小説 | ナノ
 「家出女とヤンキー君」


「はああ〜……」

多分人生最大のクソデカため息が出た。

「まさかこの歳で
初家出をする事になるとは」

21歳で記念すべき初家出。
記念と呼んでいいのか
ちょっとよく分からんけども。

「なんかもうどうにでもなれー」

そう呟いて、
隣のリュックに顔を埋める。

どうせ私がいなくたって
地球は回るんだ。

あ、本気で言った訳じゃないけど
ちょっと悲しくなったから
今のはなし。

「元気だなあ」

下を見れば、
グラウンドで学校帰りと思われる
子供達が元気にサッカーをしている。

対して私は、
河川敷の階段で項垂れていて。


「サッカーって楽しいのかな」

サッカー。

何年か前に
どっかの大会で日本代表が
優勝してからというもの、

この国のサッカー人気は
衰える事を知らない。

最近ではサッカーの強さが
学校の運営にまで関わるとか。

母校の中学校は結構強い所だったけど、
今もそうなのかな。

「……私もサッカー始めたら
あんな風に幸せそうに笑えるのかな」

サッカーを好きな人を
全員敵に回しかねない言葉が
口からポロッと出る。やっべ。

まあ、でも淋しい大人のただの独り言。

聞いてる人がいないなら、
問題はなーーー。

「そんな事あってたまるか」

「……問題アリアリでしたね……」


いや待って欲しい。
だってここ昼間の河川敷だよ?

お散歩中のお爺さんとか
学校帰りの小学生くらいしか
来ないよ?

なのにどうして、
独り言にご丁寧に返答があるんだろう??
しかも凄く怒ってるし……。

いや、思わんやん!?

独り言に対して
わざわざ言葉を返すような人がいるとは
思わんやん!?


背後から
凄い圧(物理)を感じる。


なんかどす黒いオーラが
視界にちょっと見えるけど
気のせいだと思う事にします。
本当にありがとうございました。

「……うっす、」

ゆっくりと後ろに振り返ると
そこに立っていたのは
いかにもヤンキーみたいな格好をした
中学生くらいの男の子だった。

紫の学ランなんて初めて見たわ。
改造学ランっていうやつ?

もう上は学ランというよりは、
マントみたいになってるし。

中は7部丈の赤Tシャツ。
そして腕には、
腕、には……?

「針ぶっ刺さってますよ大丈夫ですか?」

「その前にお前の頭が
大丈夫か?
喧嘩売ってんのか?」

ただの赤いリストバンドかと思いきや、
なんかトゲトゲが
めっちゃ刺さっていた。

分かりやすいイメージでいうと、
クッパのトゲトゲ甲羅みたいな。

思わずツッコんだら
逆に頭の心配をされてしまった。

「英検は3級ですね」

「クッソ微妙だな」

斜め上のボケをかましたら、
普通のツッコミをされてしまった。

なんだこれ。

「………」

「《なんだこいつ?
日本語不自由かよ?
やっぱ、ここらでしめとくか
うひゃひゃひゃ〜(棒読み)》」

「勝手に
変なアテレコすんな!」

「あ、ちょっと図星だったでしょ」

「っ、クソが……!!」


人間って
一定のライン超えると
もう何も怖くないになるんだな……。

ビビるどころか、
自分でもビックリ。

逆に煽っちゃったぜ。
完全に逃げるタイミング
逃しちゃったな〜と思いつつ、
目の前の彼を見上げる。



その男の子の瞳は
少し鋭い琥珀色で、
その下に一本短い切れ筋が入っている。

髪は深い紺色。
ワックスかなんかで
上にあげていて、
後、真ん中に渦巻きみたいな前髪(?)
がある。

ちょっと後ろに
少し長い髪見えるけど、
あ、ポニテかな?

で、左右の両端に
くるくるのもみあげがある。

この子に似たような顔と髪型を
昔見たような見なかったような……。

「こんな所で何してるんだお前」

「凄い真っ当な
ツッコミをされちゃった。
そういう君は?」

ものすっごい改造してるけど、
学ランの面影がうっすらあるし、
彼は多分学生だろう。

中学生かな?

「……お前に答える筋合いはない。」

「暇なら、お姉さんのお喋りに
付き合ってよ〜」

「話を聞け!」

「明日って晴れると思う?
私はね晴れな予感がしてるんだけど」

「勝手に会話を始めるな!
知るかそんな事!」

「だよね分かる〜」

「はっ倒すぞ」

お?
ここまで会話に
付き合ってくれるって事は

さては君、意外と良い子だな?


「君こそ
何でこんなところで
1人黄昏てるお姉さんの独り言に
わざわざ返事してるの?」


この時は
ふざけなしで
本当にいろんな事に疲れていた。

だから、怖いとか逃げなきゃとかいう
気持ちが浮かんでこなくて。

正直もう何でも
どうにでもなればいい、くらいの
捨て身の気持ちだったから。

こんな風に
ヤンキー君と適当に会話を始めてしまった。

ネーミングそのまんまだけど、
自分の中でなんかしっくり来たので

これから彼の事は
(心の中でだけ)
そう呼ぶ事にする。


「……お前の、
サッカーに対しての
能天気なその態度が気に入らないからだ」

「わあ〜〜理不尽の塊やんけ〜〜」

まあ、うん。
敵に回してしまった自覚はある。
でも殴るのはちょっと勘弁して欲しい。

「世界は理不尽で回ってんだよ」


「分かるわ〜」

「さっきから分かる分かるくどいんだよ
それ以外何か言えないのか」

「で、明日の天気に
話を戻すんだけど」

「まだ続いてたのかよそれ」

「……ヤンキー君。
さては君暇だな?」

「あ?」

調子に乗って
馴れ馴れしく話を続けていたら、

流石に暇は勘に触ったのか、
ヤンキー君は凄い剣幕になった。

多分普段の私なら
尻餅ついてる。


「暇なら、このまま
お姉さんの話に付き合ってよ〜」

てか今ヤンキー君って
言っちゃったな。

やっべ。
今度こそ本当に殴られるかも……?


「何で俺がてめえの独り言に
付き合わなきゃならないんだよ」

と思ったら、
あんまり気にしてないみたいだ。

このヤンキー君の気にする所が
イマイチ分からん。

ツッコミ力が高いのは
数分のやりとりで分かったけど。

「ジュース奢るからさ」

「ジュースかよしけてんな」

「分かる」

「いい加減
本気ではっ倒すぞてめえ」

「じゃあ水で」

「さっきより
値段下がってるじゃねえか!」

「え〜〜じゃあ、
間をとって……何だろう?
何だと思う?」

「まずお前の存在がなんなんだよ」

「うーん、

じゃあね〜はい」

リュックの中から
ある包みを取り出して、立ち上がる。

そして、戸惑う彼の
目の前にそれを差し出した。

「これあげるからさ」

「なんだこれ」

お、素直に受け取っちゃう辺りとか
やっぱり君、
凄い悪い子とかじゃないな?

「クッキー」

「は?」

「手作り」

「……なんだ?
はっ、渡そうとして
フラれでもしたのか?」

「いーや?
私そんな人いないし」

「……悲しいやつだな」

「本気の哀れみの目は
胸に響くのでNG」

「ちっ」

「……まあ、うん。そうかな。

君の言う通り、
こんな所で黄昏てる
悲しい奴だから、

慈悲?で
受け取って下さいな。」

「本当やかましいなお前」

「自分で作ったもの自分で食べるの
悲しいからさー」

「……」

なんてちょっと弱音を吐いたら、
ヤンキー君は
何とも言えない顔になった。

そりゃあそうだ。
初対面の年上の人に
急に手作りクッキー渡されたら誰だって
そんな顔にもなる。

「話しかけた責任って事で、ひとつ」

「……」

「あ、毒なんて入ってないよ」

「気にしてんのは
そこじゃねえ」

「分かる〜」

「……クソが、
俺が今腹減ってて良かったな。」

え、お腹空いてたの?

ヤンキー君は
私の手から袋を奪い取ると
隣にどかっ、と乱暴に座り込んだ。

おお、これは予想外の展開だ。

驚いたまま、
座り込んだ彼を
ぼーっと見ていると、

また凄い剣幕で睨まれた。

「おい」

「はい?」

「飲み物」

「え?」

「奢るってさっき言ってただろ。」

「あ、はい。
何がいい?」

「コーラ」

「あら意外と正統派」

「はっ倒すぞ」

「へーい」


このまま会話をしてると、
そろそろ
本気でキレられそうな気がしたので、

その前に
リュックから財布を取って
少し先の自動販売機へ走り出した。


あ、荷物置きっぱにしちゃった。
まあいっか。





「遅せえ。
もう食い終わった」

「はやっ」

全速力で走って
戻ってきた時には
ヤンキー君はクッキーを完食していた。

10枚はあったはずなんだけどな!
でも食べ盛りの年頃だもんね。


「お粗末様でした。」

「は?」

「え?食べてくれたから」

「……お前、
周りから
頭おかしいとか言われるだろ?」

「そういう君は
見た目に反して優しいとか言われない?」

「その台詞言われたの
今が初めてだ」

「あら〜」

「……本当に変な奴だなあんた」

またなんとも言えない顔になった
彼に買ってきたコーラを差し出す。

ヤンキー君は
素直に受け取ると、

ぐいっと、
良い飲みっぷりを見せてくれた。

私も隣に座って、
お茶を開け、開け……。

「ふんっ、ぐ、」

このメーカー変にキャップ硬い奴
だったの忘れてた。
しくった。

「まあいっか」

「良くねえだろ。
……貸せよ。」

「君、少女漫画に出てくるとか
言われない?」

「はあ?(威圧)」

今更そんな顔されても、
あんまり怖くないぞ

と思いながら、
あはは、と笑い返す。

いやー
こんな馬鹿みたいな冗談に
律儀に返事をしてくれて、

なんて良い子なんだ。

沈んでいた気持ちも
なんか少しだけ軽くなる。

「てめえは
ここで何してんだよ」

「えー?
何でだと思う?」

「……」

「分かる〜」

「まだ何も言ってねえよ!
次それ言ったらぶっ潰す」

「こわ〜
私はねー、色々あって
家を追い出されちゃったんだよ。」

出来るだけフランクに
今の状況を伝えてみる。

何かを期待していた訳じゃないけど、
ちょっと
この子の反応が見たかった。

「はあ、これで自由の身。
全く嫌になっちまうぜ」

「落ち込んでるのか
喜んでんのかどっちだよ」

「自分探しでも始めよっかな。
あ、明日仕事だから無理だわ解散」

「秒で終わってんじゃねえか」

「俺は俺だ!」

「やかましいわ」

とうとう
頭を上から叩かれた。
パァンってめっちゃ良い音した。

あんまり痛くはない。
手加減してくれた?

「……なんだよ」

「いーやなんでも」

「何でちょっと嬉しそうなんだよ
あっ」

「何だ今のあっ、は!
別に好きで家出してる訳じゃない
からね!?」

「へー」

深刻に受け止めない
彼の軽口が
今は変に心地良かった。

あと普通にこの子の
ノリとツッコミが面白い。

「ちょっと価値観の違いで」

「行き詰まりのバンドかよ」

「何がいけなかったんだろう。
やっぱあれかな。
プリン無断で食べたのがダメだった?」

「俺は全ての原因は
お前にあると思う」

「ボケをスルーされてしまった悲しい」

「気にするところそこかよ!
他にもっとあるだろ!」

「ちなみにプリンは嘘だよ。」

「だろうな!
はあ、むしろ安心した」

「よーし、っと。

ヤンキー君との漫才も
オチがついたし
名残惜しいけどそろそろ解散しようか」

「何処をどう見れば
今のでオチがついたと思えるんだよ
後お前とコンビ組んだ覚えはない」

「えー?

まあ、うん。

じゃあ私は
そろそろ帰ろうかな〜」

「……ちっ、

おい。
家、追い出されたんじゃないのか。

それも嘘か?」

リュックを背負って立ち上がると、
ヤンキー君から
そんな言葉を投げかけられた。

「ううん、それは本当。

でも、君と話してたら
ちょっと元気出てきたから

もうすこし頑張ってみようかなって」

「……ふん」


人間誰かと話すと
結構元気が出るっていうのは
本当なんだな。

今日それを改めて実感した気がする。

相手は名前も知らない年下の
ヤンキー風の男の子だったけど、

ーーーいや、

だからこそなんだろうな。

凄く不思議な(?)出会いだった。
人生、色んなことがあるもんだなあ。

だったら、うん。
まだ捨てたもんじゃないかも。

「ありがとうね。」

「お前が終始
勝手に自己完結してただけだろ」

「なんか最初より
辛辣になってない??」

「自分の胸に手を当てて
聞いてみろよ」

「……生きてる!!」

「そんなの見りゃ分かる!!」

「ふふっ、じゃあね。
風邪引かないようにね〜」

「薄着のお前に
言われたくねえ」

「分かる〜」

「ぶっ潰す!!」

「いや〜〜ん!!」


本当に潰されちゃう前に
階段を登って、そこから走り出した。

勿論追いかけてくる気配はない。

さて、
もうちょっと
頑張ってみようかな。

でも風邪引いて欲しくないのは
本心だったんだよ!ヤンキー君!


悪さは程々にな!



prevnext

back

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -