そして始まったケイドロ。
「ケイドロとかなつかしーよな!こんな広いフィールドで高さも使ってやれるなんてワクワクするわ!」
杉野が楽しそうに話す。
確かにワクワクするだろう。烏間と柴崎の考える訓練は飽きない工夫がされており、凝らしている。そして殺せんせーはそれを利用して生徒達の興味を引く遊びにする。実はあと3人(うち2人はもともとコンビネーションは良いが)、良いコンビネーションをしている気がすると、生徒達は思った。暗殺側と標的じゃなきゃ、気の合う友達になってたかもな…なんて。
「…つってもさぁ。警官役たったの3人だろ?しかも殆どの時間は烏間先生と柴崎先生だけ。幾らあの2人でもこの広い裏山だ。俺らを逮捕出来たとして、2・3人が限度だろ」
岡島の言葉に側にいた千葉が頷く。それに続き速水が口を開く。
「うん。本番はラスト1分」
「殺せんせーが動くまでに…全員残って上手に隠れられるのがベストだね」
そして生徒達は散らばった。
「…さーて。警察役になったわけだけど」
「なんっで、この服装なんだ!」
2人が来ているのは自衛隊が着る服。些か懐かしい。
「やだなぁ!烏間先生、柴崎先生と言えば迷彩服!迷彩服といえば烏間先生、柴崎先生じゃないですか!」
「しかもちゃっかり上下靴まで揃えてるし…」
「…お前盗んだのか?」
「失敬な!盗んでません!買いました!」
「「(わざわざこのためだけに…?)」」
そりゃ財布の中はいつだって氷河期なわけだと、哀れみの目で殺せんせーを見る2人。
「…なにやらお二人とも、とても失礼なことをお考えではありませんか?」
「いいや」
「別に」
そろそろ良いだろうと、2人は構える。殺せんせーは牢屋の中で座っている。呑気に茶を飲んで。
「柴崎」
「OK。じゃ、そっち任せた」
「あぁ」
名前を呼ぶだけで何が言いたいのか分かる2人。主語なんて必要ないのだ。そして2人は別々の方へと姿を消した。
柴崎は走りながら足跡を見つける。
「(まだ新しい…。そんなに遠くには行ってないな)」
木を伝い、なるべく足音も木の葉が擦れる音もさせずに移動する。そして見つけた生徒と1人。その生徒は電話をしている。
「いやいや岡島よ〜。タッチされるまで気付かないとかバトル漫画じゃねぇんだから」
『とにかく気をつけろ!俺は烏間先生だったけど、柴崎先生だっている!もしかしたもうお前の後ろに…』
「…いるかもね、鬼が」
後ろから柴崎よって目を隠された菅谷は大きな悲鳴をあげる。
「ぎゃあああああーーっ!!」
電話の向こうでは岡島が呼びかけているが、菅谷は完全に気を失い、殺られた。
手元の携帯を見て、あと何人残っているか確認する。烏間も何人か牢屋に送っているようだ。そしてまたその場を移動する。着いた先は洞窟に繋がっているであろう池。その洞窟からは密かに人の気配。しかもよく知る気配だ。
柴崎はその池に飛び込み中を泳いでいく。着いた先を水の中から探る。そして見つけた。
「んふふふふ。カラスマとシバサキ2人で追って来るって?好都合だわ。カラスマなら触った手を引きずり込んで押し倒す。そのままこの洞穴の中でニャンニャンしまくって猥褻警官にしてやるわ。シバサキが来たら、もういつだってスタンバイオッケーよ!って言ってその腕の中に飛び込んでニャンニャンするのよ。さー来い。ニャンニャ…!」
洞穴の中にいたイリーナは水面から伸びてきた腕に捕まれ水の中に引きずれこまれる。言ってたのと逆だ。そして水面に顔を出し、振り返ればそこにいたのは水も滴る良い男。
「はい、イリーナ逮捕」
「っ!!」
場違いだが胸が大きくキュン…っと鳴った。いつもと変わらない表情だが唯一違うもの。それは…
「か、か、か…」
「か?」
「か、髪…っ」
「? あぁ、水の中泳いだから濡れたね。まぁ乾くよ。じゃ、俺行くな」
柴崎は水から出ると、首を振って水気を落とし、走っていった。置かれたイリーナの携帯からは律の現場報告がされていた。
「イリーナ先生、柴崎先生のテクによって落ちました〜!」
それを聞いた生徒達は思った。
((((何に!?何に落ちた!?つーかもう既に落ちてんじゃねぇのかよ!!テクってなんだ!!))))
と。
そして牢屋には次々と新しい泥棒が入れられていく。まさに最強トリオ!
暗殺ケイドロ!警察は怪物先生3人組!!スタート時から烏間警官、柴崎警官が追跡を始め、殺警官はラスト1分まで牢屋から動かない!!つまり警察側は…捜査・防犯共に完璧!!
「ヌルフフフ。泥棒どもが悔しそうに見ていますねぇ。本官がここにいては救出もできまいて」
「くっそ〜〜っ、警官のカッコした途端に高圧的になりやがって」
「黙らっしゃい囚人ども!!大人しく刑務作業に没頭したまえ!!」
「刑務作業って…;;」
「ようはドリルで勉強させたいだけだろーが;;」
その間も烏間・柴崎は生徒を捕らえていく。
「寺坂くん、村松くん、狭間さん、吉田くん。逮捕」
「ぅわ!」
「おぁ!?」
「え!?」
「わ!」
頭、肩、背中と叩き逮捕していく。そして残る生徒はどれだけいるか確認する。
「…なんで?」
画面には《脱走》とデカデカと書かれており、逮捕したはずの生徒がいないではないか。思わず携帯に耳を当て今もなお囚人達の警備にあたって当たるであろうものに電話する。
「…どうして捕らえた泥棒が逃げてる?簡潔に述べろ」
『いやぁ…思いの外奴等やり手でねぇ。ヌッひょー!この乳ヤベェ!!』
「お前物で釣られたな!?;;」
なんてだらしのない警備係だ。しかしとにかく生徒を捕まえることを優先にしようとまた走りだす。追った先には逃げる生徒達の姿に自分の横数メートル先から出てきた烏間。
「間も無く7・8人程度そっちに送る。次また欲に負けたら分かってるな!」
『分かってますって!』
電話を切り、近くに来た烏間に目をやる。
「物に釣られたか…あのバカだこは」
「それはもうものの見事に。配置間違えたかもね」
「それは俺も今思った」
そう会話しながらまた1人、また1人と逮捕していく。
prev | next
.