速水凛香、千葉龍之介。この2人の射撃技術はE組の中でもトップクラス。
「柴崎先生」
「私達に射撃の見本を見せてくれませんか?」
そして、射撃の知識を得ることに貪欲である。
「…確かに許可はしたけども。…なんでお前がいる?」
「だって面白そうじゃないですかぁ」
クネクネと触手を遊ばせる殺せんせー。速水と千葉に頼まれた時には傍にいなかったはずなのに。まぁ、だがここにいるのは速水、千葉、殺せんせーだけではない。
「敏腕狙撃手である柴崎先生の射撃かぁ!」
「間近で見るの初めてだね」
「体育で射撃訓練する時は殆ど見本なんてないからな」
「わくわくしてきた!」
何故かE組生徒がいる。何故か。呼んでないのに。
「烏間先生。柴崎先生の空挺部隊時代の狙撃・射撃成績はご存知ですか?」
「…有名だったからな。大体なら憶えている」
「教えていただいても?」
「狙撃・射撃元に成績は常にトップ。狙撃に関してはどんな距離でも百発百中。射撃に関しては2丁拳銃を扱い、必ず急所を撃ち抜く為任務の際は邀撃側。気配を消すことが上手い為、射撃は出撃より邀撃の方が柴崎には向いている」
「なるほどなるほど。では、一番有名な話などはありますか?」
「…5km先の舞う数枚の紙の真ん中を全て撃ち抜いたというのが、1番有名な話だな」
「なんでそんなに知ってるのかな。そこまでそれ有名な話?」
「当時の空挺団長が言いふらしてたぞ。よく口にするから耳にタコだ」
「…あの人そういうところ子供っぽかったなぁ…」
厳しいくせして自慢したがり。しかも自分のことではなく団のことばかり。そんなんだから総合会議はいつも長引いていたんだ。
「アメリカではどうでした?」
「アメリカ?…そうだな。まぁ、800ヤード先のを撃ち抜いたって言うのは本当だけど、あれはあの時一回きりだしね」
まぐれだったって自分では思ってるけど、と柴崎は言う。
「ではそれがまぐれかまぐれでないかを確かめましょう」
「……はい?」
そして用意されたのは1本のライフル。
「はい、どうぞ」
「はい、どうぞって…。…これってモーゼルのSR93か?」
「流石ですねぇ。その通りです!」
手渡されたそのライフルを見て柴崎はすぐにこれがどのライフルか分かった。
「それって、凄いやつなんですか?」
速水が柴崎の傍に立ってライフルを見ながら聞く。
「凄いって言うよりは、珍しい…かな。ドイツで造られたライフルで、100丁程度しか造られなかったって聞くよ」
「ドイツのマウザー社が造った狙撃用ボトルアクションライフル。非常に高性能でしたが、柴崎先生の言う通り100丁程度しか造られなかったとても珍しいライフルです」
「どうやってこれを?今じゃもうどこにもないと思ってたけど…」
「ヌルフフフ。企業秘密ですよ」
「お前に企業なんてもんがあるんだな」
SR93が今手元にあるのと同等ほどに信じがたい。
「さて。狙撃の獲物はこの校庭にセッティングします。柴崎先生はここから800ヤード、凡そ730m先の場所から狙撃して下さい」
「「「「730m!!?」」」」
「殺せんせー!いくら何でも遠過ぎるよ!」
「730mなんて見えないじゃん!」
「そんなところからどうやって撃つんだよ」
「簡単な事です。ただスコープを見ればいい」
「……はぁ、簡単に言うね。確かにそうだけど」
チラリと手元のライフルを見る。照準器を見れば、長距離狙撃にうってつけのものだった。
「しかも照準器はテレスコピックサイト。長距離狙撃向きの照準器か。これは光像式のもの?」
「はい。焦点を無限遠で投影するので、多少動きがあっても照準が移動しませんからね」
ここまでくると専門的過ぎて生徒達はチンプンカンプンだ。柴崎の隣に立つ烏間も分かるには分かるがここまで詳しくはない。
「へぇ…。…じゃ、速水さんと千葉くんからの頼みだしやりますか」
用意された革手袋をはめる。
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