遥か先を見据える子供たち


 モモカが目覚めると、そこは病室であった。
 しんと静まり返った室内に人の気配はない。白い天井にベッドを囲うクリーム色のカーテン。ピンと張ったこれまた白いシーツは清潔なのだが余所余所しい匂いがした。

 体に思うように力が入らない。正真正銘力を使い果たしたみたいだ。重い頭を動かさずに目だけで視線を下げると左腕にはチューブが繋がっていて、点滴を受けていることを知る。一体今は何時なのだろう。あの後どうなって、自分はどれだけ寝ていたのだろう。
 不気味で凶悪なチャクラを持った男――大蛇丸と、その部下らしきフードを被った男。彼らとの遭遇をひどく遠い昔を振り返るように思い返しながら、ぼんやりとした頭で天井を見つめる。
 それから程なくして、部屋のドアが開いた。気配でイクルだと分かった。
「あ、モモカ!気が付いたんだね!トウキ!モモカが……」

 それからはひっきりなしに人が出たり入ったりした。医者や看護師が何か喋りかけたり血圧を測定したりしているのは分かったが、とにかく体に力が入らなくてモモカはただなされるがままになっていた。視界の隅に見舞いの果物が置いてあるのが見えて、渇いた喉がごくりと鳴る。文字通り喉から手が出るほど欲しかった。
 一通りバタバタとした人の行き来が終わり、モモカはふとベッドサイドにハヤテが立っていることに気が付いた。そしてその隣には小柄な老人がいることも。三代目火影その人だ。
「火影様、まだ話が出来るような状態では……」
 先ほどモモカの血液を採取した年配の看護婦が咎めるような口調で話す。モモカは震える手を懸命に伸ばした。
「なんです?」
 伸ばした手に気付いたハヤテに、モモカはカサカサになった唇を必死に開く。
「お……」
「お?」
「……おなか……、すいた……」
「……は?」
 予想だにしなかった言葉にハヤテは面食らう。その後ろから顔を出したのはトウキだ。
「言うと思ったぜ、ほら」
 トウキは綺麗に剥かれた果物の盛られた皿を差し出した。瑞々しく香しい果物の匂いにモモカの瞳孔が開く。続いていつの間にか姿を消していたイクルもひょっこり顔を出した。
「絶対お腹ペコペコだと思ったから出前頼んでおいたよ。かつ丼と肉うどんと助六寿司と餃子定食と……とりあえず果物はそれまでの繋ぎね。すみません火影様、ハヤテ先生。ちょっと食べれば喋れると思います」
 イクルの言葉に看護婦は激昂した。
「何を言っているんですか!まだ絶対安静ですよ!いきなり固形食なんか……」
 言い終わらないうちに、モモカは果物に手を伸ばしていた。
 わなわなと震える看護婦を横目に、皿に盛られた果物を次から次へと口に運ぶ。ものの数分で、あっという間に平らげてしまった。
「ふう、ちょっと、落ち着いたかな」
 まだ物足りないというような口調で、しかし大分穏やかな顔でモモカが言うと、三代目は大口を開けて笑い出した。ハヤテは額を手で押さえ、部下の言動に気恥ずかしそうに頭を抱えている。
「わはは、よいよい!見かけによらずなかなか逞しいわい」
 ひとしきり笑い終えると、さて、と三代目は看護婦に向き直った。
「大事な話を聞かねばならぬ。少しばかり席を外してくれるかの」
「もう、火影様まで……。30分だけですからね」
 納得いかない顔で、看護婦は病室を後にした。

 看護婦が退出すると三代目はモモカを真っ直ぐ見据える。和やかな雰囲気ではあるものの、射るような三代目の眼差しに、ベッドの上で上半身だけを起こしたままのモモカの背筋も自然と伸びた。
「大体のところは聞いておるが……改めて聞かせてもらおう」
 看護婦に話しかける時とは違う口調に、穏やかながらもこれはお願いではなく断固とした命令であるとモモカは悟った。
「すでにお伝えしている情報もありますが、モモカの頭の整理のためにも一からお話します」
 イクルの申し出に「うむ」と三代目は頷いた。
「第二の試験の一日目、試験を開始してすぐに僕たちは砂の忍と遭遇し戦闘しました。彼らに勝利し休息を取っていると誰かが監視している気配に気が付きました」
 そうそう、そうだった、とモモカも記憶を思い返す。気が付いたのは同化の力によるものなのかモモカの超人的な危機察知能力と、監視に出ていたイクルの忍鳥からの情報(厳密に言えば鳥吉秘伝の、直接忍鳥の視覚を通してイクルが見た情報だ)とがほぼ同時だった。
「僕らは監視に気付いていないフリを続けて他愛のない話をしながら、敵を迎え撃つ算段を立てました。敵の位置からは手元は見えないので雑談しながら手持無沙汰に地面に落書きをしているように見せて作戦を立てていたのです」
 三代目は黙って耳を傾けていた。今の話だけでも、ついこの間下忍になったばかり子供たちのレベルを遥かに超えていた。トラブルに遭遇した時の対処、機転、冷静さがいくつか修羅場を抜けてきた忍のそれである。いや、この子達はあの悲劇の合同任務の生き残りだ。確かに地獄は一度味わっている。しかしそれ以上に、何度も危険を掻い潜ってきた気配がする。それも大人に頼らず、自分達の力だけで、自分達の知恵だけで、どうにか工夫しながら何度かの死闘を経験したのだろうと、三代目は直感した。
 そう言えば、一年ほど前に下忍承認前の子供たちが夜な夜な里を抜け出しているとの報告があったな――――……。決して褒められたことではないが、幼気な子供たちの想定外の頼もしさに思わず感心してしまう。
「そして監視していた者が離れるとすぐに迎え撃つ準備を整えました。相手があの三忍のうちの一人、大蛇丸だと知ったのは後になってですが、敵の力が巨大かつ邪悪で簡単に逃げられないことは容易に想像できたので、何とか裏をかいて隙をついて逃げるしかなかったのです。監視をしていた者は大蛇丸と合流してすぐにこちらに向かってきました。まずモモカが影分身を作り、本体は身を潜めます。影分身の方に気を向かせて囮にするためでした」
 下忍レベルの「分身の術」ではなく実体を生み出す「影分身」をマスターしているのか、と三代目はさらに感心した。そんな三代目の心の内を察してか、ハヤテは自分のことのように誇らしい気持ちになった。
「奴らが僕たちの前に現れると、僕たちは何も知らないフリを続け、恐怖を装い、出来る限り取るに足らない子供だと思わせることに努めました。その一方で、影分身のモモカは素早い身のこなしで雷切――正式名称は千鳥ですね――を放ち大蛇丸ではない方の忍に傷を負わせ只者じゃないと印象付けます。さらに奴らの関心を惹く発言をし、完全に矛先をモモカへと向けさせました」
 いつの間に千鳥を使えるようになったのかとハヤテは目を瞠った。少し前までは使えなかったはずだ。教えたのはカカシか?一下忍に手取り足取りに物を教えるような人ではないはずだ。
 あの合同任務の後、死に物狂いで努力してきたのだろう。
「関心を惹く発言、とは?」
 三代目は鋭い指摘をした。
 イクルとトウキ、そしてモモカは目を見合わせた。能力のことを話すかどうかは、モモカに任せるといった意味であることも当然分かった。モモカは頷く。
「実は……、私は触れた対象の思考を読むことができるんです」
 里の長である火影と、直属の上司であり指導教官であるハヤテにはいつか話さなければならないと思っていた。
 モモカは同化能力について自分の知り得る限りを話した。触れた相手の心の中のイメージが見えること。訓練によって思考さえも読むことが出来るようになったこと。戦闘の中で相手の動きを予測することに使っていること。しかし相手が熟練の忍で、拒む気があれば拒むことができること。それ故、この能力のことを極力他人に話してこなかったこと。また、自然の中ではより同化の能力を発揮しやすく、また夜であればなおのことそれが顕著であること。同化の能力を使った後はとてもお腹が空くというようなことまで。
「それで、フードの男に攻撃を仕掛けて触れた瞬間と、カウンター攻撃を喰らった瞬間に相手の思考を読みました。残念ながら相手の名前や正体は分かりませんでしたが……。分かったのは相手の年齢が14歳であるということ。大蛇丸の手下でスパイ活動をしているということ。フードの男自身、自分が誰だかよく分かっていないような節があるということ。それから、男の心根の深い場所にいる、マザーという存在。それらを口にし、奴らの関心を集めました」
 モモカの突拍子もない話を、果たして三代目とハヤテは信じてくれるだろうかと内心ドキドキしながら喋り終える。しばし二人は考え込むように黙っていた。

「……俄かには信じ難い話ですが」
 やがて口を開いたのはハヤテだった。
「しかし、一方で妙に腑に落ちたところもあります。モモカの読みの速さは、“勘が良い”で片付けるには些か強引なところがありましたからね」
 そしてハヤテはちらと三代目を窺い見る。三代目は口髭の下で唸っていた。
「……まずは続きを聞こう」
 三代目の言葉にイクルは頷いた。
「それから、奴らの関心がモモカの分身体に向いたところで、トウキが大蛇丸の召喚した巨大蛇に飲み込まれました。正確にはトウキが巨大蛇を煽り、噛みつかれそうになるところを自ら突進し胃の中へと入りました」
 イクルの説明にトウキは肩をすくめた。
「苦労したぜ、牙に当たらないように腹ン中入るのは。牙からは猛毒が出てたからな」
 簡単に言ってみせるが、毒牙の間を掻い潜り突撃する瞬発力と度胸は並大抵のものではない。胃酸の中でもある程度の時間溶けずに済んだのは、トウキに生命力の強いうずまき一族の血が流れているからなのだろう、とモモカは内心思った。
「トウキを飲み込んだ巨大蛇から僕は必死になって逃げました。同時に、モモカの分身体は反対方向へと逃げ出しました。大蛇丸がモモカを追ったのは想定通りでしたが、フードの男もモモカを追いかけるかは賭けでした。運良く二人ともモモカを追いかけてくれたので助かりましたが……巨大蛇をそれだけ信用していたのでしょう。ある程度大蛇丸たちから距離を離したところで、トウキが土遁の忍術を使い巨大蛇の腹の中から突き破って出てきました。そして身を潜めていたモモカの本体の方と合流し、全速力で走って塔まで辿り着きました」
 モモカはつい先ほどのことのように思い出していた。とにかく無心で走ったのだ。今のモモカが一日に撃てる雷切は二発だ。そのうえ影分身に、同化の能力を使った戦闘。限界はとうに超えていた。しかし逃げなければ命はないので、走るしかなかった。三人とも、最後はがむしゃらに大声をあげながら走っていたような気もする。
「そういえば、最後の方はほとんど記憶がなくて……塔に辿り着いた時のことも覚えてないんだけど」
 モモカが言うと、当たり前だ、とトウキが返す。
「お前、途中で電池が切れたように気絶したんだぜ。走ってる途中に」
「大量のチャクラを使っていたからね……きっと分身体の方もやられて、正真正銘チャクラを使い切ったんじゃないかな。モモカが倒れた後はトウキが担いで塔まで走って行ったんだよ」
 イクルの説明にそうだったのか、とモモカは驚いた。トウキもよく、そんな体力が残っていたものだ。
「そうか……そうだそうだ。分身体は最後大蛇丸にやられて、でも距離をだいぶ離したので、時間的にも追いつかれずに塔まで辿り着けると分かって……分身体の記憶が本体にフィードバックされた時に安心しちゃったんだ」
 へへへ、と頭を掻くモモカにトウキはため息を吐いた。
「安心しちゃったんだ、ってお前なあ……まあいい。で、モモカの分身体が最後奴らと対峙した時に新しく得た情報はないのか?」
 確かに、トウキとイクルはモモカの分身体の記憶を知らないのだ。三代目とハヤテも同様にモモカの説明を待っていた。
「ええと、最後は追いつかれて大蛇丸に首を噛みつかれてやられたんですけど。何のために木の葉に戻ってきたのか、聞きました。答えてくれなかったけど。でも噛まれた瞬間に同化で読んで分かったのは、奴らが人材集めに来てたってこと。でも本当の目的は別にあって、それがなんなのかはよく分からないんだけど……あ、確か写輪眼て単語が見えた。それと、五年後っていう言葉」
 モモカの言葉に一同は顔を見合わせる。皆いまいちピンときていなかったが、三代目だけは眉をぴくりと動かしたのをモモカは確かに見た。その顔には深い皺がくっきりと刻まれていつも以上に老けた印象を与えた。
「ずいぶん曖昧なことしか分からないんだな」
 トウキの指摘にモモカも考える。
「うん……たぶん、私のチャクラと集中力が限界だったのもあるし……。あと、なんていうか、大蛇丸は精神構造が複雑だった」
「精神構造が複雑?」
 イクルが興味深げに尋ねた。
「そう……複雑。同化で相手の心を読むのって、今まであんまり意識はしなかったんだけど……うーん、心の中に、たとえばパズルのピースがあって、そのうちの一部に自分がなるみたいなことなんだ、きっと。うん。大蛇丸のパズルはとても細かくて、ピースの数がとにかく多くて、しかも一つ一つのピースの形が複雑な形をしている。だから読む……というかそのピースに一体化するのがすごく難しい」
 考えをまとめながら口にすることで、モモカ自身同化の能力について少し理解が深まった気がした。そうだ、もともとこの能力を“同化”と呼ぶようになったのも、単に外から相手の心の内を見ているのではなく、むしろ相手の心と一体化して感じていると、無意識に自覚していたからなのだ。

 しばらく静かに話を聞いていた三代目が口を開く。
「モモカ、お主の話を聞いておるとその能力はどうも仙術に近いような気がするのう」
「……センジュツ、ですか」
 知ってる?とトウキとイクルを振り返ったが二人とも首を横に振る。
「仙術とは、自然エネルギーを自分の中に取り込み、自身のチャクラと融合させて扱う術のことじゃ。しかし習得には類まれなる才能と膨大な修練を要する。事実、仙術を使える忍を儂も数人しか知らぬ」
 モモカは目をぱちくりさせた。三代目は加齢で垂れさがった瞼の奥の、鋭い眼光でモモカを見据える。
「仙術を習得するための特別な修練を行っていない者が使えるとは考えにくいが……相手と一体化して同化することや自然の中で力を発揮することは仙術の特徴にもあることじゃ。腹が減るのも消費したエネルギーを回収しようとしておるのかもしれん」
 ここでトウキが「モモカのはただの食い意地だろ」と茶々を入れたのでハヤテが目で諫めた。そんな様子に火影はふ、と口元を緩める。
「しかし儂も仙術使いは数人しか知らぬ上にその者たちは皆、妙木山の大ガマの元で修行しておる。当然、広いこの世には他の系譜の仙術とその霊場は少なからずともあるだろう」
 モモカは兄の話を思い出していた。モモカだけでなく、イクルとトウキも、モモカの亡くなった祖父がモモカと同じような能力を持ち、かつては遠い北の地から木の葉の里に流れ着いたこと、そのルーツに思いを馳せていた。もしかしたら、かつて先祖が暮らしたその土地には仙術を習得する霊場があったのかもしれない。

 三人が考え込んでいると、病室のドアがノックされた。返事をすると、威勢の良い挨拶とともにドアが開き美味しそうな匂いがなだれ込んできた。
「ちわーす!ご注文のかつ丼、肉うどん、助六寿司と餃子定食です!」
 ホカホカの湯気と匂いに、忘れていた空腹が突然思い出される。
 待ってました!と目を輝かせる子供たちにハヤテは慌てて止めに入る。
「こらこら、まだ火影様の話が」
「よいよい。聞きたい話は粗方聞けたしのう」
 三代目は苦笑していたがその目は温かみがあった。
「そうじゃ、最後に一つだけ……大蛇丸とともにフードの男が運よくモモカの分身体の方を追いかけたが、もしフードの男が巨大蛇とともにイクルの方を追ったらどうするつもりじゃった?」
 三代目の問いにイクルが答える。
「その時は巨大蛇の腹を突き破ったトウキと物陰に身を潜めていたモモカの本体が奇襲をかけ、その隙をついて僕が遠隔攻撃で止めを刺すか幻術にかけて足止めする予定でした。……まあ、実際はそんなうまくいったかは疑問ですが」
 謙遜する彼らに、その無垢な顔に、三代目は目を細めた。
 つくづく、抜かりない子供たちだ。そしてこの子供たちの顔に、いつかの面影が重なった。遠い昔だが昨日のことのように思い出せる。遥か先を見据える子供たち。溢れる才能。聡明な瞳。若くて力強い生命力。何より他の子達とは一線を画する強い意志。
「……まだまだ発展途上のひよっこ未満じゃが、お主たちの光る才覚にはかつての儂の教え子たちを思い出させるものがある……三忍などと言われている者たちだ。大蛇丸もその一人じゃがな」
 待ちきれずにかつ丼の蓋を開けたモモカの手が止まる。
「また三忍のうちの一人、自来也は、仙術の使い手じゃ。今は里にはおらぬが……もし機会があるのならば、能力について聞いてみるとよい」
「……自来也、さま……」
 モモカももちろん、名前くらいは聞いたことがある。伝説の三忍、自来也、綱手、そして大蛇丸の名は木の葉隠の忍なら赤ん坊でも言えるくらいに有名だ。
「さあ、冷めないうちに食べると良い。病み上がりのところ長々とすまなかったの。最終試験も楽しみにしておるぞ」
 三代目が病室を後にすると、ハヤテもそれに続く。しかし病室を半分出かかったところで、彼は振り向いた。
「言い忘れていましたが、第二次の試験、君達はこれまでの最短記録を更新しました。とても誇らしいことです。君達には毎度ハラハラさせられますが……しかし、君達はいつも乗り越えてくれる。私の想像以上の成長を遂げて、必ず強くなって戻ってくる。あの大蛇丸に遭遇したというのに……生きて帰ってきてくれて、本当によかった。まずは第一の試験、そして第二次の試験、合格おめでとう」
 ハヤテはニッコリと微笑んだ。隈の強い目元が、年相応に若々しく見えた。
「じゃ、私もお暇しますが……早く食べてしまいなさい。あの看護婦は厳しいですからね」
 言い残し、退室したハヤテに三人は口々にお礼を言った。

 それから三人は大慌てで食事をかき込んだ。特に心身ともにエネルギーを使い切っていたモモカはすごい速さで平らげていく。なんとモモカは丸二日も寝ていたのだと、食べながらも二人に聞かされた。
 そして無事に第二次の試験が合格となったこと。次の試験はトーナメント方式の試合が行われること。そして先ほどハヤテの言った通り第二次の試験は一番乗りで塔に辿り着いたことも知って、モモカは素直に喜んだ。惜しむらくは、塔に辿り着いた瞬間の喜びを二人と分かち合いたかった。気絶していたのだから仕方のないことだが。
「さっき火影様が最終試験て言っていたけど、次の試験で最後なの?」
 かつ丼を食べ終え助六寿司も半分ほど片付けたモモカが、トウキの餃子に手を伸ばしながら尋ねる。
「あっ、おい、一個だけだって言っただろ、モモカの巻き寿司も寄こせよ……おう、次の第三の試験で中忍試験は終了。あ、これがトーナメント表な」
 モモカの皿からヒョイと巻き寿司をさらい、トウキは懐から巻物状の紙を取り出した。
 そこにはたしかに、トーナメント表が書かれており、モモカの名前は一番右端にあった。右側のブロックの最後の試合だ。相手はその姓から日向一族の者だと分かった。
「イクルもトウキも別ブロックか……じゃあ、決勝戦は二人のうちのどちらかとだね」
 モモカの何気ない発言にトウキもイクルもニヤニヤする。
「勝ち上がる気満々だね。さっきも説明したけどこの試験は中忍としての適性を見るもので、勝敗が直接合否に関係しているわけじゃない……ま、僕もトウキももちろん勝ち上がるつもりだけどね」
 三代目の前ではしおらしく隠していたイクルの勝気な瞳にモモカもニヤッと笑う。
「最終試験まで一カ月、その間は任務も免除される……か。負けてられないな」
「モモカが寝ている間に、俺はもう修行を始めてるぜ」
 トウキの挑発にモモカは鼻の頭をかく。
「私だって食べればすぐに」
 動けるようになるもんね、という言葉は飲み込んだ。
 怒りに満ちた足音と、ドアを激しく開ける音にかき消されたからだ。

「面会時間は終わりです!!食べ物も!こんなに!ここをどこだと思っているんですか!!」
 三人は慌てて残りの料理を口の中に放り込んだ。



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