始まりの朝に、何故そんな


 沸々とマグマの沸き立つ溶岩地帯。猛吹雪の極寒の山中。カラカラに乾いた砂漠の海。切り立つ岩石が群を成してそびえる超重力世界。幾度も幾度も、異なる時空間を行き来し、世界の命運を駆けて戦い続けているのは、奇しくも第七班の面々であった。
 四代目火影の息子であり九尾の人柱力であるうずまきナルト。里の者から忌み嫌われていた少年は、今や誰もが認める英雄となっていた。
 うちは一族最後の一人であり、一族の長い歴史の中でもとりわけ才能に愛された男、うちはサスケ。兄からの愛を受取り、彼にはかつて抱いた憎しみ以上の力が溢れている。
 三忍の一人であり現火影である綱手にその医療忍術の全てを叩きこまれた春野サクラ。ただ憧れだけを追いかけていた少女から大人の女性へと羽ばたき、彼女は力強く大地を蹴る。
 そして木の葉の英雄白い牙の息子として生まれるも壮絶な人生を歩み、里の為に誰よりも尽力してきた天才忍者――はたけカカシ。
 彼らが同じ班として組まされたのはある意味必然であっただろう。九尾の人柱力に悲劇の一族の生き残りという一筋縄ではいかぬ彼らをまとめ、力を与え、その力の使い方を教え、導くことが出来る忍はそうはいない。だから担当上忍としてカカシが選ばれたのは、偶然でも何でもなく、必至の宿命だったのだ。だがその繋がりを絶やさず、諦めず、一度はばらばらになったとしても、こうしてまた力を合わせて戦っているのは、誰かが決めた運命などではなく、間違いなく彼らが選び取った結果だった。何か一つ違えば、とっくにこの現実は消えていただろう。この中の誰かが、あるいは全員が、死んでいたっておかしくはないのだ。
 けれど第七班の四人は今にも千切れそうなか細い糸を手繰り寄せ、再び集まり、こうして戦っている。仲間たちが、笑って生きていける未来のために、たった四人で戦っている。

 他の忍達はすでに無限月読の夢の中だ。頼れる加勢はもうどこにもいない。そして、最後の最後まで付き合ってくれたオビトもまた、カカシにこの眼を託して逝った。
 最後の最後に、ようやくオビトとカカシは分かり合えた。繋がれた。本当はとっくの昔に友達だったのだけれど、彼から写輪眼を譲り受けて以来、ずっと暗闇の中にいた二人はようやく同じ光を見ることができたのだ。両の眼に写輪眼が揃った今、カカシは視えぬものなどは何もないと思った。
(今なら、見える。大事なものを、取りこぼさないでいられる)
 この戦闘の最大にして最後の敵である大筒木カグヤの動きを追いながら、カカシは幾通りもの攻守のパターンを予想した。瞳力による予見と、それに合わせて激しく動かす身体、凄まじい速さで思考を巡らす脳、一寸の狂いもなくチャクラを練り上げ繰り出す忍術と、そのどれもが一つの間違いも少しの遅れも許されない状況で、全てを同時に、かつ完璧にこなしていくのは常人には考えられぬ神業とも言えるだろう。それを可能にしていたのはカカシの持って生まれた天賦の才と、驕らず自らを律し鍛え上げてきたたゆまぬ努力と、友から貰い受けた特別な瞳である。
(絶対に、勝つ)
 そして何よりも、絶対に勝つのだという強い意志が、カカシの神がかり的な動きを作り上げていた。
 勝たなければ、終わる。この世界も。そこに生きてきた人々の想いも。師の無念も。未来を託した友の願いも。愛しいあの子の、眩しい笑顔も。
(終わらせない、終わらせてなるものか)
 大筒木カグヤはいよいよ力を解放し、戦いは最終局面を迎えていた。

 ナルトもサスケもサクラも満身創痍、皆の疲労と気の緩みの波長が一致した瞬間にカグヤの尾獣の触手がサクラに伸びる。
「サクラちゃん!!」
 しかしそれより早く、サクラを掴んで尾獣の魔の手から逃れ守る腕があった。大きな鎧の形状のチャクラから伸びた腕――須佐能乎であり――それを発動させたのは他ならぬカカシだった。
(オビト……ありがとう)
 カカシは瞳力以上の力が湧いてくるのを感じた。この眼を託してくれたオビトと、今まで見送ってきた仲間たちとの絆が、カカシに力を与えているとしか思えない。
 カカシは両の眼を見開く。カカシの須佐能乎が手裏剣を放った。手裏剣はカグヤの尾獣に到達する前に消失したが、尾獣の触手の付け根のところで唐突に出現する。放たれた威力を保ったままの神威手裏剣により尾獣の触手のうち二本が引き千切れた。
 文字通りの目にも止まらぬ早業にナルトが歓声を上げる。サスケが少し悔しそうに口を歪めたのが、こんな時だというのに可笑しかった。
 カグヤの尾獣は千切れた触手を残し、頭上高くに飛びあがる。神経を引っかくような耳障りな叫びを上げ、尾獣はぶくぶくと膨らみ始めた。やがてそれは真っ黒で完全な球体となり、瞬く間にその体積を増やしていく。尾獣玉よりもさらに濃密で破壊力のあるそれは、六道仙人の力を開花した者のみが扱える求道玉と呼ばれるものだ。この大きさでは神威で飛ばすこともままならない。
 求道玉が作る影の中でカカシは第七班の面々を近くに集めた。
「作戦を伝える。これが俺たち元第七班としての最後の任務だ」
 カカシの言葉に、教え子たちは自信に満ちた顔で頷く。三人とも、誰一人もカカシを疑うことなく、世界を救うのだと信じ切っている顔だった。
 カカシの作戦を基にナルトとサスケが飛び出す。ばりばりと求道玉が唸りをあげ、カグヤの紫を帯びた白い瞳がぐりんと動いて、カカシを捕えた。
 次の瞬間、カカシは求道玉の作る影の中でさらに視界が暗くなるのを感じた。カグヤが何かしたのかもしれない。
 明けない夜の帳のような、闇だ。闇はあっという間にカカシの心根を暴き出した。思えば、ずっとずっと、こんな闇の中にいて、進むべき道も見えずに手探りで、這うように歩いてきた気がする。
 一矢の殺気が放たれたのをカカシは感じた。カグヤの攻撃だろうが、闇の中においては何も見えない。カグヤの殺意は、忍の長い歴史が繰り返してきた憎しみそのものにも思えた。風を切って飛んでくる殺意には覚えがある。これまで惨めに歩んできた人生の中で、幾度となく向けられてきたものだった。大切なものを奪うあいつが憎い。生き残ったあいつが憎い。幸せなあいつが憎い。力の足らぬ己が、憎い。憎しみの殺意を、何度受けてきただろう。全てを飲み込む殺意が去った後には、どちらが生き残ろうとも、虚しさしか残らないことをカカシは知っていた。
 ふと、カカシは暗い視界の中にも金色の光を見る。金色の光は細く、一筋の糸のようである。か細く拙い金糸だがぱっと心に火を灯すような、唯一無二の光を湛えている。黄金色に輝く一筋の糸は儚く、すぐに見えなくなるが、カカシに生きる勇気を与えた。
 この糸を辿った先に、未来が、今まで生きてきた意味が、愛しいあの子がいるのだと、カカシは強く確信した。
 カグヤが飛ばした刀を神威によって飲み込むと同時にカカシは矢のように飛び出す。

(神威雷切!!)

 雷を切ったという異名を持つその技は、オビトが完成させてくれたものだ。そして今、この技は未来すらも切り開こうとしている。
 カカシの雷切がカグヤの右肩を貫通する。カカシの反撃を皮切りに、ナルトとサスケがカグヤの両脇に躍り出た。
 カグヤに空間を移動して逃げるだけの時間の猶予はない。ナルトの正面に、先ほどカカシが飛ばした刀が出現する――黒ゼツが呼び寄せたのだ――刀に貫かれるとナルトはぼろぼろと崩れかける――分身体だ――そして反対側からカグヤに迫るサスケだったものがナルトに変化した――こちらも分身体である――……。
 カカシは再度神威を発動させた。無数の影分身の中に潜むサスケと、刀に貫かれ崩れ始めたナルトの影分身を入れ替えたのだ。尊い金糸に導かれるように、カカシは自然とそうすることができた。
 ナルトとサスケに挟まれ、手札のなくなったカグヤはたまらず上方に逃げる。しかし頭上から降ってきたのは、機を窺っていたサクラの強烈な拳だった。カグヤの体は押し戻され、ナルトとサスケの手が彼女に触れる――……。
 ナルト、サスケ、サクラの三人が、立っている場所は違えど、三方向から、同じ場所を見て、同じ強さの信念を以てして戦っていることが――まるで未来に手を伸ばすように拳を一方向に突き出すこの光景が――カカシは嬉しかった。
 三人の背後にはきらきらと輝く金糸が揺らぎ、舞い、そして塵のように儚く散った。
 ナルトとサスケによる封印術、地爆天星が発動したのはその直後である。尾獣から十尾達が解放され、雄たけびを上げながら降り立つ。それとは反対に、大地がカグヤとその尾獣に引き寄せられるかのように、大小様々の地盤が浮き上がり、求道玉に吸着していった。どんどん大きさを増しながら大地を離れまた大きさを増し、やがては月のように他人顔で空に浮かんでいた。

 大筒木カグヤは、消えた。
 しかしきっと、完全なる滅ではない。またいつか、誰かの愛が強い憎しみと耐えがたい寂しさに変わり牙を剥くことがあるだろう。どれだけ先の未来かは分からぬが、常に時代が揺れ動くこの世界に生きている限り、次なるカグヤは現れる。
 それでも、束の間のこの平和を少しでも長く続けていくことが、勝利を掴み取り生き残った我々の使命であり希望なのだろう。


 カグヤの作り出した空間から六道仙人と穢土転生された歴代影達の口寄せによって、カカシ達は連れ戻された。周囲にはぐるりと囲むように十体の尾獣達が並んでいる。
 終わりが近い。それは即ち、いくつかの別れを意味していた。ナルトとミナト。柱間とマダラ。歴代の火影達。その他穢土転生されていた者。輪廻の環から外れた者たちだ。そして――……。

 カカシは頭の奥の鈍い痛みに意識を集中する。目を伏せ、再び上げると真っ白な何もない世界で、オビトが目の前に立っていた。真っ暗な神威空間とはまるで真逆な、何もない、目にも痛いほどのただただ白い空間だ。ここは、きっと、虚無そのものだ。喜びも苦しみも悲しみも、深いと思っていた己のそれはちっぽけなものであると思い知らされるような虚無の世界でオビトはカカシを見つめている。
 カカシはオビトと正面から向き合い、言葉を交わした。後になって思い返しても、何を喋ったかは、あまり覚えていない。お互い、後悔も口にしたような気もする。少年のままの無愛想と気まずさで無理矢理隠し通せるほどの、浅い悔恨ではなかった。
 けれどオビトは最後、感謝をカカシに伝えた。
「ありがとう」と言ったオビトは少年の顔に戻って笑った。気が付けば、カカシの身も心もあの頃の少年に戻っていた。長い歴史の中においてどれだけ小さく、限りなく無に近いとも思えるこの感情も、絆も、決して無ではない。あの日々は、命は、想いは、どれ一つとして無駄ではなかった。オビトが去るのは悲しかったけれど、ようやく顔を上げ未来を向いて歩いて行けそうだ。
 眼を返す時が来たのだ。彼に眼を託されてから実に長い、共闘だった。大切なものを守るための果てのない闘いは、常にこの眼とともにあった。
「こっちこそ、ありがとうな」
 穏やかに告げたカカシは再び大人に戻り、両目の紋様は消え失せた。永遠にカカシから写輪眼は失われ、愛しい想いだけが残る。写輪眼は、あるべき場所に還ったのだ。

 膝から崩れ落ちたカカシを、サクラが支えてくれた。
 真っ白な空間から現実に引き戻され、すぐには視界がはっきりしない。手足が痺れて上手く力が入らなかった。あれだけの激闘の後だから無理もない話だが、しばらく体を動かすことは難しそうだ。サクラに肩を借りながらも辺りを見回せば、薄ぼんやりとした初春の朧の中で、光の柱があちこちで上がっている。穢土転生された魂が召される合図だった。これだけ幻想的な光景の中で、あの戦いの最中に見たカカシを導く輝く金糸はとんと見えなくなっていた。
 そして、これからがきっと、本題である。最後の決着は、結局のところ、当人同士で付けるしかないのだ。
 サクラの医療忍術による応急処置を受けながら、カカシはこれからのナルトとサスケに想いを馳せた。
 全ての転生者が消え去り、第七班の四人と六道仙人が残された世界は酷く穏やかだった。春の兆しを感じる柔らかな日の光ときりりと冷たい早朝の空気が勝利を称えている。その一方で、無慈悲なほどに全てをさらけ出す穏やかな日差しは、本当の最後の戦いを告げていた。

 サスケは世界を破壊し、作り直すと宣言する。当然、ナルトは真っ向からそれを阻止せんと向かい合った。

 サスケによってサクラは幻術をかけられ、彼女は意識を失う。今度はカカシがその体を支えてやった。にらみ合うままに姿を消したナルトとサスケをすぐにでも追いかけることの出来ない疲労しきった体が恨めしかったが、カカシは致し方ないとも思っていた。もう自分に出来ることは信じて待つことだけだ。あの二人の行く末は、あの二人にしか決められない。そしてカカシは心の底から信じていた。ナルトは、最後まで諦めないことを。手放しで、なんの偽りもなく信じる気持ちを持てたのは、父を亡くして以来かもしれなかった。
 カカシを導いたあの輝く金糸のように、ナルトは自らの行く末を真っ直ぐ見つめ、繋ぐもの全てを諦めないままで、駆けていくのだ。




 ようやく二人に追いつけたのは、それから四半時も経たない後のことだ。大地に横たわるナルトとサスケ、そして涙を流すサクラの後ろ姿を眺め、ようやく終わったのだという実感がカカシを包んだ。泣きじゃくるサクラの背中がいじらしく、妙に現実味を帯びている。
 ナルトとサスケの、決着が付いた。
 彼らの担当上忍になったのはつい昨日のことのように思えたが、それからの日々は驚くほど濃密で、本当に、色とりどりの絵の具で塗られた鮮やかな絵画のように騒がしく色々なことがあった。
 二度訪れた里の崩壊の危機、サスケの離反、憎しみの連鎖、そして友との再会――。
(本当に、色んなことがあった)
 ナルトの右腕とサスケの左腕は互いに向けた攻撃の衝撃で吹き飛んでいた。そこにあった腕を示すかのように流れる血液は、二人の間で混ざり合い、繋いでいる。
 彼らは互いに残った腕で無限月読の解呪を行うと、再び地面に倒れ込んだ。
(でも、ようやく終わった――。この子たちの、争いも。運命に勝ったんだ)
 カカシは空を仰ぐ。随分遠くまで来たものだ。こんなにも遠くまで来たのに、帰る場所があるというのは、とても幸せで尊いものだった。今頃あちこちでまやかしの幸せを見ていた人々が眠りから覚めていることだろう。こんなにも壮絶な戦いの後で、帰る場所を、そこにいる人のことを想うだなんてきっとあの頃の自分なら信じられなかった。

 最初に第七班の前に現れたのは猪鹿蝶の三人だった。腕の千切れたナルトとサスケを一目見て、息を飲む。
「勝った……のか?」
 ごくりと唾を飲み込んでシカマルが尋ねた。
「ああ、勝ったよ。全部終わったんだ」
 カカシが微笑むと、シカマルとチョウジ、いのはわっと声をあげて涙を流した。
「よかった……! 本当に……! 勝ったんだ!」
 チョウジはなりふり構わず声をあげて泣いていた。シカマルが勝利という二文字を噛みしめるように胸を膨らませる。
「いの、皆に知らせられるか? 早く皆にも伝えてやろう――」
「もちろんよ――!」
 いのも涙声で頷く。カカシは横たわるナルトとサスケを指差した。
「ついでにこいつらの状況と、医療忍者の要請も頼めるか? サクラが応急処置したが、テントに運んでやって本格的な治療をしてやる必要がある」
「はい!」
 いのは力強く返事をするとすっと目を閉じる。そうしてチャクラを練り上げる彼女のこめかみには青筋が浮かんでいた。多人数への情報の伝達は大層なチャクラと精神力が必要とされ、その上戦闘の後の疲労しきった体では酷な作業だったが、彼女はすぐさま実行に移して、そして随分と粘った。できるだけ多くの人に伝えたいのだろう。
 いのが再び目を開けて数秒後、遠くから歓声が上がるのをカカシ達は聞いた。地響きが起こったのかと思えるほど歓声はうねりのように轟き、長い間続いた。
「お前らも無事で良かった」
 カカシが労わるように声をかけるとシカマルが頭を振った。
「俺らは無限月読の中で夢を見てただけっすよ……最後は結局、あいつらが決めてくれたんだな」
 それからいくらも経たないうちに連合軍の忍達が姿を現した。勝利を掴み取った四人を称え、慌ただしく負傷者を搬送していく。人々は疲れ切っていたが、勝ったのだという事実が、彼らにまだ手足を動かし働く気力を与えていた。

 入り乱れる人々の中を、自然とカカシはモモカの姿を探していた。彼女は無限月読の中でどんな幸せな夢を見ただろうか。夢の内容を聞くのは、余りにも野暮だろうか。彼女の描く幸せの中に自分がいたらいいと、人知れず口布の下でカカシは笑んだ。
 日が昇った大地は急速に気温が上がり、春の兆しが見え始めている。穏やかな日差しは勝利の朝に相応しく、新しい世界の幕開けを感じさせた。今日は、間違いなく、忍達にとっての始まりの日になるのだ。
 余りにも周囲が慌ただしく働くものだから、カカシは腰を下ろす。自分一人働かなくたって、どうにでもなるだろう。事実、あれだけの激戦の後で、動ける体力もチャクラもほとんど残っていない。サクラの処置のおかげでいくらか動けるようになったと言えど、本音を言えばこのまま目を閉じ、うららかな春の日差しと暖かさに身を委ね寝てしまいたかった。この気候の中の睡眠は、疲れ切った体にこの上ない喜びをもたらすだろう。しかしそれをカカシが堪えていたのは、意識を手放す前にモモカに一目会いたかったからに他ならない。
 きっと、ずいぶん心配させた。口をぐっと結び苦痛を耐える顔を思い浮かべて、カカシは閉じかけた目を開いた。カカシがオビトと再会したことや神威空間での出来事をどこまで聞き及んでいるかは分からないが、あんな顔をさせるのはあまりに心許ない。そのうち飛んでくる彼女をしばし待とう。彼女はいつだって、真っ直ぐに飛んでくるのだ――ナルトやミナトのように――オビトのように――あの金糸のようにきらきらと輝いて――……。

 カカシにかかる穏やかな日差しを遮って、目の前に立つ人がいた。カカシは疲れ切った頭を動かして目線を上げる。
 よく見知った気配だった。だったけれど、それはカカシが待ち望んだ人のものではない。春の日差しを遮りカカシの目の前に現れたのはトウキとイクルだった。逆光で表情がよく見えない。彼らは肩で息をしていて、相当の速度でここまで駆け付けたみたいだった。
 よっ。そういつものように軽く声をかけようとして、出なかった。疲れ切っていたのももちろんある。しかし理由はそれだけではなかった。影に慣れた目に確認できた二人の顔が蒼白で、唇を震わせていたからだ。
 勝利の後に、何故そんな青い顔をする。始まりの朝に、何故そんな絶望の気を滲ませている。疲れの支配する頭で疑問を抱きながらも、心の片隅ではとっくに理解していた。
 この二人が、信念の為なら生まれ育った里さえも飛び出していけるこいつらが、ここまで絶望に暮れた顔をするのは、ただ一人の仲間の為としか考えられなかった。
 トウキが震える胸で大きく息を吸い、とうとう声を発した。

「モモカが消えた」




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