小説 | ナノ
 「豹と一般人と河川敷」

え〜〜??
そんな事ある〜〜??(テンプレ)

バッグも何も持ってない事と
不貞腐れたその表情から考えるに。

「ま、迷子……」

でも、
なんで稲妻町に?

ホーリーロードの会場は
隣町の隣町だった筈。

あ、敵地視察に来たけど
仲間とはぐれたとかそういう……?

「……何見てんだよ」

「えっ」

と、ぐるぐると考察をしていると
私の視線に気づいたらしい
雪村君がこちらに振り返った。

「ま、迷子っぽいから?」

「はあ?
これの何処が
迷子に見えるんだよ!」

え、ええー……。
ちょっと直球な言い方だったかな
って思ったけど、

そこまで
噛みつかれるとは思わなかった。

今迄会ったことがない
タイプの子だなあ……。

でも、今の反応で確信した。
この子絶対に迷子だ。

「荷物持ってないし、」

「それは」

「ちょっと不貞腐れた顔で
下の子供達見てるし」

「ぐ、」

「見た事ないジャージ着てるし」

「………迷子で悪かったな!」

「え!?
いや、別に悪いとは言ってな、」

「大体、都会は人も道も
多過ぎるんだよ!」

「え?これ私逆ギレされてる?」

「あいつらもあいつらだ!

俺はこっち来るの初めてだって
言ったのに……、
目を離した隙にいなくなりやがって!

何が、見にいくだけだから
手ぶらで大丈夫だ!

あいつらの言葉を信じて、
携帯をバッグに入れた俺が馬鹿だった!

そのバッグも
コインロッカーに入れっぱなしだし!」

「なんか可哀想になってきた」

「俺は可哀想なんかじゃない!」

「じゃあ私帰っていい?」

「か、帰っていいとは言ってない!」

「嘘嘘冗談だって」

要するに
まとめると、

チームメイトと雷門を
視察に来たけど

少し余所見をしている内に
はぐれちゃった、と。

荷物と携帯はコインロッカーに
預けっぱなしで、
連絡手段がなくここで黄昏ていた。

って、事かな?

「友達の携帯番号とか分かる?」

「いや、知らない」

「知らないんかい!」


雪村君のチームメイトの誰かに連絡して、
来て貰おうかと思ったんだけど……。

まさかの知らないんかい。

まあでも、
今はLINE社会だし
携帯番号知らないのは変な話じゃないかー

「じゃあ、学校は?」

勿論知ってるけど、
知ってる事を知られたら

驚かれて不審者扱い
されそうな予感がするので
黙っておく。


「白恋中」

「ああ、白恋中ね。」

「知ってるのか?」

「うん。
雷門の次の対戦校、だよね?」

「……ああ、そうだ。」


雷門の名前を出した瞬間、
今迄強気だった雪村君の表情に
ふと、翳りが差した。

ううん。
翳り、というよりは
怒りに近い……?

獲物を狙う獣の様な
鋭く、冷たい瞳に
少しだけ圧されてしまう。

確か雪村君の下の名前の
豹牙の豹は
動物の豹だよね。

松風君や太陽君といい、
今の子達は名前が噛み合った子が多いね……?


「じゃあ、白恋中に連絡して
そこからチームメイトの誰かに
連絡して貰おっか。」

「えっ、」

「え?」

「あ、いや……」

「私が説明すると
不審がられちゃうと思うから、
途中から代わって貰っていい?」

「わ、分かった……」

Go◎gle先生を開いて
白恋中学校の番号を調べる。

えーと、あったあった。

「あー……なんか緊張するな……」

頑張れ私!
大人としての振る舞いを見せる
チャンス(?)だぞ!

《はい、白恋中学校の事務員が
承ります。》

「初めまして。
私東京の稲妻町に在住している
みょうじなまえという者ですが、

先程そちらのサッカー部に所属している
雪村豹牙君に
河川敷で遭遇しまして」

《サッカー部の雪村君、ですか?》

「はい、どうも
道の途中でチームメイトと
はぐれてしまったらしく……。

携帯を荷物に忘れてきてしまい、
身動きが取れなくなっていまして。

只今雪村君に代わりますので、
詳しい事情は本人から」

《分かりました。
代わって頂けますか?》

「はい。

雪村君、ほら」

「………」

話をつけて、
雪村君の方へ振り返ると

何故か彼は
先程とは比べ物にならない位の
冷たい目で私を見ていた。

「え、」

「貸せ」

硬直していると、
手元の携帯を取られた。

「スマートフォンかよ……」

ぼそっと
こぼれたその呟きには

内心
ああ……中学生だなあ……と思いつつも、
流石につっこみませんでした。



「このままここにいろ、だと」

「これで一安心だね〜」

「良くない。」

「へ?」

良かった良かった、と
小さく手を叩いていると

急に腕を掴まれた。

「あんた、なんで
俺の名前知ってるんだ?」

「へ?」

あっ、

あーーー!!!!!!!

「それは、その〜……」

そうだ!
さっき電話で説明してた時に
雪村君の名前を、

しかもフルネームで
言っちゃったわ!!!

「わ、私は
食べても美味しくないです!?」

「はあ!?」

「あっ違う、えーとね、
うーんと、」

「早く言え!」

「えええ!!?
お、一昨日やってたホーリーロード特集で
君が映ってたからかな!?」

これは嘘じゃない。
私が雪村君の顔を知ったのは
その番組を見たから。

名前は、
SNSでホーリーロードの2回戦に
ついての記事を読んだ時に知った。

「なんだ、そういう事か。
変に疑って損した。」

「はあ……納得して貰えたようで
何よりです。」

寿命が多分3時間くらい縮んだ。
ストレートに疑いの目を向けられるのは
心臓に悪い。

「でも、完全に
信じた訳じゃないからな。」

「へ?」

「あんたがこの町に住んでて、
サッカーを知ってるなら

革命派のやつだって可能性は
まだ捨てきれないからだ。

そもそも、
名前と顔を知ってるとはいえ
俺に話しかけた時点で……」

「革命、派?」

「……知らないのか?」

革命?
革命って……何の?

「!」

《いいよね〜今年の雷門。

ここ数年は昔と比べて
覇気がない感じだったけど、

今年はあの時代の雷門と似て
暑い感じでさ。》

《……お前は
試合を見て、どう思った?》

散り散りになっていたピースが
だんだん1つになってきている気がする。

ううん、気じゃない。

「……雪村君。」

「なんだよ。」

「雪村君は……
サッカー、好き?」

「はあ?」

あれ、
もっと違う事聞こうとしたのに
口から出たのは
そんな単純な質問だった。

「……好きか嫌いかで言われたら……、
好きだと、思う」

「そ、そっか」

「って何言わせるんだよ!」

「あ、電話だ。」




かかってきた電話は
知らない番号からだった。

恐る恐る出てみると、

その相手はやっぱり
雪村君のチームメイトの子だった。



「雪村!」

背後から聞こえた声に
振り返ると、

雪村君と同じジャージを着た
茶髪の男の子が
こちらに駆け寄ってきていた。

「遅えよ!」

「お前が勝手に
迷子になったのが悪いんだろ」

何処までも強気な態度の
雪村君に
内心茶髪の子に同情してしまう。

でも、
今迄話してた感じ
悪い子じゃないんだろうな。

恐らく
さっきの電話の相手だろう
この子が来るまでは、

どんなに雪掻きか大変か〜とか
新宿駅は迷路だ〜とか
お互いの地元の話をしていた。


「ふん!
お前が荷物はいらないとか言って
ロッカーに預けさせたせいで
こうなったんだ!」

「まあ、それは……
そうだけどな……。

全員荷物持って
視察は流石に目立つだろ……?」

「知るか」

「あ。
あなたが……」

「こ、こんにちは……?
えーっと、
さっき電話をくれた子だよね?」

「はい。
白恋中サッカー部の
キャプテンの白咲克也といいます。

雪村を保護してくれて
ありがとうございました」

「ああこれはどうもご丁寧に。」


頭を下げられて、
思わずこっちも下げ返してしまう。

白咲克也君。

顔は一昨日見た番組では
出てこなかったから

知らなかったけれど、
名前は知っていた。

「ご迷惑をおかけして、
すみませんでした。」

「いえいえ、
無事合流出来て良かったです。」

「ほら、雪村!
お前からもお礼をしろ」

「……」

白咲君にそう言われたものの、
雪村君は不貞腐れた顔で
つーん、とそっぽを向いたままだ。

なんだろう。

雪村君のこの態度が
一周回って可愛く見えてきている
自分がいる。

「ああいいよ、別に。
話出来て楽しかったし、
迷惑とか思ってないから。」

「はあ?
へ、変なやつ!」

「雪村!」

「ばっかじゃねーの!?

そもそも、
俺の事なんかほっとけば良かっただろ!
知り合いでもねーのに!」

「いやー困ってる人を見たら
生憎とほっとけない
世話焼きな性格でして」

ふふん、と
ちょっと憎たらしい言い方で返すと、

雪村君は驚いたように
目を見開いて、

その後に
ふ、と優しく笑った。

「都会のやつは冷たいやつが
多いって聞いてたけど、
あんたみたいなやつもいるんだな」

「お、おう」

むきー!って怒るかなと思っていたので、
真逆の反応に
こっちが戸惑ってしまう。

「試合見ろよ!」

「へ!?」

「白恋と雷門との試合!
絶対に見ろ!」

「う、うん。」

「よし、行くぞ白咲!」

「は!?
ちょっ、お前なあ……。

ありがとうございました!
失礼します!」

「ああ、うん……。
気をつけてね〜……」

そう言い捨てて
走り出した雪村君と

慌てて彼についていく
白咲君の背中を手を振って見送る。


「……なんだったんだ……」

やっぱり河川敷は
フラグ製造機らしい。




















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