「ねえ主、今日って何の日か知ってる?」
初春を迎えても、やはり二月の夜は寒い。
行灯の側で地図を転がし次の戦の敵陣について考えていれば、傍に敷いた布団から腕を伸ばしていた清光がそんなことを言い出した。
「んー……?」
つい生返事を返すと、清光がふてくされる気配がして慌てて振り向く。案の定、清光は頬を膨らませてこちらを睨みつけていた。
「主、ちゃんと俺の話聞いてる?」
いかにも拗ねてますといった顔をしているのに、握りしめた手は反対にぎゅうと力を込めるものだからなんとも可愛らしくなってしまう。
表情を緩めて「ごめんごめん、聞いてるよ」とその頭を撫でれば、清光は満足そうな笑みを浮かべてそのまま腕ごと布団の中へ引きずり込んできた。
「わ、ちょっと、清光」
「戦なんてもういーって。ちゃあんと俺が勝ってあげるから」
悪戯っぽく笑ってそう言う清光に、やれやれと歎息する。
実際、清光は強い。慢心は危ぶむべきだが、やはり次の戦も負ける心配をしているわけではないのだ。
「けどさ、なるべく清光に怪我して欲しくなくて」
「ふふ、ありがと」
愛されているという自覚を得てから、清光は随分と自信をつけた。はじめは少しでも怪我をすればめそめそと泣いていたのが、今ではこちらが気をつけなければ幾らでもボロボロになって勝ちを獲りにいってしまう。
勝利を上げることで役に立ちたいのだと清光は言うが、清光が無茶をする度に装備する余地も無い守り袋をせっせと買いに行ってしまう此方の身にもなって欲しいと思うこともしばしばだ。
「でもさ、俺はそろそろ構ってほしー」
言うや否や、くるりと俺を下にして、清光が腰の上にのしかかってきた。
自ら軽い体重の肋をなぞりながら衣をたくし上げ、興奮したように熱く息を吐く。
「……それで、今日は何の日なんだ」
「ネコの日」
なあん、と猫の真似をして清光が舌なめずりする。
ちろりと覗いた赤い舌は、どちらかというと誘惑する蛇のようだと思った。
「今やれば、つらいのはお前の方だぞ」
「嬉しいのは、主もでしょ?」
まったく、一体どこで間違えたのやら。
ただ媚びることから甘えるということを覚えた清光は、いつの間にかこんな誘い上手になってしまった。
――とはいえ、そんな清光を愛しているのもやはり事実。
俺は再度深いため息をついて、晒された白い腹に食いついた。