小説 | ナノ
 「ランニングと差し入れとスポドリ」

「あら、いらっしゃい」

「ああ」

時刻は6時ちょっと過ぎ。
場所は私の職場のコンビニ。


「今日もランニング?」

「ああ」

ヤンキー君と
n回目の再会です。


「……本当に
コンビニ店員だったんだな……」

「最初が最初だったから
仕方ないけど、
そろそろ認めて欲しいな〜」


ヤンキー君の(多分)軽口に
適当に返事を返しつつ、
事務所から持ってきたホットドリンクを
棚に追加していく。

今日は冷えるらしいし、
これくらい補充しといてもいいかな。

空になったカゴを持って、
ふう、と息を吐いて立ち上がる。

「ん?」

視線を感じて、
後ろを振り向くと
ヤンキー君はまだそこに立っていた。

このまま横を素通りして
奥のコールドドリンクコーナーに
行くかと思ってたのに。

「どしたの?」

「いや、別に」

「そんな某女優みたいな」

「は?」

なんて
いつもの様にふざけてみたけど、
キョトンとした顔を見るに
ネタが伝わってないらしい。

え〜〜
あの伝説の記者会見も
ヤンキー君にとっては
履修の範囲外か……。

もうむしろ、
どんなネタなら伝わるんだ……。

正直叩かれるより
ネタが伝わらなかった時の
沈黙の方が辛いんだよね。


「差し入れ、」

「へ?」

「みんな喜んで食ってた。」

この沈黙を
どう切り抜けたものか……と、
次のボケを考えていたら、

今度は
あっちから声をかけてきた。

それも、その内容は
結構私の予想外で。

「あら〜〜〜」

「近所の婆さんかよ」

「それは私も思った。
あー、うん。差し入れね。」

「俺が言うまで忘れてたな?」


ヤンキー君が
今言った差し入れは、

きっと昨日帰り際に
先輩に渡したものだろう。

実は、
音無先輩の分だけじゃなくて、
サッカー部のみんなの分も用意していた。

音無先輩には
ちょっとお高めのチョコレートを。

サッカー部のみんなには
地元で有名なレモンケーキを。


後者のみんなには、
試合を通して
元気を貰ったお礼もあるけど、

これからも頑張って欲しいという
応援の気持ちを込めて。

「レモンケーキ
苦手な子いなかった?」

「ああ」

「なら良かった〜

今の男の子の
好きなものとか分からないからさ。

運動部の差し入れって
レモンの蜂蜜漬けのイメージあるから、
そこからレモンケーキにしたんだけども」

「発想が古いな……」

「次は白恋中とだよね?
頑張ってね、影ながら応援してますんで」

白恋って白い恋って書くんだっけ。
なんかあのお菓子思い出すな。
白い恋人。


「次の試合は
観に来る気はないのか?」

「へ?」

・・・。

「……???」
 
「なんだよその顔は」

「いや予想の斜め上過ぎたから」

今日は雪でも降るのか……??
雨は降るらしいけど……。

ヤンキー君が
そんな、そんな普通の言葉を
投げかけてくるなんて!?

「いつもお前が大体
話の流れを狂わせてるんだろうが」

「分かる〜

だってヤンキー君って
律儀につっこんでくれるからさ〜
こっちもボケ甲斐があるというか」

「それ次言ったら
はっ倒すって言ったよな」

「それいつの話!?
よく覚えてたね!?
私も覚えてたけどさ!?」

「お前もばっちり
覚えてんじゃねーか!」

「……いや、うん。
観に行きたい
気持ちは勿論あるんだけどね?」

流石にこれ以上
ボケを続けるのは
大人気ないかなと思ったので、
(私はめっちゃ楽しいけど)

ここで一旦流れを切る。

「ホーリーロードのチケットってお高いし、
競争率すごいのよ???

悪質な転売ヤーとか
ゴロゴロいるくらいには」

当日券の販売はあるみたいだけど、
何時間前からじゃないと買えないっていう
ツイートをついこの間SNSで見たし。

音無先輩みたいに、
出場校の関係者じゃない限り
もうチケットは手に入らなーーー。

「ん、」

「いって思ってたんですけど
これは一体」

ヤンキー君が
ジャージのポケットから
取り出したのは、

見覚えのある
あの雷門の封筒だった。

「今度は綺麗だ……
(ありがとう)」

「だから、
本音と建前が逆なんだよ!

まあ、見れば分かるだろうが、
それは音無先生からだ。

昨日渡そうと思ってたんだが、
お前があの後、
そそくさ帰ったから
渡さなかったんだと。」

「先輩が……。

いや〜あのまま
あそこにいたら、

流石に
練習の邪魔になると思って……。

後、メンタルが
色んな意味で限界だった。」

でも別に、
またヤンキー君を通じてじゃなくても
良かったのに。

昨日、せっかく連絡先
交換したんだし。

「……この話をしてたら、
松風が横から割って入ってきて
朝のランニングの事を
音無先生にバラしやがったんだよ。」

「わあ〜私に出来ない事を
軽々とやってのけるッ!!
そんな君に痺れる憧れるぅッッ!!」

「憧れるな。
ってか、ジョジ◎知ってるのか」

「あれ、こっちは
流石に伝わった?」

私は第一部派だよと言うと、
俺は第二部派だと返された。

成る程〜、
そういう経緯があったのね……。

「なら配送料として
お姉さん、君にスポドリ
奢っちゃおうかしら〜」

「その口調気色悪いからやめろ」

「え?
もっと冷たいのがいいって?
仕方ないな〜
じゃあこのロックアイスにする?」

目の前の
冷凍品庫の扉を開けて、

その中から
1sのロックアイスを取り出す。

そして、
ヤンキー君の膝らへんに
ちょっと押し当てた。

そうすると、
ヤンキー君は女の子みたいに
ぴょん、と後ろに小さく後ずさって。

その反応に思わず
「あら〜^」という言葉がまた口から出た。


「つっめてえんだよ!」

「あら可愛い反応」

「っ、クソ!!

つーか、
それは飲み物じゃなくて
食いもんだろうが!!」

「いいじゃん
ハードでボイルドな感じで」

「まず、
ランニングどころじゃねえよ!」


このやりとりは、
ヤンキー君が出て行くまで
なんだかんだ続きました。

あ、勿論、
ちゃんとスポドリの方を奢ったよ!

後で音無先輩にも
お礼のLINE入れておこうっと。




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