2月



「梅子はとんでもない失態をおかしてしまいました!」


両膝を地面につけ、がくんっとうなだれる。周りから見たら変な人にしか見えないけど、生憎誰もいない為そんな心配は無用だ。

それにそんな心配よりもっと大変な事態の方をなんとかしなければ。どうしよう、どうしよう、どうし――



「お嬢さーん、どうしたの?そんなとこで」

「…ううっ、チョコレートが……」

「チョコレート?あちゃーどうしちゃったのさ、これ」

「……こ、転んで手が滑って車の下敷きに」

「なるほど。でもとりあえず危ないからさ、道のド真ん中で沈むのはやめようか」

「……ううっ、昨日、頑張って作ったのに」

「…えっと、元気だせって!」

「と、都倉くんの為に一生懸命作ったのに〜っ」

「……ん?」

「こんなんじゃ都倉くんに渡せないよ〜っ!!!」

「…お嬢さん、これ、都倉くんとやらの為に作ったの?」

「…うん。でももう渡せない……」

「じゃあお嬢さんは都倉くんとやらが好きなんだ?」

「…今日、これ渡して告白するつもりだったの」
「へ〜。いつも授業中寝てばっかで怒られてる梅子ちゃんは、隣の席の都倉くんの事が好きなんですね〜」

「…そんなに怒られてな…って、え!?」



そう言えば誰と喋ってたんだろう。そう言えば何て言ったんだろう。そう言えば、ってか何でここに、都倉くんがいるの!?

潰れたチョコレートに夢中で話し掛けてくる声に無心で答えてた。まさか相手が都倉くんだなんて思わなかった。…あれ、そう言えば好きだとか言っちゃったような――



「チョコが潰れたくらいで泣きそうな顔しちゃって。どんだけ俺の事好きなのさ」

「っ!す、好きじゃない!違う都倉くんだもん!都倉くんにあげるんじゃないもん!」

「へ〜それ俺にくれるんじゃないんだ。俺の事嫌いなんだ?」

「き、嫌いじゃない!嘘だよ!」

「……嘘つき梅子」

「と、都倉くんずるいよ!梅子が都倉くんの事好きだからってからかって!」

「梅子があげないとか言うからだろ」

「だってまさかこんな形で知られるなんて思ってなかったもん!」

「俺もこんな形で告白されるとか思ってなかったけどな」

「もうやだ〜っ!恥ずかしい〜っ!家帰りたい〜っ!」

「やだとか言うな。そんで帰るな。」


がっちり掴まれた腕から熱が伝わってくる。ドキドキが半端ない。

バレンタインだからって想いを伝えようと思った。こんな形で知られてしまったけど、知られてしまったものは仕方ない。


「……都倉くん、すき」

「……いきなりすぎるだろ」

「チョコ、もう1回作り直してくるから。だから、その時は受け取ってくれる?」

「んー、やだ」

「っ!?」

「それがいい」


指差されたソレは紛れもなくボコボコに潰れてしまったチョコレートで。ピンク色の紙でラッピングされたソレは、もう不気味な物体にしか見えない。


「だ、駄目だよ!」

「えーそれじゃないと嫌」

「だってこれ!ひかれちゃったんだよ!?」

「俺もそのチョコに惹かれちゃった」

「…上手いこと言わなくていいから」

「とにかく、これがいい。これじゃないと駄目」


都倉くんてば、落ちた物を食べるのが好きなのだろうか。どうしても引いてくれない都倉くんに戸惑ってしまう。

戸惑いを隠せないまま、顔をあげたら都倉くんと目があう。そして、ニッコリと笑って言うのです。



「梅子のいっぱい想いがこもったソレがいい。見た目より中身だろ。」



そんな事を言われてしまったら、もうあげるしかないじゃないか。顔を赤くしながら改めて思いました。

あぁ、梅子の惚れた人は都倉くんというとっても格好いい人。





梅子ちゃんと都倉くん
(好きな人を想ったチョコは何よりも甘い)



「バレンタイン企画」
→蝶々くらべ様

2011.03.11 笑衣




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