小説 | ナノ
 「眠気とフラグとDVD」

「いらっしゃいませー」

出てきそうになった欠伸を噛み殺して、
入ってきたお客様に挨拶をする。

あ〜眠い。
寝られるなら、
立ったままでもいい。
そのくらい眠い。

なんでよりにもよって
昨日夜更かししてしまったんだい私。


《今日はバイト終わったら
面会に行って、
その後太陽君のお見舞い行く予定
だったでしょ!》

《いやでも
イナズマジャパンのDVD見始めたら
止まらなかったんだよ!!
気付いたら朝だったんだよ母ちゃん!!》


今の脳内会話(?)で理解頂けた様に、
そう……。

私は昨夜から翌朝にかけて
《イナズマジャパンの軌跡》を
一気見してしまったのだった。

違うんです!
一気見する気はなかったし、

そもそも
見る予定じゃなかったんです!

今日はバイト後に
色々予定入ってるから

明日(土曜)の夜見ようと
思ってたんです!


でも、


《あんたがこの町に住んでて、
サッカーを知ってるなら

革命派のやつだって可能性は
まだ捨てきれないからだ。》


昨日の雪村君の言葉が
お布団に入ってから
急に頭の中に浮かんで。


正直を言うと、
鬼道さんや店長の言葉も
まだ完全には
消化し切れてなかった。

2人の言葉は
私の心の中で
パズルのピースとしてはあるものの、

組み合わせても
ひとつの形にはならない。

あ、なんか
凄く頭の良い人が言ってそうな
表現じゃないこれ?

え?そんな冗談は求めてない?
アッハイ。真面目にやります。

えーと、
もうこの2つだけで
私は悶々としてたんだけど、

そんな所に上の雪村君の言葉が
新しいピースとして入ってきまして。

でも、結局
これも組み合わせて考えてみても、

謎が深まっただけで
答えには辿り着きませんでした。解散!


「うーん……
一歩ずつ前には進んでる気はするのになあ」


でも、
確信には中々触れられないから、

なんだろう。
焦らせられてる感じが凄いんですよ。

あ、これが
港で噂の焦らしプレイですか?

っと、
話を戻すと、
そんなこの焦らしプレイ(仮)に
嵌ってしまった昨夜の私は

寝るのを諦めて
何かヒントがある事を祈りつつ、
DVDをプレイヤーに挿入した。

見た感想は、

いや〜!
冗談抜きで本当に凄い試合ばっかりだった!
凄い!何が凄いって全部!
最後はこれに尽きた!


日本代表があんな試合をすれば、
そりゃ国内で
サッカーも人気になりますわ!

実を言うと、
まだ少し胸がドキドキしてる。

そういや、見ながら
「うおああ」とか
結構奇声出しちゃったけど、
隣の人に聞こえてないといいな!

「あ、」

そうだ。

ふと、思い出したけど
イナズマジャパンの選手の中には
白恋中出身の人がいたな〜

確か、えーと……。

ポジションは基本FWだけど
DF技もシュート技も持ってて、
オールラウンダーって解説されてた。

「あ、お次でお待ちのお客様
こちらのレジにどうぞ〜」

それで、
必殺技の時の動作や声から
ワイルドな印象を受けたんだけど。

「お待たせしました」

でも、インタビューの時の声は
凄く優しそうな声だったなぁ。

「お願いします」

あ、そうそう。
こんな感じの声。

「はい、お預かりします」

顔は少女漫画に出てきそうな
爽やかな王子様系。

でも、どこか
ふわふわした印象も感じた。

言葉にするなら、
そうそう!

「袋は、」

その名前のまんま、
吹雪ーーー。

「おつけ………しますか?」

「あ、お願いします」

絶句、というのは
きっとこの事を言うのだと思う。

そして、
それでもちゃんと接客台詞を出せた
自分は偉いと思います。



ーーーー《彼の名前は吹雪士郎。
イナズマジャパンの選手の1人であり、
雪村君が通っている白恋中出身。

大学卒業後は、
プロリーグの道に進んだが

去年の初めに
母校である白恋中のコーチに就任する。

しかし、
ホーリーロード開始1ヶ月ほど前に
突如コーチを退任。

プロリーグに戻るかと思いきや、
関係者によると
連絡が取れていないらしい。

雪原のプリンスとも呼ばれ、
男女問わず熱い人気があった
吹雪士郎選手。

彼はサッカー界自体から
姿を消してしまったのだろうか?

(wiki先輩から抜粋)》

えーと、あの……wiki先輩……?

その吹雪士郎選手は、
現在何故か私の働いているコンビニで
おにぎりとお茶を買っているんですが
それは一体……どういう……。

え?(現実逃避)

え?(現実直視)

「ご、合計で
359円になります。」

いや私はミーハーとかではないので
ちゃんと他の方と同じ様に接客します。

というか、驚きの方が勝ち過ぎて
ドキドキみたいな気持ちは
出てこないです。

へ、変装とか
なさらないんですね……?

ここ一応
円堂守監督の出身地で、

そして
今の雷門中の活躍もあって、

現在のサッカー熱は
多分他の町と比べると
数倍あると思うんですけど……

だ、大丈夫なんですかね……?

wiki先輩によると、
そのルックスから
風丸選手と女子人気を
二分しているんじゃ……?

「ん?あれ、君……」

トレイからお金を受け取って
レジに入れる流れの間で
思わず目が合う。

慌てて逸らそうとしたら、
意味深なその呟きが耳に入った。

「300と60円お預かりします。」

あれって何!?
君って何!?

考えられるのは
円堂監督や鬼道さんから
私の事について聞いていた説だけど、

話だけなら
姿は分からない筈。

写真なんて
音無先輩とも撮ったことないから
姿を知ってるのはおかしい。

あー!なるほどね!
完全に理解した。

昔の知り合いに似ていた説!
これ!これだ!

《雪村君は……
サッカー、好き?》

《はあ?》

あ〜やめて私の頭!
関連場面集流し始めないで!
それフラグ素材ってやつだから!


「こちら1円のお返しになります。」

「ああ、ありがとう。」

あ、大丈夫そう?
やっぱり過去の知り合いに似てた説?

何か言いたげな目をしている様に
見えたのはきっと脳の錯覚だ。

「ありがとうございました。
またお越しくださいませ。」

最後に小さく一礼をして、
その背中を見送る。

それにしても、
中学生の時から
あんまり顔変わってない人なんだなあ。

「はああ……」

出口を抜けたのを確認したら、
その瞬間、どっと肩の力が抜けた。

胸にそっと触れてみると、
心臓がばくばく音を立てているのを
振動で感じた。

「あれ?
なまえちゃん、どうしたの?
恋でもしちゃった?」

「寝言は寝て言ってください。
在庫整理手伝いませんよ」

「なんだ〜なまえちゃんにも
やっと春が来たのかと思ったのに
違うのかあ」

「店長の頭部に
冬を呼んであげましょうか?」

「い、いや〜それは
ご遠慮願いたいなあ」

こんな圧迫面接並みのプレッシャーを感じる
恋があってたまるか!!

「み、見なきゃよかった……」

特典まで全部一気見した自分を
今度は二重の意味で後悔した。

眠気?
そんなのは吹っ飛んだよ。
特に惜しくないやつだった。

「なんなんだよ〜もう〜……」

ああ……太陽君と話してる時に
今の事思い出しちゃいそうだなあ……。











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