小説 | ナノ
 「帰り道と回想とニ度目の再会」

「秋姉が作るクッキーがさ
最高に美味しいんだよ〜」

「そうそう!」

「剣城も今度うちに食べにおいでよ!」

「……その内な」

「わーい!」


あの帝国戦から
数日が経った。

決勝を勝ち抜いた俺達雷門は
全国へと駒を進め、

次の対戦相手
月山国光戦に向けて
練習を重ねていた。

「それにしても、
革命なんてちょっとドキドキするよね!」

「………」

そして、
その練習を終えて、
今は帰路に着いていた。

何故か
こいつら(松風と西園)と一緒に。

《剣城一緒に帰ろうよー!》

《はあ?何で俺がお前らと
帰らないといけな》

《俺も混ぜてよ!》

俺はいつものように一人で
帰ろうとしたんだ。

そうしたら、
たまたま校門で
こいつら2人と出くわして、

こうなった。

といっても、

入部当初から仲の良い
天馬と西園の会話のペースに
ついていける訳もなく。

まあそもそも
ついて行く気もないんだが。

だからといって、

返事をしないでいると

ぴーぴー騒ぐのは
もう知っていいるので、
程々に受け流していた。

「……クッキー、か」

クッキーという言葉と
今歩いているこの河川敷に

思わず
ある人物を思い出す。

あれは、
全国大会が始まってすぐの頃。

その時、
俺は学校をサボって
暇つぶしにここへ来ていてーー。

そして、
あの変な女にあった。

《……私もサッカー始めたら
あんな風に幸せそうに笑えるのかな》

サッカーの事を
何も知らねえやつが

楽しくサッカーしてるガキ共を見て、
なんとなく溢した一言。

他意はない。

そんな事は分かってはいたが、
少し勘に触った。

だから、

《そんな事あってたまるか》

そんなバカな独り言に
憎まれ口を返してしまった。

《……問題アリアリでしたね……》

問題ありに決まってんだろ、と
内心イライラしつつ
そのまま後ろから見ていると

《……うっす、》

ゆっくりとこちらに振り返った。

そいつは
振り返った時は
怯えた顔をしていたが、

俺の姿を見ると
何故か心底驚いたという顔になった。

何かゴミでもついてるのか?
と視線を下げるが、
何もついていない。

なんだこいつ、と
睨みをきかせると

俺の手首の辺りを指差して
こう言った。

《針ぶっ刺さってますよ
大丈夫ですか?》

《その前にお前の頭が
大丈夫か?
喧嘩売ってんのか?》

本当になんだこいつ。

ビビって逃げるかと思いきや、
俺の格好にケチつけてきやがった。

《英検は3級ですね》

《クッソ微妙だな》

そこから
俺には珍しく
相手のペースに呑まれて、
不毛な会話を続けーーー。

《暇なら、このまま
お姉さんの話に付き合ってよ〜》

《何で俺がてめえの独り言に
付き合わなきゃならないんだよ》

《ジュース奢るからさ》

《ジュースかよしけてんな》

《分かる》

《いい加減
本気ではっ倒すぞてめえ》

《じゃあ水で》

……今思い返しても、
本当に頭のおかしいヤツだったな……。

《え〜〜じゃあ、
間をとって……何だろう?
何だと思う?》

《その前に
お前の存在がなんなんだよ》

《うーん、

じゃあね〜はい》

《これあげるからさ》

《なんだこれ》

《クッキー》

《は?》

《手作り》

その後は
何を思っての行動だったのか
分からないが(正直分かりたくもない)、

突然立ち上がったかと思うと
俺にクッキーの入った包みを差し出してきた。

初対面の相手の、
手作りの菓子なんて怪し過ぎるもの

普段なら
払いのけてそれで終わりだった。


ただこの時は
たまたま腹が減っていたのと、

苛立ちも次第に
こいつの能天気さで
萎えていた事もあり、

俺は結局
それを
素直に受け取ってしまった。


味はまあまあ美味かった。


それで、この間は。

《や、ヤンキー君はさ!!!

宇宙人なの!!??》

《……病院紹介してやろうか》

とか、

思わず怒る前に
こんな返事を返してしまう程

理解の範疇を超えた質問をしてきた。

宇宙人ってなんだよ。
そう言うお前が宇宙人じゃねえか?って
本気で思った。

《私のなけなしの勇気を
振り絞った質問を
真顔で返さないでください!!

警察呼びますよ!?》

《それは俺の台詞だ!》

本当に呼んだ方がよかったのかもしれない。

特に何かされた訳ではないが、
言動がおかし過ぎた。

こんなやついるのかよと
本気で思うくらいには。

《この偽ヤンキー!
少女漫画!デスソード!
ソード要素どこだよ!》

《褒めるか貶すかどっちかにしろ!
……なんだ、見てたのかよ》

話を聞くと、

監督に向かって
デスソードを打ったあの時に
近くにいて見ていたらしく。

でも、それで宇宙人は
流石に飛躍し過ぎだろ。

サッカーの事は
一般人以上に知らないらしかった。

《夢にはなんと
校舎を破壊するヤンキー君の姿が》

《お前は俺を
何だと思ってるんだ?》

《に、人間……?
いだっ!デコピンの方が痛いやん!》

《はあ……クソ、

お前と話してたら毒気が抜けた。
帰る。》

それからも
意味不明な言動ばかりで
もはや怒りも湧いてこなくなった俺は
踵を返して帰った。

「……なんなんだよ」

思い出したら、
今頃腹が立ってきた。


「え?
剣城、秋姉のクッキー食べたくなった!?」

「ちげえよ」

松風も
たまにあいつに似た
脈略もないこういう返しをしてくる。

それにさらに苛立った。

どこをどう取ったら、
今の俺のぼやきが
そういう風に聞こえるんだよ。

西園も目を輝かせるな。
なんでそうなる。

こいつらの
こういうとこ、本当苦手だ。

「前に食ったのを
思い出してただけだ」

とりあえず話に合わせて
適当な返事をする。


初対面の年上に
この間クッキーを貰って食べた
なんて言えば、

恐らく松風は
驚く前に

逆に興味津々で「いつ!?何処で!?」
とか聞いてくるだろう。

こいつと出会って
まだ1ヶ月くらいしか経っていないが、
反応が予想出来るくらい分かりやすい。
というか、あれだな。

単純だ。

イライラしてる今

松風にそんな反応をされたら、
理不尽にブチギレかねない。



「へえー
美味しかった?」

「まあまあな」

「いいなー」

そういえば、
あいつと会ったのは
最初も前もここだったな。

まあもう会う事もないだろうが。
……出来れば、会いたくないな。


特に思い出して
苛立っている今、はーーー。


「お、
ブラックホールヤンキー君だ」

「………」

最悪だ、と
心から思った。


数日ぶりに再会したそいつはーーー

階段のところに座って
クッキーを
むしゃむしゃと食べていた。


本当に最悪にも程がある。
こんな偶然、あって欲しくなかった。



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