小説 | ナノ
 「ざわめきと先輩とフラグ」

全国大会一回戦からの帰り道、
私はあるメールを打っていた。

「よし、」

送信出来たのを確認して
スマホを鞄にしまう。

「ふー……」


ばくばくと興奮から
まだ脈打っている心臓を
落ち着かせる様に
息を吐く。

そして、
ゆっくりと空を見上げた。

そういえば、
ヤンキー君と初めて会った時も
こんな夕暮れ色だった気がする。


「……凄かったなあ……」

何気なく呟いたその言葉には
自分でも少し驚く位
熱が篭っていた。

でも、
そうなってしまうくらい
今日の試合は凄かった。

何が凄かったって言われたら、
なんかもう全部。


「ああいう世界もあるんだなあ」


勿論、
化身や必殺技も凄かったけど、

1番は選手同士の
気持ちと気持ちのぶつかり合い。

特に後半の
月山国光中の南沢君の気迫ある
プレイには

おおおっ、ってなって
思わず立ち上がってしまった。

1人でも全力で
雷門にぶつかっていって、

そして、
そんな彼のプレイに心を動かされたのか

最後はチーム全員も
全力でついて行っていた。


コートに
竜巻が発生した時は

《これはスタジアムの仕掛けで
済ませてはいけない威力じゃない!?》って
ハラハラしていたけど、

最後は
見ている側も
気持ち良い試合だった。

実は今日迄に
今迄の雷門の試合は
配信サイトで鑑賞済みで、

もう化身等への
耐性はついていた。

観る以前は
本当に色々と心配だったけど、

実際見てみたら、
心配どころか
その試合に夢中になってしまって

結果的にはめっちゃ杞憂でした。


「はー……」

でも、やっぱり
映像で見るのと
生で観るのは全然違ったな。

今日の事は一言で言うなら
それはもう凄く楽しくて、
感動したん、だけど。

「うーん……」


胸の中の
ある疑問は余計に膨らんだ。


これは
私が初心者だからなのかもしれない。
まだルールも瞬時に
把握も出来ない。

でも、そう納得させようとしても
胸にやっぱり引っかかる。


「……今の少年サッカーって、
おかしいよね?」

それは、
掘り下げるともう根本的な所から。

そんな私の呟きは
誰に届かずに空に消えた。





という事もあり、
私は今、少しモヤモヤした気持ちで
雷門中の校門前に立っている。


ちなみに今日は
ボランティアではなく、

ある用事があって
ここへ来てます。

「流石に直接お礼はしたい……」

そう、
雷門サッカー部の顧問の先生に
チケットのお礼を言う為でした。

松風君達とは
見学後偶然
何度か会ったりはしたけど、

その顧問の先生とは
今迄ついぞ会う機会がなく、

名前も顔も知らないまま
ここまで来てしまった。

一応昨日
お礼に伺いたいとは
学校側に電話を入れたんだけどーー。

《ああ、顧問の先生ね。
放課後なら
サッカー棟にいると思うよ》
と、

まさかの
顧問の先生の名前が出なかった。

とりあえず
事務室に行った時に
受付の人に名前は聞いておこう……。

「……ん?」

って、
別に自分で調べれば良かったじゃん!
なんで気付かなかったんだ!

今の時代、HRとかに
顔写真とか載ってるだろうし……。

ほら、昔だとさ
先生の写真っていうと、

月一の学校便りとか
学校行事のアルバムとかのイメージない?

分かる人は私と握手しよう!

と心の中で謎の言い訳をしつつ
ポケットからスマホを取り出す。

「げっマジか」

液晶に表示された時刻を見て、
思わずそんな声が出た。

今の時刻はーーー
お伺いしますと伝えた時間の
なんと7分前でした。

顧問の先生に会う前に
事務室に許可証を貰いに行かないと
いけないから、

ちょっと急がないとまずい。

「バイト君が遅刻しなきゃ、
後5分は絶対余裕があったーー!!」

考え事してて、
いつもの調子で歩いちゃった
私も悪いけど!!

今日遅刻したバイト君を
心の中で恨みつつ、

スマホをポケットにしまって
小走りに切り替えた。






「松風そっち行ったぞ!」

「あ、今日は
外のグラウンドの方でやってるんだ。」

松風、という名前に
声の方を見ると、

サッカー部のみんなが
校舎前のグラウンドで練習をしていた。

そうだ。
顧問の先生、今いるかな?

と思って、
歩きつつも
ベンチの方に視線を向けてみる。

あ、葵ちゃんとーー
あの2人は前にも見たな。
マネージャーの子だよね?

で、
オレンジ色のバンダナの人が監督さん。

そして、
隣のメガネかけてる人が
試合の時にも見たけど、
多分コーチさん?

それと、
その隣にいる青髪の綺麗な女性がーーー。

「ん?」

その人を見た瞬間、
過去の記憶からある人の姿が浮かんだ。

そ、そういう事かーー!!!

納得した瞬間、
その人ーー音無先輩と目が合う。

先輩は私を見ると、
少し驚いた顔をしたけど

あの頃みたいに
すぐに明るく笑ってくれた。

「一旦休憩!
10分後に再開だ!」

そこで丁度、
監督さんから休憩の合図が入る。

ど、どうしよう。

今そっちに行くのは
迷惑だよね。

まずは許可証貰わないと
いけないし。

でも、
このまま素通りするのも……。

と立ち止まって考え込んでいると、
先輩がおいでと
私に向かって手招きした。

え?いいんですか?




「なまえちゃん!久しぶりね!」

「はい、お久しぶりです!
音無先輩!」

近くの階段を降りて、
ベンチペースの近くまで来ると

音無先輩が
駆け寄ってきてくれた。

そして、そのまま
昔みたいにハイタッチをする。

「そっか。
今のサッカー部の顧問の先生って
音無先輩だったんですね」

「ふふ、驚いたわよね。
私もあの頃は
この学校の
先生になるなんて思ってなかったわ。」

そう呟いて
優しくはにかんだこの人の名前は、
音無春奈さん。

私が雷門中にいた時の
一つ上の先輩。

私はその頃
友達に誘われるままに
新聞部に所属していて、

先輩はそのOBだった。
いや、OB……じゃないか。

先輩は一年生のある時に
新聞部をやめて
サッカー部の
マネージャーになって……。

でも、
そこからも
時々遊びに来て
サッカー部についてのネタ等を
提供してくれていた。

知り合ったのはその時。
好きなアーティストが一緒で、
音無先輩の中でも1番話す事が多かった。

高校に入ってからは、
お互い連絡を取らなくなって
そのままだった。

「はい。
だから、驚きましたよ〜

って、あ!

そうだ音無先輩。
私、まだ許可証を……」

流れでこっちに来ちゃったけど、
そういえば事務室に許可証を
貰いに行ってないんだった。

「ああ、それなら
急がなくて大丈夫よ。

あなたが来る事は
私も聞いていたし、

教頭先生も知っているから
大きな問題はないわ。

気になる様なら、
この後、
私から連絡を入れておくから。」

「あ、ありがとうございます……!」

急がなきゃと思っていたので、
音無先輩の言葉に
ほっ、と胸を撫で下ろした。

ここの先生である先輩が言うなら、
本当に大丈夫なんだろう。

そっか。
私が今日ここに来る事を聞いてたから、
手招きしてくれたんだ。


「それに、
この間一度ボランティアとして
ここに来てみたいだしね?

事務の人とは
その時会ったんでしょう?
なら、面会証がなくても大丈夫よ。」

「ご、ご存知でしたか……。」

「ええ。
教頭先生から聞いた時は驚いたわ。」

今の教頭先生は
先輩と私がここに在学していた時から
勤務していた先生で、

実は私の2年生の時の
担任だったり。


「でも、それは
私もですよ〜!」

「ふふっ、そうね!」

音無先輩と話すのは
もう10年近くぶりなのに、

あの時の様に
自然体で話せる。

本当に懐かしいな。
縁の巡り合わせってこういう事を
言うんだなぁ。

というか、もう10年……?
10年か……。

「あ、そう!」

危ない危ない。

懐かしい気持ちに浸って、
ここに来た本題を忘れる所だった。

「うん?」

「チケット!
ありがとうございました!」

「ああ!その事ね!」

「はい。

実はヤンキー君伝いで
チケット貰ってから

ありがたいと思いつつも
なんで私に?って
ずっと不思議にも思ってたんです。」

「ふふっ、そうよね。」

「でも、そっか〜
そういう事だったんですね……あっ、」

って、やっっっべ。

今私……さらっとヤンキー君って
言っちゃった、よね?

さーっと、
体から血の気が引いていく。

あの日、
2人と話してるのを
実は音無先輩が何処かから見てて、

それで
チケットを私にくれた〜っていうのは、
ヤンキー君から聞いていたけど……。

先輩の反応を見るに、
私とヤンキー君の出会いの経緯諸々は
聞いてないみたいだ。

「………」

これは今迄で
1番まずいかもしれない。

いや、だって、その。

音無先輩にとって
ヤンキー君は可愛い生徒だろうし。

それに、サッカー部の
エースストライカーだし。

「?どうかしたの?」


可愛い教え子を
ヤンキー呼ばわりとか……。

これは今迄の先輩後輩の関係を
打ち砕きかねない案件では……!?

見た目はヤンキーにしか
見えないけど、

中身は
こんな私のボケに一々ツッコミを
入れてくれる様な、
すっごい良い子だし!

「……ああ!
チケットの事なら気にしないでね。」

「え?」

「関係者の人に貰ったチケットが
元々一枚余ってたの。

誰にあげようかなって
思ってた時に

河川敷の階段から
サッカー部の練習を見てる
あなたを見つけて」

「や、やっぱり
あの時見てたんですね……」

あ、あれ?

つっこまずに
話を続けてるって事は、

先輩は
私がヤンキー君って言ったことに
気付いてないみたいだ。

はああああ……。と、
心の中でクソデカため息を吐く。

まさか
ノリで呼び続けていたあだ名が

巡り巡って
こんなに自分の首を
絞めるとは思わなかった。

……こんな事あります?

そして、
この台詞何回目だよ。


「だけど、あなた
あの後声をかける間もなく
すぐに帰っちゃったじゃない?

それで
話をしてた松風君に
聞いてみたら、

何度か偶然会ったことがありますって
言うから驚いちゃった」


Q.これは……どんな顔するのが
正解なんでしょうか?

A.とりあえず笑えばいいと思うよ。


「あはは……
そうですよね……。」

はい、とりあえず笑います。

「でも、
住所や連絡先は
知らないみたいだったから

もしまた今度
会うことがあったら〜って
希望を込めて渡したのよ。」

そして、
松風君がそれをヤンキー君に渡して
この間病院であった時に
私に渡してくれた、と。

「そうしたら、
今度は松風君が剣城君に……

……ん?ヤンキー君?」

「アッ」

そのまま話を続けてたから、
気付いてないかと思ったけど

たった今、
気付いてしまいましたねこれは。
ええ、間違いない。

そうだよ先輩って、
謎にこういうところ鋭いんだった。

「ああ!」

ほんの数秒の間に
全てを理解したらしい先輩に
思わず身構える。

「そ、そういう事ね……!!
ふふっ、」

でも、
予想と違って
音無先輩はーー怒ったりしなかった。

むしろ、逆に
肩を震わせて笑い始めた。

マジか。

「そういえばあの時、
剣城君とも話してたわね……!
ふふっ、」

「へ、へへ……」

内心申し訳なさで
何とも複雑な心境になりながら、

ヤンキー君に
心の中で謝罪する。

いや本当ごめん。
ここまで輪が広がると
思ってなかったんです許して。


「せ、先輩……」

「ん?お前は……」

「お前は確か新聞部の……」

でもそろそろ
笑い終えてくれませんか……

という気持ちを込めながら、
音無先輩の肩に手を置く。

すると、
そこで後ろから
2人の知らない声が聞こえた。

はっ……!!そうだった。
少し後ろにみんながいるんだった!!!

先輩〜〜!!
笑い止んで!!

ヤンキー君本人にバレたら、
今度こそ本当にボールにされちゃう!!

と声には出さずに
そっとそんな念を飛ばす。

申し訳なさは勿論あるけど!!
まだ死にたくはないです!!


「先輩!
か、顔あげてください!
ほら!ひっひっふー!!」

とりあえず先輩を
笑い止ませなければ!!と

別のボケをつっこんでみるも
中々顔を上げてくれない。

ああ……ごめん太陽君。
私はここまでかもしれない……。

「それはラマーズ法だ。
お前は春奈をどうしたいんだ後輩」


と、悟りを感じ始めたところで

そんな言葉と共に急に後ろから
肩を力強く掴まれた。

この声はさっきの……。

「へっ?」

威圧感を背後にビシバシ感じる。

なんだこの殺気!?

ヒェッと声を溢しつつ、
恐る恐るそちらに振り返るとーー。

(メガネをかけてても分かるほどの)
凄い形相の、その人がいた。

「あ、」

この距離で顔を見て
思い出したーー!!

試合の時に
監督さんの隣にいたこの人はーー
音無先輩のお兄さんだーー!!?

「この数分で色んなフラグが
立ち過ぎでは……?」

お兄さんといえば、
音無先輩と新聞部の先輩のから
何度も過保護な人だと聞いた。

《音無に近づく輩は、
その兄が追い払ってきたって話だぜ》

いや〜〜……
ダメみたいですね、これは….。

「?
フラグ?」

「あっ、いや!」

また自分で首を絞めてどうするんだ!
へ、平常心。

そう、ヒッヒッフ〜……。

「こ、こんにちは〜
というか初めまして……
音無先輩のお兄さん……」

「ああ、
こうして会うのは初めてだな。

確か、名前は
みょうじなまえだったか?」

「そ、そうです〜……。

いや、あの違うんですよ!
ち、違うボケをしたら
そっちに気がいくかなって……!

だからお命だけは……!!」

内心冷や汗をかきつつ
苦し紛れの言い訳をしたら、

お兄さんは
その恐ろしい表情を崩したかと思うと、
小さく笑った。

あ、あれ?
フラグは……折れた?

「成る程な。
春奈が言っていた通りの奴だ」


「え、先輩
お兄さんに私の事なんて
伝えてたんですか?」

聞き捨てならない言葉に
前の音無先輩に視線を戻す。

思わず
肩を軽く揺さぶると、

は〜と息を吐いて、
そこでやっと先輩が顔を上げた。

「は〜……ごめんね。

久しぶりに
あなたのボケを聞いたら、
笑いが止まらなくなっちゃって….…。」

「こんなボケで笑ってくれるの
音無先輩くらいですよ……。」

後、浜野君?

この間は
今の先輩以上に笑ってたもんな……。

「ふふ、

長い付き合いの私にはいいけど
本人には言っちゃダメよ?」

「へ?」

「いくら知り合いでも、
彼、きっと怒っちゃうわ」

「えっ」

「前よりは柔らかくなったけど……、
入部当初は……いいえ、何でもないわ。」

入部当初?
ちょっと気になったけど、
聞かない方がいいかな。

うーんと、成る程。
音無先輩はさっきのヤンキー君呼びを
私なりのボケだと思ってるみたいだ。

それなら、
よ、良かった……?


「鬼道、
こいつと知り合いなのか?」

「ああ。
春奈がここにいた頃に
一緒にいるのを何度か見かけた事がある。

確か新聞部の後輩だ。」

とりあえず
次コンビニに来てくれたら、

なぞなぞ無しで
ヤンキー君にはスポドリ奢ろう。

と考えていたら、

今度はオレンジのバンダナをつけた
あの監督さんがこちらに来た。

「そうだったのか!
お前、この前
練習見に来てた奴だよな!」


手を差し出されたので

戸惑いつつも
こちらも手を差し出すと、
ぎゅ、と力強く握られる。

「ど、どうも……。」

「円堂守だ。
今はこのサッカー部の監督をしている。」

「今更かもしれないが、
一応自己紹介をしておこう。

俺の名前は鬼道有人。

同じく、
この雷門サッカー部でコーチをしている。」

「私はみょうじなまえです。

先輩とはさっき鬼道さんが
話していた様に、

新聞部で繋がりがあって……。」

「へー!
成る程なあ。
じゃあ、10年越しの再会か?」

「そうなんですよ〜!
あ、円堂監督は
サッカー部のキャプテン兼部長だったの。

おに……鬼道コーチも
その時サッカー部に所属していて。」

「成る程〜」

「………」

な、なんか鬼道さんに
見られてる気がするけど
気のせいだと思うことにします。

思わないと、
そろそろSAN値が保たない。

「確か、
チケットを渡したと言っていたな。」

「は、はい。
なのでこの間の試合、
観に行かせて貰いました。」

「そうだったのか!」

私の言葉に円堂さんが
ぱっ、と明るい笑顔になる。

あ、松風君とちょっと似てる……?

明るくもあり、
嬉しさが滲んだその笑顔に
肩に入っていた力が抜けていく。

松風君が
周りを和ませるそよ風なら、

円堂さんは
みんなを明るく照らす太陽みたいだ。

どんな状況でも諦めない、
がむしゃらで熱い
雷門中のサッカー部は

この人から
受け継がれたのかもしれない、と

根拠はないけど
不思議とそう思った。

「後輩」

「うっす……」

「そんな顔をしなくても、
別にさっきの発言なら
もうどうも思ってない。」

急に声をかけられたから、
また体が強張ってしまった。

あの、でも、
メガネの奥の瞳が一瞬
鋭くなったのは私の見間違いでしょうか
先輩のお兄さん……。

「?鬼道コーチ?」

「……お前は、
試合を見てどう思った?」

「え、」

「鬼道?」

どう、とは。

試合を見てから
胸の中でずっと燻っていたざわつきが
途端に膨らんでいく。

「そ、れは」

謎の気まずさを感じて、
思わずコートの方に視線をずらす。


すると、
休憩中の狩屋君とたまたま目が合った。

私に気付いた狩屋君は
一瞬驚いた顔をした後に

後ろの音無先輩達を
一瞥したかと思うとーーー次の瞬間。


「おまっ、」

それは
もう分かりやすく、

こちらを指差しながら
何故大笑いをしやがりました。

おめえこのヤロウ!!??

素でいてくれって
この前言ったけどさ、

鬼道さんとは別の意味で
私に容赦がなさ過ぎでは??

またカーン、と
頭の中でゴングの音が鳴る。

私と彼との決着は
まだついてないみたいだな……!!

「お、お姉さ、あははっ!
ほ、本当期待を裏切らないって
いうかさ……!!」

「何を大笑いしてるんだ狩屋。
ん?あの人は確か……」

「あれ?
あの時のお姉さんじゃん。
ちゅーか、久しぶり〜?」

「浜野、知り合いか?」

「河川敷で練習してた時さ、
松風がお姉さん!って
デカい声出した時あったじゃん?」

狩屋君の反応から
段々と他のみんなも
私に気付き始めた。

浜野君、お前もか……。

どうやら、
私の味方はここにはいないらしい。

「あー!
その後、松風よりでけえ声で
剣城に向かって文句言ってたやつか!」

「うわ、なんで
ここにいるんだよあいつ」

「丁寧な解説ありがとう!
そうです!
その時の声でかお姉さんです!

後、
ヤンキー君はやっぱり
聞こえてるんだからな!!」


これ以上休憩中の部員の子達を
変に混乱させるのも
どうかと思ったので、

もう腹くくって
自分から告白した。

そうしたら
他のみんなも「ああ〜」って顔に
なるもんだから、

「終わった……」

色々と絶望した私は
脱力してそのままへたり込んだ。

フラグが折れたと思ったら、
別のフラグが秒で立って
秒で回収されていった。

何だよこの流れ……
これこそ、コントかよ……。

完全なオチ担当です
本当にありがとうございました。

「お、おい!
どうかしたのか!?」

「どうもしてません……」

「いや流石に
それは無理があるぞ後輩」

「え?
ど、どういう事?」

音無先輩の混乱する声が
聞こえるけど、

顔を上げる気力は残っていなかった。

左手に持っている紙袋を
お礼と共に

顧問の方に渡したら
すぐに帰ろうと思っていたのに、
どうしてこうなった。

「そうですよ〜」

「……ん?」

明らかに笑いが混じった
聞き覚えのあるその声に

残りの気力を振り絞って顔を上げると。


素全開の顔の狩屋君が
しゃがんだ体制で正面から私を見ていた。

「いつの間に……!?」

「お久しぶり……でもないか。

いや〜こんな所で会うとは
思ってませんでしたよ〜。

大丈夫ですか?」

・・・。

それはまさに
テンプレートであり、
低レベルの煽りだった。

だが、
色んなフラグによってSAN値が
ゴリゴリに削られた私にはーー

それを笑い返せる余裕はもうとうに残っておらず。


「やったな?」

ーーー彼女の心に残っていたのは、
やけくそな意地と闘争心だけであった。



そう。
みょうじは激怒した。

必ず、この生意気なサッカー少年に
制裁を与えねばならぬと決意した。


「へ?」

「次は私のターン」

標的確認。
宜しい。

ならば、
また戦争といこうじゃないか。狩屋君。

今回は
お互い最初から素全開の状態でな!


「あのゴングを鳴らしたのはあなた」

「へ?
ちょっ、お姉さん
え?
どこ触って、ぎゃあああ!!」

「ここはえーと、
肝臓だったかな〜」

逃げ腰になった狩屋君の腕を掴んで、
こっちに引き寄せる。

そして、
私が個人的に1番痛いツボを
慈悲はかけずに思いっきり押した。


「あの狩屋を……」

「いや霧野先輩。
多分そこ感心するとこじゃないです」

「えっと、剣城は
あの人と知り合いなん……だよな?」

「……残念ながら」

「流石お姉さん!
本当怖いものなしだよね!」

「でも、狩屋といつの間に
仲良くなったんだろう?」

「確かに……
私達が買い物に行った後
何かあったのかなあ……」

「帰り会ったときは
剣城に技かけられてたよね」

「あれは完全に
あいつの自業自得だ俺は悪くない」

「なんだ葵も
あの姉ちゃんとは知り合いなのか?」

「はい、天馬達と帰ってた時に偶然会って」

「ふふ、あの時から面白い人みたいって
思ってたけど……本当にそうだった……」

「茜お前そんな風に
思ってたのかよ……。

まあ、声は倉間が言った通り
デカかったけどな……。」

「何が起きてるのか
さっぱり分からないド……」

「俺もだ天城……」

「音無先生と知り合い……みたいだな?」




「え?
なまえちゃん、
あなた狩屋君とも知り合いだったの?」

「それはもう
こうやって心を開いてくれる程
語り合った仲でして〜!」

「いだだだだだっ!?
嘘!嘘ですー!

俺こんな人知りません!」

「馬鹿だなあいつ……。
あんなこと言ったら、こいつは逆に、」

「なんだと貴様ぁ〜!!」

「ぎゃーーっ!!?
わ、悪かった!悪かったって〜!!
だから、許して!!」

「え、その、あの、天馬君達、
あのお姉さんは一体どなたなんですか!?」

「あ、そっか。
輝は会ったことなかったよね。

あのお姉さんはねーー」




なんか色んな人から
色んな視線を向けられてるけど……、


ああもう!

振り返ったらもう全部今更だ!
どうにでもなーれ!(諦め)

カーン、とまた頭の中で
ゴングの音が数度鳴り響く。

それが
色々なものの終わりを
告げている様に聞こえたのはーーー。

絶対気のせいではない。




 









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