ふれる、いちばんぼし
轟々と燃え盛る暖炉の火。爆ぜる薪の音と調和する子供たちの笑い声。大広間や談話室を飾るこの時期ならではの鮮やかな装飾。大きなクリスマスツリーに色とりどりに輝くオーナメントの数々。妖精の飾りがキラキラと光っていたりろうそくがたくさん提げられていたりして、クリスマスに向かって浮き立つ子供たちを見守っている。
明日の食事はクリスマスのご馳走がたくさん出るのだそうだ。
丸々と太った七面鳥をじっくりローストして、こってりしたグレイビーソースをかけていただくのは言わずもがなで、芽キャベツやポテトなんかも一緒にローストされて外はカリカリ中はホクホクの野菜たちが主役の七面鳥を彩る。ドライフルーツがぎっしり詰まったミンスパイに、甘いクリスマスプディングは中に入っていたもので来年の運勢を占うお楽しみ付き。クラッカーの紐を引いて出てくるのは大きな音だけじゃなく、子供なら誰もが喜ぶようなお菓子屋や玩具、それも全部魔法使い仕様のものが出てくるのだ。
ホグワーツでも皆がクリスマスの雰囲気に浮かれ、年に一度のお祝いの日を心待ちにしていた。寒さ厳しい天候とは裏腹に城の中は暖かく、クリスマスの歓びと安息に満ちていた。
暖かい図書室から廊下に出ると、窓から隙間風が入り込み身を切るような寒さが襲う。それでも大広間の前まで来れば暖気が廊下にまで流れ込み寒さが和らいだ。
クリスマス休暇で多くの生徒が帰宅しているホグワーツ城内は閑散としていた。図書室も談話室も、大広間でさえも人が少なくのんびりとした空気が漂っている。
クリスマスツリーの前で話に花を咲かせるハッフルパフの女学生を横目に広間を通り過ぎ、セブルスは玄関ホールに向かう。ちらりと見えた大広間の高い天井はどんよりとした厚い雲に覆われていて、今日も天気が悪いということが分かった。広い玄関ホールにも大きなツリーが聳え立っていて、赤、黄、青、緑の各寮カラーのオーナメントが均等に飾られており外から帰ってきた生徒を暖かく迎え入れているようだ。頂点には一際輝く一番星が据え置かれている。
遥か高く上の方まで伸びた正面玄関の扉をくぐれば、外はもう真っ白な銀世界である。室内から雪の白さに目が慣れず、セブルスは目を細めた。雪さえもクリスマスに浮かれて輝いているように見えるのだから、クリスマスの魔法は不思議なものである。
セブルスは、クリスマスを知らなかった。
もちろん十二月二十五日がその日であることも、クリスマスツリーを飾り付け、大きな靴下を用意すると朝にはたくさんのプレゼントが置かれていることも、家族みんなが集まって七面鳥やクリスマスケーキを食べることも、クラッカーを鳴らして騒いだりゲームをしたりするのだという文化があることも、知っていた。
けれどそれは貧乏な家で生まれ育ったセブルスにとっては別世界の出来事であった。
たくさんのクリスマスプレゼントが届けられたことなどない。きらきらと輝くクリスマスツリーも大きな靴下もなく、母親がなけなしのへそくりで買ってくれた些末なプレゼントしかもらったことがなかった。七面鳥を丸ごと買う余裕もそれを調理する立派なオーブンもないから、ファーストフード店のフライドチキンが食卓には並んだ。
クリスマスの時期は貧富の差が如実に現れるからこそ、至る所でチャリティーイベントが催される。だが、そういった類のものは父親が酷く嫌ったため参加したことはない。稼ぎが少ないくせに見栄や偏った思想のため子供に不自由を強いるなどどの口が言うかと、今でこそ一笑に付すところであるが、ホグワーツ入学前のセブルスの小さな世界では父親の発言は神の言葉に等しかった。
セブルスはあてどなく城外を歩く。初めて経験するクリスマスに戸惑ってはいたが、他の生徒同様に浮足立つ気持ちは確かにあった。だがそれでも、時折息苦しさを感じてしまうことがある。
母親が魔女だと知り、そして自分も同じように魔法が使える人種だと知った時には、世界が開けた心地がした。狭く汚い灰色の世界から、急にきらきらと輝く道が見えた。同時に、いつも怒ってばかりの父親がいかに愚かで、情けなく、取るに足らないつまらない人間かということを知った。
魔法があれば、なんでも出来る。杖の一振りで、暖炉に火を灯すことも、厳しい雪を避けることも、何だって思いのままだ。ゴミ溜めのようなスピナーズ・エンドを抜け出し、如何様にも羽ばたいていける。
それでも、幼少期の記憶と経験は容易く拭い去れるものではない。
待っている未来が輝かしいものであればあるほど、自らの生まれが変えようのない惨めな現実としてセブルスに重く伸し掛かり、呼吸をままならなくさせる。せっかく魔法使いのエリートが集まるスリザリンに入れたとて息苦しさは消えず、セブルスにはこうして一人で思考する時間が必要だった。
凍った湖から遠ざかるように森の方へ歩いていると雪が降り出してきた。ちらつく程度だったので気にも留めず歩き続けていたが、あっという間に大気を覆いつくすほどの本降りになった。番人に見咎められていらぬ詮索を受けるのを避けたいセブルスは北へ北へと歩いていく。行く当てなど、ない。ただただ息がしやすい場所を求めて彷徨っているだけだ。
城の西側にずっと伸びる禁じられた森に沿って歩き続けていたセブルスは、とうとう足を止める。灰色の空を仰ぎ、降りしきる雪を眺めた。
息が、できない。
城に一歩足を踏み入れれば暖かな暖炉の火があることも、杖の一振りで雪が凌げることも、暗闇に灯る明かりに心躍る瞬間があることも、知っている。知っているはずなのに、どうしようもない窮屈さに窒息してしまいそうだった。
雪はいよいよ激しさを増し、無心に天を仰ぐセブルスの露出した頬を打ち付ける。
どれくらいの時間そうしていたかは自分でも分からないが、刺さる視線をふと感じて地上に目線を戻す。
シリウス・ブラックが、こちらを見ていた。
小さな教室一つ分くらいの距離を空けた場所に立ち、吹きすさぶ雪の中でセブルスのことを見つめている。
いつものように何か言いがかりを付けに来たのか、この雪の中を奴もたまたま散歩の途中なのかは分からない。常であれば杖を抜いてつまらない嫌がらせに備えるべきなのだが、どうにも動くことができなかった。クリスマスの魔法がかかったいつもと違う雰囲気であることや、休暇で他の仲間がいないことなど理由はいくつかあったが、杖を抜く動作が、他人に敵意を向けることが、今はひたすらに億劫だった。
シリウスはまるで初めて人間を目にした魔法動物のように、野生の瞳でセブルスを見つめている。澄んだグレーの瞳は底冷えするような冷たさを伴っていた。その目に射抜かれると、一人輪から外れて彷徨う自分を見咎められているような気になった。
何故わざわざ厳しい寒さの中に身を投じる? 何故降りしきる雪を避けようとしない? 何故誰もが祝福されるクリスマスに反するように陰々滅々としている?
悪いことなどこれっぽっちもしていないのに冷たく鋭いグレーの瞳にセブルスは責められている心地がした。
雪は一つ一つの塊の質量を増し、その激しさにシリウスの姿が霞んでくるが、その黒は雪が積もれば積もるほど、より一層強さを増した。一面真っ白な世界においても塗り潰されない黒。世を射抜くグレーの瞳。あの男が豪雪の中においても真っ直ぐ立っていられるのは、自分の全てを信じ、その価値や能力に一片の疑いも抱いていないからだ。
ああ、ああ。息が出来ない。
シリウス・ブラック、お前は知らないんだ。クリスマスは誰にでも訪れるわけではないことを。クリスマスがやってくるのは、誰かがそれを迎え入れる準備をしているからだ。子への愛情と財力がある家庭にのみ、きらきらと輝くクリスマスはやってくるのだ。丸々と太った七面鳥もクリームたっぷりのクリスマスケーキも立派なクリスマスツリーも色とりどりの装飾もクリスマスの朝に贈られるプレゼントも家族の団らんの時間でさえも、持たない者には訪れない。
息が出来なくて、窮屈だ。
眩暈を起こすほどの吹雪にセブルスは後ずさり、トチノキの太い幹に背中を預ける。トチノキはすっかり葉を落とし、代わりに枝々にはでっぷりと雪を蓄えていた。そして不運にも、絶妙なバランスで積もっていた大きな雪の塊がその均衡を崩し、セブルスの頭上から落下した。
どさどさと雪の重量を諸に喰らって、セブルスは尻餅をつく。
「ふ、」
雪に塗れながらも見たシリウスは、笑っていた。
セブルスの記憶の中のシリウスは嘲笑がよく似合う男ではあるが、そういった他人を見下すような雰囲気のものではなく、思わず漏れ出たといったような笑いだった。
野生の獣の瞳から一転して、目尻に皺を寄せて笑う顔は人間臭く、セブルスは自らの体勢を立て直すこともせず呆けてしまった。
シリウスは目尻を下げながらもセブルスに徐に近づいてきた。ずぼ、ずぼ、と雪に深く足を沈ませながらも上手いこと歩いてくる。
何故近寄って来るのかその意図を掴みきれず、セブルスは半分雪に埋まったままでシリウスの長い脚が雪をかき分けてくるのを馬鹿みたいに眺めていた。
「何やってるんだよ」
とうとうセブルスの目の前まで来て、シリウスが手を伸ばす。
何故。何の為に。この手を掴んで、よいものか。
セブルスの逡巡など露知らず、シリウスはセブルスの腕を掴んで引っ張り上げた。
力強い腕に引き上げられ、容易くセブルスの痩せた体躯は雪から抜け出した。掴まれた腕が熱くて、咄嗟に振り払いそうになったところをシリウスの方から離された。シリウスはスネイプのローブを掴むとばさばさと揺らして雪を落とす。
「雪まみれだぞ」
驕りも怒りも呆れすらもない、不思議な声のトーンでシリウスは言った。セブルスは自分の感情が分からず、ただされるがままになっていた。
「何してんだ、こんな雪の中で」
とうとうシリウスが尋ねた。
関係ないだろう。余計なお世話だ。手を離せ。ありがとう。うるさい。
言うべき言葉が定まらないまま過ぎ去っていく。どれも拾い上げることができずに、結局黙りこくったままになった。
いつもと様子が違うことにシリウスは怪訝な顔をする。セブルスの顔色を覗き込む表情は不審感が見て取れた。
「おい、大丈夫か」
大丈夫か? セブルスはシリウスの言葉を反芻する。どうしてそんな言葉をかけるのか、一等理解できなかった。なぜならシリウスは、いつもは悪友とつるんでセブルスに嫌がらせをしたり悪口を言ってくるような人間だからだ。それが今は、まるで心配をするような言葉と眼差しを向けている。何故だ。
「体が冷え切ってるぞ。中に入った方がいい」
言葉を失くしたかのよう黙りこくるセブルスに返答を期待しなくなったのか、シリウスは指図した。
シリウスは雪深い森の周囲から、比較的道が残る城側へ歩き出す。「ほら」と突っ立ったままのセブルスを振り返った。セブルスのものとは違うさらりと滑らかな黒髪が陶器のように真白い額にはらりとかかる。均一なきめの細かさの真っ白な肌に、寒さのおかげで鼻の頭がやや赤い。その鼻筋は真っ直ぐ通っている。彫刻のように形のよい唇。きりりと上がった眉にお手本のような造形の瞳。縁取る睫毛に積もった雪さえ、シリウス・ブラックを装飾する美術品になる。
吹雪いていた雪は、小降りになっていた。
セブルスは自分の思考とは乖離した体が寒さを訴えたことを自覚し、シリウスの後に続いた。
二人はしばし無言で歩き、銀世界にざくざくと雪をかき分ける音だけが響く。森も城も息を潜め、まるで世界は二人を置き去りにして誰もいなくなってしまったみたいだった。
小降りになった雪は思い出したかのように時折勢いを取り戻し、かと思うとまた小降りになり、時には止んで、また吹雪を波のように繰り返した。
なるほど、これは、気まぐれか。
セブルスは納得した。シリウスがセブルス同様に雪の中城の外を歩き回っているのも、セブルスを引っ張り上げたのも、心配をするような声をかけたのも、いつもの嫌がらせも、全ては気まぐれなのだ。
シリウスにとってはたまたま、今日が思いやりを抱いただけの日なのだ。いつもはたまたま、気に入らない奴が視界に入ったから嫌がらせをするのと、何も変わらない。
シリウスはどう見たって、持っている側の人間だった。生まれた家。血筋。経済力。容姿。人脈。スタート地点から、セブルスとは何もかもがかけ離れていた。無論人間の価値というのは能力で推し量られるべきで見た目で判断するのは愚かなことであるとセブルスは信じていた。それでも、どんな時も自信満々に、背筋を伸ばして真っ直ぐに立つシリウスはセブルスが生まれた時に持ち合わせなかったもの全てを持っていた。
数年前のクリスマスのことをセブルスは俄かに思い出す。母親と街に出かけた時に見上げた大きなクリスマスツリー。キラキラと輝くセブルスとは無関係なショーウインドウ。店から出てくるのは両親に手を引かれた同じ年頃の男の子。仕立ての良い暖かそうな衣服に身を包み、きちんと整えられた髪。よく栄養が行き渡った肌に、人形のような容姿。プレゼントを買ってもらったばかりなのか、頬は紅潮し瞳はショーウインドウの光を反射し輝いている。そんな我が子に天使を見るような眼差しを向ける両親。
セブルスとは別の世界に生きる人間。あの男の子は、シリウスそのものである。
ここでふと、セブルスは気になった。
「……なぜ、家に帰らないんだ」
お前には暖かく迎え入れてくれる立派な家があるだろう。久しぶりの再会を喜べる、血を分けた家族がいるだろう。
ようやく口を開いたセブルスの問いかけに、シリウスはすぐには答えない。歩みを止めることなく雪の中を進みながら、どこかぼんやりとした目をしていた。
「……そうだな、クリスマスだからな」
シリウスの答えは全く意味が分からなかった。
クリスマスだからこそ、帰るものなのだろう。普通は、そういうものなのだろう。
丸々と太った七面鳥もプレゼントの山も大きなクリスマスツリーもその天辺に輝く星も、お前の家には、全てがあるだろう。
セブルスの疑問を余所に、シリウスは思い出したかのように軽く笑った。
「なにが可笑しい」
「いや、家に帰らないって言った時のジェームズ達の顔を思い出してさ――何で当日の朝に言うんだって怒ってたよ」
セブルスが眉間に皺を寄せたのは、ホグワーツで一番嫌いな男の名が出たからだけではなく、それの何が可笑しいか全く分からなかったからだ。
「きっと、あいつらすげえプレゼント送ってくるぜ――明日が楽しみだ」
心底嬉しそうにはにかむ整った横顔を見て、何となくセブルスは感じ取った。きっと、ブラック家には、シリウスの求めるクリスマスはないのだ。心躍るクリスマスは、血を分けた家族のいる場所ではなく、気の合う仲間がいるもホグワーツにやってくるものなのだ。
薄らぼんやりと、シリウスが同じ世界の人間であるとセブルスは感じた。
「……プレゼント、どうやって」
思ったことをそのまま口に出してしまって、セブルスは激しく後悔した。
梟が運んでくるに決まっているだろう。入学して三か月も経つのに、何を寝ぼけたことを言ってしまったのか。シリウスはセブルスが魔法使いからプレゼントをもらったことがないことに気付いてしまったかもしれない。
「クリスマスの梟便は特別だから、ベッド脇に夜のうちにこっそり置いてくれるんだ」
シリウスはセブルスの疑問を深く考えていないのか、素直に答えた。ベッド脇にプレゼントが置かれている様子を、セブルスはちっとも想像できなかった。母親からは、なにか些細なものが贈られてくるかもしれない。でもそれだけだ。小さな包みがぽつんと一つだけ。同室の者が全員帰っていてよかった。惨めな気持ちを味わなくて済むからだ。
入学してから一緒に行動するような同級生もいるけれど、果たして彼らがセブルスにプレゼントを贈ることを考えているかは疑わしい。そもそも、どの程度親しければプレゼントを贈るものなのか、セブルスは知らなかった。
ふと、セブルスの脳裏に赤い髪の快活な幼馴染の姿が過った。
何故だかリリーは、セブルスにプレゼントを贈ってくれるような気がして急に落ち着かない心地になった。
もし贈られてきたならば、それはそれで困ったことになる。セブルスは彼女に何も準備をしていないのだ。幼少期からずっとセブルスの味方で、今も一番大好きな友達に世間知らずで気が利かないと思われるのはとても嫌だった。
「なあ、プレゼント何が一番嬉しい?」
気楽な世間話といった体でシリウスが尋ねた。セブルスはプレゼントの心配事でそれどころではなかったが、どうやらシリウスの方もどこか心は別のところにあるみたいだ。もちろんシリウスが聞きたいのはセブルスの欲しいものではなくて、別の誰かが欲しいものだ。
二人はようやく城の正面玄関に辿り着いたところだった。うわの空で歩いているとあっという間だ。セブルスはいつも誰かの一番になれないことに、この歳で気づき始めていた。
「……星」
真面目に答えるのも馬鹿々々しくて、セブルスはパッと頭に思い浮かんだものを口にした。
「星?」
どこかぼんやりしていたシリウスは不思議そうに振り返った。急に厚い雲間に隙間が出来て、冬の日差しがシリウスを照らした。銀世界にシリウスのグレーの瞳が輝く。背後には、城の玄関ホールに聳え立つ大きなツリーが見えた。
「いちばんぼし」
朧にシリウスの背景になっているツリーを見上げてセブルスは囁く。シリウスはツリーを振り返り、意外そうに目を瞬いた。
「ふうん」
するとシリウスは杖を抜くと徐にツリーに近づき、正面に立つとびゅーん、ひょい、と杖を振った。口にしたのは呪文学の授業で最初に教わる初歩的な呪文だ。
ツリーの天辺に鎮座していた大きな星は細かな粉状の星屑を纏いながら滑るようにシリウスの掌の中に落ちる。流れ星みたいだ、と他人事のようにセブルスは思った。
シリウスはセブルスの所まで戻ってくる。城から一歩外に出たシリウスを、眩い日差しが再び照らした。二人の頭上は明るく、けれど城の向こう側は厚い雲に覆われて暗く、ともすれば雪さえちらついていて不思議な天気だ。
そいうえば、息が、少しだけしやすくなっている。
「ほらよ」
シリウスは悪びれもせずに星を差し出した。
思わず出した両手の上に、ずしりと星が乗った。下から見るよりもずっと大きい。所謂五芒星ではなく、三百六十度全周に亘っていくつも頂点があるような形の星だ。魔法のオーナメントだからか、星の中にはきらきらと輝く銀河があった。光の渦がいくつも揺蕩い、それをじっくり見つめると、実際の銀河系と同じ星の並びになっていることにセブルスは気が付いた。
しばらく食い入るように見つめて、ようやく顔を上げる。
どうだと言わんばかりに満足げにセブルスを見下ろすシリウスのグレーの瞳は、最初に抱いていた冷たい印象ではなく、さながらこの一番星の中の銀河のような煌めきと暖かさがあった。
学校の備品を、それをツリーの飾り付けを勝手に取るなんて、もちろん罰則ものだ。歴とした窃盗だ。
やはりグリフィンドールの不良に付き合っていたらろくな目に合わない。
嫌味と文句とともに突き返すべきなのだが、セブルスはどうしてもそれができなかった。
何故なら、セブルスにとってこの一番星は初めて母親以外から贈られたクリスマスプレゼントだったからだ。
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強く念じよ4.5で無配だったものです。
しっているかの対になるお話として書きました。