小説 | ナノ
 “苛立ちと覚悟”



「……疲れた」

電車に乗り込んで
座席に座った瞬間、
どっと今迄の疲れが出た。

あの女が声をかけてくるまで、
なんだかんだ
30分は辺りを歩き回っていた。

でもその結果、
街から外れた上に

人気のない河川敷に着いてしまったから
本当に散々な1日だった。

なんで都会は
似たような建物ばっかりなんだ。
後道が複雑過ぎる。

「それは俺の台詞だ。
お前がいなくなってから、
俺達がどれだけ探したと思ってるんだ。」

「白咲」

心の中で都会への
文句を溢していると、

白咲が
俺への文句を言いながら
隣に座ってきた。

「だからそれはお前が、」

「ああ分かった分かった」

「………」

経緯はどうであれ、
探させてしまったのは事実なので
流石にこれ以上は言い返さなかった。

それこそ、
迷子になって駄々をこねてる
餓鬼みたいだしな。

「親切な人で良かったな」

「は?」

「あのお姉さんだよ。
今時都会であんなに親切な人
中々いないぞ。」

「……」

やっぱりそうなのか。

親切ってよりは、
本人が言ってた通り
世話焼きって感じがしたけど。

《雪村君は……
サッカー、好き?》

ふと、あの女が
俺に投げかけてきた質問が
頭を過ぎる。

脈絡が無さすぎて、
思わず返答に詰まった。

……いや、それだけじゃ
なかった気が、する。

なんだ、これ。
すげー苛々する。

「……それにしても、
お前も中々言うようになったな」

「?何がだよ」

自分でも訳が分からず
悶々としていると、

黙り込んでいた白咲が
そんな言葉を投げかけてきた。

中々言うようになった、って
言われても、

別に変わった言葉を
喋った覚えなんてないんだが。


「いや、雷門中って言えば
今じゃ革命派の中心だろ?」

「そんな事分かってる」

「別に今のは
お前に対しての嫌味で言った訳じゃない。」

「じゃあ、なんだよ」

それ以外でお前が雷門の話題を
出した事なんてなかっただろ、と

心の中で吐き捨てる。

「稲妻町って言えば、
革命派の雷門中がある場所でもあり、

今の少年サッカーの流れを作った
中心人物の
円堂守が住んでいた町だ。

あそこに住んでいる人も
ほぼ革命派と言ってもいいだろう。

そんな相手に
《明日の試合を見ろ》とは
中々の挑発だと思ってな。」

「!
俺は別にそういう意味で
言った訳じゃない!」

それに、あいつは
革命派って言葉を出しても
知らないって反応だった。

だから、だから?

だからなんだよ俺。
嘘をついてる可能性だって
別にあるだろ。

「違うのか?」

「あ、いや……」

ああくそっ!

あの時、
俺はーーなんであんな事を言ったんだ。

あっちからしたら、
白咲が今言った通り
挑発にしか聞こえない言葉だった。

でも、違う。
じゃあなんだ、って言われたら……。

分からない、けど。

「まあ、これであの人も分かるだろ。
革命がどれだけ無意味な事かが。」

「………」

「お前が思い知らせてやれ。
あの人にも、
ーー吹雪先輩にもな。」

「……お前に
言われなくたって、分かってる」

その為に俺は、
フィフスセクターのやり方に従った。

俺を裏切ったあの人に
本当の力を見せつけてやる為に。

「なら、明日直接言いに行くか。」

「は?」

突拍子もない提案に
思わず間抜けな声が出る。

直接、って。

「調べたところ、
今吹雪さんは雷門中にいるらしい。」

「雷門中、に?」

「ああ。
もしかしたら、
雷門のやつらに
自分のサッカーを教えているのかもな?」

「……っ!」

なんだよ、それ。
あんたは白恋なんかどうでもよかったのか。

それよりも、
あの円堂守やイナズマジャパンの選手がいた
雷門中がいいって事かよ。

最初から、俺たちの事なんて
どうでもよかったのか。

ーー全部、本気じゃなかった?

「……分かった、行ってやるよ。
それで直接教えてやるさ。
俺の覚悟を。」

「それがいい。」

ああ、くそ。
別にあの女の事なんて今はどうでもいい。

この苛立ちも、
分かる必要なんてない。

「……サッカーを、好きかだって?」

そんな事、
それこそ1番どうでもいい。

俺のサッカーはもう、
そういうものじゃないんだ。












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