彼は日に日に青白くなっていった。痩せたし、それに少しだけ笑顔に儚さが増しているような気がする。
それでも、私に欠かさず毎日水を変えてくれたし、話もしてくれた。
だけど、今日は少し違った。
「もう帰ってくれないか!!」
彼のトモダチは、ぱたり、と扉は閉め、彼の苦しい叫び声は白い壁に吸い込まれた。彼はいつもみたいに優しい表情ではなく、辛く、哀しそうな顔をしている。
すると、急にこちらを見た。その目は怒りと困惑と哀しみが混ざっていて、彼から受ける普段の感情ではなかった。
私も、さっきトモダチのように拒絶されてしまうのだろうか。
そう思っていたら、彼は花瓶を持ち上げ、水道へ向い、水を変えた。
「今日、医者にテニスなんてもう無理だと言われた」
ぽつりと口から出た言葉を、私もこの部屋で聞いていた。そう、貴方も聞いてしまったのね。
「俺は今まで、テニスを中心に生きてきた。それなのに、こんな病気になって、それで‥」
彼は震えていた。何か大切なものを失うとは、こういうことなのだろう。数日前まであった、凛々しさは欠片も感じられない。
「悪いのは全部俺なのに、誰かに八つ当たりなんて、」
違う。違うよ。貴方は何も悪くない。悪くないの。
ああ、どうして声にならないの。言いたいのに、何も言えないなんて、なんてもどかしいの。
ねえ、神様。どうして彼にこんな人生を与えたのですか。どうしてですか。
「‥君はまたひとつ、花が咲くね」
その言葉は、哀愁を帯びているようにも思えた。
彼は長い睫毛を伏せて、影をつくった。
神様、私がお嫌いですか。
どうか、お願いです。私の我が儘を叶えてやってください。
天に乞う
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