私が飾られた場所は、四方八方を白で囲まれている部屋だった。
白、白、白。見れば見る程、それらは白だった。ここは何処なのだろう。
今は人こそいないけれど、目の前のベッドは確かに誰かがいた形跡が残っていた。ベッドの上にある掛け布団がめくれている。それもまた、白だった。
雨が降っても、その数滴さえ遮断するようなこの白い部屋。その中にいて、このように無事に芽が出せたということは、誰かが私に水を恵んでくれたから。しかし、その誰かがここにはいない。
「あ、飾られてる」
ガラリと開いた扉(これも色は白)から聞こえた声。その声は、先程まで静寂だったこの部屋の空気に馴染み、溶けた。
「ちょっと待っててね」
こちらへぱたぱたと音をたてて、花瓶を持ち上げ廊下に行った。
向かった先は水道。
きゅ、と蛇口を捻り、新しい水を入れた。不思議とその水はなんだか暖かい感じがした。水の温度とかではない、暖かさ。すんなりとこちらにも染みてくる、水ではない何か。
ふと見上げれば、それまで見飽きていた白とは違った、蒼みが掛かっている髪の人だった。綺麗にウェーブしている毛先は、歩を進める度、上品に揺れる。
「綺麗だなあ」
そう言った彼の表情は優しそうに綻んでいたが、言葉を発した唇は少し青白く、肌もこの部屋に負けないくらい白かった。
まるで、病人のような。
それはただの花
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