三人ぼっちで戦いに挑む忍鳥の背で見た夜空を、


 最強の男の口から語られるのは、最初はどこにでもいるような少年の、しかしどこの誰であっても思いつかないような夢物語だ。

 始まりは、たった一枚の木の葉が揺れ落ちるような頼りなく、しかし純粋な希望に満ち溢れたものだった。先の見えない不確かな世界の中においても、揺らぐことのない信念。遥か未来を見据えた少年の生き様。
 戦いが、その中で散りゆく命が、当たり前であった戦国の世に、彼の描いた忍道は、今の時代の子供たちと何ら変わらず純粋で、無垢である一方で、どこまでも残酷だ。
 これ以上波長の合うものはいないだろう、魂を分かち合えた友と出会えた喜び。肉親を奪われる身を裂くような痛み。止まることのない闘いと時代の流れ。痛みは憎しみを生み、憎しみは争いを激化させ、争いは新たな痛みを生む。やがて魂を分かち合った友は、到底分かり合えぬ存在となり、訪れる決別の時。
 どれ程望んでも二度とは戻ってこないもの。自らの手で引導を渡した友の名は――うちはマダラ――。そしてそれを語るは、木の葉隠の里を創生し、有象無象の戦国の世に変革をもたらした男――初代火影、千住柱間その人である。

 全てを聞き終えたサスケはゆっくりと瞼を開けた。

「……今マダラがどう復活したのかは分からぬが……俺は確実に友を殺した……里の為に」
 腰を据えて里の始まりについて語っていた初代火影、千住柱間も視線を上げ、サスケを真正面から捉えた。
 重い沈黙が流れる。サスケは、転生されてすぐにでも戦地に向かおうとする歴代の火影達を止めてまで、里とは、そして忍とは何かを問うたのだった。そして柱間をその訴えを聞き入れ、里の始まりとそこに絡み合ったいくつもの想いを語った。
「里とは……始まりに俺とマダラが望んだ里とは……一族と一族を繋げるものだった。だが……君の兄、イタチが背負ったような闇を生み出してしまった」
 柱間は瞼を閉じ、深く息を吸った。
 忍の闇――その底知れぬ絶望をモモカは想った。初めは、誰だって、希望を胸に抱いていたはずで、誰だって、大切な何かを守り通したかったはずなのだ。その信念を曲げずに、どんな地獄を見ても、守り通す者ほど、闇を背負わされてしまう。イタチがあんなにも強く美しいのは、どれほど心が血を流しても、大切なものを守り抜く信念と、その信念に付きまとう哀しい運命がぴったりと寄り添っているからなのだ。イタチだけじゃない。強く、美しく、哀しい男をモモカはよく知っている。愛したものも愛してくれたものもすべてを奪われて、死ぬより残酷な生を歩み、それでも立ち止まれなかった男だ。夜にこそ美しく輝く銀髪は、本当だったら太陽の下でこそ輝いていたのかもしれない。何か一つ違えば、破壊神にだって成り得る男だったけれど、それでも――それでもカカシは――決して闇には飲まれなかった。自分はどんな真っ暗な地の底にいても、決して飲まれなかったのだ。
 ぽろり、モモカの頬を涙が一粒転げ落ちた。
 自らの感傷のために話の腰を折る気などなかったから、鼻もすすらずにモモカは静かに涙を流す。里の始まりと忍の在り方を問いただしたのはサスケだけれど、モモカもこの場で、柱間の口から話を聞けて良かったとそう思った。
 初代の柱間に限らず、歴代の火影達は各々が自らの至らなさをどこか責めているようであった。里とは一族の枠を取り払うものだと考えた初代の思想の上に成り立つ里を守り作り固める二代目――扉間は、一族の間を取り持つ役目を全うできなかったと吐露する。トウキが過去のどこか一点を睨むように目を細めた。二代目の里づくりを上手く引き継げずに、ダンゾウに里の闇を背負わせてしまったと懺悔する三代目――ヒルゼン。イクルが里に捕らわれた時の火傷の痕に手を伸ばしたのは、ほとんど無意識かもしれない。そして四代目――波風ミナトは九尾の襲来で志半ばで倒れてしまったことを悔やむ。モモカはその後悔の波間に飲みこまれた幾千粒の命を想った。
「火影として期待されていたのにその期待に沿えなかった――……」
 ミナトは言葉を切り、モモカをまじまじと見つめた。モモカの頬を伝った涙はさっきの一粒だけだったが、目が潤んでいることにミナトは気が付いたのだ。
「……お主、」
 三代目も呆気に取られて目を瞬く。柱間と扉間は何も言わなかった。二人は、モモカの頬を伝う涙にはきっと気づいていたけれど、触れないでいてくれていた。
「……どうしたの? 大丈夫かい、辛い話だったかな」
 優しく、ミナトがモモカに語り掛ける。
「悲しいの? それとも怒っているのかしら?」
 少しだけ皮肉めいた口調で大蛇丸が尋ねた。モモカは瞳を赤くさせたままで首を横に振る。モモカ自身にも、この感情の正体は分からなかった。泣き虫なのはカカシの前だけでだと思っていたのに、どうしてこんなにも容易く涙を零してしまうのだろう。しかし忍としてあるまじきその雫を、恥じる気持ちがあったわけでもなかった。
「ありがとう」
 不意に礼を述べられ、モモカは顔を上げる。穏やかな表情をした柱間と目が合う。穢土転生によって転生された者特有の灰色の瞳だが、彼の目には優しい風が吹いていた。どこか懐かしく感じるのは、柱間から雄大な自然のような気を感じられるからで、それは自来也にも通ずるものがある。
「里の為に、泣いてくれて」
 里の為――……? 柱間の言葉を否定しようとしてモモカは再度首を振る。里の為に、自分は泣いたのだろうか。よく分からなかった。

「さあ……サスケ君、どうするの?」
 大蛇丸が改めてサスケに向き直る。里の始まりを聞き、歴代影達の想いを受け止め、サスケは瞳を閉じる。モモカには真っ暗な闇が見えた。その闇は、幼いサスケが叩き落された絶望であり、愛する者を奪われた尽きることのない悲しみと憎悪であり、そしてイタチがその身に背負わされた、この世界の闇そのものであると、モモカは感じた。
 サスケが目を開く。黒曜石のような瞳は、モモカが想起した闇のようだ。けれど、その中に、どんな闇にも塗り潰されることない、確かな力強い生命力が満ちている。
 イタチがたった一人の弟に残した、愛が宿っていた。
「俺は戦場に行く。この里を、イタチを……無にはさせん!」
 柱間の顔が誇らしく輝いた。
「……よし、決まりだ」
 



……
 南賀ノ神社の地下から再び地上に出たところで木の葉に捕らわれていた香燐までもがタイミングよく合流し、一行はさらに騒がしくなる。
 水月は香燐に酷い文句を言っていたが、同じ一族のよしみかトウキが持ち前の面倒見の良さを発揮して彼女を労り受け入れた。香燐もなかなか癖のあるくノ一で、暴力的でかつ打算的な女だったが、トウキの対応に安心感を覚えているのは確からしかった。これまではさておき、ざっくばらんに香燐の暴言さえも豪快に笑い飛ばすトウキの懐の深さはモモカにとっても誇らしいものがあった。このまま行動を共にしていたら、そう時間をかけずとも彼は重吾や水月とさえも打ち解けるのだろう。「天然たらし」とイクルが小さく悪態をついていたのは、聞こえないふりをした。
 戦地へは、ここに来た時と同様にその行程の半分を大蛇丸の作った移動術式を用い、残り半分は動物達の力を借り、瞬身の術の移動圏内に入ったところで一気に距離を詰めることになった。
「聞きたいことがあるんじゃなかったの」
 術式のあるポイントまで移動する最中、大蛇丸がモモカを促す。モモカは大蛇丸を見上げた。何だかんだ、大蛇丸もまめな男だ、と思う。モモカなど気にかけてやる義理もないというのに、疑問は潰さないと、本人も気持ちが悪いのかもしれない。モモカは笑みをこぼしたくなるのを堪えて、頷いた。
「ええと、あの、聞いてもいいですか」
 モモカが先頭を駆ける柱間に追いついて呼びかける。
「何ぞ」
「私は先ほど、戦闘の中で、不思議な体験をしました。気が付いたら光溢れる景色の中にいたのです。そこは幾重にも重なる光の糸があって、光の花びらが降り注ぎ、生きとし生けるものの魂すべては光となって存在していた世界でした」
 突拍子もないモモカの話に柱間は眉を開く。モモカは先ほどのイタチ、サスケとカブトとの戦闘中での出来事を説明した。モモカが紛れ込んだ異次元の世界。そこでは光に溢れ、運命の糸を辿るように人の放つ光さえも導いてやれるのだ。
「光の世界、のう……」
 顎に手を当て柱間は考える。
「よく分からぬが……意のままに世界を変えられるのなら、それは特別な――モモカだったか? お主固有の能力じゃないのか」
「いえ、あれは特別なものなんかじゃなく――……ある種普遍的なものだと思います」
 上手くあの感覚が伝えられずにモモカはもどかしかった。
「なんていうか、意のままに操るのとは違う――本来あるべき道筋に戻すというか、繋ぐというか――……。あの光はまるで、白眼で見た人間の体内のチャクラの流れに似ていたような気がする。あの光は生命エネルギーの一種なのかじゃないかと考えているのですが……」
 それまで興味のなさそうだった扉間がぴくりと眉を動かす。
「なぜ白眼でのチャクラの視え方を知っている?」
「この子、不思議な力を持っているんです。遥か北の大地の稲荷神子の流れを汲む」
 助け舟を出すように大蛇丸が答えた。モモカは自らの持つ同化能力について説明した。他人に能力を喋ることに普段は猛反対するトウキとイクルも、さすがに今回ばかりは何も言わなかった。
「なんとお主、仙術を修得したのか……?!」
 モモカの説明に三代目ヒルゼンは大層驚いた声を出した。彼は生前、モモカの同化能力について聞いて知っていたが、当然、没した後の経緯は知らないのだ。
「仙術はそんなおいそれと修得できるものではない」
 扉間が怪しむようにモモカを眺める。こんな小娘が、ましてや簡単に涙など流すような脆弱な小娘が、強靭な体力と精神力が求められる仙術を扱えることを疑っているみたいだった。
「……私はその同化能力で――同じ力を持つ者たちはこれを心言と、それを扱う赤き心と呼んでいましたが――自然と一体化することが当たり前にできていましたので、それほどチャクラ量は必要なかったみたいです」
 説明しながらも、ふとモモカは気が付いた。
「……同化する時と同じかもしれない……」
「同じ?」
 モモカの呟きに大蛇丸が聞き返す。モモカの不思議な力の正体は彼も全く関心がないわけではないらしい。
「同化……って、私がそう呼んでいるだけなんですけど……。そもそもそう呼び始めたのは他人と一体化するような感覚でその人の考えが分かるからで――あの時の光はきっとその人のエネルギーそのもので――それと同化しているというか、繋ぐというか――……」
 考えながら喋るモモカの言葉は全く要領を掴めず、大蛇丸が眉をしかめてイクルを振り返る。イクルは複雑な顔で頭を振った。モモカが自分の感覚を上手く言語化できないのは昔からで、イクルもトウキもそれに関しては諦めていた。ただモモカのあやふやなその感覚には、絶対的な信頼を置いていた。
「モモカ、お主の言っていることが真なら、自然に一体化することで、常人には体感できないものを感じ取って、そうして、人の行動や、生き死にでさえも――魂から揺らぐ光の糸を手繰り寄せて、思うがままに魂の路を、編み込むことが出来るのではないか」
 柱間の見解は完全に納得のいくものではないが、今のモモカが感じているものに一番近かった。
「私も同じ見解だわ。だからこそ誰にでもできることではない、易々と使うべきでもないわ」
 易々と使うべきではないというのは、モモカも肌で感じ取っていた。
「そういえばさっきも言っていたよね……自然に飲み込まれてしまうって」
 モモカが再度問いただすように大蛇丸を見ると彼はしたり顔で笑った。
「稀にいるのよ、大地に祈りを捧げて忽然と姿を消す人間が」
 ミナトがハッと息を飲む。
「もしかして……北の大地の稲荷神子の流れを汲むって……そういう……?」
 ミナトの言葉に他の影達も何かに思い至ったようで、お互い顔を見合わせた。
「信じ難いな」と扉間が息を吐く。
「おい、何の話だよ」
 痺れを切らしてトウキが尋ねた。ヒルゼンが口の中で唸る。
「時代の節目にはな、大地に祈りを捧げる神子が現れ、人と大地を繋ぎとめる、と忍の世界には昔から古い言い伝えがある。人知れず大地に祈り、人と人、そして人と大地を結び付け、破壊の運命を退ける――そしてその後は大地に還るのだと、な」
 まさか荒唐無稽な神話のようなものを聞かされるとは思わず、トウキが思い切り顔をしかめた。
「真偽の程は定かではない。六道仙人に匹敵する与太話だ。だがどの時代にも信じる者はいる。世の中が荒れると大地に人柱として神官を捧げることがあるとはまま聞くが……効果のほどは、果たしてどうだかな」
 扉間が付け加えて鼻で笑った。
「言い伝えのその神子というのは、忍の祖である六道仙人が遥か北の大地で大地から拾いあげた、という言い伝えがあって、その後も時代の節目には神子となる者が現れるそうだ――……小娘が仙術を学んだ地が、その伝説の地ではないかと、そう思っているのだろう?」
 扉間の指摘に大蛇丸は頷く。
「ええ、確証はないですけど。でももしそうなら面白いわね――……。ただもう一度同じことが出来るとは限らないし、万が一出来たとしても、今度こそ戻っては来れないでしょうね」
 ここでミナトが首を捻った。
「ん? そもそも何故、一度その場所に行ったのに戻ってこれたのです? 伝説だと大地に吸収されると――」
「うちはイタチよ」
 大蛇丸の口から出た名前に、後ろの方でサスケがぴくりと反応した。サスケ達のグループはこの話には入ってこず、ただ後ろを付いてくるのみであったが聞き耳はしっかりと立てているらしい。
「彼がこの子に写輪眼で幻術をかけるようにして――そうして戻ってきたの。極めた写輪眼は運命を変えてしまうイザナギや、運命の輪から抜け出せずに永遠とループし続けてしまうイザナミなんて術を使えるくらいだもの……その光の世界とやらに片足突っ込んだ人間を呼び戻すことくらいは、できるかもね」
 大蛇丸はちらりと後方のサスケを横目で見やり、続けた。
「けれどもうイタチはいないことだし、サスケ君があなたにそこまで入れ込むことはないだろうし……次はないわよ。現にあなたの体、イタチが連れ戻す直前は靄がかかったように薄くなりかけていて、恐らくあと少し遅かったら間に合ってなかったわ」
 そんなことになっていたとは知らず、モモカは今更ながらにぞっとした。
「……うん、もうあの次元には行かないようにする……まあ行けるかも分からないんだけど」
「……くれぐれも頼むよ、モモカは集中し始めたらなりふり構わないところがあるから……」
 これまで聞くに徹していたイクルだったが、神妙な顔で口を挟んだ。本気でモモカの身を案じているようだった。
「だな……、まあサスケ以外に写輪眼を使える、とっておきの男がいる……、とは言えな」
 トウキの言葉にミナトが目を丸くした。
「それって、もしかしてカカシのこと?」
 モモカ達はミナトを改めて見つめた。死んだ時の若い姿そのままだから忘れていたが、そう言えば、ミナトはカカシの担当上忍だったのだ。トウキがにやりとした。
「そ! そんでカカシはこいつのコレってわけ」
 トウキがぐいと親指を立てたので、モモカはその親指を衝動的にへし折りたくなった。
「……! 君が、カカシの……」
 ミナトが驚きの声を上げてモモカを見つめる。モモカは早くも頬が熱を持ち始めたのを自覚していた。ヒルゼンでさえもまじまじとモモカを見つめていて、その視線が非常に居心地が悪い。
「……モモカ、お主、歳はいくつになったのかの……」
 まるで親戚のおじいさんのようなヒルゼンの口ぶりに、大蛇丸も可笑しそうに意地悪く笑う。
「あら猿飛先生、愛に年齢は関係ないですよ」
「も、もう二十歳になりました!」
 たまらずモモカは反論した。もうとっくに大人の仲間入りをしているというのに、モモカのせいでカカシが余計な言いがかかりを付けられるのは嫌だった。トウキはケラケラと笑い、イクルは呆れた目をしている。
「緊張感のない奴らだな……」
 苦言を呈す扉間の目つきはイクル同様呆れていた。
「よいよい! 頼もしい限りだ!」
 柱間が豪傑に笑い飛ばして、大きく口を開けた顔はトウキみたいだ。
「あ、ごめんね……立ち入ったことを」
 何故かミナトが照れてモモカに謝る。
「あ、いえ、あはは……」
 モモカは気恥ずかしさを誤魔化すように、空笑いした。


 大蛇丸の術式ポイントから一旦草隠まで飛び、そこからはイクルの召喚した忍鳥と重吾の呼び寄せた野生の鳥たちの背に乗って一行は移動する。
「……何か」
 重吾が自分を盗み見るイクルの視線に気づいて尋ねた。
「……いや、僕は契約によって忍鳥を使役するけどさ……その辺にいる野生の動物をこうも使えるんだから敵わないと思ってね」
「なんだそんなことか」と重吾が意外そうな顔をした。
「使うというかは協力してもらっているだけだ。契約とは違い無理強いはできないからいついなくなるかも分からない。そもそも所詮野生の動物で訓練されたものではないから戦闘には使えない」
 重吾の説明に興味深そうにトウキが声を発した。
「へえ、じゃあ忍術ってよりかは、モモカの仙術に近いみたいだな。自然エネルギーを取り込む、的な」
「まさしくその通りよ。重吾の一族は自然エネルギーを取り込むことで爆発的な力を発揮できるの。それを改良したものが私の呪印よ」
 大蛇丸が補足する。イクルは不愉快そうに眉をしかめたが、トウキは素直に感嘆の声を上げていた。

「瞬身の術の圏内にそろそろ入る――我々は先に行くぞ!」
 扉間が皆に声をかけた。火影達は鳥の背の上で立ち、遠く前方に目を凝らしながら印を結ぶ準備を始めている。
「私は五影のところへ寄っていきます――どうやら瀕死みたいだから……香燐、水月、あなた達も来なさい」
 大蛇丸の命令に香燐と水月は口々に拒絶の声を上げた。五影が瀕死、との言葉にトウキが目を見開いた。
「五影を治すのに香燐あなたのうずまき一族の血を使うのよ。補佐がもう一人必要なのだけどサスケ君は当然、最前線に行くだろうし……水月あなた、こんな化け物じみた忍達とは少しでも離れていたいのでしょう?」
 ずばり大蛇丸に言い当てられ、水月が狼狽える。
「それは……そうだけどさあ……」
 渋々水月が大蛇丸の同行に同意して、飛行する鳥を大蛇丸の後ろに付けた。水月のすぐ脇を、トウキが並ぶ。
「俺も行く」
 トウキの瞳が力強く訴えかけていた。彼の気がかりは水影であるメイだと、当然モモカもイクルも分かった。
「うずまき一族の血が必要なら……俺も使えるだろう?」
 値踏みするように大蛇丸はトウキを眺める。
「まあ香燐程、勝手がよくはないでしょうけど……、いいわ、付いてきなさい」
 トウキは頷き、モモカとイクルを見た。
「私は火影達と戦場に行くよ」
「僕はモモカ程の瞬身の術は使えないから少し遅れるけど……上から全体を見ながら、僕も戦場に向かう」
 モモカとイクルにトウキはふと、笑った。愛する女の死に目に遭うかもしれないというのに、笑ってみせた。
「無茶すんなよ!」
「それはトウキもだからな!」
 怒ったようにイクルが言い返す。トウキはさらに大きく口を開けて笑った。
「分かってるって! イクル! モモカ! 愛してんぞ! お前ら!」
 まるで冗談の延長のような軽い口調でトウキは声を張った。モモカとイクルは呆気に取られたが、これが彼なりの、仲間を死なせないための術なのだ。大好きだから、大切だから、愛しているから――死ぬな。彼はそう、モモカとイクルに伝えたのだ。

「あと約十秒で圏内に入る――行くぞ! 我々は先に行くから後から付いてこい!」
 トウキに負けじと柱間が声を張り上げた。木の葉の若い忍の仲間を想う姿に、より一層熱意が掻き立てられたようだ。モモカとイクルは前を見据える。
 四年前、三人ぼっちで戦いに挑む忍鳥の背で見た夜空を、モモカは思い出した。あの時はあのまま離れ離れになった――。しかし今度は、そうはならない、させない。何が何でも勝利を掴み取るのだ――……。
「遅れなんか、取るものか」
 瞬身の術はモモカの得意忍術だ。モモカは大きく夜風を吸い込んで、トウキに負けないくらい、笑ってみせた。




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