また新しい季節を迎えるのだ


 気が付くと、ヒソカはいなかった。強くその手を握っていたはずなのだが、体温の高いごつごつした感触だけが残っている。ウタは床に横たわっていて、節々が少しだけ鈍く痛んでいた。ヒソカは無事だろうか。
 ここはどこだろう、と上体を起こすと奇妙なものと目が合った。
 ウタは驚いて身体を硬直させる。それは女だった。奇妙なその女はロココ調の椅子に腰かけており、中世ヨーロッパの貴婦人が着ているようなドレス姿で、頭にはつばの広いこれまた豪華な帽子を被っていた。そして奇妙なこの女の最も奇妙で不気味なところは、顔面のほとんどが包帯で覆われていて、さらに目には機械式のスコープを装着しているところだ。わずかに見えるのは紅を引いた口元だけである。スコープは中央に緑色のランプが光っていてその奥の目は見えない。なので正確には目が合ったかどうかは不確かなのだが、彼女は確実にウタの方を見ていた。
「あなた……なにかしら。今、どこから現れたの?」
 彼女の声は甲高く、神経を爪で引っ掻き震わせるような響きを伴っていた。ウタは室内に素早く目を走らせ、ここが十畳ほどの部屋で出入口は座る彼女の背後にドア一つだけということを確認する。
「すみません、勝手に上がり込んでしまって……そんなつもりは全くなかったのですが、移動に失敗しまして」
 慌てて立ち上がり謝るウタを女はじっと観察する。その表情は分からないがウタは命を握られている恐怖を感じた。
「移動……念能力かしら」
「あ……そうです」
 彼女は念のことを知っている。ここはやはり箱庭の外なのだ。しかしどういう訳か元いた天空闘技場ではなくて見知らぬ室内にいて、ヒソカの気配も近くに感じられない。ヒソカは一体どこだろう。全く、出てくる場所にこんなにもずれがあるなんて、考えものだ。
「そう」
 女は椅子から立ち上がる。彼女は細身であるため気付かなかったが、立ち上がってみるとかなりの上背があった。豪華でボリューム感のあるドレスも相まって、底知れぬ不気味な威圧感を与えていた。
「侵入者ね」
 ぞっとするような声の響きにウタは身構える。女は手にしていた扇子をウタに向けた。
 しかしちょうど、部屋のドアがノックされる。
「キキョウ様」
 外から呼びかける声に女は振り向く。女はキキョウというらしかった。
「何かしら、どうぞ」
 邪魔をされて少々苛付いた口調でキキョウは答える。
「失礼します」
 ドアが控えめに開き、立っていたのは仕立ての良いスーツに身を包んだ執事風の男だった。事実、執事なのだろう。その男はウタに目を止め一瞬息をのんだ。しかし彼はすぐさま何事もなかったかのような無表情に戻り、徹底された躾の質をウタは窺い見た気がした。
「報告します。つい先ほど掃除係のグルトが奥方様のティーカップを誤って落とし、割ってしまいました。私共の監督不足です。申し訳ありません」
「何ですって?!」
 キキョウは悲鳴に近い大声をあげる。ヒステリックな声の響きとわずかに覗く口元の表情に、ウタは怯えた。
「今は折檻部屋に入れていますが……いかがなさいましょう」
「処分してちょうだい」
 即答するキキョウにウタはぞっとする。処分、とは恐らくつまり、割れたティーカップの方を差すのではなく、割ってしまった使用人の方だ。
「ティーカップは今どこに?」
「ダイニングテーブルの上に」
「見に行くわ。処分の方をよろしく頼むわね。ああそれと」
 既に部屋を出かかっていたキキョウはウタを振り向く。ウタは全身の毛が逆立ち本能的な身の危険を感じた。
「侵入者よ」
 その一言で十分だった。ここがどんな金持ちのどれほどの御屋敷かは分からないが、ここでは侵入者は即殺されることが決まりらしい。執事はすぐに銃をウタに向けた。
「待って!!私が直します!!」
 銃声が響くと同時にウタは必死で叫んだ。銃弾はウタの後ろではなく執事の後ろの壁に当たった。ウタが、能力で銃弾を移動させたのだ。成功してほっとウタは胸を撫でおろす。
 奇妙な銃弾の軌道に、部屋を出て走り出す勢いだったキキョウの動きが止まった。不思議そうにウタと銃弾によって穴の開いた壁を交互に見る。
「貴様、生意気な口を――」
「それ、本当?」
 捲し立てる執事の声を遮ってキキョウが尋ねた。
「はい、直せます。ですので見逃していただけませんか」
 申し出るウタを執事は睨み付ける。銃弾を逸らせる奇妙な技を使ったウタを大層危険視しているようだ。
「分かったわ。付いてきてちょうだい」
「奥方様、では私もお供します」
「いらないわ。処分の方をお願い」
「……かしこまりました」
 殺気のこもった視線をウタに向けたままで、執事は恭しく頭を下げた。

 キキョウの後に付いて屋敷を歩きながらも、ウタの心臓はばくばくしていた。ティーカップが割れたのはいつだろう?執事はつい先ほど、と報告していたから時間はそんなに経っていないはずだ。もし数時間前の話なら今のウタの能力では戻せない可能性がある。それから大きさは?ティーカップというくらいだから大きさ的にはウタの能力の範囲だが、もし複数あったら?大量だったら?
 屋敷の長い廊下を歩く途中、何人かの執事とすれ違う。執事は男も女もいた。みなキキョウが通り過ぎるまで頭を下げていたが、一様に不審な目をウタに向けている。ウタは万が一逃げなければいけない事態になったことを考慮して必死に屋敷内の配置図を覚えようとした。ヒソカは無事だろうか。
 三つの長い廊下を進んだ先に、広いダイニングルームがあった。中央にロココ調の長い机が置かれている。机も、その周りの椅子も脚には繊細な彫り物が施されている。天井には豪華なシャンデリアがあり腰壁は重厚な暗めの木材だ。とにかくお金持ちらしいことが窺えた。
 広いテーブルの端に、砕けたティーカップが置かれているのが見える。
「ああ……酷いわ……つい三十分前にはこれでお茶をしていたばかりなのに……」
 割れたティーカップに駆け寄り嘆くキキョウの悲壮感に満ちた声とは真逆に、ウタの胸には安堵の気持ちが広がった。三十分前にお茶をしていたのなら、割れたのはその後で、まだウタが時間を戻せる範囲内だ。良かった。
 ウタは遠慮がちに進み出る。その目は見えないけれど、ウタを観察するキキョウの視線を痛い程感じた。
「それでは、直しますね」
 ウタは両手でティーカップを包むように掲げる。キキョウが凝で見ているのが気になったが、止めてくれとお願いできる訳もなくどうにか集中して念を練った。やがてティーカップの周囲にはいつものように薄膜を張ったように黄金色の四面体の枠が現れ、みるみるうちに破片が集まり、くっつき、その継ぎ目は次第に薄くなり、そして何事もなかったかのように綺麗なティーカップが机の上に置かれていた。
「この状態で間違いないでしょうか」
「すごいわ!時間を戻したのね!ああ、良かった……!」
 ウタが確認すると、驚愕と喜びに満ちた表情でキキョウは声を上げた。やはり凝を使っていたようだ。しかし凝で見ていたとはいえ、この一回で時間を戻していることに気付くとは、彼女も並の使い手ではないらしい。
「ああ、ありがとう。本当にありがとう……!これは結婚前に、夫からもらった大切なティーカップだったの……」
 泣き出しそうな勢いで感謝を述べるキキョウに、ようやくウタは肩の力が抜けた。とりあえず、命の危険はなくなったみたいだ。
「まあ、それは……お役に立てたようで良かったです」
 ウタは微笑む余裕が出来てお辞儀する。
「申し遅れました。私、ウタ=アヤメノと申します。今ご覧になったように物や人の時間を戻して直すビジネスをしています。戻せる時間や大きさに限りはありますが、また何かあればご連絡ください。今回は私の失礼のお詫びでしたので無償でしたが次回からお値引きして請け負います。今名刺を持ち合わせていないので恐縮ですが……こちらに」
 ウタはちゃっかり自分の宣伝をして、手持ちのメモ用紙にサラサラと電話番号を書いた。物や人を直すビジネスの話は、今は、まだ嘘だ。しかし行く行くは始めるつもりだったのも確かだ。
「まあ、ご丁寧に、どうも」
 キキョウはドレスのスカートを持ち上げて貴族がそうするように膝を少し追って挨拶する。恩人であるウタへの態度は恐いくらいに百八十度変わっていた。
「こちらこそ、自己紹介がまだでしたわね。私はキキョウ=ゾルディック。お仕事は家族で暗殺業をしていますの。ウタさんは恩人ですから、もし暗殺したい人がいれば私どももうんとお値引きしますわ」
 優雅な物腰と裏腹な物騒な台詞に内心引きつると同時に、ウタは驚いた。
「ゾルディック……まさか、あのゾルディック家だったのですか」
 ウタの言葉にキキョウは首を傾げる。
「ええそうよ。あなた、知っていてこの家に来たのではないのね」
「すみません、本当に間違ってここに来てしまったものですから……ということは、ええと、イルミさん、とキルア君のお母様ということかしら」
 ウタの素朴な疑問というような愛らしい表情にキキョウがパッと嬉しそうに頬を紅潮させた。
「まあ、息子たちを知っているの」
「はい、少しお話した程度ですが。ハンター試験でお会いしました」
「じゃああなたもハンターなのね。納得だわ」
「いえ私はただ見学していただけでハンターという訳ではないのです」
 否定するウタをキキョウは不思議そうに見つめる。
「そうなの、見学なんてあるのね」
 しかしさほど興味があるわけではなさそうだ。それよりも彼女が興味を惹かれるのは息子たち――とりわけ、キルアのことらしい。
「ねえ、あの子は――キルは、どんな様子だったかしら。そうだわ、ティーカップのお礼に今日はお夕食を召し上がっていって。泊っていったらいいわね。たくさんお話聞きたいわ」
 急にあれやこれやと決めるキキョウに気圧されながらも、ウタは頷いた。色々な情報がもらえるかもしれない。
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えせていただきます。いま彼らは家に……?」
 微笑むウタに、キキョウも満足そうだが、すぐに残念そうな顔を見せた。
「居ないのよ。イルは仕事で、キルも帰って来たけれどすぐに出ていってしまって……夫は好きにさせろと言うけれど……まあ仕方ないわ」
 キルアが今天空闘技場にいて家にいないことは承知の上だったが、イルミも不在というこを知りウタは一安心した。イルミも、どちらかと言えばかなりの危険人物で、キキョウに客として認められたとはいえ得体の知れないこの屋敷の中で再会することは避けたかったからだ。
「それとそうね、あなたにお夕食用のドレスを用意するわね。可愛らしい顔立ちをしているからきっと似合うわ。後ほど執事に持っていかせるから、それまで客間で休んでいらして」
「まあ、恐れ入ります……。あ、そうだわ電話をお借りしてもよろしいですか」
「もちろんよ」
 キキョウが執事を呼び、外に控えていたのかすぐに執事はやって来た。大切なお客様として丁重にもてなすこと。今夜泊り夕食を一緒にとるので準備すること。客室に案内すること。電話をお貸しすること。ドレスを用意するので服飾係にキキョウの所に来るように伝えること。それらを彼女は早口で告げた。
「それじゃあまた後でね。ああそうだわ、ウタさんあなた毒は飲めるかしら」
「……ど、毒ですか。一般人の体ですので飲んだら死ぬかと思います」
 さすがのウタも思いがけない言葉にびっくりして、当たり前のことを言ってしまった。全く、この家は全てが規格外すぎる。
「そう……残念ね」

 執事に通された客間はウタが最初に現れた部屋と違い二階にあり、窓があるので幾分気も楽になった。客間は広いがやはり全てが中世ヨーロッパ風の家具調度で、それがどこか陰鬱な印象を与えた。窓から外を覗けば広大な森が広がっている。ゾルディック家はククルーマウンテンという山一つを丸々所有しそこに住居を構えているとそういえば何かの本で読んだのをウタは思い出していた。表向きは歓迎されているがこの上なく警戒されている客を外に面した窓のある部屋に通すなど無防備な気もしたが、なるほど、ここが私有地の山の中であるなら逃げ場はないのだろう。
 ウタは部屋に備え付けの電話の受話器を取った。空で覚えている番号を回し、数回のコールの後に相手は電話に出る。
「もしもし」
「もしもしヒソカ?私」
「――ウタ、無事なのかい」
 ヒソカはウタと分かるや否や声のトーンを上げた。それがどこかくすぐったくて、嬉しかった。
「無事よ。ヒソカは?」
「おかげさまで、僕もピンピンしているよ。天空闘技場の真下に出たんだけどウタがいないからどこに行ったのかと思ったよ――ああ、オルゴールもすぐ近くに落ちていたから回収したよ」
「ああ良かった、ありがとう。オルゴールのことが気がかりだったの。箱庭を失う訳にはいかないからね」
「それで、ウタは今どこに?」
「なんだか私は出てくる場所がだいぶすれちゃったみたい。今ゾルディック家の敷地内にいるの。つまりそう――イルミとキルアの実家ね」
 しばしの沈黙が流れた。ヒソカの虚を衝かれた表情を想像してウタは可笑しくなった。なんでまたそんなところに、だとか、同じ大陸なだけまだましか、とか、ゾルディック家ということはこの電話も盗聴されているだろうから言葉は選ばないといけない、だとか。刹那の速さで考えを巡らせていることだろう。
「えーと、大丈夫なの」
「うん、とりあえずは大丈夫そう」
 長考の後のヒソカの問いにウタはさらりと答える。
「夕飯にお呼ばれされちゃったから今日は帰れないけれど……明日か明後日には戻るわ」
 しかしそれを聞いたヒソカの声音は一転して明るくなり、ウタは面食らった。
「そう。じゃあ僕が行かなくてもいいね」
「うん。まあそうだけど……どうかしたの?」
「いやあ、実は明日ゴンの試合があるみたいなんだ。ギドとの再戦。念もある程度使えるようになっているだろうけど、どう工夫して勝つのかが見物ってところかな――」
 弾むようなヒソカの説明に、ウタは成程と納得し苦笑した。お気に入りの“青い果実”の試合なのだ。生で観戦したくて仕方ないのだろう。
「……あら、私の心配よりもゴンの試合の方が重要なのね」
「えっ、だってウタだってそうでしょ?ゴンの試合だよ?経験の差をどう埋めるのか気になるよね。それにそっちは大丈夫なんでしょ」
「あはは、ごめんごめん。大丈夫よ。こっちは大丈夫だから、好きなだけゴンを観察してきたらいいわ」
 ケラケラとウタが笑って、電話の向こうで少しだけヒソカが拗ねる気配がした。
「……本当にいい性格してるね、君。せいぜい殺し屋一家にミンチにされないようにね」
「うん、気を付けるわ。ヒソカも、あんまりゴンをいじめないでね」
「善処するよ。それじゃあ、また天空闘技場でね」
「はあい、またね」
 電話を切り、ウタの気分もだいぶ明るくなっていた。とりあえずヒソカが無事で、こちらの無事も知らせられたのだから当面の心配事はない。あとはヒソカの言う通り暗殺一家に処分せれないように細心の注意を払う必要があるのだが、それもどうにでもなる気がしていた。

 夕飯前に屋敷を案内します、と執事の一人がウタの部屋を訪ねてきた。執事と言っても年若い女子で、ウタよりも年下に見える。長い黒髪を背中に垂らした少女の執事は、しかし愛想というものはおおよそなく、年齢にそぐわぬ険しい顔付きをしていた。
「キキョウ様より屋敷内を案内するように、と仰せつかりました」
 少女はアマネと名乗った。
 彼女に連れられ、ウタは屋敷内の主要な場所を見て回る。屋敷は広大で、屋敷というよりむしろ城に近い。広間、食堂、サロン、武器庫に医務室、拷問部屋なんてものまであった。ここまであけすけに突然現れた客人に見せて大丈夫なものなのだろうかとウタが心配するくらいだ。
 アマネはプライドが高そうではあるものの、決してウタに敵意を向けているわけではないとすぐに分かった。彼女のにこりともしない表情は仕事に対する真面目さ故で、もちろん不審な客人が少しでも変な気を起こそうものならすぐにでも始末する気概は感じられるがそれはこの家の執事の性質故で、ウタ個人を目の敵にしているわけではなさそうだ。
 中庭に通されたところでウタはふと視線を感じて振り向く。
 一番高い部屋から繋がる渡り廊下の窓からこちらを見下ろす人影があった。向こうもまた、少女であった。この世界では珍しい着物を身に纏い、真っ黒なおかっぱ頭の少女だ。距離は遠いがウタを見据える瞳には確かな敵意と冷酷さがあった。
「あちらの方は?」
「え?――ああ、」
 中庭に植えられている種々様々の美しく禍々しい毒草について説明していたアマネも振り向いた。
「あちらの方は、末子のカルト様です」
 アマネはカルトに向かって恭しく頭を下げた。ウタも会釈する。カルトは目を細めて二人を見つめ、渡り廊下の向こうにすっと消えた。
 見かけたゾルディック家の者はカルトだけではなかった。案内も粗方終えて客室に戻る道すがら、次男のミルキに遭遇した。ある部屋の中――アマネ曰くサーバールームとのことだ――から何やら喧騒が聞こえる、と思えばその部屋の扉が開いて巨体の男が現れた。彼が次男のミルキ様です、とアマネが耳打ちしてくれた。ミルキは縦にも横にも大きく、暗殺家業を生業とする家の者としては似つかわしくない肥満体である。でっぷりとした脂肪の付いた顔に乗った艶やかな黒髪はキキョウとイルミ、それから末子のカルトと同じものだ。目は肉に埋もれて細く、真っ白な肌を見るにどれだけ日に当たっていないか想像に容易い。
「サーバールームは空調管理が何より大事だって言っただろ!次にサーバーがダウンしたらただじゃおかないぞ!」
 サーバールーム内で項垂れる男の執事に向かって吐き捨てるように言い、ミルキは荒々しくドアを閉めた。
「うわ!」
 廊下に控えていたウタとアマネに気付き、ミルキは飛び退いた。
「なんだこいつ……誰だ?!」
 鼻息荒くミルキはアマネに問いただす。ウタにとっては適温の室内だが、ミルキ汗を
滝のように流していた。でっぷりついた脂肪のせいか、呼吸もしづらそうだ。
「こちらはウタ=アヤメノ様です。キキョウ様のお客様にございます」
 アマネが端的に説明するとさっと警戒の色を濃くした目でミルキはウタを睨んだ。
「客……?この家に?」
 薄々感じてはいたが、この家を訪れる客人というには大変に珍しいものらしい。
「初めまして。ウタと申します。どうぞお見知り置きください」
 ウタが聖女の顔でニッコリ微笑めば、ミルキはあからさまに狼狽えた。
「ふん――怪しい、女――いいか――近づけるなよ――俺の、部屋に――女を」
 荒い呼吸の合間にミルキはアマネに言い捨て、どかどかとその場を後にした。
 ウタが部屋に戻ると、既にドレスが用意されていた。
 濃紺のカクテルドレスで、胸元と袖口には繊細なレース刺繍が施されている。ウタの趣味から言えばかなりくどい方ではあるが、キキョウの着ていたようないかにもなゴシックドレスではなくて少なからずとも安心した。驚くべきことには、そのドレスのサイズがウタにぴったりで、この屋敷の服飾担当の腕の高さが見て取れた。服飾担当に限らず、一流の者ばかりが仕えているのだろう。

 アマネが再びウタの部屋を訪ねてきたのは日没五分前だ。
 ウタの方もすっかり準備はできていて、誂えてもらった濃紺のカクテルドレスに同じ色のレースが繊細な手袋を身に付けている。髪はドレスに相応しいよう編み込んで結い上げた。お化粧もきちんと施した顔は、少し仮眠を取れたおかげで血色も良い。
「まあー……!やっぱり似合うわね!とっても愛らしい――ヘアメイクはご自分で?素敵だわ」
 サロンの入口で待っていたキキョウはウタの姿を認めるなり感嘆の息を漏らした。キキョウ自身も昼とはまた別のドレスに着替えている。ウタに合わせたのか、黒地で総レースの豪華なものだ。
「さあさ、入ってくださいな」
 サロン内には既に三人の人物がいた。一人は入口扉のすぐ脇に立っている着物の少女――末子のカルトだ。無表情だがその真っ黒な瞳には値踏みするような色が見て取れて、先程遠目に感じた敵意は気のせいではなかったとウタは思った。そして広い長机には次男のミルキと、だいぶ高齢で小柄な年老いた男が着席していた。
「家族を紹介しますわ。左奥から義祖父マハ、右に行って次男のミルキ、五男のカルトですわ。あと義父と義母がいるのですけれど今夜は遠慮しておくということですわ」
 ウタは嫌味じゃない程度に全員に微笑みかけた。内心はカルトが男子であることに少なからずとも驚いていた。
「初めまして。ウタ=アヤメノと申します。以後お見知りおきを」
 ふん、とミルキが鼻を鳴らし、カルトはにこりともしない。マハに至っては置物のように動かず本当に生きているかさえも怪しいもので、好意的なのはキキョウだけのようだった。
「主人は先ほど仕事から戻ったところで、先に始めていてくれとのことですわ。食事にしましょう」
 綺麗に紅を塗った唇で弧を描き、キキョウは執事に合図をする。
 食前酒から始まり、高級レストラン顔負けの前菜が数種運ばれてきた。見た目の美しさもさることながら、その味も確かなものでさすがゾルディック家というところだ。
 喋っているのはほぼキキョウとウタのみで、その話題は三男キルアのことが大部分であった。マハとカルトは黙々と食事を続け、ミルキは皆の三倍の量に盛られた料理を、五倍の速さで平らげていく。時折キルアに対して嫌味を吐く以外は基本的に彼もウタに無関心であった。
 メイン料理が運ばれてくる頃、当主であるシルバが姿を現す。長い銀髪を背中に垂らした彼は上背があり非常に体格の良い男で、筋肉粒々の腕の太さはウタの腰くらいありそうだった。
「すまない、遅れたな」
 詫びる彼の口調は穏やかであるが、眼光は鋭く、自然と緊張感を伴って背筋が伸びた。戦闘に関しては素人のウタでもかなりの実力者であることが分かる。
「お仕事ですもの、仕方ないわ」
 シルバの分のワインを執事に命じ、キキョウが微笑んだ。
「こちらウタさん。先ほどもお話しましたけれど私の大事なティーカップを直してくださったの」
 シルバの視線がこちらを捉え、ウタはドキリとした。自分の命を握られている何とも形容詞し難い感覚だった。
「ああ君が――ありがとう、私からも礼を言うよ」
 やはりその口調の穏やかさとは裏腹に、眼光は鋭い。色素の薄い瞳がよりそう感じさせているのかもしれない。獣の眼だ、とウタは思った。
「いいえ私の手違いで無断で私有地に入ってしまいまして――こちらこそ失礼いたしました。今後も何かあれば、出来る限りお力になりますわ」
 キルアは父親似である。だからこそ、特別に母親から溺愛されているのかもしれないなとウタは考えた。もちろん跡取りとなりうる才能が抜きん出ていることもあるだろうが。
「我々も、君からの暗殺の依頼があれば優先しよう」
「ありがとうございます。依頼の窓口は一つでしょうか」
 ウタの質問に真意を探るようにシルバがじっと顔を見つめてきた。カルトが黙々と食事を続けながらも不快そうに眉を顰めている。
「そうだな。成人している家族は個人で仕事を取ることもあるが、基本的には依頼用ホームコードに電話してもらい、そこから適材適所にこちらで人員を割り振るようになっている――これは私専用のホームコードだ。一応渡しておくが、半年先まで予約が入っているから急ぎの要件であれば代表コードに連絡してもらった方が無難だろう」
 シルバは名刺をウタに渡した。
「こちらは私の。毒殺が得意ですの」
 ほほほ、と笑いキキョウも名刺を差し出す。
「すげえ、親父とお袋の個人名刺か。普通なら一見さんお断りだぜ」
 口いっぱいに肉を頬張りながらミルキが嫌味っぽく言った。
「光栄です。ミルキさんはまだ成人されていないのですか」
 ウタの問いかけにミルキは特大のゲップで返した。
「げふっ……まだだね。最も俺は親父や兄貴みたいに武闘派じゃないから情報収集とメカによる殺人が主になる。ターゲットについてあらぬ噂をネット上で流して評判を地に堕とす、なんてのも得意だ。まあ成人していたらといって誰の仕事でも受けるわけじゃないが」
 ミルキは細い目をさらに細めて、意地の悪い顔でにやつく。
「ははあ、なるほど」
 ミルキが一番使えそうだ、とウタはにこにこした。

 翌日、ウタはさっそくミルキを訪ねた。
 ウタの御世話役の執事にはメカニックな話を聞きたいから、と適当な口実を述べて部屋まで案内してもらったが、執事には「ミルキ様が応じてくれるとは限りませんよ」念押しされる。ミルキはゾルディック家の中でも珍しい、筋金入りの引きこもりらしい。昨晩の晩餐会に顔を出したことが奇跡に近いのだ。
 まず執事がノックする。気怠い返事が聞こえた。執事がウタが尋ねてきた旨を伝える。しばらくの沈黙の後、意外にも素直にドアは開けられた。
 ミルキは昨日と同じような伸びに伸びたTシャツを着て、荒い呼吸で出てきた。部屋の中は空調のよく効いたこの屋敷の中でもさらに涼しく、甘いジュースと脂っぽいスナックが混ざったような匂いがした。ミルキは舌から上まで意地汚い目でウタを眺めまわす。
 今日のウタはというと、昨日とは打って変わり“箱庭”の中から飛んできた時のシャツにジーパンというカジュアルな服(ゾルディック家のクリーニング班により新品以上のふかふかになっていた)を着て、髪は低い位置でおさげにしていた。
「おはようございます。昨日はどうもありがとうございました。機械についてお話を伺えたらと思ったのですが」
 ウタの挨拶に、ミルキから帰ってきたのは挨拶ではなかった。
「ぷりパラ二期のゆったんに似てなくもないな……」
 ぷりぱらにきのゆったん。それが何なのかウタは瞬時に記憶を辿る。ぷりパラとはこの世界のある地域で放映されている「ぷりんせす・パラダイス」というアニメだ。ゆったんはそのセカンドシーズンに出てくるおさげ髪で所謂ツンデレが売りの優等生キャラだ。俗的な文化も一通り目を通して学んでおいてよかったと、ウタは心の底から思った。
「……ゆったんて、主人公の親友あーちゃんのお姉ちゃんの?」
 ウタが悪戯っぽく笑うと、途端にミルキの顔が輝く。
「知ってるのか。見かけによらず話が分かりそうなやつだな。まあぷりパラはパンピーの間でも人気が出てるし二期は一番グッズ化も多いしな……よし入れ」
 早口でまくし立てるミルキに「どうも」と会釈しながらもウタは頭の中で「ぷりパラ」に関する記憶を掘り返していた。
「あ、ドアは開けておけ。それからそこで待ってろ」
 ミルキは執事に命じた。警戒心はいまだ強く、得体の知れないウタが何かするかもしれない可能性を恐れているようだ。
 部屋の中は大小五つのモニターと三つのパソコンが設置されていた。壁一面は本棚になっておりぎっしりと書籍やCD、フィギュアが並べられている。広い机の上には飲み物、スナック菓子、携帯端末機器、ゲーム機、リモコン、ティッシュが散乱していてしかしその全てが手の届く範囲内に置かれていた。
「お前、ぷりパラはどこまで見たんだ」
「一期と二期だけ……三期は受験編に入った所で見るの止めちゃいました」
 ウタの答えに「ニワカかよ」とミルキが鼻で笑う。
「まあ受験編はシリーズの中でも黒歴史だからな。けど勿体ないぜ。その後の詐欺師編が文句なしに面白いのに」
 ウタはきょろきょろと室内を眺めまわして腕時計に目を落とす。腕時計のLEDランプは橙色に点滅していた。こんなに電子機器の多い部屋じゃあ宛てにならないか、と顔を上げると部屋の入口近くに設置されている等身大のフィギュアと目が合った。
「メカによる殺人てハード的なものですかソフト的なものですか」
 ウタの質問にミルキは仕事の話か、と意地悪く笑う。
「両方だな。しかし俺に個人的な依頼はできねえぜ。まだ個人で仕事を取る許可をもらってないからな」
「承知してます。ただ興味本位で聞いただけです」
 ウタは頬をぷくっと膨らませておさげを手で背に払った。
「しかし前途ある才能溢れた若者とは、かくも素晴らしいものですね」
 ウタの仕草と台詞に、ミルキは怪訝な顔をする。
「お前……」
 ウタは背中で手を組んで首を傾げてみせた。
「私の娯楽にお付き合いくださる?たとえばそう、自由気ままな旅の話、あるいは突き抜けた専門分野の話、あるいは数字遊び」
 それまでのにたにたした薄ら笑いをイルミは引っ込める。
「そう頼まれればやぶさかでない」
 ミルキの台詞にウタは笑みを深めた。やはり、ミルキは当たりだった。
「何が聞きたい?殺しの手口か。企業秘密なところもあるが。爆弾、カラクリ、脳波に作用するもの、もしくはフィギュアでタコ殴り、なんかだ」
「ははあそれはそれは」
「脳波に作用するものは超音波を使うんだが、人間が壊れていく様は笑えるぜ」
「また悪い趣味をお持ちで」
「まあそう言うな。フィギュアでタコ殴りは企業秘密なんであまり喋れないが」
「ふむ」
「それから身体的な殺しだけじゃなくネットを駆使した社会的な殺し」
「それは恐い」
 ミルキは元々細い目をさらにすっと細めた。確信を持った目だ。ウタの意図が伝わったらしい。
「……怖いことなんかないさ、何も」
 ウタは顎に手を当てて考える振りをする。
「デジタルに強いということは数字にも強いのでしょうね」
「そりゃそうさ。たとえば832749836520」
「……742189642505283520987589」
「お、なかなかやるな。56287509787878783245720472098523098508032」
 二人はしばらく無機質な数字の羅列で会話をし、時にはくすくす笑いあったりもした。
 部屋の外で待っていた執事が引いた表情をしていたのはもちろん見えていたが、部屋への帰り道に特に何も聞かれることなく、ウタはここでも執事教育の徹底されたものを感じ取った。
 ウタとミルキのやり取りはもちろんただの数字遊びではない。ぷりパラの中でのキャラクターのやり取りを模したものだ。ぷりパラのキャラ達が極秘の任務を暗号に乗せて依頼したシーンがある。その台詞を真似たものだ。監視カメラだらけのこの屋敷の中で、個人的にミルキに仕事を依頼するためには最適な方法と言えた。そしてミルキはウタの意図をしっかりくみ取り、アニメ内の台詞で応じたのだった。もちろん肝心の暗号部分は変えて、電脳ページ内で使用されるデータ素数の組み合わせで会話したのである。ウタの知識の広さと頭の回転の速さ、ミルキの電脳ページへの理解の深さがあればこそできた芸当だった。


 そして本当に不思議なことなのだが、なぜだか甚くキキョウに気に入られたみたいだ。
 もう一晩泊っていったらどうかという申し出を断ることが出来たのは自分でも頑張ったと思う。しかしそれなら是非ランチだけでも、という誘いは断ることが出来なかった。
「こんなにご厚意に甘えてしまって申し訳ないですわ」
 ウタは昨晩とは別のドレスを着せられ、食事の席に着いた。ドレスと言ってもキキョウの趣味からしたらだいぶカジュアル寄りなもので、鮮やかなオレンジ色のワンピースに近い形のものだ。
「本当にそんなことないのよ。一週間でも一カ月でもお泊りになったらいいのに」
 キキョウはうっとりと言った。
 ウタにもキキョウがウタを気に入る理由がなんとなく分かってきた。キキョウは可愛らしいものが大好きなのだ。要は着せ替え人形だ。男児のカルトに着物を着せていたことからも、可愛らしい女の子然とした娘を欲していたのだとくみ取れる。派手さはないが華奢で可愛らしい衣装が似合う少女が現れ、さらに彼女は賢く、面白おかしくキキョウの話につき合うことができると来たものだから、それは離すのは名残惜しいのだろう。
 手土産に缶詰いっぱいのお菓子を持たされて、最寄りの空港まで送迎してもらう頃にはもう夕方であった。送迎は執事の運転による黒塗りの車で、明らかに堅気ではない雰囲気で少しばかり目立ってしまう。キキョウと違いなんの未練も執着もない執事は「それではお気を付けて」と形式的に一言挨拶を添えるだけで早々に去っていったのでようやくウタはほっと一息つくことが出来た。
 飛行船待ちのロビーから見上げた空はまだ太陽が昇っていて、外の蒸し暑さが窓越しでも伝わってくるようだ。真冬の日本から、夏のパドキア共和国まで来てしまったものだから違和感があるのは致し方ないことか。ヒソカに帰る旨を伝えようにも、携帯電話が手元にないから出来ない。箱庭の中に飛ぶ直前、恐らく天空闘技場の襲撃されたヒソカの部屋で落としたのだ。空港の公衆電話から電話しようかとも思ったが、それも止めた。
 焦らなくたって、ヒソカと自分の繋がりはまだ断ち切られていない。その自負がウタに大らかな心の余裕を与えていた。


 最寄りの国際空港に降り立つと初夏の陽射しが眩しかった。少し前までは穏やかな春の気候に有難さを感じていたはずが、あともう半月もすれば冬の寒さが恋しくなるのだろう。
 ウタは天空闘技場から近いホテルにチェックインした。何度か泊ったことのある宿だ。箱庭の中から持ち出した荷物とゾルディック家で持たされた土産を整理し、一息つくとウタは再び外に出た。少し迷ったのちに向かったのは、モラダ地区に借りている部屋だった。ここに足を運ぶのは後を付けてきた男に襲われて以来だから、実に一カ月半ぶりである。賭博のためにヒソカに脅しをかける材料としてウタを襲ったその男も結局はヒソカに殺されている。しかし他にも同じような思惑を持ってウタに危害を加えようとする輩がいてもおかしくないはずで、何となく身元が割れたこの家に帰ることが憚れていたのだ。
 久しぶりに帰った家は他人の出入りがなかったせいか酷く埃っぽかった。しかし特段荒らされた形跡もなく、簡易的なウタの腕時計型盗聴検知器も盗聴器の類が設置されていないことを告げている。必要な服やら日用品をまとめ、最後にぐるりと見回した。
(日当たりもいいし、交通の便も悪くないし、立地的には気に入ってたんだけどな)
 ウタは不動産会社に電話をかける。今月いっぱいで退去したい旨を伝え、続いて引っ越し業者に電話をかけた。呼び出し音を聞きながらもう一度部屋を眺めまわし、ふとウタは思い至った。業者が電話に出るより早く切る。少しの思案の後、今度は別の不動産会社にダイヤルした。
「あ、もしもし。借りたい物件があるんですけど。モラダ地区の南にあるパン屋の二階の――ええ、ええ。そうです。前の入居者が出るらしくって――…」


「せっかくのゴンの試合、終わっちゃったよ」
 ウタも見れたら良かったのに、とヒソカは言った。三日ぶりに会ったその男は、しかし口調とは裏腹に上機嫌だ。
「良い試合だったの?」
「そりゃあ、もう」
 ウタが尋ねると満面の笑みである。天空闘技場内のラウンジで落ち合った二人はコーヒーを啜りながら箱庭を出てからのこの三日の近況を報告し合っていた。
「試合後に直接会って、いつでも試合を受けることも伝えたよ。ビデオが出回っているから、ウタも後で見るといい」
 そうするわ、とウタは肩をすくめた。ゴンのこととなると、ヒソカは最高に楽しいおもちゃを与えられた子供になるのだ。この三日間のウタの動向はまるで興味がないみたいだ。
「はいこれ、ゾルディック家土産」
 ウタは机の上にクッキーの缶を置いた。繊細な凹凸加工のされた煌びやかな缶が二つだ。
「あー、イルミと……、キルアのお家だよね」
 ヒソカの問いかけにウタは頷く。
「うん。こっちは普通のクッキーだけどこっちは毒入りだそうよ」
 扱いに困ってウタは腕を組んだ。ヒソカは首を傾げる。
「それなら猶のこと僕はいらないし、ウタが持っていた方が何かと役に立つんじゃないの」
 ヒソカの言葉にウタは目をぱちくりさせた。
「まあ、そうね」
 なるほど確かに、土産だからといって律儀に食べる必要はないのだ。使い道はいくらだってある。ウタの頭脳と合わせれば上手いこと活用できて窮地も救ってくれることだってあるかもしれない。何故それに思い至らなかったのだろう。箱庭帰りで少し気が抜けていたのだろうか。煩わしかった土産の品が、急にこの上なく良い品に見えてきたから自分も現金なものだ。
「それで、念願のゴンとの試合はいつなの?」
 いそいそとクッキーをしまい、ウタが尋ねた。
「まだ日程は決まってない。そのうちゴンから連絡が来るはずだ。試合を見た感じだと、あと一カ月てとこかな」
 ヒソカの様子は楽しいイベントを前にした子供そのものだ。「一カ月か」とウタは呟き残りのコーヒーを飲み込む。底に残った粒子が口に入り苦い味がした。ゴンとヒソカが戦う頃にはもう夏本番だ。箱庭の外でまた新しい季節を迎えるのだ。






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