に戻ったのだった。
「ゆっくり探してください。ご両親との対話の努力も忘れないように」
「…はい!」
元気良く返事をした渚を横目でチラリと見て、柴崎は小さく笑った。
「やっといつもの顔に戻ったね、潮田くん」
「え…!」
「暗い顔してたから。進路相談の紙を配られた時からずっと。心配してたけど、ちゃんと答えを出せたようで安心したよ」
「そうそう。柴崎先生もすんごーく心配してましたよ、渚くんのこと」
「お前が言うと恩着せがましいから止めろ」
「…へへっ、ありがとうございます、柴崎先生!」
「いいえ。元気になったなら何よりだよ」
丁度赤信号の時に渚に笑ってそう言ったのだった。
「しかし遅い上に信号待ちとか自動車は不便ですねぇ、チッ、チッ!」
「なら降りろ!」
「あははっ;;」
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