昨日まで本当に冬かってくらい暑かったのに、今度はなんだ。なんでこんなに寒いんだ。まあ、去年のこの頃の方が寒かった気もするが。 今朝、急いで押入れから取り出したマフラーに顔を埋める。
「だけど‥これはねえだろぃ」
10度を余裕で下回る寒さ、肌を斬るような風の冷たさ。それだけではなく、まるでバケツをひっくり返したような雨。今朝の予報ではそんなこと一言も言っていなかった。お天気おじさんのやろう、ふざけんな。
とか思っていたが、別に傘がないわけではない。置き傘(前に持って帰るのを忘れたやつ)がたまたま教室にあったわけで。これといって、とくに困っているわけではない。
『あっちゃー、ばっちり降ってるよ‥』
突然、後方から声がした。どきっとした。恐る恐る後ろを振り向いてみる。
『あ、ブン太!』
やっぱりなまえだった。クラスが三年間同じで、なにより俺の想い人。 きっちりしてそうで、実は面倒くさがり屋。でもやる時はちゃんと最後までやり遂げる、そんなやつ。
『こんなとこでどうしたの?もしかして、ブン太も傘忘れた?』
「いや、置き傘にしてあったからある。お前は‥忘れたっぽいな」
『そうなんだよねー。だって今日の予報に雨マークなんてなかったし!』
「しかも超さみーしな。テンションがた落ち」
『昨日の温度とは大違い。あー、待ってても止みそうにないな、これ』
確かに、当分は止みそうもない振り方だ。下手したら夜中もずっと降っているか もしれない。明日の朝練はなくなるな。 久しぶりに通常登校だぜぃ!とか思っていたら、なまえが隣でなにやら準備運動を始めた。何やってんだ、こいつは。
「‥お前、なにする気だよぃ」
『え?なにって、帰るんだよ』
コートを頭の上に乗せながら、なまえは言った。おいおい、まさかとは思うけどよ‥
「濡れて帰るつもりか!?」
『あったりまえじゃーん!絶対待ってても止まないし。どうせ駅までの間だし』
「‥じゃあ俺の傘に入れてやるよ。どうせ駅までだしな」
なるべく平然を保ちながら誘ってみる。うっわ、なんかすげー恥ずかしい。
『い、いいよ!誰かに勘違いされて、ブン太に迷惑かけたら嫌だし‥』
「大丈夫だって。こんな雨で誰が誰となんてわかんねーよぃ」
『でも万が一のことを考えて、』
「だあああ!!!良いんだよ、別に!それよりも、女子は体を冷やしちゃいけねーんだから、お前はおとなしく俺の傘に入っとけ!」
妙に熱い頬を、冬の冷たい風が掠めた。
あなたと傘を半分こ!
---------- リハビリが必要ですかね‥
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