しっているか
灰色の空に真っ白な大地。雪靄にけぶるホグワーツ城。全てを吸い込むような薄ぼんやりとした景色の中で、ただ一つの黒を纏ってセブルス・スネイプが立っていた。
あれは、そうだ。シリウスは目を細めてその姿を見つめた。一人きりで、大粒の雪が降りしきる中で空を仰いでいる。雪が珍しいわけじゃあるまいし、雪にはしゃぐような子供でもないだろう。それでも一心に雪を見つめる姿はまるで天に召されるのを待つ病人のようだ。
雪の中の黒一点はどこまでも孤独だとシリウスは感じた。声をかけずに、その場から立ち去るでもなくて、シリウスもただただセブルスを見ていた。
何故暖かい室内に入らないのだろうと思う。何故防水呪文をかけないのだろうと思う。何故これだけの雪に埋もれそうになりながら、天を仰ぐことを止めないのだろうかと思う。
お前は知っているか。一歩城の中に入れば暖かいことを。爆ぜる暖炉の心地よい火を。外が大雪であればあるほど心安らぐ場所があることを。
お前は知っているか。降りしきる雪を防ぐ方法があることを。ほんの杖の一振りで雪の冷たさにも風の厳しさにも耐えられることを。先人たちの偉大な功績が、それを俺たちに許していることを。
お前は知っているか。天を仰ぐほどに足元が覚束なくなることを。今見ている空ももう少しで真っ暗な闇に包まれることを。しかし夜ならば夜で、灯る明りに心が躍る瞬間があることを。
知っているか。お前は、知らないのか。暖炉の心地よい火も、先人たちの功績も、心躍る瞬間も。
雪はいよいよ激しさを増し、セブルスの姿が霞んでくる。シリウスもまた埋もれそうになる息苦しさを感じながら、自分自身に問いかけた。
知っているか。爆ぜる暖炉の火を囲める仲間の笑顔を。先人たちが俺たちにはそれを許した理由を。心躍る瞬間に灯された明りの作る影を。
自分自身の心の在処を。俺は、知っているのか。
シリウスの問いかけは吹雪く氷の粒にかき消され、誰に届くこともない。ただ降りしきる雪と、朧なシリウスの心と、ぼやけた景色の中に一点の消えそうな黒があるのみだった。