羨望の気持ちを抱かずには
また春が来る、とカカシは空気の匂いで感じ取った。まだ寒さは残るものの、真冬のきりっとした寒さではなく、ぼんやりとした何処か気だるげな雰囲気があった。辛夷の枝の先にはぷっくりと白い蕾が膨らみ、開花の時を今か今かと待っている。
そういえば、図書館裏の梅はもう咲いている頃だろうか。ここしばらくあちらの方には行っていないが、今日は時間もあるし足を伸ばしてみようか。
カカシがそんなことを思い立ったのは、一月後の下忍承認試験を少なからずとも待ち望んでいる気持ちがあり、ふいに五年前の不合格者のことを思い出したからかもしれない。数多のアカデミー卒業生を落としてきたカカシだが、あの子達はどうも色濃く記憶に刻まれている。下忍承認試験時点では実力もチームワークもまだまだだったが、光るものがあったのは確かなことだ。彼らは下忍となったその後、新人ながら一度目の中忍試験で全員が合格した。今や里の大事な戦力として西へ東へ任務に奔走していることだろう。ここ数年めっきり顔を合わせることもなくなっていた。
昼前の長閑な里内を、ゆっくり歩くカカシは、少し迷った後、行先を図書館へ変更した。午後までは特段急ぎの用事もないし、数年ぶりに図書館裏の梅の花を見たくなったのだ。
近道を行こうと郵便屋の角を西に曲がったところで、五丁目の不動産屋の前にたむろする人影が目に入った。頭頂部の禿げた不動産屋の親父と、若者が三人。カカシは僅かに眉根を寄せた。ここの親父は忍ではないものの闇業者との関係が噂されている。それどころか闇商売の斡旋などの疑いさえある。しかし確固たる証拠はなかった。そのうえ親父の持つ情報網は忍のそれとはまた別ルートからくるもので、思わぬ情報を持っていたりするものだからなかなかに重宝され、今のところ大した実害もないことから黙認されているというのが現状だった。
親父と話し込む若者達。何かしらの情報のやり取りが行われているであろう場面に遭遇してしまい、せっかくの穏やかな気分に水を差された気分だ。
回り道をしようかと、カカシが逡巡していると、若者の中で一番体格のいい男がこちらに気が付いた。カカシがさっと目を逸らすより一拍速く、男の口が「あ」と動いた。カカシも思わず「あ」と声に出してしまったのは、彼が見覚えのある男だったからだ。それどころか、今さっきまさに思い浮かべていたうちの一人であることは何という偶然だろう。最後に会った時、男はまだ少年だった。
そしてこの男が行動を共にするあとの二人は、誰だか容易に想像できた。店先の階段状の段差に腰掛けている黒髪の女が、あの子に違いないだろう。彼女はもう一人の色素の薄い男の方を向いていて顔が見えない。彼女がこちらを振り向く動作がスローモーションのように感じた。肩まで伸びた黒髪がシルクのように滑らかに揺れる。カカシを認め、彼女の黒目がちの瞳が見開かれた。
美人だ、とカカシは思った。
「カカシ先生!」
「……よ、久しぶり」
美しく成長した彼女の笑顔は、しかしあの頃のままで、思わずカカシは目を逸らしてしまった。
トウキにイクル、そしてモモカの三人組はすっかり背も伸びて、背格好だけは大人の様相を呈していた。子供の成長とはこうも早いものなのか、とカカシは妙に感心してしまう。それでもその表情にはまだまだあどけなさが見て取れた。三人とも首にはお揃いのゴーグルを下げている。
「二年……いや二年半くらいですか」
穏やかな声でイクルが言った。中性的な顔立ちだった彼は上品な佇まいはそのままに、凛々しい青年に成長している。
「二年半、そんなものか。いやいや子供の成長ってのは、犬みたいに早いのね」
カカシの言葉に「誰が犬だよ」とトウキが吠えた。喧嘩っ早いのは相変わらずらしい。
「あはは、カカシ先生――カカシさんはお変わりないようで」
モモカのケラケラとした笑い声に、途端に懐かしさがこみ上げた。彼女はあの時と変わらぬ笑顔で、キラキラした瞳をカカシに向ける。他の二人に負けず劣らずモモカも間違いなく美しく成長していた。あまり特徴のない顔だったように思う。これといって主張するパーツのないような顔だった。だがそれも裏を返せば、粗のない顔だとも言える。成長に伴い特徴のない彼女の顔はその均整の取れた美しさを際立たせ、輪郭、鼻筋、口と控えめだけれど素晴らしいバランスで配置され、ヒョロヒョロとした少年のようだった手足もすらりと伸びて無駄のない造形美を顕然とさせていた。
「確かに、全然変わってねえな」
トウキがニヤリとし、カカシを品定めするように眺めまわす。
「さて、今年は何人残るか。例年通り全員落とすのか」
「おいおい、本人からのネタバレはなしだよ。興覚めだ」
不動産屋の親父が大袈裟に手を振ってみせた。カカシは何の話をしているのか見当がつかなかったが、話の内容如何よりも、謎めいていてどこかきな臭くかつ幸の薄そうな親父を物珍しい気持ちで観察していた。いくつかの黒い噂話は耳にすれど、この親父がこうしてカカシの目の前で溌剌と喋っているのを目にするのは初めてのことだったのだ。
「分かってるって。賭けは賭けだからな」
この親父が心を開くくらいにこの三人と仲が良いことを意外に思っていたカカシは、不意に不穏な言葉が聞こえてきて顔を顰める。
「賭け?」
「あはは、カカシ先生が下忍承認試験で今年も全員落とすかどうかって、賭けてるんです」
馬鹿正直に答えたのはモモカだった。
「あ、そうなの……」
カカシは困った呆れ顔で返事する。
「やっぱり“うちは”の子はカカシさんが面倒見るんですか」
イクルがさも素朴な質問といった顔をして尋ねた。里の中枢の情報を多く握る鳥吉の次男坊だ。次の下忍の班編成くらい知ろうと思えばわけないだろうに、白々しい。
「あー」
カカシはぽりぽりと後頭部を掻く。こいつら相手に隠したところでたいして意味はないし、と馬鹿らしくなってきていた。
「俺が今年受け持つのはうちはサスケ、春野サクラ、うずまきナルトの三名だ」
あっさり告げたカカシの言葉にトウキは「何だって」と身を乗り出した。
「それなら話は変わってくるな……」
「いやいやトウキよ、今年も絶対受からない、俺らが落とされたんだから他のアカデミー生も受かるはずないって大口叩いてたのはお前さんだぜ」
不動産屋の親父は勝ち誇った顔をしていた。どうやらトウキは落ちる方に、親父は受かる方に賭けていたらしい。いよいよ一層馬鹿馬鹿しくなって、カカシは踵を返した。
「あれ、あっちに行くんじゃないんですか」
来た方向に戻ろうとするカカシにイクルは声をかけた。
「うん、もういいや」
カカシはどこか遠くを見るような捉えどころのないあの目で三人を見つめた。
「なんかもう満足しちゃった」
「満足?」
モモカはきょとんとして聞き返す。その顔をじっと注目して、見たかったのは梅の花じゃなくて彼らの姿で、そして感じたかったのは爛漫の梅の香りではなくて未来への希望なのだとカカシは自覚した。
「あ、そういえば」
去り際にカカシは振り向く。見上げるモモカの顔にかかる黒い髪はとても柔らかそうだった。
「モモカのあの能力は――寝ている時に見ている夢にも適用されるの?」
唐突なカカシの質問に、一瞬意味が分からずにモモカは首を捻る。それがどうやら同化の能力で夢を覗けるか、という意味合いらしいことに思い至ってモモカは頷いた。
「見れますよ。この間、仮眠を取っているトウキの夢の中では飲みきれないくらいたくさんのお酒に囲まれているのを見ました」
積極的に試したことはないが、寝ている人に触れればその人が夢を見た場合そのイメージを同化で共有できることをモモカは既に知っていた。
「どうしてですか?」
首を傾げるモモカに「いや」とカカシは手をヒラヒラと振る。
「ちょっと聞いてみただけだよ。じゃ」
カカシの姿が角を曲がり見えなくなったその後に三人は顔を見合わせた。
「何が聞きたかったんだ今の」
「さあ……」
首を捻るチームメイト二人と同様にモモカも首を捻る。
「しかしうちはサスケにうずまきナルトか……役者がそろい踏みってところだな」
胸ポケットから取り出した煙草を吸いながら不動産屋の親父が呟いた。彼とはもう五年の付き合いになる。クリキントンとして裏任務を請け負うため夜に里を抜け出した五年前から付き合いが始まったのだ。今では持ちつ持たれつ、お互いに情報を提供し合いながらもこうして時たま雑談する仲になっていた。
「うちはサスケはともかくとしてナルトもか」
トウキも親父に一本強請り、煙草を吸いながら頭を垂らした。
「まあうちはの生き残りと、あのうずまきナルト……彼らを教え育て、一方で監視していくにあたって並みの忍には荷が重すぎるしカカシさん以上の適任はいないだろうね」
イクルが感想を述べる。モモカは今回初めてカカシが合格者を出すだろうという予感に満ちていたが、落とす方に賭けたトウキの手前「そうだね」と相槌を打つに留まった。
それにしても、カカシの最後の質問は一体どういう意味だったのだろうか。久しぶりに会ったカカシは全く変わっていなくて、モモカは自然と笑みが零れる。夢を共有できるかという質問で、何を知りたかったのだろう。カカシと、それから夢に関することといえば、思い当たる節がないわけではない。そうあれは、まさしくカカシへの恋心を自覚した日だった。幼い自分は思いがけず欲情的な夢を見てしまったのだ。あれはそうちょうど今くらいの季節で梅の花が盛んに咲き誇っていた。図らずともカカシの横で眠りこけてしまって――……。
「おーい、行くぞ」
既に立ち上がって歩みを進めていたトウキとイクルの声かけにモモカはハッと顔を上げる。あと少しで何かに気付きそうな気がしていたが、思考を止めて二人に追いつく。今日もこの後は任務が入っているのだ。
不動産屋の親父に別れを告げ歩き出す頃には、モモカはすっかり夢とカカシの関連性のことなど、忘れてしまっていた。
それから二週間後、モモカはサスケの口からアカデミーを卒業した旨を聞かされる。この数年間、サスケに体術の訓練を付けることを細々と続けていた。サスケの体術は今やチャクラを使い切った状態のモモカでは勝てないほどに上達していた。
「明日は早朝から演習だと」
最後の訓練の日、サスケは言った。演習なんてアカデミーで散々やったのに、と愚痴る彼にそれが実は下忍承認のための試験であると告げるほどモモカは野暮ではなかった。
「そっか、がんばってね」
元々サスケとの訓練は彼が下忍になるまでという約束であった。彼が下忍承認試験に落ちればまたあともう一年あるが、相手がカカシと言えど、いやカカシだからこそ、今回で受かるのだろうなと思っていた。
「きついから朝飯は抜いてこいってさ」
何となくカカシの意図するところが見えて、モモカは苦笑する。果たして馬鹿正直に言いつけを守るサスケがどこまでカカシに食らいつくだろうか。見てみたい気もしたがモモカだって暇じゃない。明日だって任務で国境付近まで行かなければいけない。
「全力を出し切っておいで」とサスケの背を叩き、子供と子供の師弟関係は終わった。
一週間ほどの任務から帰ってきて、下忍になったことをサスケから伝えられた時、モモカに芽生えた感情は羨望だった。
(いいなあ、カカシ先生が先生だなんて)
これから忍としてスタートする大事な時期を教え導き守ってくれる存在だ。彼の担当班になることはモモカにはもう叶わぬ夢で、もちろん現在のチームには、そして指導するハヤテには十分すぎるほどの満足感を得てはいるが、それでもカカシに守られる幼い忍達に羨望の気持ちを抱かずにはいられないのだった。
特別上忍のハヤテ率いるモモカ達第十五班は、ハヤテ以外の三人とも中忍だ。それも一年目で全員が合格したといういわば出世株で、こなす任務の量、その質ともに上からの評価も高い。中忍になってから早四年、個々で行う任務も増えてきた。その一方で、班単位での任務は最低でも一週間程度の中、長期任務であることが多かった。ここ数年カカシと顔を合わせることがなかった要因の一つでもある。
この日の任務も五日の計画で立てられ、その内容は他里の抜け忍の捕獲であった。
砂隠から五名の抜け忍が火の国に逃げ込んだとの情報があり、国際協定を結んでいる木の葉はその捜索任務をハヤテ班に振り分けた。
「砂からの情報通り、相手は五人ですね」
イクルが忍鳥からの情報をハヤテに報告する。鳥吉秘伝の技術によってイクルと感覚を共有する忍鳥は、ここ四年で十羽にまで増えていた。
イクルが簡単な敵の配置図を地面に描き、皆がそれを頭に入れる。
「それでは……ごほっ、手筈通りに」
ハヤテは四年半前の合同任務で水の国の抜け忍の毒霧を喰らって以降、日常的に咳き込むようになっていた。幸いにも身体能力は以前と同程度まで回復し任務にも今のところ支障はないが、三人とも、自分の責任だと思っていた。
ハヤテ含めて第十五班の四人は、首に下げたゴーグルを装着する。
「あと十秒……五秒……、かかれ」
イクルの合図でハヤテ、トウキ、そしてモモカの順で三人は飛び出した。ハヤテが刀で縫うように敵の間を流れ武器を落とし、それを握る手足に傷を与えていく。そのわずか数秒の間にも後方の忍達は臨戦態勢が出来ていて、ハヤテの刀を避け始める。続いてトウキが土遁の土石流を食らわし、砂の抜け忍達は一か所に固まった。最後にモモカが飛び込み、雷切を放つ。しかしそれは通常の雷切ではない。中忍試験の最終試験、最終試合で見せた拡散する雷切だ。敵を貫く威力はないが雷遁を込めた左手からのけたたましい光は周囲八方に拡散してしばしの間視力を奪う。モモカが対写輪眼用に、雷切を応用させた技だった。中忍試験ではこれが決め手となってトウキに勝利したのだ。
モモカ、トウキ、ハヤテはチャクラを素早く練る。目にチャクラを集中させるとゴーグルのグラスが黒くなった。チャクラに反応する材質で作られたそれは、モモカの兄からの中忍昇任祝いだった。
眩い光に視力を奪われた敵を、ハヤテとトウキ、モモカは素早く縛り上げていく。ミッションコンプリート。相手が中忍程度の実力であれば、もうモモカ達にとっては敵ではない。モモカ達は、既に特別上忍への昇任を打診されていた。
捕えた抜け忍達を砂の忍に受け渡し、それでも木の葉の里に帰ってもまだ日は高かった。火影への報告を済ませ火影塔を出ると、派手な金髪が目に入る。うずまきナルトだ。
(あの子がいるってことは)
モモカの胸は期待に踊った。続いて通りの角から姿を現したのはうちはサスケ、桜色の髪の女の子――恐らく彼女がスリーマンセルのもう一人だろう――そして、最後にカカシその人が見えて、モモカの心の内はパッと華やいだ。
「カカシさん達も任務帰りですか」
にこにことモモカがが問いかけた。意外にも、可愛らしい下忍達を引率するカカシ先生は、なかなか様になっている。
「ん?兄ちゃんたち何かどーっかで見たことあるってばよ」
ナルトが不躾に指差してきた。生意気なのは相変わらずみたいだ。
「……数年前に一度、ラーメン一楽で会ったことがあるね」
イクルがナルトに向けて優しく微笑む。
「ふーん……」
ナルトはいまいちピンときていないらしかった。
「ふふ、でも自己紹介はまだしていない。僕らは第十五班の中忍だ。僕はイクル、こっちの背の高いのがトウキで、こちらのくノ一はモモカ。よろしくね」
大人っぽい落ち着いた穏やかなイクルの物腰に、幼い下忍達も慌てて自己紹介する。
「あ、初めまして。春野サクラです」
礼儀正しくサクラが少し緊張した面持ちでお辞儀した。
「……うちはサスケだ」
今まで散々訓練をつけてきたサスケが他人行儀に喋るのがモモカには可笑しかった。
「俺ね、俺ね、うずまきナルト!いずれこの里の火影になる男だってばよ!」
大口を叩いたナルトにモモカ達は一瞬ぽかんとする。しかし笑いも馬鹿にもしなかったので、サクラとサスケは意外そうな顔でモモカ達を見上げていた。
「そっか。じゃあトウキのライバルだね」
「……ライバル?」
ナルトまでも、虚を衝かれた顔で聞き返す。きっと、火影になるという夢に対して馬鹿にして笑う者はいれど真面目に取り合う忍はきわめて少なかったのだろう。カカシはいつもの何を考えているか分からない飄々とした表情のままで、しかしわずかに目を細めてそのやり取りを眺めていた。
「まあ負けるわけねえけどな」
トウキがニヤリとする。
「今日はなんだ、遠足帰りか?」
少し泥が付いて汚れたナルトのズボンと、腕の擦り傷を見てにやつくトウキは完全に子供に絡む輩だ。全く、ナルトみたいなやんちゃなのはほっとけなくて、構いたくて仕方ないのだろうとモモカとイクルは苦笑した。
「遠足じゃねー!任務だ、ニンム!」
口を尖らせて抗議するナルトにがはは、とトウキは大口開けて笑った。
「お前なんか、俺の方こそ負けねーってば!」
ムキになるナルトに水を差したのはカカシだ。
「ま、少なくとも今のナルトじゃ何年かかっても勝てないだろうな」
カカシの言葉にナルトが勢いよく振り向く。
「……そんなに強えのか?そうは見えないってばよ」
疑惑に満ちた目でモモカ達をじろじろ眺めまわしたので「失礼なガキだな」とトウキが苦言を呈した。
「こいつらは下忍の時からトップの成績を常にあげている。一年目で中忍試験にも合格したエリートだぞ。それに何より強い。ここ数年新人の中じゃ間違いなくピカイチ……って聞いてないなこら」
モモカはカカシがこんなにも褒めてくれていることに大層感激していたが、カカシの話の途中で明後日の方向を見だしたナルトは完全に拗ねているようであった。
「ふーんだ!俺ってばこれから修行して、今よりもっと強くなるもんね!」
すたすたと歩き出したナルトにサスケもため息を吐く。
「俺ももう帰っていいか」
「あ、サスケ君待って……それじゃ、さようなら」
さっさと帰り出すサスケに慌てて後を追うサクラ。この子達をまとめ上げるのも、なかなか骨が折れそうだ。
「全然センセイの威厳がねえじゃねえか」
おかしそうに笑うトウキにカカシは困ったように眉を下げた。
「ま、実力はまだまだだけどじゃじゃ馬加減でいうとお前ら以上かな」
あはは、と三人は笑う。
「なあ、久しぶりに飯でも食いに行かねえ?」
トウキの提案にモモカは心が躍った。
「残念、アスマが良いモツをもらったからって今夜は鍋をする予定だ。ホント二人じゃ食べきれないくらいもらってきて……あ、」
カカシが閃いたように目を開く。
「そうだ、お前らも食べに来るか?俺の家だから狭いけど」
モモカの心は急上昇した。四年ぶりに再びカカシに会うようになって、こんな展開になるだなんて。
「お、もつ鍋いいねー。じゃあ酒持ってくわ」
「すみません、ご馳走になります」
「じゃあ野菜とか、他の食材買ってきますね」
トウキはルンルンで、イクルも頭を下げた。モモカに至っては跳ね飛びそうなはしゃぎ顔だ。
「ハヤテは?一緒じゃなかったのか」
「いや任務は一緒だったけどさっさと帰ったわ。彼女とデートだと」
トウキは意地悪い顔で笑う。この四年でハヤテは卯月夕顔と付き合い始め、トウキもイクルもそのことを知っていた。カカシは少しの思案の後「あー」と思い至ったので、彼も何となくは知っているらしい。
「そうかじゃあ六時半くらいに家に……って、場所知らないか。迎え行くから、第四演習場の東側まで来てくれるか」
モモカはにこにこ顔のままで、何度も頷いた。