1月



貴方は今、何処で何をしているのですか。


「うー。また出ないー」


携帯を片手に唸る私は最高に泣きそうな状況に陥っていた。何故に泣きそうかって、彼氏である陽ちゃんが電話に出ない。なんだそんな事か、と誰もが思うのだろうけど、連絡が着かなくて一週間も経つ今となってはちっともそんな事なんかじゃない。

そりゃメール送っても返ってきた例なんて滅多にないし、もともと携帯が無くても困らない人だけど。だけど、遠距離にいる私達にとっては携帯でしか繋がる事が出来ないから。今何をしているのかも、何処にいるのかも気になって仕方ないのに。陽ちゃんは私を不安にさせる事しかしない。

例えば「好き」と言ってくれない所とか。人前では手を繋いでくれない所とか。私の事を本当に好きなの?って、私達って本当に付き合っているの?って思ってしまう事ばっかり。

告白したのも私からだし、デートに誘うのも電話するのも私で。私の一方通行って感じがする。相手には尽くしたいけど、やっぱり尽くして貰いたいって気持ちは捨てられない。

きっと一週間も声を聞いてないからだ。だからネガティブな事ばっかり考えてしまうんだ。――その考えを頭にして、私は直ぐ様陽ちゃんの番号をぽちっと押した。

プルルと機械音が耳に鳴り響く。お願いだから出てと、声を聞かせてと祈りを込める。


「陽ちゃん出てー。私の事好きなんだよね?そうだよね?そうだって言っ――」

『……はい』

「うわぁ陽ちゃん!やっと出た!」

『…なに』

「な、何って。一週間も電話出ないで何してたの!」

『仕事』

「そ、そんなの分かってるよ!分かってるけど!電話くらい出てくれても良いじゃん!」

『出たじゃん、今』

「そうだけど!そうじゃなくてさ!」


いつもこれだ。私が何か言っても一言しか返してくれなくて。如何にも煩いとか面倒だとか思ってそうな素っ気ない声で。

仕事だって知ってるけど、疲れてるんだって分かってるけど。でもこれじゃ、私って何なの?寂しくて泣きそうな私の事はほったらかしにするの?



「……陽ちゃんにとって彼女って何。私って何。私はっ、陽ちゃんにとって、どうでもいい存在なの…っ?」



馬鹿野郎!って、最低だぼけなす!って本当は言ってやりたいけど、それでも、私は陽ちゃんが好きだから。陽ちゃんだけだから。私は聞く事しか出来なくて、泣く事しか出来ない。


「う〜〜〜〜っ」

『……お前、阿呆だろ』

「う〜〜っ。アホだもん!バカだもん!でも好きなんだもん〜っ」

『……はぁ、』

「う〜〜っ。今溜め息ついた!どうせ呆れてるんでしょ!コイツ何泣いてんだよ。ってバカにしてるんでしょ〜っ!」

『泣くか怒るかどっちかにしろよ』

「だって陽ちゃんが――」

『いいか、よく聞け』


その言葉に、ん。と口が止まった私を確認して淡々と陽ちゃんは告げていく。滅多にない、長い言葉で。



『そもそも俺が好きでもない奴をわざわざ彼女にするか。ずっと俺を見てきたお前なら知ってんだろ。』

「……う、ん」

『正直言って今は仕事が忙しい。慣れないといけねぇからな。』

「……うん」

『疲れてるから家帰っても直ぐに寝て、お前の名前だらけの着信履歴見ても掛け返さなかった。』

「…ん」

『だってお前だってそうだろ?電話して、声聞いたらそれだけじゃ抑えきれない。もっとって、会いたいって思うもんだろが。』

「う〜〜〜〜〜っ」

『だから泣くなって』

「陽ちゃんから初めてこんな事言われた〜っ。嬉し過ぎて涙止まんない〜っ!」



だって、だって、だって。「好き」とか一度も言ってくれた事のないあの陽ちゃんが、私に会いたくなるからって。嬉し涙がこんなにも幸せなものだと思わなかった。


『次の連休そっちに帰る』



右耳に当てた携帯の通話口からいつものように素っ気ない声がしたけど、そこには本の少しの甘さが含まれているような感覚がした。あぁ、貴方の一言で暗かった世界に灯りがついた。





貴方ニ逢エテ嬉シイ
(だってこんなにも幸せなんだもの)



「貴方に逢えて嬉しい」
→蝶々くらべ様

2011.02.04 笑衣




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